和楽器バンド「大新年会2022」の舞台裏に迫る
INTERVIEW

和楽器バンド

「大新年会2022」の舞台裏に迫る


記者:村上順一

撮影:

掲載:22年02月18日

読了時間:約11分

 今年デビュー満八年を迎える和楽器バンドが1月9日に日本武道館で開催した『和楽器バンド 大新年会2022 日本武道館 ~八奏見聞録~』が2月27日にWOWOWプラスでテレビ初独占放送される。コロナ禍ということもありゲストを入れずにメンバー8人のみで展開したライブは、和楽器バンドの真髄を堪能できるステージだった。新たな試みもあったこのライブを振り返りながら、見所などメンバーを代表して鈴華ゆう子、いぶくろ聖志、黒流、町屋の4人に話を聞いた。【取材=村上順一】

『大新年会2022』それぞれのハイライト

――大新年会にはどのような意識で臨んでいましたか。

鈴華ゆう子 これまでのライブはゲスト、剣舞隊や太鼓奏者が入ったりというのがあったのですが、今回はコロナ禍ということもあり、私たち8名だけで見せられるエンターテインメントというものに絞られていました。8人でできるテンポのいい、目が離せないようなステージを作れたらいいね、というのがあって、演出もほぼ自分たちで考えました。

黒流 昨年8~11月に開催した全国ホールツアー『和楽器バンド 8th Anniversary Japan Tour ∞ - Infinity -』を30公演を行いながらこの大新年会のライブを作っていたので、ライブの改善点も色々見えていたんです。自分たちの中でこうしたい、ああしたいというのは沢山ありましたし、その中で今こういうのをやってみたい、というのを全員の意見を集めて集約して。そのパワーが今回生まれたのかなと思います。

町屋 今までで一番長いツアーを経てきたので、ゲストを入れずに自分たちだけでやり切ることに慣れてきたと思うんです。そこありきでの大新年会だったと思っていて、あのツアーがなかったら大新年会の形は少し変わっていたと思っています。メンバーそれぞれのコーナーは個々が責任感を持ってやることというのが生まれたのかなと思っています。

いぶくろ聖志 僕が黒流さん(和太鼓)と大さん(神永大輔/尺八)と創ったコーナーでは、小編成で打ち込みの音は流さず、和楽器の音だけで世界観を作るというのがありました。小編成のセクションが3つ続くのですが、僕たちが1番目だったので、和楽器の音だけで見せつつセットリストの前後にある曲の音圧に負けないようなものを作りたいというのは意識していました。

――町屋さんのMCも面白かったですね。演出で放たれて、床に落ちてしまった銀テープを拾ったら○すという…。

和楽器バンド【撮影=(C)上溝恭香】

鈴華ゆう子 ステージからはけたときに、ちょっと(MCが)硬いから柔らかくして欲しいという話をメンバーにしていて(笑)。

町屋 それで出てきた言葉なんですけど、僕なりの最高のブラックジョークで(笑)。

――(笑)。それぞれのハイライトは?

鈴華ゆう子 私はずっとライブを引っ張っていかなければと思っていたので、終始気が抜けるところもなくて、全てがハイライトのような感じでした。

――特に緊張感があったのは?

鈴華ゆう子 「オキノタユウ」です。高いところで歌ったんですけど、あのセクションは大変でした。早替えもありましたし、そのステージから降りてきたら「シンクロニシティ」ですぐにピアノを弾かなければいけなかったので、全体のバランスをすごく考えていました。MCも間伸びしないようにちょうどいい長さにしたいなと思ったり。

――インパクトありましたよね。

【撮影=(C)上溝恭香】

鈴華ゆう子 映像の担当の方と打ち合わせをして、舞と連動しているようなものにしたかったんです。なので、映像を全部覚えて私が全部動かしているように見せたいなと思いました。そういう意味で「オキノタユウ」からのピアノ、そして舞というのはハイライトだったと思います。特に気合いが入っていたセクションでした。

町屋 今思えば、その動きに合わせてSEを入れても良かったかもね。アニメのオープニングとかでも擬音が入っていたりするじゃないですか。そういうのも面白かったかもしれない。

――ピアノといえば、ローランドの昔の機種を使用されていたと思うのですが、こだわりですか。

鈴華ゆう子 あのキーボードが私にはすごく弾きやすいんです。クラシックをもともとやっていたこともあり、88鍵で鍵盤の重さ、レスポンスが弾きやすいのがあのシリーズで。自宅でも同じものを使っています。

――黒流さんのハイライトは?

