初のサウンドトラック制作秘話
――「花-HANA」には新収録の「はなびら」が入っていますが、この曲にはどんな想いが込められていますか?
これは『殺さない彼と死なない彼女』という映画の主題歌として作らせて頂いたんですけど、もともと原作ファンだったので、このお話を頂いて凄く嬉しくて、映画を観てから作った曲です。
――映画の世界観とリンクしながら作ったのでしょうか?
そうですね。ただ、リンクし過ぎないように、誰にでも当てはまるような、気持ちが前向きになれるようなというのをテーマに作った曲です。
――サウンドトラックを作ったのは初とのことですが、制作はいかがでしたか?
凄く難しくて、特に小林啓一監督が映画に音楽自体をそんなにつけない監督さんなんです。今回初めて音楽をつけることになって。色々なタイプの方がいるのかもしれないんですけど、小林監督は「歌舞伎の三味線の合いの手のような感じでまずは欲しい」と。セリフの間にピロンッとあったり。セリフの後ろにただBGMが流れているというよりも、セリフと一体化するような、音楽というより効果音に近いようなものを求められている部分がたくさんあって、そういう場面とガッツリ音楽というところと。
そのガッツリ音楽というところはあまり苦労せずに、切ない感じでピアノを弾いたりとかできたんですけど、「なるべく弾かない」ということの方が凄く難しくて…“音を引く作業”というのは凄く難しいんだなと。でも、音がどう付くかによって映像の見え方、セリフの入り方が変わってくるので凄く重要なんだなということを実感しながらやらせて頂きました。
――「合いの手のような」というオーダーは確かに難しそうですね。
ピアノだけではなく、ドラムやギターなどのアレンジも自分一人でやったんですけど、そこの部分で「このタイミングからもっと盛り上がりたい」とか、“このタイミングから”というのが凄く細かい要望があったり、そこに応えていくのが凄く難しかったです。役者さん達の動きに合わせて作る感じだったので。「そのシーンのこのタイミングじゃないと成立しない音楽」というのが凄く多いです。
――サントラは23曲入っていますが、実際は何曲くらい作ったのでしょうか?
ちょっとセリフに寄り添うようなところと、ガッツリとアレンジするものと色々あるんですけど、けっこう弾いちゃったものを10曲くらい作って全部駄目だったんです。弾き過ぎちゃって(笑)。そういう感じで作っていたので、一つのシーンに対して何回もアプローチして作っていたので…でも一発でOKだったのもあります。
――サントラ作りって大変なのですね…。
でも凄く楽しかったです。映像を見ながら弾いて、しまいにはセリフの音の波形を見ながら弾いていました。
――それは凄いですね(笑)。
セリフの波形の合間に音を作っていくような。それくらい繊細なシーンもありました。あとはクリックを一つも使っていないので、全部手弾きです。ドラムも手弾きでやっているので凄いアナログです。自分の曲ではけっこうそうやってアレンジしている曲も多いんですけど、サントラでそれをやる人はあまりいないんじゃないかと(笑)。
――手弾き独特の揺らぎ、グルーヴが生まれますね。意図的な間を楽しめるというか。
間が良い感じです(笑)。だから映画はセリフを覚えるくらい観ました。
――作詞作曲をして歌う楽曲制作とは別の感覚なのですね。サントラの他にも初収録の楽曲がありますね。
「自由のカメ」という曲が初めて入れる新録なんです。
――この曲はインディズ時代から大切にしている曲と聞きました。
そうなんです。デビュー前からあった曲で、ライブでは定番で歌っていたんですけど弾き語り音源しか出していなかったので、ずっとバンドでアレンジし直したいと思っていたんです。今回やっとベストアルバムのタイミングで出来ました。インディーズの音源で再び録音したいなと思うものって、多少アレンジとか歌も含めて「これはどうかな」と思うものでも、その時だからこそ出来たものはあまりイジリたくないなというか、「それはそれ」と思えるんです。
――その時の形だと。
はい。そういう完成形だと思えるんですけど、「自由のカメ」はまだ完成出来ると思えたというか、弾き語りだけではない新しい「自由のカメ」をまだ作りたいと思えたんです。
――完成に向かう伸びしろがあったのですね。
もっと良くなるんじゃないかなとずっと思っていたというか。再録にあたってどの曲が良いかなと思っていたら「自由のカメ」だなと。