『歌え』がインディーズ時代からの20年の中で一番強い言葉
――「again」は今作で初収録ですね。歌詞が少し重めという印象があります。
そうですね。映画の内容に沿った書き下ろしで、自分を助けてくれた人が亡くなってしまうという話だったので、それをイメージして書きました。
――原作がある作品のタイアップ書き下ろしは大変ですか?
大変でした。自分から発信するものではなくて「こうして下さい。これを入れて下さい」と言われる方が、書く方としてはそれにハメていかなければならないので大変なんです。パズルのような感覚もあります。
――これは曲が先?
映画が先ですね。「映画の画を観て書いて」と言われました。曲と歌詞で言ったら歌詞が先です。
――原作があるという縛りがあった方が良い歌詞が書けたりすることも?
確かにそういうところはあります。「Summer Time!!!」も大磯ロングビーチ・エプソン品川アクアスタジアムのタイアップなんですけど、品川プリンスホテルの人達から「1番は大磯ロングビーチ、2番は水族館をイメージして書いて下さい」と言われまして。「じゃあ1番でマーメイド、2番でドルフィンを入れよう!」という感じでした(笑)。そういうのが楽しかったですね。
――テーマが固定されていない時も、そういったキーワードからの書き方をする事もありますか?
あります。自分でまずテーマを決めてやる時もあるんです。一つ一つやり方が違ったりしても面白いんです。
――シングル曲に関しては作曲者もあまりかぶっていないんですね。
歌録りは3曲目の「コイイロ」まではディレクターがいたんですけど、その後は作家の方がディレクションをしてくれるので、どの曲もそれぞれ歌い方が違ったりするんです。
――だからカラフルな仕上がりなんですね。今作で印象に残っているディレクションはありますか?
「YMD(ハートマーク)Co. SEAMO」は自分自身でディレクションした曲なんです。あと、「たしかなこと」は小田和正さんのカバーなので、小田さんの譜割に似せないとという事だったんですけど、それは凄く難しかった。かなり時間がかかりましたね。難しかったので、4つ打ちにしたというのもあるんです。ゆっくりのテンポだと難しくて。
――そうだったんですね。小田さんとキーは同じ?
ちょっと高くしています。でも小田さんはキーが高いので、オリジナルのキーでも歌えます。小田さんの曲は女の子のキーでも歌えるんですよね。
――そして、新曲の「Thank you」も収録されています。10周年を迎えた自身の今の想いを出した楽曲ですね。
そうです。スタッフの方々や仲間や、色んな人達に向けて「書きたい」と思ってミュージシャンの指田フミヤさんに「生っぽい感じで作って」とお願いしました。そこに私が歌詞を書いていくという流れでした。歌詞は難産というほどではなかったですが、サビのワードだけがギリギリまで決まらなかったですね。
――<『歌え』>や<「進め」>という部分の、二重括弧であったりそうでなかったりする意図は何でしょうか?
自分の中で強い言葉だったというか、実際にそれを回りに言われるんですけど、AZUには「ずっと歌っていてほしい」「どんな事があってもとにかく歌えばいいんだよ。それが一番だよ」という『歌え』というワードが、インディーズ時代からの20年の中で一番強い言葉なんです。だから二重括弧の方が強く響くのかなという思いがあります。
――凄く強調されていますし、命令形ですものね。
人に言われているという事で二重括弧になっているというのもあります。明日の光が「進め」と言っているのは、自分で思っている事なので普通のカギカッコになっています。
――<君がくれたこの場所から>というサビ頭がグッときますね。
音楽って自分が好きでやり始めた事なんですけど、結局だれかが私に与えてくれたものなんだなと最近感じるんです。一人では出来ないし、この場所にいるという事は、誰かが私にくれたものなんだなと思いました。そういう部分が書きたくて。私が選んだ事だし、私がやり始めた事だけど、そこにいれるのは誰かがいてくれたからだし、みんながそれをくれたから私がここでやれているんだなという気持ちを歌詞にしたかったんです。
――そういう時を経て感謝の気持ちが生まれてるんですね。
不思議とそうなんですよね。歳なのかなと思いますよ(笑)。
――気持ちひとつで歌も変わりますよね。
昔の頃の歌を歌ってもイケイケ具合が無くなっちゃってるかもしれませんけど(笑)。
――そういう面もあったりして、やはり歌を録り直さない方が良いのかもしれませんね。再録を頑なに嫌がる方もいますし
絶対にしないという方はいますね。私もあと10年後に気絶しているかもしれません(笑)。
心地良い感覚でみんなに歌を聴いてもらえる
――今後のライブはいかがですか?
私も10年経って同じようにみんな歳をとっていくので、若かった子に子供がいたりとか、20代30代で聴いてくれた方が40代になっていたりとかしていて、スタンディングのライブだと「そろそろ足腰が痛いぞ」という苦情がきまして(笑)。
――そういった苦情がくるんですか?
くるんですよ!「座りたい」って(笑)。だから「座りのイベント」をやろうという事で始めたイベントがあります。
――その苦情を受け入れるというのがいいですね(笑)。
そのかわり「2人くらい連れてくるんだよ」という約束のもとで始めたのが『AZUDECHANeeL』なんです。5月27日でファイナルです。また次は違う事をやろうという事で。
――またここからの10年は新たなことを検討中という感じでしょうか。
一回10年やって、もう一度スタートラインに立ったという感覚なんですよ。やっと卵の皮の上の部分がペロっとめくれたくらいなので。ちょっと違う事もやりたいなと思っているんです。
――シンガーとしての目標は変わってきていますか?
ガツガツ行くよりは、心地良い感覚でみんなに歌を聴いてもらえるようなやり方をして行きたいなと思っています。頑張ってプロモーションをして、というよりかは、本当に私の声が好き、歌が好き、という人が集まってくれて、お喋りしたりお酒を飲んだりしながら、そこで歌を聴いてもらえるような感覚だったりとか。
BARもセッションバーみたいな感じにもしているんです。分け隔てなく、ミュージシャンだけどそれに対して「お金ではなくて」と言いますか、ちょっと言葉で表すには難しいんですけど。色んなやり方があるなと最近思っています。
(取材・撮影=村上順一)