珍しいという概念の先へ、和楽器バンド 進化する和と洋の融合
INTERVIEW

珍しいという概念の先へ、和楽器バンド 進化する和と洋の融合


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年05月09日

読了時間:約15分

 詩吟や和楽器とロックを融合した和楽器バンド。昨年は、オリジナルアルバム『四季彩-shikisai-』やベストアルバム『軌跡 BEST COLLECTION+』、そして、1stシングル「雨のち感情論」のリリースなど精力的な活動が目立った。2018年に入ってからも2ndシングル「雪影ぼうし」をリリースし、『Premium Symphonic Night ~ライブ&オーケストラ~』と題したオーケストラとのコラボレーションも展開するなどその勢いは止まらない。そうしたなか25日にリリースした通算5枚目となるフルアルバム『オトノエ』は、バンド初のコンセプチュアルな内容となっていて、ミュージアムをテーマに制作。ベストアルバムに収録された新曲「シンクロニシティ」で垣間見えた新たな挑戦が大きく反映。サウンド面では“設計図”を一から作り上げたことにより、今までよりも個々の楽器が際立ったアレンジになった。和楽器とロックが合わさった“珍しい”という概念の先を見据える今作、8人それぞれは何を思うのか。【取材=村上順一/撮影=片山 拓】

ミュージアムをテーマに作り上げた一枚

和楽器バンド(撮影=片山拓)

――『オトノエ』はオリジナルアルバムとしては約1年ぶりとなりますが、こうして完成をみて今、どう思いますか?

山葵 ベストアルバム『軌跡 BEST COLLECTION+』で一回区切って、今までにないアプローチを色々試せて、今までで一番クリエイティブなアルバムに仕上がったと思います。

いぶくろ聖志 ベストアルバムの次に聴いて頂くのに相応しいアルバムになったと思っていて、各楽器の音が凄く整理されたこともあり、よく聴こえるようになりました。他の曲もチャレンジしているので、歌詞の世界観だったり、曲の作り方だったり、どちらも含めてベストアルバムを聴いた後に是非聴いて頂きたいアルバムだと思っています。

神永大輔 今回アルバム全体を通してコンセプトが芯にあるアルバム作りができたと思います。今までは一曲一曲に和楽器バンドらしさというのを提示してきたんですけど、今度はアルバム全体でできたので、バリエーションがとてもあり、どれか必ず好きな曲が見つかると思います。これまで和楽器バンドを聴いてきた方々にもまた新しい一面を見せられる一枚になったかなと。

蜷川べに 私達がやりたかったことを詰め込んだ曲ばかりなので、誰がどこで、何をやるかということが計算されている楽曲ばかりです。一度聴いただけではわからないところもたくさんあって、何度も聴いてみると新しい発見がたくさんあると思います。何度も聴いて頂けるアルバムになったと思います。

亜沙 クリエイティブにひねり出したようなアルバムで、今までのアルバムの中でも一番音が良いアルバムだと思います。そのサウンドの変化も聴いてもらえたらと思います。

黒流 本当に8人全員の音がとても良く聴こえる状態になっていて、音作りの段階からとてもこだわって作りました。和楽器とバンドが合わさった珍しい形態のバンドみたいな感じで気にかけて頂いた人も多いと思うんですけど、今回はそうではなく、8人のミュージシャンが集まって一つの作品をやっと作れたと思っていますので、「和楽器とバンドが合わさった、珍しいですね」ではない、その先の作品がこのアルバムで表現できたと思います。そこを聴いて頂きたいなと思っています。

鈴華ゆう子 今回はミュージアムをテーマに作り上げた一枚になっていて、こういうコンセプチュアルなものを作るのは和楽器バンドとしては初めてなんです。どの曲から聴き始めても“ミュージアムを楽しんでまわれる”ような、そんな世界観に仕上がりました。私としても、今までよりも更に表情豊かに曲を表現することができました。特にオーケストラとコラボレーションした曲が2曲入っているのも新しい試みになったと思います。

町屋 今まで作ってきたアルバムはコンセプトがあまりないものが多かったのですが、ベストを出す前からこのアルバムのことは計画していて、その段階からデモなどを作り始めていました。今までは設計図と基礎が曖昧な状態で、後づけでなんとかしていた感じでした。

 レコーディングって通常リズムから録るじゃないですか? 上モノの楽器でわりとバランス調整をしていたのですが、今回は1から10までをしっかり計算して作り込めたので、どのパートも聴きやすいと思います。それに加えて、様々な要素や、サウンドのなかにジャンルが色々と幅広くあるので、非常に聴き応えのある作品だと思います。

――タイトルの『オトノエ』はセルゲイ・ラフマニノフ(ロシアの作曲家)の楽曲「音の絵」から?

