INTERVIEW

藤間爽子、貴彦

「三代目藤間紫」襲名披露舞踊会「覚悟をもって」


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:22年01月28日

読了時間:約3分

 日本舞踊家で女優の藤間爽子が昨年2月に三代目藤間紫を襲名。その襲名披露と初世藤間紫十三回忌追善を兼ねた『紫派藤間流舞踊会』が30日、東京・国立劇場大劇場で開催される。初世藤間紫の祖母も歩んだ女優と舞踊家の二足のわらじを履く爽子。襲名の節目に「決意をもって」と大曲「京鹿子娘道成寺」と「道行初音旅」に挑む。

 「娘道成寺」は、白拍子の花子が鐘供養に訪れた道成寺で舞を披露するうちに鐘に飛び込み、蛇体となって現れる物語。女形舞踊の最高峰で、爽子は約45分の長唄にひとり臨む。「同世代が大曲を臨まれていますので節目に挑戦したいと思い、襲名したときに踊ろうと決意しました。スタミナ勝負でもありますが思いを込め踊らせて頂きます」

 注目は花子の変化。なかでも蛇体となって現れる場面は見せどころ。「いろんな姿かたちを見せますが、照明も変わらなければ舞台セットも変わらない。そのなかで変化をどう見せていくか。その空間を支配できるのは私だけで、いわば私に全てがかかっているとも言えます。技術面はもちろん、内側から出る華やかさや覇気のようなものが出せるかが課題ですが、いまは衣装を着て動くだけで精一杯です。先輩には『覚悟した方がいい』とも言われましたが、その覚悟をもって臨みたいです」

 爽子は女優としても活動。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(17年)では美しい舞を見せ、日本テレビ系ドラマ『ボイスII 110緊急指令室』(21年)では緊急指令室所属の新人室員を演じた。当時の取材で表現者としての心構えをこう語っていた。

 「自然と体から溢れ出す、滲み出るものは出そうと思っても出せない、生き様やその人の持つ深みからではないと表に出ないと思っていて、表に出るというお仕事をしている以上、普段から感性豊かにしないと、生き方というのはもろに出ますから気を付けないといけないです。日本舞踊は身体表現の中で色んなものを感じながら、踊りで表現してお客さんに見せていく。顔で表情を作るものではない」。花子の変化をどう内側から見せていくか注目だ。

藤間爽子

 そして、「道行初音旅」、別称「吉野山」は、浄瑠璃『義経千本桜』4段目の道行。静御前が、吉野に逃れた源義経を慕って供の佐藤忠信と吉野山へ来る場。初世藤間翔を襲名した藤間貴彦と兄妹演舞を果たす。「小学生の頃に祖母が踊ってほしいと言っていました。こうして実現してプレッシャーもありますが嬉しいです」

 初世は爽子が14歳の時に他界した。「もっと見て頂きたかったです。でも祖母の代わりに祖母を慕った門弟の方々が『おばあちゃんならこう言っているよ』と教えてくれます。祖母がたくさんいるような感覚です」と表情を緩ませ、祖母の教えを振り返る。

 「基礎がなっていないなかで崩すのはだめと言っていました。祖母の踊りは、女優だったというのもあってか技術面だけではなく心情や、役と向き合うことを大切にされてきたと思います。私は振りや形に意識しすぎていましたが、祖母が生前に『中身が分かっていないと踊りはできない』と答えていたインタビューを見て、私はまだ形を美しく見せたいというのがあったんだと感じました」

 貴彦も振り返る。「『丁寧に踊るのではなく、大きく踊りなさい。大きく見せなさい』と言っていました。『それをしてからそぎ落として丁寧に踊ることが大事だ』とも。きっと存命なら『もっと大きく踊りなさい』と今も言っていたと思います。『吉野山』、見て欲しかったです」

 爽子は大一番の舞台には祖母の香水、祖母の腰ひもを付けて挑んでいる。今回もその願懸けは行う。「26歳で家元になりましたが、技量も自信もありません。でもこれが30代で襲名を受けたら覚悟ができたのかと思うと分かりません。小さい頃から言われてきましたし、いずれ襲名を受けるなら早い方が責任感も一層強くなるでしょうし、いろんなことも柔軟に吸収できると思いました」

 現在は、日本舞踊の魅力が若者にも伝わってほしいと、映像作品「地水火風空 そして、踊」などで新たな試みも行っている。今思うのは「日本舞踊が、着物も含め生活に身近なものになってくれたら。舞踊を見てみたいという方が多いのは実感していますので、見て下さる場を作ること、知って頂くことが近道だと思います」

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