奥華子が両A面シングル「キミの花/最後のキス」を22日に発売する。「キミの花」はアニメ『セイレン』のオープニングテーマ。恋愛に奥手な主人公が3人のヒロインとの恋模様を描いた内容で、楽曲はアニメの世界観を踏襲するようにロック要素も加わった明るい曲調となった。一方の「最後のキス」は奥華子の真骨頂とも言える失恋ソングとなっている。奥華子と言えば、大ヒットを記録した『時をかける少女』のテーマ曲「ガーネット」が記憶に新しい。アニメテーマソングを作る上でどのような視点で書いているのか。そして、失恋ソングを手掛ける根本的な考えとは。10代の頃に書いた「積木」への想いをも含めて話を聞いた。
本当は恋をしたいんだ
――「キミの花」は、アニメ『セイレン』のオープニングテーマです。この楽曲の制作は、どんな風に始まったのでしょうか?
アニメのオープニングテーマはあまり手掛けることのない機会だったので、まずは台本を読ませていただくことから始めました。『セイレン』は高校生たちの青春模様を描いた、思春期ならではの恋愛物語。私も自分の学生時代を思い返しながら、主人公は男性のように、そこはアニメに寄り添いながら男性の視点で「キミの花」を書き上げました。
「キミの花」は、台本を読んですぐにメロディと歌詞が浮かんできました。しかもオープニングテーマということから、私にしては珍しい明るいイメージを持ったサウンド作りをしています。
――『セイレン』は4話ごとにヒロインが変わる物語なんですね。
4話で物語は完結しますが、ヒロインは物語ごとに変わるとはいえ、主人公の男性はずっと同じ人なんです。しかもすべての物語が同じ時間軸の中で展開していく。というのも、シミュレーションゲームのように主人公は同じ人だけど、Aちゃんと付き合ったらどういう物語になるのか、Bちゃんとは、Cちゃんとはというように、ルートによって物語が変わっていくのと同じ展開を、全12話のアニメ作品を通して描いているからなんです。そこも意識したうえで歌詞は書いています。
――主人公の嘉味田正一の恋に対して、初で奥手な、でもいざというときには…という心理描写をどう楽曲に描き出すかも制作していくうえでポイントになっていたでしょうか?
そうですね。彼は決して「俺についてこい」という性格ではなく、むしろ恋愛にはあまり積極的ではないどころか、相手の女性にけっこう振りまわされてしまうタイプ。彼の消極的な性格なところを描きつつも、でも「本当は恋をしたいんだ」という感じを出したいなと思って歌詞の世界観を作りました。
――彼の前に現れる女性たちは、みんな心はナイーブだけど表向きには強気な性格じゃないですか?
そうなんです。そういう女性に心が引っ張られてゆく男性や、その意識に共感する人たちもきっと多いと思うんです。これから始まってゆく恋物語という視点を置きながら、この歌を聴いて「頑張ろう」という気持ちになれたり、心がワクワクしてもらえたら。そんな楽曲になれたらなと思って「キミの花」は作りました。
嬉しかったのが、『セイレン』のオープニング映像を観たときに、「キミの花」の物語に合わせて絵も作っていただけてたことなんです。すごく楽曲と映像がマッチしているように、何かが始まるワクワクを持って毎回物語を楽しんでいただける始まりになったなと思います。
自分しか知らない唯一の存在が君
――アニメ作品のテーマ曲を手がける場合、どこに視点を当てて曲や歌詞を作るのかも大切な要素になるのかなと想像します。奥さん自身、「キミの花」を作るに当たって、どこへ一番表現したいポイントを定めたのでしょうか?
『セイレン』の中で一番本質となるテーマって何だろう? と考えたときに、歌詞にも記したのですが、<誰も知らない君を見つけたい」>という言葉が浮かびました。その歌詞をつけた形でアニメの制作担当の方へデモ音源を聴いていただいたときにも「ここの部分がすごくいいね」と言ってくださった。
なので「そこの部分をもっと大切にしながら楽曲を作ろう」と思い、<誰も知らない「キミの花」を見つけたい 広いこの世界で 一つだけのキミという花を>という、誰にとってもの存在ではなく、自分しか知らない唯一の存在で君があって欲しいという願いを大切にしながら「キミの花」を作りました。
――主人公の僕の、君に対する片想いの気持ちの膨らんでゆく様がいいですね。
「セイレン」は学校を舞台にした作品のように、教室や制服というワードは入れてるんですけど。大人になっても恋をする気持ちって変わらないと思うんです。だからここに記したようなときめきは、大人になっても感じることだと思います。
――「キミの花」に対する手応え、奥さん自身はどのように捉えていますか?
