INTERVIEW

藤間紫

「わたしたちの踊る姿から何か感じて頂けたら」藤間紫が踊る理由とは:『舞姫』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年06月01日

読了時間:約9分

 日本舞踊家の藤間紫が、6月3日~5日にかけて国立劇場小劇場で上演される日本舞踊未来座=SAI=の第6回公演『舞姫』に出演。主人公マイを演じる。2021年紫派藤間流家元・三代目藤間紫を襲名。日本舞踊協会主催公演や新作公演など出演。女優としては本名の藤間爽子で、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』 、TBS日曜劇場『マイファミリー』 、フジテレビ木曜劇場『silent』などに出演し話題となった。未来座公演には、第1回公演『当世うき夜猫』のゆき役、第3回公演『檜男=ぴのきお=』の“ぴのきお”役に続く3回目の出演となる。今回上演される『舞姫』のテーマは女性。舞い踊り人々を魅了してきた女性たち「舞姫」を描き、アメノウズメノミコトやかぐや姫、静御前、出雲阿国、芸妓・遊女、女方といった様々な時代の「舞姫」が登場する。インタビューでは稽古の様子から、「マイは点と点を線でつないでいくような役割がある」と語る役に臨む姿勢、藤間が思う日本舞踊の魅力や活動の原動力について話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

マイは未来に向かっていくなかでのストーリーテラー

村上順一

藤間紫

――現在どんなことを意識して『舞姫』の稽古に取り組まれていますか。

 まだお稽古も始まったばかりので、これからどんどん変わっていくと思うのですが、構成・演出をされている西川扇与一先生が、女性の踊りはこんなにも美しいんだということを全面に出して、それを皆さんに観ていただきたいと仰っていました。男性の舞踊家さんも出演されますが、『舞姫』という題名にもある通り女性が主役で、女性の踊りの美しさというのを上手く表現できたらと思っています。演出家の扇与一先生が、マイに関しては振りにとらわれずに自由にまず反応して動いてみてほしいと言われて、これまでにない日本舞踊のお稽古の演出に、とても新鮮に感じています。

――国立劇場は建て替えのため、しばらくこの場所で公演ができなくなりますが、劇場での思い出はありますか。

 舞踊家さん達はどこで踊ればいいんだろうというぐらいお世話になっていて、思い出がある劇場です。未来座の 1 回目の公演の時も国立劇場でしたし、この劇場を通じて色々なことを教えていただきました。藤間紫の襲名披露もこの国立劇場で行わせていただいたので、本当に思い出深い劇場です。

――マイという人物を演じられますが、人物像はどのように捉えていますか。

 舞踊家としての自分と重なる部分があるような気がしています。『舞姫』というのは、オムニバス形式で話が進んでいくのですが、点と点を線でつないでいくような役割がマイにはあります。現代から始まって、未来に向かっていくなかでのストーリーテラーでもあり、場面場面で踊りの精神を次に繋げていく役になっています。すごく重要な役ではあるのですが、脚本を手掛けている齋藤雅文さんが顔合わせの時に、「この舞台の主役はマイかもしれないけれど、それぞれの舞踊家さんが舞姫であり、主役だと思ってシーンを作り上げていってほしい」と仰っていました。ですので、マイを演じるにあたって、他の人たちよりも客観的に作品を見て、作りあげていかなくてはいけない、そんな立ち位置にある役だと思っています。

――共演者の皆さんとはコミュニケーションをどのようにとられていますか?

 共演を何度かさせていただいた方もいらっしゃいますが、少しずつ自分より歳下の後輩も増えてきました。私はあまり人見知りをしないタイプです。休憩時間にみなさんと振りの確認をしたり、舞踊とは関係のない話もしたりして楽しくコミュニケーションをとっています。

――公演で一番楽しみにしていることは?

  一番楽しみにしていることは、この舞台を観てどう感じてくれたか、お客さんの反応です。常にお客さんの反応をみたいと言いますか、どう感じていただけたのかはすごく気になります。観てくれる人たちのために作品を作っているので、お客さんの反応は一番の楽しみなんです。

 あと、1 つの興行として何回も公演をさせていただけるというのは意外と少ないんです。舞踊の公演は1 回きりなことが多いので、その 1 回に懸けると言いますか、失敗したらそれで終わり。それも日本舞踊の良さだったりするのですが、今回は日を追うごとに芝居が変わっていくのかなと思うと、そこも面白いなと楽しみにしています。

――若い方にも日本舞踊の魅力を届けたいという想いを藤間さんは持たれていると思いますが、本作でそういう一面や工夫もあるんですか?

 例えば、かぐや姫だったり皆さんが知っている有名な人物を盛り込んだりしています。特に未来座というのは日本舞踊を観たことがない新しいお客様を呼び込むための公演でもあるので、今回もわかりやすく、楽しんでいただける公演になっていると思います。

――京舞の場面もあり、人間国宝の井上八千代さんが指導されていますが、京舞についてはどう感じていますか。

 今回の大きな見どころの1つだと思っています。そもそも東京で京舞を観る機会って少ないと思いますし、同じ日本の舞踊なのにここまで身体の使い方が違うのかととても興味深くお稽古を拝見させて頂きました。日本舞踊といっても本当にさまざまなジャンルや表現があるのだと、この公演を見て知って感じて頂けたら嬉しいです。ちなみにわたしもその1人です。