黒流 山葵との大太鼓のセクションはもちろんハイライトですが、それ以上に和楽器バンドが最大限にパフォーマンスをどうやったら出来るかというのがあって、僕の立ち位置は後ろなので、全員の状態を把握しながらの演奏でした。和と洋の融合だったり、今の和楽器バンドを面白く見せることが出来ると思ったので、ゆう子ちゃんのピアノや舞を提案しました。

――黒流さんと山葵さんが巨大な和太鼓を叩くという演出は壮観でした。

黒流 これはツアー前からやりたいね、と話していました。ホールツアーはロックバンドというのをテーマとしてやっていたので、大新年会はエンタメの部分をクローズアップして、差別化をしたいなと思っていたんです。その中の一つとして山葵に協力してもらって、自分たちでも面白いことをやりたいなと思いました。

鈴華ゆう子 けっこう前から「山葵に和太鼓を叩かせてみたい」って言ってたよね。

【撮影=(C)上溝恭香】

黒流 山葵との大太鼓パフォーマンスは和太鼓の世界ではありえないことなんです。ドラマーの方が和太鼓を叩くこともあるのですが、筋力が基本足りないんです。打法も違うので疲れてしまったり。でも、山葵は『SASUKE』(TBS系)をやっていることもあり、筋力もあってリズム感もあるので大太鼓を打つスキルを兼ね備えていました。レベルマックスでRPGをスタートさせるような感じで。プロの和太鼓奏者の方も今回のライブを観てくれていたのですが、こんなにすぐに打てる人はいない、と話していましたから。心を動かすようなパフォーマンスがしたいと思いながらやっていました。実はちょっとプレッシャーもあって、これで「山葵すごいじゃん」と単純になっていたら僕の何十年間はなんだったんだと(笑)。2人で作る演出でしたが、僕もより頑張ろうと思ってました。

町屋 それぞれが順番に打つところがあるんですけど、山葵のあとに黒流さんが叩くとやっぱり音がでかいんですよ。ゲネプロで生で聴いていて腰の入れ方が違うなと思ってました。

黒流 山葵も次回は音で負けないようにしたいと言っていて、なんか燃えてましたね(笑)。

――火がついてしまって(笑)。いぶくろさんのハイライトは?

いぶくろ聖志 本当は1ヶ月前に張り替えたくはないんですけど、大新年会までの1ヶ月の間に箏の糸(弦)を全て張り替えました。全曲分のチューニングがちゃんと取れなかったりするので、通常なら2ヶ月くらいかけてゆっくり馴染ませたいんです。ホールツアーもあって、リハに楽器がなければいけないですし、大新年会本番までに落ち着いた感じになるようにしなければいけない、それが間に合うのか、というみんなには見えないハイライトがありました。楽器テックさんと相談して、今日はこの楽器は立てっぱなしにしてとか、こっちの楽器はまだ寝かせておいてとかやってました。

――すごく準備も大変なんですね。

いぶくろ聖志 そうなんです。あと、小編成での演奏で久しぶりにクリック(メトロノーム)もなしで演奏したので、本来の箏奏者に近い気持ちで演奏できましたし、久々に「六兆年と一夜物語」を演奏したんですけど、弾きやすい指使いが以前よりも浮かぶようになって、成長したことを自分でも噛み締めながら弾いていました。

鈴華ゆう子 その話でいうと大さん(神永大輔)は尺八の指使いを変えて弾いていたんですよ。

いぶくろ聖志 そうそう。「六兆年と一夜物語」のためだけに使用する尺八をステージ上にずっと置いておいたんですけど、スモークだったり、炎を使った演出などがあったので、湿度が急激に変わりすぎて尺八が割れてしまって。それでMCの最中に吹いて確認してみたけど、ピッチが合っているかわからないと。なのでピッチの違う他の尺八に持ち替えて、指使いを変えて吹いていたという。

――そんな状態だったとは全然気づきませんでしたが、そんなトラブルがあったんですね。あと、大新年会が初めて開催された2014年はclubasiaという300人キャパのライブハウスでの公演でしたが、ステージにあの巨大な箏があったのが信じられないですね。

いぶくろ聖志 当時は一台しか持っていけなくて、その一台で全曲演奏しなければいけなかったので曲間がすごく大変でした。

黒流 当時は箏と三味線はめちゃくちゃ大変だったよね。

町屋 なのでセットリストを組むときもチューニングの関係で演奏が無理なものもありました。

――今はステージも大きくなってセットリストの自由度も変わって。楽器隊のゴージャスさは他のバンドでは中々見れない光景だなと毎回思います。

鈴華ゆう子 音だけでなく目でも楽しんでもらえるバンドだと思っています。

――町屋さんのハイライトは?