今までにない明るいアップテンポの楽曲が出来上がったように、すごく振り切れた感じがしています。私は失恋バラードが大好きだし、得意分野だと思っているように、こういうアップテンポの歌をシングルのタイトルにするのは今まで本当に少なかったこと。
まして、ここまでギターの音が歪んでいる楽曲をシングルの頭に持ってくるのは初めての経験。それって、アニメの主題歌だからこそ出来た挑戦だったので、とても良い機会をいただけたなと思っています。
ハッピーなときは自分がどれだけ幸せかを気づけない
――奥さんは、なぜ「失恋バラード」を求めてしまうのでしょうか?
自分が今まで好きで聴いてきた音楽で一番心揺さぶられたのが失恋ソングなんです。人は、ハッピーなときほど自分がどれだけ幸せかということに気づけない。それを失くして初めて気づく大切さがあると私は思うんですね。その意識が、私の根本にあるからなんでしょうね。
――失恋バラードと言えば、「最後のキス」はまさに相応しい楽曲に仕上がりました。
「最後のキス」はずっとずっと温め続けてきた、私にとって本当に大切な楽曲。「これぞ奥華子」という真骨頂と言うべき歌が出来上がりました。
――詞、曲、アレンジとも、すべてがベストな形で混じり合っていませんか?
「最後のキス」は、バンドのメンバーさんと一緒にスタジオの中、セッションするような意識のもと「せーの」で録った音源なんです。なので、生の音ならではな臨場感や躍動性が詰め込まれていれば、その上へ重ねていただいたストリングスの演奏も、私たちに合わせる形で演奏していただきました。おかげで、想像以上に良い楽曲になれた嬉しい手応えを覚えています。
――<最後のキスを置いてくなんて>の歌詞に胸がグッとつかまれました。
最初の段階から「最後のキス」はあったけど、その後に続く歌詞は「置いてくなんて」ではなかったんです。『最後のキス』は言葉数の少ない歌。だからこそ、この歌に似合う言葉を当てはめるのが難しくて、幾つかの言葉を並べては、一番響きや想いの伝わる言葉を求めた結果「最後のキスを置いてくなんて」になりました。置いてくというのは、さよならの表現を伝えてゆくうえでもわかりやすいですからね。
恋愛は学習をしていない
――今回の「キミの花/最後のキス」は、奥さんにとっても大切な作品になったようですね。
昨年、デビュー10周年の締め括りとして全曲ライブを、1日2公演2日間に渡り全151曲を東名阪福と4カ所でおこないました。これは、弾き語りをベースにずっと活動を続けてきた奥華子の活動の集大成として挑戦したことでした。その経験を踏まえ、ここからまた新たな一歩を踏み出そうとしての最初の作品がシングルの「キミの花/最後のキス」になります。
特に「キミの花」はアニメ『セイレン』のオープニングテーマにも起用しているように、ここで初めて奥華子と出会ってくれる人たちへの歌にもなれたらなと思っていますし。これまでずっと奥華子を応援し続けてくれた人たちへは、「最後のキス」が「これぞ奥華子」という作品として伝われば。そういう1枚になれたのは本当に良かったなと思っています。
――これまでに作りあげた151曲を歌うことで、改めて気づけたことも多かったですか?
ありましたね。びっくりするくらい同じような想いを歌ってるんだなと思いました(笑)。私は17歳のときからずっと楽曲を作ってるんですね。今回のシングルのC/Wに収録した「積木」は、私がまだ10代の大学生だった頃に作った歌なんですけど。それを言わないと、最近作ったと言っても信じてもらえるくらい、良い意味で私が今表現している想いとかけ離れてない楽曲なんです。
それって単純に私が不器用だからなのか!? こと恋愛に目を向けると、若い頃はこうだったけど、大人になった今はこういう考え方をしているではなく、根本にある意識は何も変わってない…と言うか、学習をしていないからなのか(笑)。
――恋愛ってそういうものですからね。だから何度も失敗を繰り返すんだろうし。
きっと、そうなんでしょうね。
――C/Wに収録したのは、10代の頃に書いた「積木」。なぜ、この時期に形にしたのかも教えてください。
以前からもそうでしたが、昨年の全曲ライブをやったときに「ぜひCDにして欲しい」という声をたくさんいただきました。じつは、他の未音源曲へもそういう声があるように、今回その先駆けとして『積木』を収録しました。今後も、そういう楽曲を小出しに作品化していけたらなと思っています。
「時をかける少女」の反響
――いろんな視点で想いが生まれるからこそ、多くの失恋ソングも生まれるのでしょうか?
