奥華子、音源とは違う魅力引き出す弾き語り 優しさ溢れるライブ
ライブのもよう
シンガーソングライターの奥華子が7月1日、東京・めぐろパーシモンホール 大ホールで全国弾き語りツアー『奥華子コンサートツアー 2017 弾き語り~遥か遠くに見えていた今日~』の東京公演をおこなった。最新アルバム『遥か遠くに見えていた今日』を引っ提げ、5月24日の秋田市文化会館 小ホール公演を皮切りに、12月10日の茨城・結城市民文化センター 小ホール公演まで、およそ半年に渡るロングツアー。奥華子の原点と言うべき、弾き語りスタイル。グランドピアノとエレピの2台を曲の表情によって巧みに使い分け、情感あふれる歌声で観客を魅了。音源とは違った曲の表情が垣間見えるライブで、観客もライブならではの魅力に満足した様子だった。
弾き語りの魅力
これまでにも奥華子は、数多く弾き語りツアーをおこなってきた。開催するたびに、何かしら新しい挑戦も続けてきた。そして今回のツアーの中にも、「初めての挑戦」は組み込まれていた。
初めての人はもちろん、何度も奥華子のライブに足を運んでくれるファンたちのため、毎回何かしら新しい想いや楽しさを返したい、そう努力する姿勢にファン想いの彼女らしい優しさを感じる場面だった。
舞台上には、グランドピアノとエレピの2台が設置されていた。その楽曲の表情に合わせ、彼女は二つの音色を巧みに使い分けていた。
ツアータイトルにも記されている、今回のツアーは最新アルバム『遥か遠くに見えていた今日』に収録した曲たちを軸に演目も組み立てられている。アルバムを聴いた上で足を運んだほうが楽しめるのはもちろんだが、アルバムの曲たちが、弾き語りという形を取ることで、アルバムを聞いていた時よりも、どの楽曲も言葉とメロディーが力を持ってストレートに胸へ飛び込んできたことは新たな発見だった。もちろん、そこには彼女の表現豊かな歌唱力と演奏力があってのこと。
観客は楽曲によっては世界観に酔いしれることもあれば、一緒に手拍子をしながら一体感のある場面も見られた。どの歌に触れていても、彼女の柔らかい歌声が放つ優しい温もりに抱かれているように聴き入っていた。
心地好く軽やかに弾む「思い出になれ」では、ポカポカな日射しを浴びた時のように心がじんわり暖かくなる感覚を覚えれば、「プロポーズ」ではスケールの大きな歌と曲に導かれ、伸ばした手がスーッと上空へ吸い込まれていくような気持ちを覚えた。
この日も、奥華子の得意とする悲しい失恋ソングを数多く披露。同じく、アルバム収録曲になるが、忘れたくても忘れられない思い出を呼び起こすよう悲哀さを持って歌った「最後のキス」や「Rainy day」では、彼女の情感あふれる歌声に、観客も心がずっと奪われ続けている様子だった。
奥華子は楽曲へ込めた想いや、その曲にまつわるエピソード話を語り、その言葉を聞くことで、「なるほど、この歌にはこんな想いの背景があったんだ」ということが伝わり、よりその楽曲の色を深く感じることができた。
曲の世界観に引き込む
「愛という宝物」では、観客も手拍子などで一体感の高まるステージが見られた。この歌に限らず、弾き語りだからと、じっと聞いてなければ、という概念に縛られない、彼女とそのファンらしい自由にそれぞれが楽しむスタイルが印象的だった。
もちろん、最新アルバム『遥か遠くに見えていた今日』に収録した歌ばかりを演奏していたわけではない。この日も、切なさにじっくり浸るように「変わらないもの」を届けたり、アニメ映画『時をかける少女』の主題歌「ガーネット」が飛び出したときには、観客も大きな歓声で迎えた。
そう、奥華子の弾き語りライブは、触れた人たちを1曲ごとに歌の世界の主人公に変え、その物語の中で実体験しているような気持ちにさせる。一つひとつの歌が放つ表情や物語に受け手側が心の手を差し伸べると、その歌は、手を伸ばした人をドラマの中へ導いていく。
むしろ、一緒に気持ちを共有しながら同じ色に染め上がろうよと誘いをかけてくる。それを感じるたびに、嬉しくなった。たとえそれが悲しい想いだとしても、それを共有していくことに嬉しさを感じていた。
心と心がシンクロし、一緒に物語をリアルにしてゆく。それを感じたくて、全国各地の人たちが奥華子のコンサートへ足を運んでいるのかも知れない。
自らも赤裸々な想いを吐き出すように歌った「遥か遠くに」では、彼女と同じよう現実を真正面から受け止めつつも、明日への希望を感じていたい気持ちになっていた。
奥華子のライブに触れている時間だけは、現実は遥か遠くに見える存在になる。そのひと時を感じたくて、またライブに足を運ぶ人も多いのだろう。そのような魅力を感じた公演だった。
(取材=長澤智典)