日本舞踊家で女優の藤間爽子(26)が現在放送中の日本テレビ系ドラマ『ボイスII 110緊急指令室』(毎週土曜よる10時)に、港東署ECU緊急指令室所属の新人室員・小松知里を好演中。第3話・第4話では事件に大きく絡む。藤間は幼少から祖母・初世家元藤間紫さんに師事。今年2月には三代目藤間紫を襲名した。女優としてはNHK連続テレビ小説『ひよっこ』(17年)で美しい舞を見せたことも記憶に残る。そんな彼女が本作にどのように挑んでいるのか。日本舞踊の魅力に触れながら聞く。【取材・撮影=木村武雄】
日本舞踊家・藤間爽子の人間性
取材場所にそろりと現われた。品があるが、とくに飾るわけでもなく自然体。しかし、どこか内に秘めるものがあった。
――いきなりですが、ご自身はどういう性格ですか。
裏表がない人間だと思います。見たままの性格ですよ。知っている人やお仕事している人には明るいとか言われるけど…。でも最初は、真面目で大人しいクールな印象を持たれます。実際に話すと「こんな感じなんだね」とギャップにビックリする人も多くいて。明るくて、壁を作らないというか、人見知りはなく誰とでもざっくばらんに話が出来るような性格です。…自分で言うのは恥ずかしいですけど(笑)。
――俳優も音楽家も、多くは語らないけど何か内から発しているような方がいますが、藤間さんにはそのようなものを感じました。
そういう風に言われると嬉しくて、ドキッとしますね。でも、そういう自分を作らなきゃと思ってしまいます。私はお喋りですし、多くを語らないというよりは、色々と喋っちゃうタイプなので、そのギャップが大丈夫かなって心配(笑)。
――日常はどのように過ごされていますか?どういうことに興味があって、どういう考え方をされているのか。
女優のお仕事と舞踊のお仕事をパズルのように上手く組み合わせながら、自分でスケジュールを組んで毎日を過ごしています。お休みの日は、舞台を観に行ったり、映画館に行ったり、美術館に行ったりと。あとはちょっと自然のある場所に行ってみたりもしています。何もしないでボーっとしていることは無くて、お休みの日もお仕事に繋がる事を自然とやっているような感じです。
――人や芸術はどういったところに惹かれますか。
特に舞台はそうですが、何か分からないけど震えるみたいなものがすごく好きです。そのことを詳しく知らなくても、心が震える瞬間ってあるような気がして。日本舞踊をやっていて、ある程度知っているものも多いと思うんですけど、それを知らなくてもぱっと観たときになぜか鳥肌が立つものがあって、それを求めているのかもしれないです。良く分からないけどハッと思う瞬間があって、それが芸術の魅力かも。もちろんストーリーに感動することや役に共感して、というのはありますが、そうじゃない何かに震える瞬間というのがありますよね。特に生のものは。それが好きです。
――震えるというところで言うと、日本舞踊の映像作品「地水火風空 そして、踊」の映像美はすごいですね。
日本舞踊は、革新的な事をそんなにやってきていませんでしたから、新しい試みだったと思います。あの映像を観て「日本舞踊って美しいんだね」と言ってくれる方が多くいました。
――美しいものを観た時とか、人間としての生き様が観られた時に震えが起きると思うんです。
私もちょうどそんなことを思っていました、生き様を観た時なのかなって。
――それを求めに観に行くという話もありましたが、演じる上でもそういう所を意識されていますか。
ある程度培って、自然と体から溢れ出すといいますか、滲み出るものですので、出そうと思っても出せないと思うんです。その生き様だったり、その人の持つ深みとかからじゃないと表に出てこない。出そうと思っていることが見えてしまうと、少しあざとく見えてしまいますからね。表に出るというお仕事をしている以上、普段から感性豊かにしないと、生き方というのはもろに出ますから気を付けないといけないですね。
内に秘める表現、日本舞踊
――日本舞踊は、感情や表現を内に秘めるものだと。
日本舞踊は、身体表現の中で色んなものを感じながら、踊りで表現してお客さんに見せていくんですけど、オープンに出すものではなくて、顔であまり表情を作っちゃいけないんです。もちろん少しは作りますが、顔で表情を作って踊ると怒られます。「顔で踊るな!腹で踊れ!」と。小さい頃はよく分からなかったけど、ずっとやっていって気付くものがあります。伝統芸能はマニュアルがないので、一回では理解出来ない。ずっとやっていくうちに気付ける事がたくさんあるので、今の年齢で感じた事が何年か後にまた変化していくのも踊りの面白い所です。先輩も言っていましたが、若い頃は派手な踊りが大好きだったけど、歳を取って、削ぎ落された素踊りだったり、地味なものの良さが分かってきたと。そういう事なんですよね。年齢を重ねるうちに捉え方や好みも変わっていくのが日本舞踊の面白いところです。
――「腹で踊れ」というのは「丹田」を意識ということですか?
