K「一人よがりにはならないように」音楽の立体感を大事にするこだわり
INTERVIEW

K「一人よがりにはならないように」音楽の立体感を大事にするこだわり


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年11月09日

読了時間:約11分

 シンガーソングライターのKが10月30日、ニューアルバム『Curiosity』をリリースした。前作『Storyteller』から1年9カ月ぶりのアルバムで、映画『閉鎖病棟‐それぞれの朝‐』(公開中)の主題歌「光るソラ蒼く」も収録。今作についてKは「“ながら聴き”出来るようにグルーヴを意識して制作した」と話す。彼が受けてきた80年代や90年代からの影響をどのように表現したのか。こだわりの詰まった制作過程や、影響を受けたアーティストなどについて話を聞いた。【取材=榑林史章】

自宅スタジオは一歩も動かなくても何でも出来る

「光るソラ蒼く」ジャケ写

――まず『閉鎖病棟‐それぞれの朝‐』の主題歌「光るソラ蒼く」は、配信でもリリースしています。どのような思いで制作しましたか?

 曲単体で伝えたかったメッセージはシンプルで、人の思い出や、思いやりの力について改めて気づいてもらえる曲にしたかったです。

――映画の主題歌という話は監督から?

 昨年の秋くらいに映画の企画書とともに「いかがですか?」とお話をいただきました。それから、原作小説や台本を読ませていただいて、それを元にメロディだけのデモを3曲くらい作り、その中で選んでいただいたのがこの曲です。

――もともとバラードがいいと?

 基本的にはバラードで、でもJ-POPよりもう少し賛美歌っぽいと言うか、スケールが大きいイメージで作りたいという気持ちがありました。それで1月に長野で行われていた撮影の現場に、何度かお邪魔させていただいて、そこで得たインスピレーションを曲に加えたりしながら、監督とも何度もお話しをさせていただいて。最終的には試写会を見て、またブラッシュアップさせていくということを4月までやっていました。

――映画は、精神科病棟を舞台にしたヒューマンドラマとのこと。実際の精神科の病院を借りて撮影されていたそうですね。

 はい。すぐ近くに患者さんもいらっしゃって。監督や映画のプロデューサーからは、「病院のスタッフの方が、患者さんとどういうやりとりをしているのかも見ていただいて、曲作りの参考にして欲しい」ということでした。病院に掲示された標語みたいなものも見させていただきましたし、病院スタッフの方が普段どんなことに注意しているかも伺って、とても参考になりました。印象的だったのは、病院のスタッフの方は、患者さんをケアする側であると同時に患者さんから見られている存在でもあるということです。そこは精神科病棟ならではの難しさがあるなと感じました。行ってすごく良かったです。

――聴いた人には、この曲からどんなメッセージが伝わったらいいと思いましたか?

 綾野剛さんが演じた役のセリフで、「事情を抱えていない人間は誰もいない」という言葉が出てくるのですが、毎日どんな辛い戦いがあったとしても必ず新しい朝が来て、日々はその繰り返しです。辛い人もそうじゃない人も同じように朝を迎えて、そこで自分なりの答えを見つけることが出来れば、少しでも笑顔になれるんじゃないか、と。この楽曲を書きながら、そんな風に思いました。簡単に言うと、人間は一人じゃないということですけど、それと同時に、どんな人でも何かしらの事情を抱えているんだということを胸の片隅に置いておけば、少しは心が楽になるということが伝わればいいなと思いましたね。

――そんな「光るソラ蒼く」も収録したアルバム『Curiosity』は、チャカチャカとしたカッティングのギターと打ち込みのドラム、シンセの音など、全般的に少し懐かしいソウルミュージックの雰囲気を感じました。

 前作『Storyteller』は全曲歌詞が先にあって作ったので、とてもJ-POP寄りの作品になりました。そういう作品を作った後、自分の“好奇心”のままに、今やってみたいことや作ってみたいものを作りたいという気持ちが沸き上がってきたんです。それで今まで作っていた環境から、少し離れてみるのも良いなと思って。今までは最初にピアノで作っていたけど、今作では最初にドラムを打ち込んでトラックを作ってからメロディを乗せるとか、ギターを弾きながらメロディを考えるといったことをやりました。

 おっしゃっていただいた懐かしい感じというのは、意識したわけではないのですが、自分が聴いて来た音楽の影響を素直にアウトプットするような制作だったので、自然とそういうニュアンスが出たのだと思います。

――Kさんが過去に影響を受けたものは、どんな音楽でしたか?

 僕が一番音楽を聴いていたのは、まだ高校生の頃で、現在のR&Bやソウルがブラコン(ブラック・コンテンポラリー)と呼ばれていた時代からの影響が大きいです。例えばマイケル・ジャクソン、それも1979年のアルバム『オフ・ザ・ウォール』の時代。それをきっかけにベイビー・フェイス、ジョー、ケイシー&ジョジョなどたくさん聴きました。そういう自分が影響を受けたものに、今アメリカで流行っているR&Bなどのサウンド感をどう入れ込むかが、今作でもっとも苦心したところです。

 特にリバーブは意識しました。今は80年代や90年代のテイストをやっているアーティストが多いですし、僕も単に古いとか懐かしいのではなく、リバーブでそういう今のテイストが出せたらいいなと思いました。現代のアーティストである僕が、あえて当時の音楽をやったらどうなるのか、そういう好奇心もありましたね。

――単なる過去の焼き直しにならないようにするためには、機材や音作りの違いみたいなものが大きいですか?

 機材や音もそうですけど、当時その音楽を作っていた人が最高だと思っていたものと、今僕らが当時の音楽を聴いて最高だと思うものでは、ポイントが違うと思うんですね。そこを上手く融合することが出来れば、きっと面白いものが出来るんじゃないかと思いました。とにかく最初から最後まで、揺れるようなグルーヴ感のあるアルバムにしたいと思っていたんです。

――デモ作りはご自宅でされているそうですけど、制作環境はどんな感じですか?

 普通の部屋ですよ。デスクの上にパソコンとスピーカーがあって、横に機材があって。デスクの前に座っているだけで、全部の作業が完結出来るようになっています。曲を作りながら座って歌うので、マイクも座った高さに調整してあって。パソコンの画面を見ながら、一度に歌ったりキーボードを操作したり出来るようになっていて。

――冬にコタツの周りにテレビのリモコンとかお茶のセットとか、全部置いてある人みたいな(笑)。

 そうそう(笑)。一歩も動かなくても何でも出来るんです。でも先輩のミュージシャンやアレンジャーの方からは、身体に良くないと言われることが多くて。全部手が届く範囲に置いてあると、十何時間も身体を動かさずにいるから、それが良くないと。動かないとエネルギー消費が少なくて食べる量も減るし。身体をケアしに行ったら、そこの先生からもすごく良くないって言われました。だから制作中は、時間を見つけて身体を動かしに行ったりしていましたね。

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