いろんな色に出会えた、JY ひとつの詞を“5つの顔”で表現
INTERVIEW

いろんな色に出会えた、JY ひとつの詞を“5つの顔”で表現


記者:榑林史章

撮影:

掲載:18年03月28日

読了時間:約10分

 シンガーのJYが3月28日に、企画EP『星が降る前に』をリリースする。2014年から知英として女優活動をスタート、昨年末から今年にかけて放送されたフジテレビ系オトナの土ドラ『オーファン・ブラック~七つの遺伝子~』では、1人7役をこなして話題を集めた彼女。企画EP『星が降る前に』は、映画監督の岩井俊二氏が作詞した一つの歌詞を元に、岩井氏を含む5人のクリエーターが作曲・編曲・プロデュースした、5つの顔を持つ異色の作品。1人7役を経験したJYだからこそ可能になった企画と言えるだろう。誰かと誰かの気持ちをつなぐ空をテーマにした同曲について、JYは「離れて暮らす家族の存在だったり、同じ空の下にいる私が会いたい人だったりを思い浮かべていました」と話す。今後もなかなか巡り会えないだろうと自身も言う貴重な機会に恵まれた作品について、制作の様子などについて話を聞いた。【取材・撮影=榑林史章】

カメラをほとんど観なかったMVは初めて

――今回は1つの歌詞で、5種類の曲を歌うという面白い企画になりましたね。大元の『星が降る前に』の作詞をしたのが岩井俊二さんですが、そもそもどういった経緯だったのですか?

JY

 岩井さんとは、お仕事をさせていただいたことはなかったのですが、何度かお話をさせていただく機会はあって。以前、アメリカに行った時に、岩井さんもたまたまアメリカにいらっしゃって、一緒にご飯に行く機会があったんです。その時に移動中の車で、私が窓の外を観て「月がきれいだな〜」と呟いていたらしくて、それをずっと覚えていてくださっていて。『星が降る前に』も最初は月だったみたいですけど、歌詞には星とか空とか出てきます。

――そういうコミュニケーションが、きっかけになったんですね。

 岩井さんは、ご自身で作詞をされたり、音楽の活動もおこなっていらっしゃるので、「いい形で何かできたらいいですね」とお話をしていたんです。今回それが叶ったという形です。

――そもそも岩井さんのことを知ったきっかけは、どんな作品だったのですか?

 映画『Love Letter』(1995年公開)を観たのが最初で、岩井さんはその時からすでに韓国でも有名でした。ただ、その時は岩井さんだということは意識していなくて、後々になって岩井さんの作品だったと知り、以降たくさん観るようになっていった感じです。それで女優として活動するようになってからは、もしもご一緒させていただける機会があったら光栄だなと思っていました。

 今回は『星が降る前に』のMVも岩井さんに撮っていただいて、最後には映画のようにエンドロールでスタッフや岩井さんの名前も流れます。岩井さんに歌詞を書いていただけたことだけでも光栄なのに、映像まで撮っていただけたのは、とても幸せな機会に恵まれたと思います。今回はアーティストのJYとしてでしたけど、いつか女優の知英として、岩井さんの作品に参加してみたいですね。

――岩井さんバージョンの『星が降る前に』は、すごく胸にくる曲ですね。切ないけど温かみたいなものもあって。

 はい。MVもまさにそんな感じで、切ないけど昼と夜のシーンがあって、とても温かい気持ちになります。

――MVは、2倍速で撮影したとか。

 2倍速での撮影は、初めての経験でした。リップシーンの撮影では、曲も2倍速で流して口を合わせるので、最初はちょっと笑ってしまいそうになりましたけど(笑)。

JY

――2倍速で撮ると、できあがった実際のMVは2倍ゆっくりの動きになるわけですよね。

 そうなんです。だから時間がゆっくり流れている感覚の、とても不思議な映像になりました。実際にできあがったものを観て、「なるほど、こういう風になるんだな〜」って。

――どんな作品になったと感じましたか?