鈴華ゆう子 実際『オトノエ』というタイトルを提案したのは私です。なぜそこに至ったのかというと、クラシックピアノを通してずっとオーケストラの世界を音大まで学んできたときに、印象派時代に好きな作曲家が多いんです。ドビュッシーやラヴェル、フランスから広がっていった波とか風とか、そういったものを音にしてアーティスト同士が世界を盛り上げていったというところから凄くインスピレーションを受けていて。

 もともとラフマニノフの「音の絵」が大好きで、音大に通っていた頃から良く聴いていました。そのなかで、曲名をカタカナで捉えたときに、曲が生まれた時代のロシアの隆盛が見えて。そうしたこともあって、曲名を、漢字ではなくカタカナにした方が、想像が様々な方向に広がると思い、そうしました。

――確かにカタカナだとイメージが広がります。

鈴華ゆう子 漢字だとイメージが断定されてしまうので、「これだ」という答えより、受け取る側で色々と想像が広がるイメージをタイトルから得て欲しくて。あと、今回はジャケットのアートワークもいつも以上にこだわりました。歌詞カードを開くと、一曲一曲に対してメンバーが表現した絵が中に入っています。目でも楽しめるアルバムになっているので、そこまで通して楽しんで頂ければと。

――パッケージとしてそういった楽しみもあるのは良いですよね。今回みなさんがレコーディングでチャレンジしたことは?

いぶくろ聖志 琴の演奏者としてチャレンジしているのは、今までは琴を自由に弾いていてギターが帳尻を合わせてくれるやり方が多かったんですけど、今回はギターがデモで弾いてくれたものに、琴がどういう音を重ねていくかと、ギター中心で琴の音を作っていきました。アレンジの方向性だったり、順番を変えたことでできてくる音の雰囲気がだいぶ変わったと思っていています。「独歩」は今後アレンジを考えていく上では凄く大きな意味のある一歩となりました。

 また、楽曲だと、「パラダイムシフト」を町屋さんに編曲をお願いして、僕が歌詞を書いて、その歌詞を読んで町屋さんがアレンジを大幅に変更してきてくれて、その変更されたアレンジを聴いて僕がまた歌詞を書き直して返すみたいなキャッチボールをして、だんだんと曲が出来ていったのが凄く面白い経験で、それが良い形に作用した曲だと思っています。

山葵 プレイヤーとして言えば、「天上ノ彼方」は、今までの和楽器バンドの疾走感のあるプレイを心掛けて、「紅蓮」はそれを更に整理してもっとパワフルなカッコ良さを届けられたらなと思って演奏しました。「細雪」や「沈まない太陽」は逆にちょっとシンプルな方向に寄せていこうと思って、特に「沈まない太陽」は手数というよりかはビートをしっかり作り上げる、自分の中でHIP HOPなイメージで演奏したんですけど、手数をどんどん減らして一音一音を詰めていくということが、今まで以上に考えて演奏したアルバムだと思います。今回は町屋さんが、全体のサウンドの仕切り役になったことで、町屋さんが全体を見渡して設計図を書いてくれたので、レコーディングの時に、自分の土台となる演奏と個性をどこまで出すのか、というのも把握しやすかったことも大きかったと思います。

神永大輔 尺八に関して言うと、今回は町屋さんが凄いなと。尺八という楽器を凄く理解し、僕という人間がやるということも理解してくれているというのを感じました。楽曲によって尺八が凄く鳴る楽曲と、逆に今まで僕自身がアレンジしたのではやらなかったような、自分の手癖を超えた、尺八の限界に挑戦するようなフレーズを指定してもらうことも多くて。「パラダイムシフト」と「World domination」のサビもその一つです。単純に物理的な音の立ち上がりとか、その辺も含めて今回はけっこう挑戦したフレーズが多かったです。

――尺八の新たな可能性が見えてきた感じも?

神永大輔 そうですね。ここまで自分でやれると思っていなかったから、やってこなかったけど、ここまで町屋さんに調教されると(笑)。

――鈴華さんの新しいチャレンジはありますか?

鈴華ゆう子 まずボーカルとして新しいチャレンジとなったのが、これまでは和楽器バンドのボーカルらしさというのにこだわってきたので、詩吟の中で使う節調という歌い方をより多く取り入れてやっていました。なぜならそれを特徴として、耳にしたときにまず「和楽器バンドだ」と思われるようにそうしていた意図があって。

 なので、1stアルバム『ボカロ三昧』では全曲に節調が入っていましたが、今回はそういうことを全く気にせずに、その楽曲の良さを表現するにはどういう歌い方が一番良いかというところをこだわって、より表情豊かにボーカルとして表現するのが挑戦でした。

 全く意識をしていなかったんですが、曲順もどう聴かせるのが良いのかというので並べていたので、後から、4曲連続くらい節調なしの曲が続いていることに気が付いて。それって過去にはなかったことなんです。ブレスひとつまでアンサンブルが整理されたことによって非常に良く聴こえるなと思えたので、声が途切れそうな表現だったり、大きい声じゃなくても良い表現、表情豊かさというのが今までよりも、よりボーカリストとしてチャレンジできたアルバムになったなと思っています。

――自身作曲の楽曲に関してはいかがですか。

鈴華ゆう子 楽曲に関しては、書きたいものを書いて和楽器バンドに落とすということができました。今までだったら和楽器バンドではこの曲はできないから、例えば自分のソロでやろうとか、そういう風に思えていたような曲でも、一旦このバンドに落とせるというような環境にあったなと思っていて。今の私が書きたいものを書きたいままに表現して、というのが自由にできたと思っています。

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