【撮影=(C)上溝恭香】

町屋 今までの大新年会の曲間は映像やSEで繋いでいたんですけど、そこを今回はフリーテンポで和太鼓とギターのセッションをやっていました。特に「オキノタユウ」前はどのくらいでゆう子が着替えて定位置に着くのか、というのがありまして。舞台監督さんから準備OKです、という合図をもらうまでフリータイムで繋いでいました。そこを違和感なく繋げなければいけないというのと、それと同じことが「シンクロニシティ」前にもありまして。ゆう子がピアノに到着するまでの間ギターと尺八で繋ぐというのもフリーテンポで、こういうのが今回多かったので緊張感もありましたし、僕の中でのハイライトでした。

鈴華ゆう子 私の弟が観に来ていたのですが、ギターと尺八のパートが、ジャズっぽい雰囲気で普段聞いたことがないから「すごく感動した」と話していました。

黒流 たしか「オキノタユウ」前の繋ぎ部分は当日決まったんだよね? 当初はMCを僕が受け継いで「オキノタユウ」に入る予定だったんですけど、それを変更して和太鼓とギターで繋ぐことになって。

町屋 入るタイミングがすごく難しくて、めちゃくちゃ緊張感がありましたから(笑)。

黒流 わかりやすく「いよ〜!」とか掛け声を入れてしまうと「オキノタユウ」の世界観と合わなくなってしまうので、そこは自然に楽曲に入れるようにしたいなと思ったんですけど、“トトトトトト”というフレーズは入りづらいなとやっていて思いました。これには「まっちー(町屋)ごめん」という感じで(笑)。

鈴華ゆう子 私もバックステージで演奏を聴きながら着替えていたんですけど「今の雰囲気が出るのにいいからこれで行きます!」みたいな(笑)。

4人が追求したいこととは

【撮影=(C)上溝恭香】

――決まっていた流れではなかったんですね。さて、最後に今皆さんがそれぞれ追求されていることはありますか。

いぶくろ聖志 今年の目標にもなっているんですけど、改めて基礎をしっかりやっていきたいなと思っています。新しいことをやろうとしたときに土台がしっかり広くしてないと乗せられるものが少ないなと思いました。例えば、親指で演奏するときでも肘の角度がどっちがベストか、重心がどこにある方がよいとか、そういったものを自分で言語化しつつ、基礎を固めた上でここまで培ってきたものの応用篇としてレベルアップしたいなと思っています。

 生き方もそうなんですけど、ビジネスとしてお金を稼ぐことも大事ですが、僕にとってのビジネスの根幹は自分の持っている技術やノウハウを活かして、みなさんが豊かになるものを生み出していく、いかに周りの人に良い経験や豊かな思いを届けられるかというのがあります。その根幹に立ち返って、生き方を丁寧に見直していこうかなと考えています。

――鈴華さんは?

鈴華ゆう子 私は新しいことにチャレンジしていきたいです。私は詩吟を長年やってきて、自分も師範なんですけど改めていまお稽古していただいています。あとはピアノの演奏のジャンルの幅というのも広げるために勉強していたり、私だから落とし込めるものを広げたいと思っているので、海外のボーカルを沢山聴いて、自分に足りない技術を広げたいと思っています。余談ですけど、そんなチャレンジをしたい年だと友達に話したら、ゲッターズ飯田さんの占いを見た方がいいよと勧めてもらって。見てみたら「チャレンジの年」だと書いてあったので、これは間違いない! と確信しました(笑)。

黒流 僕は基本に立ち戻る、というのをすごく感じています。今回の大太鼓のパフォーマンスはそういう感じもあって、和太鼓奏者としてはすごくオーソドックスなことだったんです。当たり前のことだったので、太鼓歴がある中で一度もやったことがなくて。でも、和太鼓奏者としてやらせていただいているなかで、一度原点に立ち戻ってやってみようと思いました。それは和楽器バンドを八年やってきたからこそ感じたことなのかなと思います。

 表現の欲求として、できることをやるというのはそんなに難しいことではないんですよね。表現に不正解はないと思うんです。その中でどれを選ぶか、見極めがすごく大事で、この8人だったら今見せたいものは「これだ!」という、何が必要なのかを見極め、それができないものだったら練習する、自分が面白いと思うものをどうしたらできるのか、というのを追求していきたいテーマになっています。

――町屋さんはいかがですか。

町屋 僕は尖ることですかね。自分の表現の長所を挙げるとすれば、妖怪七変化といいますか、ジャンルもサウンドもいろんなことができるという点だと思っていて。それが器用貧乏にとどまらないある程度の深度があるものを作れることが売りだと思っていて。自分の引き出しは一定量あって、その指向性を狭めていくことで見つかるものも出てくるので、自分の探求したいものに対して特化していく、という意味での尖っていくという意味です。僕は音楽と生き方がリンクしていた方がいいと思っているので、なるべく生活も尖っていきたいです!

(おわり)

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