そうです。日本舞踊は丹田を意識して踊りますから。古典芸能って深いですし、私もまだまだ先輩に教えてもらって分かる事もあるので。
――究極の表現は能面だと個人としては思っていますが、その内に秘めるものをどれだけ持つかということですね。
表面だけ磨き上げてもダメなので、やっぱり中身がしっかりしていないとと思いますね。
――日本舞踊と今回のドラマでは共通するところは「内に秘める」ということになろうかと思いますが。
そうですね。お芝居はどれにも共通することかもしれないですね。ただそれ以外ではまだ共通点は見つけられていないです(笑)。舞台で共通する事はありますが、映像の経験がたくさんあるわけではないので、日々発見という感じでドラマ撮影しています。
3、4話が転機、「顔の表情が変わっていたら」
――さて、今回のドラマに出演が決まったときはどのよう感じましたか。
びっくりして嬉しかったです。映像の経験が少ないので大丈夫かなと思いましたが、みなさん温かくて。『ボイスII』なので、ある程度メンバーが出来上がっている中に入りましたが、今は何の心配もなく楽しく撮影させて頂いています。
――輪の中に入っていくのは最初緊張しましたか。
年齢が近かったこともあるし、今回初めて参加される方もいましたので、あっという間に馴染めました。
――すぐ人と仲良くなれちゃうタイプですか。
なれちゃう方ですね、あまり人見知りはしないです。
――今回の小松知里役はどのように演じていこうと思いましたか。
あまり決め込まず、その場の雰囲気で柔軟に芝居していこうと思っていました。知里は警察官なので、警官の制服を着て仕事をしているシーンが多いんですけど、3、4話ではプライベートのシーンがあって、警察官としての知里とプライベートの知里の二面が観られる場がありますので、そこが演じていてすごく楽しかったです。
――決め込まないというのは女優を始めて頃からですか?
最初の頃、決め込みすぎて柔軟に対応出来ない事があったんです。舞踊のせいか私の性格なのか分からないんですけど、舞踊って型があって、最初から最後まで終わりに向かって自分で演出していく感覚で、個人戦みたいな感じなんですけど、舞台は団体戦。芝居をはじめたばかりの頃に「終わりに向かっていくのが分かる。決めこみすぎているとつまらないよ」と言われたことがあります。特に映像はリアルな表現。もちろん台本はたくさん読んで行きますけど、その場の雰囲気とかで作っていきたいと思っています。今はまだ最終話までの台本が配られていないので、ある意味リアルに先が読めないまま演じているというのは、私にとっては初めての経験です。
――知里は正義感のある新人警察官ですが、3、4話でなぜそうなのかが伺える場面がありますね。
1、2話は新人として頑張らなきゃと肩を張っていますけど、3、4話ではそれが開放されるのかなと思います。あの事件で考え方が変わってある意味「警察官たるもの」ということへの肩の荷が降りて、5話以降へと進んでいきたいと思っています。
――3、4話でより素直になれるといいますか…。
そこで変われるんじゃないかなと思います。ただそれを念頭に置いていますけど、完成した映像は観ていないので芝居できているのか不安です(笑)。どこまで気付いて下さる方がいるかは分からないですけど、3、4話を境に顔の雰囲気が変わっているといいなって思いながら撮影に臨んでいます。
――緊急指令室では、状況把握や、情報を緊急出動班に的確に伝える必要がありますが、現場が見えない音声が中心となる芝居は大変そうですね。
声でやっていくお芝居なので、普通のお芝居とは違うといいますか。もちろん、何が起きているかは思い描きながらやっていますが、出来上がったものを見て初めて「こういう状況だったんだ」と思うことがあります。ですので、出来上がった映像を観るというのは、その答え合わせをしているようで面白いです(笑)。
(おわり)
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