――いま藤間さんが追求されてること、もしくは追求していきたいことはありますか。

 いろんなことを柔軟にやりたいというのは常に思っているので、固定観念に囚われずに自分が求められたことに対して全力で臨みたいと思っています。これから先も舞踊や女優以外の違う何かを見つけるかもしれないので、自分の好奇心に素直になって、何でも挑戦していきたいという思いはあります。

――舞踊とは関係なかったことだとしても、結果、舞踊に還元されたりしそうですね。

 それはあります。このお仕事していて損したことって何 1 つなかったなと思います。小さい時に少しやっていたダンスの経験が舞台で活かされたり、無駄なことってなかったなと実感しています。

――藤間さんはきっと物事を還元するのが上手なんだと思います。

 ありがとうございます。私、休みの日も仕事に繋がるようなことをしている気がします。「あ、これ繋がるな」とか、「こういう役のときはこの人のマネをすればいいんだ」とか、全て生活していることが芸に活きています。

――「求められたことに対して全力で臨みたい」と仰っていましたが、それがプレッシャーになったりしませんか。

 よく母が「求められるうちが花だ」と言っていて、私も求められなくなってしまった時は終わりだなと思っています。確かにプレッシャーに感じることもありますけど、求められる以上のことに応えたいという気持ちが強いです。プレッシャーすらも頑張れる要因と言いますか、それもプラスに変えていきたいなと思っています。

藤間紫が踊る理由とは?

村上順一

藤間紫

――日本舞踊の魅力はどんなところに感じていますか。

 動き、所作の美しさです。どんな踊りでも指先まで神経が行き届いている美しさ、どんなに激しく動いていても軸がぶれない、背筋が凛ときれいに張っていて、そういった美しさが日本舞踊にはあると感じています。

――日本舞踊をやっていて、お芝居などに活かされてるなと思うところはありますか?

 日本舞踊をやっていると、佇まいが美しく見えるというのがあります。着物を着るようなお仕事、例えば時代劇などで役に立っているなと感じます。舞台を観ていただいたお客さんから「やっぱり違うね」と仰っていただくことがあります。

――藤間さんの活動の原動力になっていることは?

 見てくれる方が喜んでくれる、楽しみにしてくれるというのが、1番の原動力です。今回の『舞姫』もそうですけど、「楽しみにしてるよ」と地方から来てくださる方とか、「この舞台があるから仕事が頑張れる」という言葉を聞くと私も頑張れるんです。

――なぜ自分は踊るのか、ということをインタビューでお話していたのが印象的でした。今回の『舞姫』でその答えに近づけるかもと話されていたのですが、今どんな風に感じていますか。

 シンプルな答えですけど、好きだから踊るのだと思います。どうして好きなのかと言われると答えに困ってしまうのですが…(笑)。今回、出演者はもちろん、演出家も振り付けの方も制作の方もみんな日本舞踊家で、踊ることが大好きな人たちの集まりなんです。そんな中で、みんなで舞台をつくる過程は本当に充実していて、踊っていると多幸感で満たされます。踊るって楽しいなと、心から感じることができます。時には言葉を使わずとも、身体だけで、踊りだけで、伝わることがあるような気がしています。わたしたちの踊る姿を客席からみて、何か感じて頂けたら幸いです。

――藤間さんの座右の銘はありますか。

 それがこれといった座右の銘はないんです。そういうのに頼らないと言いますか、インタビューなどで聞かれると、私はなぜかセンスを問われてるような気がして(笑)。ただ、先ほどの話にも繋がるんですけど、「やって損なことはない」というのは思っていることなので、座右の銘があるとしたらそれです!

――公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

 舞踊をこんなにも堪能できる公演は滅多にないと思いますので、是非劇場に観に来ていただけたら嬉しいです。

――お客さんが来場するにあたって準備した方がいいことはありますか?

 特に準備はせずに、まっさらな状態で観に来ていただいて大丈夫です。深く知りたいと思っていただいた方は『舞姫』のホームページに日本大学の小林(直弥)教授がコラムを書いてくださっているので、是非読んでみてください。あとInstagramもやっていて、お稽古風景とかアップしているので、それを見ていただくことで、もっと楽しく舞台を観ていただけるんじゃないかなと思います。そして、公演を見てくださった方は、是非SNSで#日本舞踊協会舞姫で感想を呟いてもらえたら嬉しいです。あと、『舞姫』と聞くと森鴎外の『舞姫』と勘違いされる方もいらっしゃるかもしれないのですが、内容は関係ないのでご注意ください(笑)。

(おわり)

公演概要

公演名:第6回 日本舞踊 未来座=最(SAI)= 『舞姫』
日程: 2023年 6 月 3 日(土)~5 日(月)
会場:国立劇場小劇場(東京都千代田区隼町 4-1)

【登場人物】

マイ 藤間 紫
アメノウズメ 花柳 昌太朗
かぐや 藤間 蘭翔
静 花柳 喜衛文華
阿国 藤間 翔央
遊女 水木 扇升
芸妓(ダブルキャスト)  若柳 杏子
芸妓(ダブルキャスト)  泉 秀彩霞
女方 花柳 寿太一郎
義経 花柳 基

▽日本舞踊未来座=SAI=とは?

 日本舞踊未来座=SAI=は、現代に息づく、新しい日本舞踊の創造に取り組む公演。=SAI=とは、継承と革新を意味する「Succession And Innovation」であ り、日本舞踊の伝統をつなぎながら、“いま”こそ輝き、そして“未来”へと光を放つ公演で ありたい、そんな願いが込められている。2017年の発足以来、毎年 6月にオリジナル作品や国内外の戯曲を題材とした多彩な作品を制作・上演している。

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