ビッケブランカ「随所にこだわりを持って作る」妥協しない音楽制作の裏側
INTERVIEW

ビッケブランカ「随所にこだわりを持って作る」妥協しない音楽制作の裏側


記者:小池直也

撮影:

掲載:19年06月12日

読了時間:約12分

 シンガーソングライターのビッケブランカが6月12日、ニューシングル「Ca Va?」をリリース。収録曲は、フランスを旅した際に着想したというタイトル曲から、アニメ『フルーツバスケット』のエンディング曲である「Lucky Ending」、そして「ウララ acoutic ver.」の3曲を収録。昨年11月のアルバム『wizard』を引っ提げ、今年1月12日の仙台darwin公演から2月10日のZepp Tokyo公演まで全国をまわった自身最大規模のツアー『WIZARD TOUR 2019』を終えたビッケブランカ。約7カ月ぶりとなるリリースに際して、彼は何を考えこの作品を作り上げたのだろうか。制作背景やレコーディングのエピソードなど話を聞いた。【取材=小池直也/撮影=村上順一】

フランスが好き

ビッケブランカ

――アルバムのリリースやツアーもあった、この7カ月はいかがでしたか。

 あまり自覚はないですね。今聞いてそんなに経っていたかと。ただZepp Tokyoのツアーファイナルがソールドアウトだったんですけど、あの光景は初めて見たなあと感じますね。ライブ自体もはじめからすごく楽しい感じでした。ステージは毎回なにが出るか、あえてコントロールせずにしているので「なにが起きても大丈夫」という感じなのかもしれません。アルバムは毎回作っていて楽しくて、とりとめのないものが詰め込まれるんですけど、それが毎回毎回違って新鮮に思える。それを繰り返せたのがよかったですね。

――今回のシングルの制作に当たって、考えていたことなどはありました?

 全然ないんですよ。「このくらいにシングルを出したら、次にライブをやって、季節が変わったらアルバムを出して」ということをチームで話しながら繰り返しています。作っている最中はアイデアがすごくあるんですけど、事前にはなくて。

――「Ca Va?」を作る時はどんなアイデアが?

 この曲の種は3年くらい前、一人旅でパリに行ったときに考えたものでした。サビはなんとなくあったんですけど、ずっとハードディスクに放って置いたんです。それで今回、Spotifyさんのタイアップの話があって、ちょうど同時に違う曲も作っていましたが、やはり世界一の音楽ストリーミングサービスなので、少し極端な曲でも面白いと思ってくれるんじゃないかと思い始めて。

 考えていたらこの曲が浮かんだんです。「パリでみんながCa Va? Ca Va?(サヴァ? サヴァ?)って挨拶し合うのが印象的だったので、そこから自分も面白いのが書けたりして」と思って。作り始めたら今までで一番くらい好き放題で、自分でも笑いながら「バカみたい」とツッコミを入れながら仕上げました。

――お話の通り、Bメロでピアノがベースになる展開などユニークな点が多かったです。どのように着想されていきましたか。

 自然にですね。そんなにこねくり回してないですし。作りだけみると、雰囲気が違う場面から<Ca Va?>って叫ぶところになって、シンフォニックな部分もあって、という展開。ポンポン出てきたアイデアをキュキュっとまとめたというか。1年くらい前だと、意図的にそういうことをやっていた部分があったんです。自然に流れてきて、Bメロでがっと雰囲気が変わって、サビでドンと行く。そういう考えで曲を作るのはすごく楽しかったです。自分でいい塩梅のなか奇をてらう、みたいな。でも今は奇抜にしなくても、そういう場面転換を自分で受け入れている状態です。そういう曲作りが馴染んできたのかなと。

――サビは<Ca Va?>という箇所ですよね?

 あそこがサビです。確かに聴きようによって、イントロという解釈もできますね。そういう意味で、意識したのは最新のエレクトロの構成です。世界の音楽的な傾向は、サビでリズムが半分になる展開ですよね。昔もあったと思うんですけど、結局新しいものって何かのリバイバルだから。制作していたときはそういう気持ちよさがある曲が流行ってたので、僕もこういうアプローチにしてみようかなと思ったんです。トレンドはすぐ変わりますから、追っても仕方ないですけどね。2、3年前はサビでぶち上げる感じがトレンドで、2倍の速さになったり、2つか3つくらいメロディが足されたりしてました。

 日本の流れにはあまり興味がないんですけど、世界の流れには注目してます。やっぱりアヴィーチー(スウェーデン出身のDJ)が亡くなって変わったと思います。EDMの初期は彼がはじめたことからブームが生まれていったんです。それをカルヴィン・ハリス(スコットランド出身の音楽プロデューサー、DJ、シンガーソングライター)がやって、ゼッド(独DJ、音楽プロデューサー)がやったわけで。彼はファッションでいうところのカール・ラガーフェルド(独ファッションデザイナー)なんじゃないですか。

――なるほど。ところで「Ca Va?」の冒頭はフランス語だと思うのですが、これはどういう意味でしょう?

 「南フランスの空に虹がかかり、そこで歌っているんだ」みたいな感じです。フランス語は「Ca va?」以外はまったく話せませんが、ここは僕の声です。母親の好きなフランスのアラン・シャンフォーというアーティストがいて、その歌詞を見ながら「歌っていいフランス語」があると思ったんですよ。文章にしたときではなく、歌にしたときにいい言葉というか。アランの歌詞を見ていて、動詞を2回繰り返しても許されるんだ、とか文法のルールがわかった。そのうえで自分の言いたい単語をはめこんでいきました。生半可じゃいかんなと思ったので、ちゃんと勉強しましたね。

 ライブでも“un,deux,trois”(仏語で1、2、3)と言ったり、「ウララ」とかでも「Oui」とか、フランス語はちょいちょい入るんですよ。でも歌詞カードに載るくらい歌うのは、初めてでした。音楽ジャンルを変えたのにも飽き足らず、いよいよ言語まで変えはじめたぜと自分で思ってます(笑)。

――フランスが好きなのはなぜですか。

「Ca Va?」ジャケ写

 アーティストが好きなんですよね。シンガーソングライターのミーカもフランスで育った人だし、ポルナレフとか、ジョー・ジャクソンというピアニストも一時期住んでたりして。パリ・サンジェルマンというサッカーチームも好きだし、フランスがひたすら好きなんですよ。

 フランスの音楽は邦楽と全然違うんです。わけのわからん動きをしていくんですよね。拍子も変なところで取るし、独特なんです。それが気持ちいいし、しかもわかりづらくないので通して聴けるんですよ。あの感じは一回やってみたい。ずっと流れていくと、ダレそうじゃないですか。コードが変なところで変わっていくからダレないんですよね。

――<知らないことを知らないまま>というリリックも印象的でしたが、歌詞についてはどのように考えていったんでしょう?

 初期衝動は「ただCa Va?って叫びたい」ということでした。それに加えて、今の自分の感覚が言葉として乗っているという感じです。機嫌よく「なんでもできる」「不可能はない」みたいな強い気持ちがそのときにあった気がします。<知らないことを知らないまま>というのは、知らないということで怖気づくのではなく、知らないままでもいいんじゃないのかということですね。

――他にこだわった部分などあれば教えてください。

 特にここを聴いてほしいというのはないですね。だから当然ですけど、随所にこだわりを持って作っています。だからどこかに言及して、狭めたくはないなと思います。

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