気持ちさらけ出すのに小細工いらない、遊助 直球ラブソングで見せる恋愛観
INTERVIEW

遊助


記者:桂泉晴名

撮影:

掲載:18年11月01日

読了時間:約12分

アルバムに入れるのはもったいなかった3曲

遊助(撮影=片山拓)

――2曲目の「美女の野獣」は「俺と付き合ってください。」とは違う時期に作られたのですか?

 ええ。他の3曲は全部、前のアルバムに入れようとしていたんですよ。だから、たぶん全然違う人が作っているように聴こえるかもしれません。でも、この3曲は決して「オーディションに落ちた」といったことではなくて、アルバム作品の中では違うかな、というだけなんです。逆にアルバムに入れてしまうのはもったいなかったし、アルバムに入れない方が、お互いにとっていいなと思ったので。ただ前のアルバムは「山」をテーマに作っていたから、どこかで自然に関する歌詞が入って来てしまうんです。曲調はすべて違うんですけど。

――「美女の野獣」に関してはサウンドがヨーロッパ風の牧歌的な部分がありつつ、舞台はジャングルで、組み合わせが面白いと感じました。

 これはノスタルジックなイメージというか。目をつむって思い浮かんだまま書きました。起きたら森で、小道を抜けるとスレンダーな美女や綺麗な動物がいて、そこに手招きされて踊って、周りで色々な動物たちや山賊たちも寄ってきて、太鼓を叩いたり…。みんなでキャンプファイヤーを囲んで踊ってるイメージが浮かんで、想像したままものをパーっと書いたんです。昔、街の運動会でお父さんやお母さんがやっていたダンス、ジェンカみたいな感じ。どんどんつながっていくイメージですね。これはすごく好きなんですよ。聴いていると楽しくなってくるし。かっこよくて、かわいい曲だなと思っています。

――作曲・編曲を担当しているDaisuke”D.I”Imaiさんは、制作のときにどんな風に言っていましたか?

 「出た! 遊助さん語」と。「全く想像していないのが来ましたね」と言われました(笑)。

――確かにこの曲は不思議な夢物語になっていますよね。また今回はジャケットもすごく面白いなと思いました。

 あれはUFOキャッチャーなんですけれど、いくつかあった企画案の中で、遊助(U)からfor(FO)で、そしてキャッチしてくれる、つまり聴いてくれる人、という意味でいいんじゃないかと。俺もキャッチャーだったし。キャッチャーとしてあなたをキャッチするよ、という意味ですね。

――そして3曲目の「Voyager」ですが、「美女の野獣」から一変、今の世の中に疑問を呈する重い内容に変わりますね。

 これは、アルバム制作の最初の頃に作りました。曲から感じるままに、その時に自分が思ったこともあったのかもしれないのですが、この曲を作っていた2年前くらいに、すごく暗いニュースとか、同じようなことをテレビのどこのチャンネルでもいつ回してもやっていて。

 「突っつき合いみたいのが最近多いな」と感じて。たぶんその気持ちと、自分の中で思い描いていた、いかだに乗っている侍みたいな人が航海から帰って来たら、「あれ? 思い描いていた、飛び出した街じゃない」と感じるイメージが重なったんです。やっぱりエンターテインメントというのは、どこか夢のあるもので。自分の中では、その人が楽しくなったり笑顔になれることを大事にしてライブを作っていますし。

 どうせ自分の意志でゼロからものを作るのだったら、プラスになるようなことを作れたらいいなと思っていて。それは笑顔なのか元気なのか 勇気なのかは分からないですけど、目に見えない気持ちのうるおい、みたいなことが大事だと考えています。もちろん「お前は何様だ」と言われたら、本当に何様なのか、という感じなんですけど…自分はこれまで間違えたこともいっぱいあるし、間違い続けているし。ただ、昔はもっとエンターテインメントは漠然と楽しかったよな、と思って。それが正解かどうか分からないですけど「違うかな?」と問いかけているような曲だと思います。

――かつてのエンターテインメントが「漠然と楽しかった」という感覚は、30代以上の人は分かる方も多いかもしれません。

 それはネットが普及したからなのか、チャンネルが増えたからなのか、贅沢になったからなのか、何か心に引っかかっているものがあるからなのか、分からないです。でも、なにか昔の人たちの方が、笑っていた気がするんです。もちろん大変なことも、矛盾もいっぱいあったと思うんですけど。まあ、俺は古いタイプの人間なので。かといって、「ああ、昔は良かったな」と思いたくもないし。今は今で楽しいことがたくさんあるはずなんですけど。

――今は細部にばかり注意がいってしまって、漠然とした楽しさがなく、全部理屈で考えてしまっている感はありますね。

 「今はそんな時代じゃないんだよ」と言われたらそれまでですけど、「それもずるくない? 時代のせいにしていない?」と。「なぜ便利なのか?」ということを考えたり、なぜこうなったかということを、感覚でもっと感じた方がいい時もきっとあると思うんです。不便と便利が紙一重で、便利なのに困ったことって、結構多いと思うんです。

 携帯ができて、家の電話がなくなって、自分の子どもの恋人が分からなくなったとか。人とのつながり、近所との話がなくなったとか。それこそ地デジになって見えなくていい物まで見えたり…。絶対便利になったら、反動で面倒くさいことも増えている。それで助かっている人もいっぱいいるかもしれないし、ギリギリちょっと便利な方が助かることも多いかもしれないですが。面倒くさいこともいっぱいあると思うから。

 昔は昔できっと良いところもあって、そのことも忘れないようにしたい。誰かを突っついて満足するんじゃなくて。時代のせいにしたり、何かやらかしてしまった人たちに向かって皆で何かを言って共感することで一体感を感じるんじゃなくて、自分の感覚で物や人、出来事を前向きに捉えて感じて進んで行かないと、楽しくない。聴く人たちも楽しくなくなっちゃうから。この曲は「楽しい方向へみんなで行きませんか?」ということを、格好良くブッタ切っている感じで歌っている曲です。

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