やさしさの根幹にある郷土愛
――今作で特に思い入れのある曲はありますか。
片平「今回は1曲だけ『最高の仕打ち』を再録させてもらったんですね。このチャンスにバンドアレンジをさせてもらって良かったです。当初はバンドアレンジでと思っていたのですが、1年くらい悩んだ末に肉付けすることが怖くなってしまって。毎回自分の推し曲としてライブでも披露していたし、自信もついたし、リスナーの方々にも浸透していたので。そこにどんな音が乗っても揺るがない強さ、パワーがついたと思いました。今ならアレンジできるなと」
――もともと、それだけ覚悟のあった曲だったんですか。
片平「そうですね。もともと思い入れのあった曲ですね。アレンジが声を殺してしまうこともあるので、それを一番避けたい曲でした。メッセージ性も強いし、自分が10代の頃にわだかまっていた感情がこの曲で昇華できたし、表現したいことも表現できたので」
――この曲はTHE BACK HORNさんが演奏しているんですよね。
片平「そうです。同郷で、すごく良くしてもらっていて。東京にいる時に福島の人間が一度に集まったので(菅波)栄純さんがいると特に福島弁が移ります。「~だっぺー」、「んだんだ」という感じで(笑)。居心地の良い先輩です」
――郷土愛ですね。
片平「福島から出て頑張っている人を見ると嬉しいです」
――私事ですが、生まれも育ちも東京なので郷土愛という感覚があまり分からないんです。
片平「東京の人はそこが故郷でも、次から次へと新しい人が来て変っていってしまうから、また全然違う感覚なのかもしれないですね。東京の方には『帰るところがあって羨ましい』と言われます。そう言われると、東京にいる間は寂しいけれど、帰る場所があるというのは強みなのかもしれないと思いましたね。
――故郷は母親のような場所だと思うんですよね。母性的なものと似通っていると。片平さんの歌の温もりの正体はそこに起因するのではないかと。
片平「嬉しいですね。全然意識してはいないですが、確かに故郷という言葉には温かみみたいなものがありますね。ありがたみみたいな」
――今までに色んなミュージシャンと共演されたと思うのですが、あえてTHE BACK HORNさんが演奏しているということで、その郷土愛のような温もりが感じられているのかなと思いました。
片平「どの曲にも言えるのですが、『最高の仕打ち』は特に余計なものはいらないなと思っていて。アレンジに関してもアレンジャーさんが巧妙に構築して、スタジオミュージシャンが立派に再現してくれると言うよりは、精神性で共鳴している人とやった方がいいなと。どうアレンジするかと考えていた時に(福島で開催される音楽フェスティバル)『風とロック』で共演させていただいた時のことを思い出したんです」
――それはどのようなことですか?
片平「そのフェスで私は怒髪天さんのライブを袖でひとり観ていて、その反対側に栄純さんがいて。私は『栄純さんいるな』と思っていたんですが、栄純さんも「里菜ちゃん観とるな」と思っていたらしく。今年の『風とロック』のテーマが『風とロック学園』だったので学生時代の先輩と後輩が意識しあいながら観てるみたいな感じになってて(笑)その時に、栄純さんが『また一緒になんかやりてぇな。レコーディングとかしてぇな』と言ってくださったんですよ。そのおかげで前にツーマンで『最高の仕打ち』を栄純さんがバンドアレンジして下さったことを思い出して、このタイミングだ! とお願いしました」
――ツーマンの時の感触も良かったんですね。
片平「人間臭さとか、男っぽい骨太さとかありつつ。でも彼らの曲は儚さも兼ね備えていて、この曲に合っているなと思って。お願いしたら、メンバーの皆さんも共感してくださって…」