MISIAの最新シングル『アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)』が配信で好調なセールスをみせ、注目を集めている。同楽曲は綾瀬はるか主演のTBS系火曜ドラマ『義母と娘のブルース』主題歌で、MISIA×GReeeeN初のコラボレーション楽曲。今回のコラボは「ドラマヒットソング・コラボ」ともとれるだろう。というのも、GReeeeNの代表曲である「キセキ」はTBS『ROOKIES』の主題歌として大ヒットを記録し、物語の主題に深く寄り添った同楽曲は『ROOKIES』と「GReeeeN」の存在感を大きく放った上で、一つの作品も世界が完成された印象がある。そして、両ドラマに共通しているのは、ドラマと主題歌が同一の世界観を共有しているという点だ。「タイアップ」と言えば「タイアップ」だが、いかに互いの物語をリンクさせるかがヒットの鍵とも言えよう。

「ドラマヒットソング」共通点とは?

 
「はじめまして、あなたの母に就職します」——、強烈なメッセージを伴ったドラマ『義母と娘のブルース』は、義母と娘の愛と成長を描くハートフルな物語。綾瀬はるか演じるキャリアウーマンの主人公が、娘を持つ男性からプロポーズされて結婚、母親になろうと、畑違いの家事や育児に一生懸命に奔走、家族と過ごす日々を描いた10年間の物語。

 義母でキャリウーマンの女性が彼女なりの方法で「愛の形」を示していく物語の主題歌『アイノカタチ』は、歌詞、メロディともにドラマにマッチングした内容。MISIAは「アイノカタチは人それぞれだけど、愛することは素晴らしい。沢山の"アイノカタチ"に寄り添い、大切な人に『あのね、大好きだよ』と伝えるお手伝いが出来るよう、心を込め歌いました」と、コメントを寄せている。

 『アイノカタチ』の歌詞の行間からは、身近な人から愛を受け、支えあい、ゆっくりと育まれていく温かい空気感が感じられる。その言葉を、噛みしめるように、慈しむように歌うMISIAは、シンプルで大切な言葉たちを、圧倒的な歌唱力で、丁寧にメロディを紡ぐ。

 主題歌である楽曲がドラマを、ドラマが楽曲を“互いに引き立てる“というより、互いがあって、一つの作品の世界が提示されているという印象すら受ける。そのどちらかが欠けても、片方ずつの作品として成立するのだが、ドラマを観て楽曲を聴いても、あるいはその逆でも、「両作品の持つ本質に辿り着く」、「主題の本質を感じさせられる」、という点は数ある「ドラマヒットソング」に共通していると言える。

「主題歌」である理由

 「ドラマヒットソング」に共通している「作品テーマやコンセプトが色濃く提示されている」という点にフォーカスし、近年のドラマヒットソングを並べてみよう。

 例えば、星野源「恋」→『逃げるは恥だが役に立つ』、Doughnuts Hole「おとなの掟」→『カルテット』、宇多田ヒカル「初恋」→『花のち晴れ』、これらはいずれもTBS系火曜ドラマで放送されヒットしたドラマとその主題歌だが、どれも、ドラマと楽曲が個々でヒットしたという印象よりも、作品と楽曲が強く紐づいている印象がある。

 ドラマに限らず、アニメ主題歌もそうかもしれない。『キン肉マン』はやはり<キン肉マン Go Fight!>の歌詞があるとないのとでは物語の濃度が全然違ったように思える。『北斗の拳』も<YouはShock>のインパクト絶大なシャウトが世紀末のカオスな世界観を見事に表している。『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌「残酷な天使のテーゼ」も、シンフォニックな曲調から歌詞からまるごとエヴァ感に溢れている。どれも明確な“主題力”のようなものが極めて強く楽曲面に表れている傾向がある。

タイアップと主題歌

「アイノカタチ」ジャケ写

 年代は少々新しくない例が並んだが、80年代や90年代のアニメやドラマのヒットソングは「物語のテーマやコンセプトが色濃く提示されている」という点が非常に強かった。

 しかし2000年代になったあたりからか「主題歌・テーマソング」という位置から、どちらかというと「タイアップ」という、意味は似ているが「主題歌」という位置の幅が広がった楽曲が増えた印象がある。だが近年では、「主題歌が一つの主題に沿うことの強さ」という点を大切にしている作品が再び増えてきた傾向を感じることができる。『アイノカタチ』からはその点が強くうかがえる。

 ドラマを観て、その主題歌が内容にマッチングしていたら、感動の度合いは深く、受け手も主題に寄り添うことができるのではないだろうか。なぜなら「そのドラマや主題歌のテーマが何なのか」が、スッと入ってくるからだ。それは、作り手であるドラマ側も楽曲側も、主題を深く追求し、互いに対して感銘を受けることが生まれてこその産物だろう。それこそ、ドラマや音楽に対する「愛の形」であろうか。

 TBS系火曜ドラマ『義母と娘のブルース』の物語を、音楽として表したら——。という試みに、これ以上なかろうという純度で表された楽曲「アイノカタチ」は、7月31日に配信が始まり、主要配信サイトの翌日付デイリーチャートで首位を獲得した。今月22日にはシングルでの発売を控えるが、それまでに既に、多くのリスナーからの反響を得た。それは、「アイノカタチ」が、『義母と娘のブルース』というドラマの主題をより深く表した、テーマに対しての純度が高い“主題歌”であることが理由のひとつだろう。MISIAの「アイノカタチ」のような、「主題に寄り添う力」と、「主題に対する深い感受」が、今求められているのかもしれない。【平吉賢治】

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