歌う事は私の全て、知英 人々の深部に触れた「私の人生なのに」
INTERVIEW

歌う事は私の全て、知英 人々の深部に触れた「私の人生なのに」


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:18年07月16日

読了時間:約10分

 女優・歌手の知英が主演を務める映画『私の人生なのに』が7月14日に全国で公開された。知英は近年、音楽活動と共に映画、ドラマでバラエティに富んだ役柄に挑戦し、その多彩なセンスを発揮し高い評価を得ていることもあり、今作で描かれる繊細な空気感の中、見事に主人公のヒロインを演じきっている。今回は様々なメッセージ性も感じられる本作に向けた、知英自身の取り組みや、ストーリーから受けた印象などを、自身の音楽に対する思いなどとともに、たずねてみた。【取材=桂 伸也/撮影=冨田味我】

カメレオン女優・知英

 『私の人生なのに』は、東きゆう著、清智英原案の人気小説が原作。新体操の選手として将来を期待されながら、脊髄梗塞という病で選手生命を絶たれた一人の女性が、幼馴染みとの音楽での交流を通し、自身の生きる意味を取り戻していく姿を描く。主人公・金城瑞穂役を知英、その瑞穂の前に再び現れ、ともに歌を歌う幼馴染み・柏原淳之介役を、俳優の稲葉友が演じる。

 この作品でメガホンをとったのは、2014年に映画『小川町セレナーデ』で監督デビュー、第19回新藤兼人賞の銀賞受賞を果たした原桂之介監督。知英は原監督が2016年に手がけたオムニバス・ムービー『全員、片思い』の一遍『片思いスパイラル』にも出演しており、今回再びのタッグとなる。

 2017年末に放送されたドラマ『オーファン・ブラック~七つの遺伝子~』(フジテレビ系)では、一人7役という難役にも挑戦、さらに2018年2月から上映された映画『レオン』では、俳優・竹中直人が演じる男性役と体が入れ替わるという一風変わった役柄を演じるなど、“カメレオン俳優”といえるほどの多彩な演技バリエーションを見せる。『片思いスパイラル』では、トランスジェンダーの韓国留学生という繊細な役柄を担当、さらに今回は自身やったことがないという新体操、車椅子での生活、ギターと多くのチャレンジがあり、劇中ではまた新たな一面を見せている。

 また本作の音楽では、JY名義で歌い上げた「涙の理由」が主題歌として採用されており、映画のストーリー、主人公・瑞穂の身上に寄り添った詞を、情感たっぷりに歌うJYの歌は、作品の世界観をより鮮明に描き出している。

一言で言えない深いところも、瑞穂という役を通し感じた今回の出演

――映画化、そして出演の話を受けたときの印象はいかがでしたでしょうか?

 やることがいっぱいだけど、できるかなという不安が…(笑)。でも、素敵なお話だなと思いました。音楽を通して自分を見つめ直してみたり。原作のストーリーとはちょっと設定が変わっているところもあるけど、基本的に瑞穂という女の子にはすごく魅力を感じていて、これは是非頑張ってやってみたいと思いました。

知英

知英

――今回作品を手がけられた原監督は、脚本も担当されていますが、撮影を進めていく上で“こういう部分を強く見せたい”という思いなどを、原監督と話されたりもしたのでしょうか? ストーリーにはいろんなポイントがあると私は感じたのですが、演じる側としては、どういう部分が演じる上で大きなポイントとなったのかと…。

 例えば病気をもつ、その辛さからどうやって瑞穂が立ち直るか? ということは、表現した大きなポイントだったんじゃないか、と思います。今回は、原監督のいろんな思いがすごくあったように感じました。その上で脚本も書かれていたし。私ももちろん、脊髄の障害を持っていらっしゃる皆さんにも会ったりしていましたが、原監督は私が想像している以上にそれをよく調べたり、それについて勉強したり、本当に何でも分かっているくらいの勉強をされていました。

 もちろん私たちは、皆さんの気持ちを100%理解することはできないと思います、実際そうなっていないし。でも多分、監督は監督でそれを理解しようと、一番頑張ってやられていたと思います。

――実際に障害を抱えて生活されている方ともお会いされたようですね。劇中でもセラピーをおこなっているシーンがありましたが、他の人は本当に障害をもたれている方ですか?

 そうなんです。私ともう一人、根岸(季衣=瑞穂がセラピーで出会う障害者役を担当)さん以外は、みんな本当に障害をもたれている方でした。あのシーンでは台本にセリフもなくて、本当に自分の身の上のお話をしていただいたんです。そのお話を聞けたのは、本当に嬉しかったです。

――そんな方々とお会いしていかがでしたか? 例えばこの映画であれば、歩けなくなったということですごく落ち込んでいるけど、そういう人と比べると、実際には…。

 改めて思ったのは、敏感なところでもあり、すごく言いにくいところなんですけど…でも私は、生きているだけでも幸せなことなんだなと思いました。今回の映画で、そうやって障害をもって生きるということは、本当にその人じゃないと分からないことも沢山ある。

 それを分かるように私も頑張ったけど、やっぱり100%は分からない。でもお芝居だけでも、足が動かない、歩けないというのはすごく大変でした、普通の生活と全然違ったし。だから実際にその状態で生活されている皆さんはどうなんだろうか?とか思いましたし。だからそれを瑞穂になって感じようと頑張りましたし、作品の撮影が終わった後は、今の生活に感謝して生きていこうと思いましたね。

――実際に知英さんも今までの人生で挫折を味わったこともあるかと思いますが…。

 もちろん、自分なりにはありますよ(笑)。例えば瑞穂のような、そこまで挫折するくらいまでの経験はないから、恵まれているなとも思います。だから一日座って、毎日思ったのは、周りのみんなに愛されて、私は本当に幸せな人だなと。

知英

知英

――逆にそういう境遇にある身の上だからこそ、このストーリーやお会いした皆さんに共感できることもあると?

 確かに、それはあると思います。お芝居だから、もちろん瑞穂と私の全然違うそういうことを、理解しなくちゃいけないところも沢山あったけど、逆にそこが極端に私の生活と違うというところも、何かすごく人生の勉強になったというか。一言で言えない何か深いところも、瑞穂を通して私も感じたこともあります。

 役というところでは、逆にお金を持ってない人でもなかったし、だからそこは瑞穂もその意味では恵まれている人、でもそうではない淳之介みたいな友達もいて…みたいな、設定にもいろいろとありましたし。

――確かに近い部分、遠い部分と様々な面がありましたね。役を演じる部分についておうかがいしたいのですが、今回は稲葉さんが演じる淳之介とのシーンが一番多かったようですが、お互いの気持ちのやり取りなどについて、何か話をされたりということはありましたか?

 そうですね、稲葉さんとはほとんど一緒でした。でも、本読みを何回もやってリハーサルもやったけど、何か多分自然に瑞穂と淳之介が生まれたんじゃないかって思います。よっぽど長いシーンでなければ、監督からはお任せします、と言われました。

――瑞穂という役柄を演じる上で、具体的に気を付けていたことはありますか?

 なるべく、ずっと瑞穂でいたいという気持ちで現場にいたので、そこは本当に自然に。撮影していないときも私は車椅子に乗って生活をしていました。車椅子に慣れるためというのもありましたけど、何か周りのためというか、私が急に立って歩いてご飯を食べちゃったら、お芝居をするのも大変だなと思って。だから本当に大変、お手洗いに行くときなんか以外はずっと車椅子に座っていました。

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知英
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