伝説のロックバンド・BOOWYが、1987年12月24日に東京・渋谷公会堂でおこなった解散コンサートを再編集した映像作品『BOOWY 1224-THE ORIGINAL』が12月24日に発売される。先日、おこなわれたイベント上映会では高橋まことが登場。当時を振り返るとともに「前回の編集よりも格段に良いです」とこの作品に太鼓判を押した。また、この模様を報じた後、SNS上で多くのコメントがあった。往年のファンだけでなく、ここ数年で知ったという20代のファンは、その世代に「BOOWYは最高です。皆さんが羨ましいです」と綴った。

 BOOWY――。私からしてみたら青春時代ずっと聴いてきた憧れのバンドだ。ジャンルうんぬんよりも、BOOWYそのものがジャンルであり、音楽だった。小学三年生の時に「MARIONETTE」を聞いた衝撃は計り知れないものがあった。私にとっては小学生の時にすでに聴いていたというのが自慢である。

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 それはさておき、二度に渡り『BOOWY 1224-THE ORIGINAL』を視聴する機会に恵まれた。一度目は、ユニバーサルミュージック内で開かれた視聴会。二度目は、東京・お台場でおこなわれた先の上映イベントだ。青春時代、擦り切れるぐらいに聴いてきたBOOWYの楽曲。解散コンサートも同様にVHSを擦り切れるぐらいに見てきた。なのに、飽きない。ファンだから、というのもあるかもしれないが、それ以上に「彼らの音楽は今も生きている」ということのような気がする。

 再編集をおこなった今回の作品。もともとライヴ用ではなく、記録用としての目的が強かったため、コンサート自体は、映画撮影などに使用されるアナログの16ミリフィルム(カメラ5台)で撮っていた。その恩恵もあって初めて画角16:9(これまでは4:3)、いわゆるワイド映像で再編集された。また、欠損していた「ONLY YOU」のなかの空白の数十秒間が復元された。なぜ今頃になってそのフィルムが見つかったのか? という点だが倉庫で大捜索をおこなったそうだ。

 そのほか、米ロサンゼルスのスタジオで、スキャニングし、デジタル映像としてデータ化(HD化、4K・HDR化)。音源もリマスターした。関係者いわく「従来の1224のDVDとは100%違う音源」とのことだ。また、新しくカラーリングもおこなわれた。それについても「ハリウッド映画のリメイクなどを専門にやっている当代一流のカラーリストに依頼し、当時の映像をリアルに再現した」としている。これをみてもかなりの投資があったことがうかがえる。そして、再編集をおこなったのは、BOOWY作品を数多く手掛けてきた映像ディレクターの前嶋輝氏だ。前嶋氏は編集作業のなかでBOOWYならではの特長に気付いたそうだ。通常であれば、音で編集カット点を切るようなのだが、BOOWYに関しては音だけでなく、動き、アクションで切っていた。それだけ、BOOWYは総合性があったということだろう。なお、同氏はそれ以降、アクションつなぎを大事にしているという。

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 そうしたことを経て再編集化された今回の作品。視聴して感じたのは、見立て通り、これまで見てきた映像とは明らかに違うクオリティだった。音も良ければ、映像も良い。よくここまで高めたものだ、と感心するぐらいだった。そして、16ミリフィルムで撮られたアナログ感と前嶋氏の再編集によって、ライヴ映像ではなくドキュメンタリー映像としての色合いが濃くなった。

 こうしたことによって何が得られるのか。それは、氷室京介、布袋寅泰、松井常松、高橋まことの表情や彼らから発せられる歌声、音がより鮮明に浮き上がることだ。それによって瞬時にして当時の渋谷公会堂にタイムスリップができる。改めて彼らの凄さを“肌”で体感できた。

