ヴァイオリニストの石川綾子が18日に、東京・第一生命ホールで『石川綾子 ジャンルレス THE BEST Concert Tour』の東京公演を開催した。9月13日にリリースされたベストアルバム『ジャンルレス THE BEST』のリリースを記念し、11月18日の東京と26日の名古屋の2公演をおこなうというもの。披露した楽曲はまさにジャンルレス。アニソンからボカロ、クラシック、さらにオリジナル曲まで幅広い音楽を届けた。観客も手拍子をしたりとヴァイオリンコンサートは思えない盛り上がりを見せ、石川も次のステップへ向かう重要なステージとなった。【取材=村上順一】

今日のあなたにはどのように響きますか?

石川綾子

 この日のチケットはソールドアウト、すでに会場は多くの観客で満たされていた。これから始まるコンサートに期待感が高まっていく。開演時刻になると、明かりが落ち、今回石川と共に演奏するメンバー、森丘ヒロキ(pf)、豊田稔(per)、吉田篤貴(1st vn)、松村宏樹(2nd vn)、萩谷金太郎(va)、内田佳宏(vc)の5人がステージに登場。まずはその5人で重厚なアンサンブルを聴かせる。その演奏の中、ゆっくりとブルーのドレスに身を包んだ石川が凛とした表情で登場。その演奏に合流し、TOTOの「CHILD'S ANTHEM」でコンサートの幕は開けた。ヴァイオリンの伸びやかな音色がホールいっぱいに広がり、観客の耳にスッと溶け込むように届いてくる至高の瞬間。

 巡り合わせというキーワードで披露されたのは中島みゆきの「糸」。美しく紡がれていくメロディはこの楽曲のメロディとしての完成度を強く感じさせ、続いて、「NEVER ENDING STORY meets CANON」では、別々の楽曲を巡り合わせ、新たな曲へと姿を変える。柔軟なスタイルで楽曲の新しい側面を打ち出していく。

 演奏を終えると、満面の笑みで訪れた観客に感謝を伝える石川。何度もありがとうございますと伝える彼女の想いが伝わってくるMCに、観客も笑顔で応える。そして、クラシックを演奏していた彼女がポップスなどジャンルレスに演奏するようになったきっかけを語る。それは、オーストラリアに住んでいた時に、ジブリなど日本人ならではの楽曲を、リクエストされたことがきっかけだと話す石川。

 その自身の原点とも言える話から届けられたのは、ジブリ映画『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」。「今日のあなたにはどのように響きますか?」と問いかける。インストには歌詞がないため、聴いた人それぞれの想いが反映され、その全てが正解だと語る石川。叙情的なヴァイオリンの音色が、聴くものの様々な想いを引きだしていく。まさにその言葉を体現しているかのような演奏に、酔いしれる。

 そして、アントニオ・ヴィヴァルディが作曲した四季より「夏」を届ける。緊張感を煽るようなトレモロ奏法が印象的で、パーカッションのビートが加わり、300年前の楽曲を見事に現代音楽のスタイルへ昇華。聴くものの高揚感を煽り、夏のイメージを存分に表現。第1部の最後はアラム・ハチャトゥリアンの「剣の舞」。ヴァイオリンの弓が弦の上で鮮やかに舞い踊り躍動感あふれる演奏に、観客もステージの石川に目が釘付け。繊細さと激しさが交差する感情のなか、1部を終了。

第2部ではオリジナル曲を披露

石川綾子

 第2部は黒のトップスに赤のスカートという1部とはまた違った衣装にチェンジ。『ジャンルレス THE BEST』の青と赤をイメージした衣装で始まったのはボカロ曲「六兆年と一夜物語」で2部はスタート。続いてのRADWIMPSの「前前前世」と軽快な楽曲で楽しませていく。キラキラとした青春を表現した「君の知らない物語」、ホールの隅々まで届けと願うかのような演奏。クリスタルのように透き通った音色は楽曲の魅力を十二分に引き出していく。

 そして、『ジャンルレス THE BEST』に収録されたオリジナル楽曲「誓い」を届ける。石川が落ち込んでいた時期にファンに励まされできた楽曲で、今回のベストの中でも思い入れの強い1曲。「そのままでいいんだよ」という言葉が聞こえてくるかのような、演奏は聴くものの体にゆっくりと浸透していくような感覚を覚えさせた。

 「今人生で一番曲を書いています。オリジナルのフルアルバムが出せるように頑張ります」と、未来への意気込みを語り始まったのは、『SAKURA SYMPHONY』にも収録されているオリジナル楽曲「PASSION」。その強い意気込みを演奏で表現したかのような、情熱に満ち溢れた旋律を放ち、さらにその熱をブーストするかのようにアストル・ピアソラの「リベルタンゴ」へと紡がれる。クラシックヴァイオリンの音色で、心踊るラテンナンバーで畳み掛けた。カルテットとピアノとパーカッション、息のあったアンサンブルで南米へと誘うようだ。

 ヴァイオリンという洋楽器で“和”の旋律を奏でたボカロ曲の「千本桜」、目を閉じれば桜が舞い散る光景が想像できるほどの好演。観客も手拍子で参加し一体感に包まれた。そして、fripSideの「only my railgun」では、客席に降り、歩きながら演奏する石川。至近距離でのヴァイオリンの音色を届けてくれた。昇り詰めるエネルギーが心地よく降り注ぐなか本編を終了した。

 鳴り止まない拍手に再びステージに石川が登場。アンコールに応えヴィットーリオ・モンティ作曲の「チャルダッシュ」を披露。目を奪われる鮮やかな指使い、様々な奏法を駆使し、その深みのある音色でイタリアの風が吹いてくるかのような、その場所に連れていってくれる表現力。エンディングに差し掛かると、サポートメンバーも立ち上がり演奏、観客も手拍子で盛り上がりは最高潮のなか東京公演の幕は閉じた。

 終始、心に響く演奏と感謝を忘れない石川の笑顔に満たされた時間であった。「石川綾子 ヴァイオリンコンサート ジャンルレス THE BEST 」地方公演も来年1月20日からおこなうことも発表。まだまだジャンルレスの旅は続いていく。

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