K「一人よがりにはならないように」音楽の立体感を大事にするこだわり
INTERVIEW

K「一人よがりにはならないように」音楽の立体感を大事にするこだわり


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年11月09日

読了時間:約11分

いかに無駄な時間を過ごさないかを追求

『Curiosity』ジャケ写

――そんな制作環境で作ったアルバムですが、作詞にはKさん以外に近藤ひさしさん、松尾潔さん、そして青木千春さん、相馬絵梨子さんという女性の作詞家がお二人参加されていますね。

 今回は、いろんな作詞家さんにコンペで歌詞を書いてもらいたいと提案させていただきました。ここで韻を踏んで欲しいなど細かく指示を出して、書き上がってきたものを実際に歌ってみて、調整して欲しいところを指示して戻してもらうというやりとりを何人かとやって。その中で、自分の気持ちや想いを一番理解してくれたのが、青木さんと相馬さんです。自分では出てこない表現もたくさんあったので新鮮でした。二人はすごく才能があって、アルバムに広がりが出せたと思います。

――日本語と英語が交互に入ってくるのは、Kさんからの指示ですか?

 それは僕からお願いしました。最初は日本語の配分が多かったんですけど、それを削って英語にしてもらって。と言うのも、先ほどもお話した通り、今作はバラードでもアップテンポでも、グルーヴが途切れずにずっと感じられる作品にしたくて。僕が作詞をした楽曲でも英語の配分が同じようになっているんですけど、そういう歌詞の構成によって、一貫したグルーヴを生み出せているのかな、と。

――そのグルーヴを出す部分で苦心した曲は?

 「Street of love」です。よく聴いてもらうと分かると思いますけど…普通はキックに対するベースの位置は同じであることがセオリーです。これはそのセオリーを完全に無視していて。同じだったりわざとズラしてあったりして、そのズレがグルーヴに繋がるしアクセントになるのかなって。

――打ち込みでグルーヴを表現するのは難しいですよね。

 そうですね。ドラムを実際に自分で叩いて貼ったのもグルーヴを生み出すためで、曲によってはハイハットやタムだけを自分で叩いていて。エンジニアさんに相談したら、それだけでも分かりやすくグルーヴが音に出るんじゃないかとアドバイスをいただいたので、1日ドラムだけを録る日を設けて、ゴーストノートだけとかいろんな音を録りました。あとはピアノだけ生演奏するとか、そういうことだけでもグルーヴの出方が違ってくるんです。

――「All of me」はボーカルがすごく近い感じに聴こえますね。

 ミックスでそうやっています。今作は全曲のデモを完成させた時点で、この曲はこういうニュアンスにしたいというミックスのイメージまであって。それを前もってエンジニアさんにお伝えして作業をしていただきました。

――いつもミックスの注文までするんですね。

 毎回します。ミックスで曲の印象が変わりますからね。今回お願いしたエンジニアの永井はじめさんは、ずっとやって下さっている方で、無茶な注文もたくさんしたんですけど、すごくフレキシブルにいろいろ対応してくださって。例えば、僕が用意した楽器の音を80年代っぽく戻して欲しいとか。

――そんなことが出来るんですか?

 いわゆる80年代の楽器の音はノイズがたくさん乗っていて、今の人が聴くと違和感があると思うかもしれないけど、当時はそのノイズも音の一つだったんです。だからこそ、すごく太い音で不器用な格好良さが表現出来ていたと思います。それを目指して、ディストーションをかけたりいろいろやってもらいました。「THE PURSUIT」がまさにそうです。80年代っぽくなればいいなというのがあったので、それっぽくするためにきれいな部分を削る作業をしてもらいました。「THE PURSUIT」というタイトルは、追い求めるとか追求するという意味なので、まさしく80年代の音を追求した1曲です。

――「THE PURSUIT」は、どこから浮かんだ言葉ですか?

 僕が大好きなアーティスト、ジェイミー・カラムのアルバムで『THE PURSUIT』というタイトルの作品があって。彼はジャズシンガーだけどいろんなポップなことをやっていて、その『THE PURSUIT』というアルバムではいろんなチャレンジをしていて。そのアルバムを作るために彼の中では、すごくたくさんの戦いがあったんです。それに敬意を表すじゃないけど、今作では僕もいろいろなチャレンジをしたし、彼のように曲を書きたいという願いを込めて「THE PURSUIT」とタイトルを付けました。

――そうやって、自分の好きなアーティストの作品になぞらえて曲を作ったり、タイトルを付けることは多いですか?

 けっこうありますね。2015年の『Ear Food』というアルバムは、ロイ・ハーグローヴと言うトランペッターのアルバム『Earfood』にちなんで付けました。すごく好きなアルバムで、それくらい耳が楽しめるアルバムを作りたいという気持ちを込めたんです。

――音楽ファンは、そういう伏線みたいなものがあると楽しいですよね。

 そうだったら嬉しいです。実際にそうやってタイトルを付けている僕自身が、みなさんと同じ音楽ファンですから、好きなアーティストの名前をもじってメアドに使うのと同じ感覚です。タイトルを見てニヤリと出来たら、その人とは友だちになれそうみたいな(笑)。

――今作で一番追求したのは、どんなところですか?

 いろんなミュージシャンと作るのは楽しくて、今まではそれを追求してきました。今作は逆に、一人でどこまで出来るかを追求した作品です。ただ基本的に一人で作るけど、一人よがりにはならないようにと心がけました。一人で作ると世界観が狭まって音の立体感も失われてしまいがちです。僕は今まで生の音でやってきたので、その生の音の良さを最大限活かしながら一人で作る。それは今後も追求していきたいことです。それをやった上で、また全部生でやった時に違う良さが感じられると思うし。

――プライベートで、何かにこだわることはありますか?

 いかに無駄な時間を過ごさないようにするかを追求しています(笑)。せっかちと言う訳ではないけど…例えば電子レンジを付けて、チーンと鳴るまでの4分間で着替えなど身支度を済ませます。電子レンジをかけている間、ただボ~ッと待っているのが嫌いなんです。歯を磨いたり顔を洗ったり着替えたりして、テーブルに着いたタイミングでちょうどチーンと鳴るのが気持ち良いんですよ。

――そういうのは、クリエーターっぽいのかもしれませんね。トラックを細かく積み上げていくように、日々のスケジュールも無駄なくきっちり埋めていくみたいな。

 そうかもしれませんね。でもその代わり、移動中とかで無意識にボーッとしているのかもしれませんけど。

――では最後に、聴く人にはどんなところで楽しんでほしいですか?

 ワクワクするアルバムになったらと思って作ったので、散歩しながらとかお出かけする時とか。掃除など家事をする時でもいいし、何かしながら聴いても楽しめるアルバムなので、いろんなところで楽しんで欲しいです。

(おわり)

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