本質は“心のベストテン”にある、忘れらんねえよ 伝え方で冒険
INTERVIEW

本質は“心のベストテン”にある、忘れらんねえよ 伝え方で冒険


記者:榑林史章

撮影:

掲載:17年06月14日

読了時間:約10分

うまくいってないことが、自分らしさ

柴田隆浩

――ストリングスが入っているのも、グッときますね。

 ここ最近エレカシ(エレファントカシマシ)さんにとてもハマっていて。もちろん好きだったけど、30周年ということで気になって、改めていろいろ聴いたりしていくうちに、ボーカルの宮本(浩次)さんの持つかっこよさ、切なさ、抱える苦しみとか、「たまんねえな〜」と思って。

 たとえば「桜の花、舞い上がる道を」が、いちばんグッとくるのですが、よく聴いたら「あれ? ストリングスが鳴ってる」と気づきました。前は、ストリングスのイメージが全くなかったけど、骨太のロックサウンドのほぼすべての曲で、ストリングスが鳴っていました。

――確かにそうですね。それに、ミディアムテンポのロックバラード系が多いし。

 宮本さんの歌がど真ん中にあって、その言葉と歌を推すためのどっしりとした演奏になっていて。「うわ、これって今俺がめっちゃやりたいことじゃん!」と思いました。それで、ストリングスは今まで1度も入れたことがなかったけど、ありだなと思って。

 とにかく言葉とメロディをグッとこさせたくて、その上でストリングスは1つの翼だったと言うか。

――それが、すごくハマりましたね。

 俺もハマったと思うけど、初めてのことなので、お客さんがどう感じるのか予想がつかなくて。ラジオで解禁になったときなんか、超ドキドキしました。でもみんな「感動した」と言ってくれて、正直ホッとしました。

――この曲が、忘れらんねえよの新しいモードとして、広まったら良いですね。

 あの、最近スチャダラパーさんと小沢健二さんの「今夜はブギーバッグ」を改めて聴いたら、歌詞に<心のベストテン第一位はこんな曲だった>と、出てくるのですが、その「心のベストテン」って何て良い言葉だ! と思いました。ロックミュージックの本質も、きっとこの「心のベストテン」にあると思います。ヒットチャートや人気投票じゃなく、聴いた人の心の奥深いところで「こういう曲を待っていたんだよ」というものに、この「いいひとどまり」がなってほしいですね。そういう人が、1人でも多くいてくれたら最高です。

――もう1曲の「スマートなんかなりたくない」は、忘れらんねえよの“いつものやつ”ですね。でも<服はダサくても良い。息も臭くて良い。それが自分らしさだ>みたいに歌っていますけど、息は臭くない方が良いと思います(笑)。

 そこは、いろんな人に突っ込まれます。息の臭さは、自分の努力次第で何とでもなるだろ! って(笑)。まあそれはさておき、やけくそになって、自分らしさをどんどん出そう! みたいなメッセージもある曲ですね。

――“柴田さんらしさ”とは、どういうものですか?

 “うまくいってないこと”じゃないですかね(笑)。致命的に恋愛ができないので、その上で何を考えるかというのが、俺が歌を作る意味と言うか。その先に何があるかを、歌いたいです。

 だから、必ずダメな状態から言葉を発している歌になっていて。最初から「LOVE! を叫ぶ」みたいな、愛に満ち溢れた歌も美しいとは思うけど、それは俺がやらなくても他にやっている人がたくさんいるし。

――満足しないことが原動力になっていると。

 でも、不満足も度が過ぎると、原動力にも何にもならないですけどね。「勘弁してくれよ」とか「ちょっとはご褒美をくれよ」とか、本当に嫌になるから。それでも、心の底では報われたいと思っているから、そこから立ち上がる過程を歌いたいです。

 神様なんて絶対にいないし、いてもすごく残酷で、世界のニュースを見ていると救いようのない事件ばかり起きている。だからと言って、死ねるわけじゃないし、生きていたいし。どうしても希望は消せないから、せめて良い気分で生きて行けたら良いなと思うわけで…そのための音楽を作ることが、俺がやりたいことです。

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