石川綾子、ストラディヴァリウスで奏でる10年の集大成
『石川綾子10周年記念コンサート “AYAKO TIMES”』
石川綾子
ヴァイオリニストの石川綾子が11月14日、東京・紀尾井ホールでCDデビュー10周年を記念したコンサート『石川綾子10周年記念コンサート “AYAKO TIMES”』を開催した。同時生配信も行われたこの日のステージでは、ファーストアルバムリリースから10年をむかえ、最新アルバム「AYAKO TIMES」からの新曲やデビューから今までの思い出深い曲、ファンの人気曲など、10年の集大成となる選曲を1711年製のヴァイオリン最高峰とも言われるストラディヴァリウスで奏でた。
心から幸せに思っています
澄んだ空気に晴れやかな空が美しい秋の1日となったこの日、チケットがソールドアウトとなった紀尾井ホールには多くの人々が訪れた。ロビーにはファン連名の豪華なスタンドフラワーが飾られ、入場する人々の目を引いていた。ステージのバックには石川綾子の愛称でもある「デビルズアヤコ」のロゴがライトアップされ、客席に入る人々の気持ちを高める。今回は通常の席の他にダイヤモンドシート、プラチナシートなどの券種が用意されており、特典グッズのクッションを嬉しそうに胸に抱くファンの姿も目に入った。
開演時間が近づくと、石川の声で会場アナウンスが入る。キュートな声で公演の注意事項などをおちゃめに語りかけるアナウンスに、会場はあたたかな空気に包まれた。そしてそのまま、客席のライトが落ち、時計の音が聞こえてくる。次第にSEが壮大になり、ヴァイオリンの激しい音色とともにメンバーの森丘ヒロキ(Pf)、砂山淳一(B)、木島靖夫(Gt)、豊田稔(Perc)が入場してきた。クラシックコンサートではまず見ない演出に、客席のボルテージも否応なく高まり、石川綾子が白の煌びやかロングドレスでステージに入場。そして静寂のなか、1曲目の「Tango Jalousie」が始まった。
バンドの演奏が始まると思いきや、ピアノデュオのクラシックの楽曲に、会場には良い緊張感が生まれる。この「Tango Jalousie」はデビューアルバム「AYAKO」の1曲目に収録されており、石川のコンサートでは1曲目に演奏することが多かった大変思い入れ深い曲だそうだ。会場にはストラディヴァリウスの音色が優雅に力強く響き渡り、曲の終わりとともに盛大な拍手に包まれた。
「みなさまこんばんは! ヴァイオリニストの石川綾子です。本日はCDデビュー10周年記念コンサートにお越しいただきありがとうございます!」という挨拶から始まり、「今日のこの日を心から楽しみにしていました。心から幸せに思っています。」と久しぶりのコンサートへの喜びを語った。
2曲目は新アルバムから母の無償の愛、聖母マリアをイメージして作曲したというオリジナル楽曲「A Mother's Song -無償の愛-」が生演奏で初披露となった。自身のヴァイオリンの音色を母、そしてギターの音色を子供と表現し、バッハの「主よ人の望みの喜びよ」の旋律も織り込まれたメロディとあたたかな掛け合いを披露。そんな余韻も冷めやらぬまま、3曲目はピアソラ作曲の「リベルタンゴ」が始まった。いつものコンサートでは終盤に披露されることの多いラテンメロディーの楽曲で、赤い照明と情熱的な演奏に会場の目は惹きつけられた。
MCでは「本日のヴァイオリンはいつもと違うんですよ」と現在愛用する楽器ストラディヴァリウス(1711年製)を紹介し、そのストラドの音色が存分に堪能できるバラード、映画「ひまわり」より「loss of love」が演奏された。ピアノ森丘、ベース砂山と奏でるもの悲しいメロディーとシリアスな演奏、切ない表情で観客の感情を揺さぶった。曲が終わると一転、特徴的なイントロからミュージカル楽曲「オペラ座の怪人」が始まった。会場のシャンデリアが怪しげな光をはなち、ステージの照明も怪人をイメージし赤く染まっていく。緊張感とファントムの切羽詰まっていくような感情を見事に表現した鬼気迫る演奏を披露した。
続いて披露された新アルバム収録のオリジナル楽曲は「Crying Violin」。ヴァイオリンの泣き声をイメージしたという楽曲を弾いたあとは、メンバー紹介が盛り込まれたオリジナル楽曲「Liar」。今回のコロナ禍で声出しなどを控える中、石川の手拍子と同じ手拍子を客席が返すコール&レスポンスに、声を出さなくても会場には熱い一体感が生まれた。石川綾子にしては珍しいどこかウェスタン風のアコースティックギターとの掛け合いが印象的な曲で、嘘つきだけどお茶面で可愛い女の子を演奏で見事に表現した。
そして1部最後の曲は石川綾子コンサートではおなじみのハチャトゥリアン作曲「剣の舞」。前半最後にふさわしいアップテンポの名曲で会場を盛り上げ、颯爽とステージを後にした。
ポップオペラという新しい道を切りひらくゲストの藤澤ノリマサが登場
第二部は、軽快なドラムビートと手拍子に合わせて、まさに「デビルズアヤコ」を彷彿とさせる黒とピンクの華やかなミディアム丈のドレスに身を包み石川綾子が登場。