 この曲を聴いた方やMVを観てくださった方が、きっと大切な誰かを思い浮かべてくれるものになったと思います。

 MVには私以外にもたくさん女性が登場するのですが…歌詞には「君」という存在が出てきて、その「君」と同じ想いをしている人は、世の中にきっとたくさんいるということを、たくさん女性が出てくることで表現をしたのかなと思いますね。それに、歌詞には携帯でメールを送る様子も描かれていて、その点でも現代を生きている人に当てはまると思いますし。

――JYさんがスマホの画面を観ているシーンも、たくさん出てきますね。

 いつものMVではカメラを観てリップシーンを撮るので、カメラをほとんど観なかったのは初めてだったかもしれないです。お芝居をする時はカメラを見ないので、今回のMV撮影はお芝居をする感覚に近かったです。

――演技中は、歌詞のことを考えたり?

 そうですね。歌詞の「君」という相手として、離れて暮らす家族の存在だったり、同じ空の下にいる私が会いたい人だったりを思い浮かべていました。「離れていても空は繋がっているんだよ」と、岩井さんも、私にそういう話をしてくださったので。「離れた相手に会いたい気持ちを送る内容が、知英に合っているんじゃないかと思った」と。

本当に同じ歌詞なの? と思うほど違う5曲

――岩井さんの『星が降る前に』の曲自体、やさしく静かに歌っている印象でした。曲を最初に聴いた時の印象は?

 泣きそうになりましたし、これをぜひ歌いたいと思いました。アレンジは、確か最初はアコースティックギターだけのデモだった覚えがあります。

JY

JY

――実際に歌ってみていかがでしたか?

 意外と難しいです。<今ね、今>という同じ言葉が何度も出てくるので、それを全部同じ歌い方では聴く人が飽きてしまう。歌だけど物語であると考えて、たとえば曲のクライマックスであるとか、ストーリーに沿ったニュアンスを出せるように意識しました。

――その岩井さんが書いた歌詞で、全5種類のパターンの曲が生まれたわけですが。

 すごいことです。全部違う曲になりました。今回初めましてだったのは、亀田(誠治)さんとMonjoeさんです。岩井さんもそうですけど、JYとして、またいろんな色に出会えました。

――同じ歌詞でも、こんなに違った解釈ができるんですね。

 たぶん聴いてくださる方も、それぞれの解釈で、この曲は好きだとか、いろいろな感想が生まれると思うので、早くみなさんの意見を聞いてみたいですね。

――亀田さんの曲は、明るいので見える情景も変わる感じです。

 明るいけど、ちょっと切なさがあって。歌っていて気持ちよかったです。語尾が上がっているメロディが特徴で、とても女の子らしい歌になったと思います。

――Seihoさんの曲は、いろんな音の入った壮大なアレンジですね。

 Seihoさんは、昨年配信リリースした「好きな人がいること -Seiho Remix-」を手がけてくださって。面白いサウンドを作られる方で、Seihoさんの色がしっかり出ていると思います。

――ハモりなどもJYさんが全部歌っている?

 ハモりも全部歌いました。今自分で話していても、どれがどの曲だったか記憶がごちゃごちゃしてしまってますが(笑)。

――レコーディングの時は、そういう風に混乱することはなかったですか?

 レコーディングの時はなかったです。曲を聴けば、メロディもすぐに出てくるので。でも歌詞の構成が少し似ている曲もあって、それで「あれ? 今日のレコーディングはどっちだっけ?」となりましたけど。

――MonjoeさんはEDMと言うか。ミディアムだけど踊れそうな感じですね。

 はい。ミディアムテンポで、自分が今まで歌ってきた中にはなかったタイプの曲です。こういうサウンドも面白いなと思いました。

――山本加津彦さんは、ピアノがメインのシンプルな感じ。

 山本さんは、JYのソウルメイトみたいな感じです。曲はタメがあって、ドラマチックな楽曲です。山本さんは、岩井さんのファンでもあるみたいで、「岩井さんのことを意識して頑張って作りました」と仰ってました。だから「ためて歌ってください」とか、「思い切り感情を入れて、悲しく切なく歌って」という感じのディレクションがあって。

JY

JY

――他の方からも、そういうディレクションが?

 全員違いました。岩井さんはお仕事の都合でレコーディングに立ち会っていただくことは叶わなかったんですけど。みんなそれぞれ違うし、こだわるところも違いました。それが全部同じ歌詞でというのが、すごいことだし、自分でも楽しかったです。

――JYさんは、CX系オトナの土ドラ『オーファン・ブラック~七つの遺伝子~』で、1人7役の経験もあるので、それに近い部分もあるのかなと。

 ああ、確かにそういう風にとらえることもできますね。ドラマでは同じ顔でみんな違う人の役だったけど、今回は同じ歌詞だけどみんな違う曲で表現をしている。1人5役みたいな。

――そういうJYさんだからこそできた、企画ですね。

 ありがとうございます。そもそもグループ時代には、同じ曲で日本語と韓国語で歌ったことはあって。その時は歌詞が違うという部分で、今回とは逆だったんですけど。それでも2パターンですからね。

――これが好評で、また違う方の歌詞で5パターンと言われたら?

