aikoの歌詞は多くの女性から共感を得ている。そこに“あるある”はあっても“よくある”は無い。それは歌詞のみならず、曲においてもそうだ。11月29日にリリースされた37枚目のシングル「予告」は、紛れも無いaiko節の楽曲で、彼女らしさが溢れる作品だ。aikoはこれまで36枚のシングルと12枚のアルバムを発表しているが、常に独自性を表している。一貫したスタイルがありながらも毎回独自の表現で発信するaikoの楽曲、そして、アーティストとして、どういう存在なのだろうか、改めて楽曲から探ってみたい。

「aiko自身」というトレンド

 aikoの楽曲に“トレンド”は存在しない。1年2カ月ぶりのシングル「予告」は、aikoの楽曲を聴いたことのある人なら、冒頭の1秒で「aikoの曲だ」と気付かせる力を持っている。前作「恋をしたのは」もそうだった。それは、aikoというシンガーソングライターの歌唱の独自性、流行のサウンドをほとんど用いない完成形、という2点をキャリアの中で一貫させていることが根にあると考える。

 「何が良いの? aikoって」と聞かれて返す言葉はきっと様々ある。「ずっとカワイイから」や「歌が上手い」とか「歌詞が良い」。深いファンであれば、こんな単純な表現よりも的確に明言することができるだろう。しかし、aikoの魅力とは、何となく単純にフワッと「aikoだから良い」というブランドのような存在感を纏っている。

 おそらくaikoは、「1を10にする才能」「ゼロから1を生み出す才能」で言うところの、後者に長けたアーティストだ。そういった性質の人間に“トレンド”は必要無い。「1」に浮かび上げた想いは、aiko本人からしか生まれないもので、そこに虚はなく、「1」という世界観を毎作品でフレキシブルに表現できる。ひいては、初志貫徹のスタイルでも“マンネリ感”が生まれようがない、という確固たるスタイルを維持できるアーティストの所以となるのだろう。

 それを裏付けるように、例えば1stシングルの「あした」や、初期のヒット曲「カブトムシ」「ボーイフレンド」などを、2017年現在のこのタイミングでリリースしたとしても、何の時代背景の違和感もなく受け入れられ、ヒット曲となる気がする。流行のサウンドやトレンドを少しでも前面に出していたとしたら、このような現象が起きるとは考えがたいだろう。

“すっぴん”の状態の完成度

aiko「予告」初回盤

 基本的にaikoの楽曲は生演奏主体のバンドサウンドだが、リリース時期毎に旬となっているトレンドの音楽性はほぼ含まれていない。「意図的に流行のサウンドを取り入れる」という意味でのアレンジ化粧をしていないのである。それでいて36枚のシングルと12枚のアルバムを発表しているが、各作品はどれもカラフルだ。

 歌詞とメロディとコードワーク、楽曲としての“すっぴん”の状態の完成度こそがaikoの魅力の最たるところではないだろうか。aikoの曲のアレンジャーや演奏を支えるミュージシャンも、そこを十分理解したうえで、aikoの書いた曲を素晴らしい仕上がりの編曲とプレイで彩っていることが、これまでのどの楽曲でもうかがうことができる。

 aikoの音楽性、楽曲面、アレンジ面に着目すると、フォーク色があり、ポップなモータウンサウンドを含み、ソウル・ジャズ寄りのメロディラインがさりげなく、J-POPのツボを押さえた“キメ”も散りばめつつ、様々なジャンルの音楽のどれかが特化していると感じさせない具合に各楽曲に表れる。

 特に、メロディが非常に特徴的だ。ブルージーな装飾音の揺らし方やロングトーンなどは非常に独特で、聴く人によっては「合っているの?」と感じるくらい絶妙な音を自然に歌う部分もある。これは、ブルースやソウルミュージックに慣れ親しんでいる人にとっては、良い意味でドキッとするメロディラインだったりするのだ。

 細かい話だと、歌の伴奏の和音の連ね方、音の重ね方が少々ブラックミュージック・ジャズ寄りという点がある。ボーカルのフェイクや歌い回しにもその点は表れている。しかしaikoが歌う楽曲では、「玄人っぽい歌の上手さ」よりも「カワイイ」という印象が強いのである。セクシーなブレスや、ピアニッシモの儚い歌い回しの女性感。そして、日本のシンガーらしいサビのキラキラ感。類似するシンガーを挙げるのは困難なほど特異な存在である。

男女によって捉え方が違う歌詞?

aiko「予告」通常盤

 aikoの綴る歌詞はドキッとするものが多い。しかし、男性にとってaikoの歌詞は、深いところまで分かろうとすると理解不能に陥る部分もあるのではないだろうか。だが、女性にとってaikoの歌詞は、深く共感を得られるものがあるという。男女によってドキッとする種類が異なるのだろうか。aikoが書く歌詞については、「男女の思考のすれ違い」という生物学的なレベルのところまで考えてしまうところすらある。

 男女によって「感じ方」が驚く程違うのではないか? という点をaikoの歌詞についての最たる特徴として挙げたい。歌詞の節々に見える“毒”とも“女性の情念”ともとれる言葉を、メロディを追って歌詞がはめられているのではなく、言葉がメロディを引っ張っているという点。ここは性別問わず共通であろうか。

 どこかメルヘンな雰囲気もありながら、恋愛においてのリアリズムを感じさせるaikoという存在。2次元でも3次元でもない、2.5次元のような存在。女性の芯の情念をゼロから「1」として音に浮かび上がらせキュートに歌う存在。女子の深い共感を結ぶ存在。aikoは、ポップミュージックとして楽しめることもできれば、恋愛観のディープな部分にもフォーカスさせる。そして何より、自然な独自性を素のままで言葉に、歌にしている存在だ。【平吉賢治】

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