 先にも触れたが、私のなかでBOOWYはBOOWYである。それ以上でもそれ以下でもない。しかし、ドキュメンタリータッチで描かれることで「そういえばそうだった」という点に気が付く。例えば、イントロダクション。暗闇の中で映し出される言葉は、社会を風刺している。BOOWY結成当時、『MORAL』をはじめとした作品で、社会へのアンチテーゼを表現していた。それが社会的人気を集めていく中で息をひそめるようになっていたと思われたが、当時も変わらなかったことがうかがえる。もっとも、すでに解散が決まっていたなかでリリースされた『PSYCHOPATH』は、『MORAL』の息を感じさせたが。

 そして、「LIAR GIRL」で幕を開ける。あのキーボードのイントロは今も興奮を覚える。早いピッチで進んでいく楽曲たち。氷室も、布袋も、松井も、高橋もしっかりと表情がみえる。こうして改めて見ると、これまで布袋のギターが際立っていた印象だが、松井と高橋のどっしりとした安定感がなければ布袋の優雅なギターによる舞は見られないのだろうと改めて思う。氷室の間の取り方もきっと「2人がいてこそ」だろうと感じた。

 35年前の映像なのだが、そう感じさせない。高橋は上映イベントでピッチが速くなることについて、「いいんだって早くて。今のようにイヤモニをしてクリックを聴いてやらなくて良いんだから。その時の感情なのよ。大概早いよね、ライヴになると」とあらかじめ決められたテンポに左右されることなく、その時の空気感でテンポが変わると語っていた。やっぱりBOOWYの楽曲は生きているのだ。それは、彼らがソロになってもそれぞれにしっかりと息づいている。彼らのライヴ、音楽からそう感じる。

真の解散理由がうかがえる

 当時はまことしやかに、氷室と布袋の間に亀裂が入ったことが解散の理由だと言われていた。しかし、この映像からは感じられなかった。関係者の取材ではその年の初めに解散が決まっていたことが明らかになっている。また、高橋は先のイベントで、ツアー『BOOWY'S BE AMBITIOUS』が開催された1985年頃には「頂点に立ったら解散する」と4人で話していたことを明かした。

BOOWY『BOOWY 1224 -THE ORIGINAL-』

 そうした背景から改めてこの作品をみると、それは思い違いであったと感じさせるのだ。表情がはっきりと見えるという点や、画角が広がったことで見える細かい仕草などからも。それは「ホンキー・トンキー・クレイジー」や欠損部分があった「ONLY YOU」からもうかがえる。

 有名なシーンでもあるが、「IMAGE DOWN」。氷室が「おまえら、覚悟して聞けよ!」と言って、布袋の口元にマイクを寄せる。その布袋は裏声で<IMAGE DOWN IMAGE DOWN!>と茶目っ気ぽく歌う。そんな布袋に氷室は大笑いする。そして、解散を告げるシーン。氷室は布袋の方を振り返り、布袋はその視線をそらす。氷室の頬にはっきりと伝う涙。布袋は涙をこらえ上を向き何度も瞬きをする。

 くどく書くが、映像が鮮明になったことでよりはっきりしたのは、解散の理由が彼らの亀裂ではなく、数年前から決めていた「頂点に立った」からであるという点。そして、もう一つ分かったのは、彼らの音楽、パフォーマンスは今でも生き続け、そして、俗っぽく言えば古臭くないということだ。今の音楽、今の技術、それ以上の良さがある。

 そもそもこの作品は、解散コンサートから14年後、倉庫の片隅から“1224”とうナンバーリングされた編集テープが発見され、VHSとDVDとして発売されたのに端を発する。それまでリリースされたことなかったのはそれぞれのソロ活動を考慮してのことだったようだ。時が経つことによって明らかになっていく思い、そして、鮮明になっていく映像と音。

 高音質、高画質によって蘇る“1224”。これによって新たに見つかったのは何も「ONLY YOU」の欠損部分だけでなく、彼らの偉大さだ。歌、音、ビジュアル、アクション、ファッション、すべてにおいてホンモノであることだ。私はリアルタイムで彼らのコンサートは見られなかったが、この作品でも十分にその場の空気を肌で体感できた。改めて、メンバー、スタッフに敬意を表したい。

 なお、BOOWYの左から3つ目の「O」は、ストローク符号を付したO。【木村陽仁】

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