 う、うん。まあでもいいんじゃないですか(笑)? 実際に歌ってみて、どれもまったく違うものになったし、聴いてくれる方も飽きないと思うし。「本当に同じ歌詞なのかな?」と思うくらい、みなさん違う表現をしてくださったし。

 それに今回は、岩井さんが歌詞を書いてくださったことが本当に特別で、それがあったからこそ、こんなにもすごいクリエーターの方々が賛同して集まってくださった。こういう機会には、今後もなかなか巡り会えないと思います。

監督と呼ばれるのはくすぐったい

――『星が降る前に』は、ネスレ日本「2018年度キットカット受験キャンペーン」のショートムービー『星に願いを』のEDテーマにもなっていて、女優の知英さんとして出演されている他、第1話「1人じゃなくなるまでの1日」では、初監督を務めていますね。

 とても楽しかったし、貴重な経験でした。それまでは女優としてしか現場に携わっていなくて、その時には見えなかったことにも気づけましたし。スタッフのみなさん一人ひとりの役割とか、今まではそこまで詳しく把握していなかったことも分かりました。

JY

JY

――もともと監督に興味があったんですか?

 やりたいと思ってはいたけど、まさかこんなに早く実現するとは思っていなくて。それに監督と言っても、演出と言うか演技指導程度で、監督と呼ばれるほどのことまではやっていないので、監督と呼ばれるのは、ちょっとくすぐったいです。

――演出は、実際にやっていかがでしたか?

 お芝居については、自分自身まだ足りない部分もありますけど、出演している女優さんが事務所の後輩でもあったので、主人公はどういうキャラクターなのかと話したり、細かくいろいろ話しながら詰めていくことができました。そういう過程も含めて、すべて楽しかったです。

――ロケハンとかもやったんですよね?

 はい。すべて絵に映るものを決めなくてはいけないので。建物とか小物とかまで、全部自分で見て決めました。小物は、スタッフさんが用意してくださいましたが、判断は自分でくださないといけないので。

――こだわったシーンはありましたか?

 主人公の女子高生が、好きな先輩と話しながら歩く森の中の道は、時間が足りない中で、どうしてもと言って撮影させてもらったんです。みなさんから「薄暗いからダメですよ」と言われたんですけど、どうしても撮りたくて。そこはお気に入りのシーンですね。

――ムービーは3部作で、全部ストーリーが繋がっていて知英さんも出演されていますね。

 はい。同じ街の同じ1日を、視点を変えて描いている作品です。1月に公開されて、最初はまだ情報が解禁されていなかったので、曲は流れているけど、JYの曲だとは誰も知らなかった状態だったんですね。でも今はそれも解禁になりましたので、このムービーとも合わせて、企画EP『星が降る前に』を聴いてもらえたらうれしいです。

JY

JY

――『星が降る前に』の歌詞は、JYさんが「月がきれいだな〜」と呟いたことから生まれたというお話が最初にありましたが、月とか星とか、空を眺めることがお好きなんですか?

 観るのがすごく好きで、先日もお仕事で名古屋に行った時に、少し時間があったので名古屋市科学館に行って、プラネタリウムを観てきました。天文学とか難しいことは分からないですけど、地球とか宇宙とかが好きなんです。不思議だし、自然に光っているのが美しいと思うし。私自身も、星のように自ら光り輝ける存在になりたいなって思います。

――好きな星とか星座とかあるんですか?

 科学館で、冬の星座をちょっと勉強しました。冬に東京でも観られるのはオリオン座で、自分でもたまに夜空を見上げて見つけるとうれしくなりますね。前はカシオペア座も好きだったんですけど、東京ではなかなか見られなくて。

 夜空に限らず、空を観ると気持ちがリラックスできます。よく空の写真も撮りますし、車から眺めることが多いですけど、歩いている時には観られない車内から見上げる独特の空が観られるので、それはそれで好きですね。そういう写真をたまにSNSにあげているので、みなさんも見てリラックスしてもらえたらうれしいですね。

(おわり)

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