シンガーソングライターのKが24日に、ビクター移籍第1弾アルバム『Storyteller』をリリース。韓国での活動を経て、2005年にシングル「over...」で日本デビュー。フジテレビ系ドラマ『1リットルの涙』主題歌などがヒット。2014年にタレントの関根麻里と結婚し、一児の父でもある。本作『Storyteller』は、プロデューサーにゆずなどを手がける寺岡呼人氏を迎えた約2年半ぶりのアルバム。心を震わせる美しい歌声とサウンドが、胸の奥にしまってあったどこか懐かしい気持ちを呼び覚ましてくれる作品に仕上がっている。昭和歌謡に魅力を感じていたというK。「好奇心を持つことは、何かを作る上では大事」と話し、本作では詞を寺岡氏が担当する分業制に挑戦。彼にこの作品で新たに発見したことや、プライベートも知る寺岡氏と話しながら制作されたという歌詞に込められた真意などを語ってもらった。【取材・撮影=榑林史章】
子どものような好奇心が背中を押した
――アルバム『Storyteller』は、寺岡呼人さんが全作詞とプロデュースを担当し、全曲詞先で作ったとのこと。どうしてそういう作り方をしようと?
僕は、長年J-POPを聴いてきて、外国人的な感性で歌詞に魅力を感じていました。特に昭和の歌謡曲は、作詞家と作曲家が作業を分担して一つの曲を作っていて、あくまでも歌詞の言葉を引き立たせながら、同時にメロディとしても成り立っている。そうした言葉をメインにした音楽文化に魅力を感じていたので、呼人さんから“詞先で作るアルバム”というアイデアが出て、ぜひ作ってみたいと思いました。
――Kさんが昨年移籍したビクターは、演歌はもちろん小泉今日子さんなど昭和の歌謡曲をたくさん手がけてきたレーベルなので、作品との相性がぴったりでしたね。
はい。だからこそ、このアルバムのコンセプトや制作スタイルに理解を示してくださったと思います。でも、アイデアが出たのは、ビクターに移籍する前だったんです。そのときは「夜空ノムコウ」とか歌詞が立っている有名なヒット曲を10数曲選んで、「こんなアルバムがあったら最高だね」と、1枚のイメージを二人で話していて、それが始まりでした。
――歌詞のひとつ一つに物語があり、同時にそれらはKさん自身のストーリーでもあるという印象でした。
どういう歌詞を作るかという話は、ことあるごとに会って話をしていました。それに呼人さんとはプライベートの交流もあって、僕の韓国での話や結婚のときの話など全て知っているので、作詞は呼人さんではあるけれど、僕自身のことを代弁したイメージの歌詞もたくさんあります。
『Storyteller』というタイトルが決まったのは、レコーディングの終盤です。もともと『Storyteller』という言葉が好きだったし、物語を展開していくようなライブを作りたいし、そういう曲作りを心がけている部分もあるので、こういうタイトルを付けました。
――Kさんは、呼人さんから上がってきた歌詞を元に、メロディや編曲を考えたわけですが、その作業はどんなものでしたか?
歌詞を解釈して曲作りして歌うことが、本当に楽しかったです。言葉だけを読んで、この主人公はきっとこういう見た目でこういう性格かな? など、細かいところまでキャラ作りをおこなったのですが、きっと役者さんは、いつもこういう喜びに似たものを感じているんだろうなと思いました。
役者さんは、1冊の台本を読み込んでいろんな解釈をおこない、その人にしかできない役作りをして演技をする。脚本家さんのなかに明確な人物像があったとしても、役者さんは何十人分もの役を試して、たった1人のオリジナルキャラクターを生み出していくわけです。役者さんと同じとは恐れ多くて言えないですけど、きっとこうした喜びやワクワクを感じているのかもと想像することができました。
それこそ高校生のときに、何かの曲を聴いて「この曲をカラオケで歌ってみたい」と思ったときの“好奇心”のようなワクワクがすごくあって、まるで高校生のときに戻ったような気持ちで…とにかく制作が楽しかったです。
――好奇心の赴くままに作ったわけですね。
はい。よく妥協しないとかストイックにやるとか言いますけど、それはもちろんいつも頭にあって。でも、そのベースに好奇心がなければ、どこか“やらなきゃ”という義務的なものになってしまうところがあると思います。それよりも、ワクワクに押されてやりたいと思うほうが、子どもっぽいけどクリエイティブな気がしますね。
たとえば、自分の子どもが遊んでいるときって、1秒先も何をするか読めないけど、本人はすごく楽しそうなんです。子どもは好奇心がすべてで、常識とか非常識とか関係ないし、何かをやらなきゃいけないということもない。そういう子どものような好奇心を持つことは、何かを作る上では大事なことだと改めて思いました。