モーツァルトの交響曲第25番と『パルプフィクション』を融合した「Amadeus fiction」が始まり、鋭い目線の石川がギター木島靖夫と背中合わせの演奏する様子に会場のボルテージは一気に高まった。
そしてガラリと雰囲気が変わり、意外な組み合わせのマッシュアップ曲「Pavane × STAY TUNE」を披露。ラベルの繊細なメロディーを奏でたかと思うと、シティPOPの軽快なメロディーに変化する演奏は見事で、ミュージシャンがSTAY TUNEのコーラスを歌うというクラシックコンサートでは珍しい光景も観客を楽しませた。
そしてここからはゲストコーナーとして、ポップオペラ歌手の藤澤ノリマサが登場。
石川とまるでユニットのようなピンクと黒の華やかな衣装を着用した藤澤は、「10周年おめでとうございます!」と石川へのお祝いの言葉を述べ、「MCと演奏のギャップが凄いですね!」という石川の印象を語った。ジャンルレスに活動するという共通点もある石川と藤澤は新アルバムで初コラボーレーション。「Erlkonig × Bolero」(oはウムラウト付きが正式)で息の合った迫力のあるパフォーマンスを披露した。コロナの自粛期間中に50曲以上の作曲をしたという藤澤だが、その中から石川も大好きだというオリジナル楽曲「帰り道」が演奏され、しっとりしたバラードを石川の美しい旋律とともに歌い上げ、万雷の拍手とともにステージを後にした。
「まだまだ行きます!」と、ここで石川がペンライトの使用を呼びかける。今回の公演では、感染症対策のため石川のコンサートでは恒例の「タオルまわし」が行えない代わりに、キラリと光るペンライトが星空のように灯され「csardas」(aはアキュートアクセント付きが正式)が始まった。観客全員がペンライトをタオルのように回し、旧来のファンにとっても新鮮な盛り上がりで終盤に向けてのスタートとなった。
今の私がいるのはあなたの、あなたのおかげです
ペンライトが青に変わり、青春のキラキラした思い出を描いた「君の知らない物語」。左右に楽しそうに動きながら演奏する姿に見ているこちらの胸も踊る。そして石川の合図で会場がペンライトで真っ赤に変わったLiSAの「紅蓮華」。誰も聴いたことが無いであろうストラディヴァリウスでの紅蓮華の演奏は圧巻で、白熱した演奏のためか切れた弓毛が激しさを物語っていた。そしてドラムビートと「会場をピンクで満開の桜にしてください!」という掛け声から初音ミクの「千本桜」が始まる。ペンライトで会場がピンクに染まり、一体となったまるでライブハウスのような光景が広がり、盛り上がりは最高潮となった。
そして、本編ラストに選んだのは石川綾子作曲のオリジナル曲『PASSION』。「ペンライトをあなたの『PASSION(情熱)』に染めてください!」という呼びかけで会場が思い思いの情熱の色で染められた。音楽への情熱が込められたという力強いヴァイオリンの演奏は圧巻。曲が終わると盛大な拍手とともにステージを後にした。
拍手に導かれアンコールで再登場した石川が、この公演への想いを語った。
「この日を皆様と迎えることが出来て本当に嬉しいです。コロナ禍で、ヴァイオリニス人生の中でこんなにコンサートをしないことは初めての経験でした。私にとって、コンサートが、そして会場でお会いする皆さんが、いかにかけがえのない奇跡のような存在だったのかという事を改めて痛感いたしました。言葉以上に、演奏で伝えたいと思います。今の私がいるのはあなたの、あなたのおかげです。」と涙ぐみながらひとりひとりに語りかけるように話した。
そんな想いや感謝の気持ちがすべて込められたという「You Raise Me Up」が演奏され、客席の隅々、一人一人まで石川の想いが伝わるようなそんな音色が会場に響いた。
そしてバンドメンバー、ゲストの藤澤ノリマサも含めたオールラインナップが行われ、最後に残った石川綾子が名残惜しそうに客席に向かい一礼をし、この日のコンサートは幕を閉じた。
プログラム
第1部
01.Tango Jalousie
02.A Mother's Song -無償の愛-
03.リベルタンゴ
04.ひまわり
05.オペラ座の怪人
06.Crying Violin
07.Liar
08.剣の舞
第2部
01.Amadeus fiction
02.Pavane × STAY TUNE
03.Erlkonig × Bolero feat.藤澤ノリマサ
04.帰り道 ※藤澤ノリマサ オリジナル曲
05.csardas
06.君の知らない物語
07.紅蓮華
08.千本桜
09.『PASSION』
EN You Raise Me Up
オンライン配信情報
「石川綾子 10周年記念コンサート "AYAKO TIMES" 」
配信のアーカイブは11月20日(金)の23:59までご購入可能です。
公演の裏側に密着したドキュメント映像も本編後に公開中!
また、翌日に行われたコンサートのアフタートークのアーカイブも購入可能です。
チケットは会員登録の上、こちらからご購入いただけます。
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