毎回楽曲を生み出すのは大変なことですけど、つねに心がけているのが「自分が感動できる歌を作りたい」ことなんです。自分が感動してないのに身近な人たちを感動させられるわけがなければ、ファンの人たちや、まだ奥華子のことを知らない人たちにだって届くわけがないと私は思っています。
逆に、自分が本当にいいなと思っている楽曲が認められたときほど嬉しいことはないんですね。今回の『最後のキス』は自分が本当にいいなと思えてる楽曲、それがどんな風に伝わっていくのかも楽しみにしています。
――すでに『キミの花』に対しての好リアクションは帰ってきているんでしょ。
Twitter上でも「奥華子っぽい曲だなと思ったら本人だった」とか『時をかける少女』の奥華子がふたたびアニソンを歌ってる」など、そういう反響の声は大きいですね。
――「時をかける少女」のテーマ曲となった「ガーネット」で奥さんを知った方も多いんじゃないですか?
ホント、そうなんです。何処へライブに行っても「時かけで知りました」と言ってもらえる機会は多いです。今回の「セイレン」は、「時をかける少女」以来のアニメソングとのタイアップになりました。今回生まれた『キミの花』も、アニメとの出会いがあったからこそここまで明るく、しかも失恋ではない楽曲を作れた。そう思えたら、とても良い出会いになりました。
――奥さんって、あまり明るい曲調は歌わない方なんですか?
昨年に全曲ライブをやって気づいたのが、トータルで見た場合、明るい曲も相応に歌っていることなんです。ただ、奥華子の楽曲で何が人気か!?となると失恋バラードだし、それが自分の顔になっているように、そこの印象が強いからこそ自分でも奥華子=失恋バラードと思ってしまうんでしょうね。それと、自分でも何も決めずに曲を書き出すと失恋ソングを書いてしまうように、失恋ソングには自分の表現したい想いがあるからなんだと思います。
『セイレン』と言えばこの歌に
――改めて、奥さんから見たアニメ『セイレン』の魅力もお願いをして良いですか?
主人公の男の子がちょっとマニアックな性格なんですね。『セイレン』自体が爽やかな青春アニメというよりも、あまり人には言えないような。自分が妄想している恋愛を、物語を通して代弁してくれている内容なんです。なので、みんなで一緒に観るよりは、一人で観ながら、自分の妄想心に寄り添ってくれる作品じゃないかな!? と思います。「キミの花」も、『セイレン』と言えばこの歌となれたらなと願っています。
――今回のシングル盤は、奥さんにとってもかけがえのない大切な作品になりましたね。
新しい挑戦の扉を開いたのが「キミの花」なら、「最後のキス」は奥華子の真骨頂となる楽曲。まさに、今ベストとなる作品になれたなと思います。
――アニメのテーマ曲は、また機会があれば手がけたい気持ちもありますか?
もちろん!! 嬉しいのが、楽曲提供を含め「奥華子の世界観だからこそお願いしたい」と言ってくださる依頼が多いことなんです。その気持ちには、これからも応えていきたいなと思っています。
――さすがにバトル系のアニメとなると毛色が違いますもんね。
過去には、『テイルズ・オブ・ファンタジア』というゲームの主題歌をやらせていただいた経験もありました。そのときは「心の戦い」を歌にしたように、すごく自分らしい楽曲にも仕上げられたよう、そこは捉え方次第。これまでも、これからだって枠にとらわれずチャレンジしていきたい気持ちを持っているように、いろんな楽曲を歌っていきたいですね。
(取材=長澤智典)
作品情報
New Single 『キミの花/最後のキス』 2017年2月22日(水)発売 ▽セイレン盤 PCCA-70498/1,000円(tax in)TVアニメ「セイレン」書き下ろしイラストジャケット ▽通常盤 PCCA-04484/1,200円(tax in) ▽セイレン盤収録曲 M1 キミの花(TVアニメ「セイレン」オープニングテーマ) M2 最後のキス M3 キミの花(Instrumental) M4 最後のキス(Instrumental) ▽通常盤収録曲 M1 キミの花(TVアニメ「セイレン」オープニングテーマ) M2 最後のキス M3 積木 M4 キミの花(Instrumental) M5 最後のキス(Instrumental) |
イベント情報
▽奥華子「キミの花/最後のキス」発売記念リリースイベント 2月25日(土)13:00~/16:00~ 海老名ビナウォーク ミュージックディライト(神奈川) 2月26日(日)13:00~ ららぽーとTOKYO-BAY 北館1F東の広場(千葉) 3月2日 (木)18:30~ アスナル金山 明日なる!広場(名古屋) 3月3日 (金)18:00~ ミント神戸2Fデッキ特設ステージ(兵庫) |