まるで官能小説のよう SEAMOとAZUが表現した男女の慕情
INTERVIEW

まるで官能小説のよう SEAMOとAZUが表現した男女の慕情


記者:木村武雄

撮影:

掲載:16年02月18日

読了時間:約22分

SEAMOとAZU。アルバム『THE SAME AS YOU』は気心知れた間柄、そしてHIP HOPだからこそ表現できた男女の慕情

『THE SAME AS YOU』は気心知れた間柄、そしてHIP HOPだからこそ表現できた男女の慕情だ

 塾長とその妹分という間柄でもあるSEAMOとAZUが「SEAMO & AZU」名義で、アルバム『THE SAME AS YOU』(2月3日発売)をリリースした。多くの作品で共演している2人だが、意外にも今回が初のコラボレーションアルバム。男女の心模様を絶妙な“タッチ”で描いた。気心知れた2人だからこそ、複雑に絡み合う男女の感情を、音、そしてリリックで大胆に描写した。作品を一聴して残る高揚感はまるで官能小説を読み終えたかのようだ。この作品を通じて得られるHIP HOPの高尚さと面白さ。今回は2人に、同作、そしてHIP HOPの“味わい”を聞いた。

HIP HOPの変化

SEAMO & AZU

SEAMO & AZU

――だいぶ一般的にも浸透してきたHIP HOPですが、それでもまだ“イカツ”くて“怖い”という印象があります

SEAMO それは恐らく、ロックが日本に入ってきた時はやっぱり「アウトロー」な感じあったと思うんですよ。でも、長い時間が経って日本人に消化されていって、ハードロックをやる人もいれば、POPSに近い感じでやる人が増えてきたように、HIP HOPも日本に入ってきてだいぶ熟成されてきたので、アメリカのHIP HOPとタイムラグ無くやっている人もいれば、日本語を大事にするタイプのポップミュージックに近い感じのタイプだったりとか、EDMとか“4つ打ち”とかでやったりする人もいればと、今はもうHIP HOPの中でも色んなジャンルの人達がいると、僕はそう捉えていますね。

――SEAMOさんは昨年メジャーデビュー10年を迎えました。10年というキャリアのなかで、肌で感じた印象は?

SEAMO 僕がメジャーデビューした時の音自体が、いわゆるポップミュージック寄りというか、「メロディアスで歌に近いHIP HOP」であったので、僕がSEAMOとして始めた時点で、日本ではそういうのがたくさん出てきている状況だったんです。でもこの10年の間でも、流行り廃りじゃないですが、また本格的なHIP HOPがちょっと流行ったりとか、皆が飽きてくるとグルグル回るイメージがありますね。その中でも、男女問わずアイドルの楽曲にもラップが入っていたりと、そういう時代ですよね。小学生が習い事でストリートダンスに勤しんでるというか、そういうのと同じように、小中学生でも「ラップ」というものに馴染みがあるような。そういう時代にはなってきていると思いますね。

――この10年で日本におけるHIP HOP技術は高度化した?

SEAMO 僕らがやり始めた時は、ラップといっても音楽の手法というだけであって、いわゆる“お経”みたいにズラズラっと言葉を並べていくというか。早口言葉なのかダジャレなのか分からないような、そういう時代も確かにあったんですけど。20年前なんですけどね。今は、若い人達でも「ラップのルールは無いけどマナーはある」みたいな感じで、ライミングをするというか、韻を踏むという事とかも、ちょっと言葉尻だけ合わせるだけじゃなくて、長い言葉で近い言葉の韻を踏んだりとか、テクニカルになってきていますね。ラップする技術の高い子達も多くて「より本物が求められる時代」というか。SNSなんかも発達してきて、若い子達の目も耳も肥えてるというイメージありますね。自分達で情報をたくさん探せるので、全体のレベルはすごく上がっていると思います。

――私見ですが、時代の流れが長文よりも短文にシフトしていくのではないかと思っています。ツイッターやLINEもうそうですし。ニュースの見出し自体が短文というか、文章化されています。例えば先日、某経済紙の見出しが韻を踏んでいると話題になりました。短文化はHIP HOPにとっても相性が良く、時流的に新たな合致点が見える気はしますが

SEAMO 洋楽とか、英語は短文で切りやすくてライミングのしやすい言葉なんです。ハングルもそういう傾向があるみたいで凄くラップしやすいんですけど、日本語ってすごく難しいんですよ。同じ言葉でも日本語にすると音数が増えちゃうと言いますか。例えば、普通に日本語で言うと「今日、撮影した」というのも、「撮影、今日」とか、ちょっと倒置したりとか、変な風に組み替えたりする事で韻を踏むようなのはあると思います。こんな感じで言葉を細切れにして組み替えて韻を踏みやすくしたりとか。

――そういう事だったのですか。逆に言葉遊びとして面白そうですね

ボツに隠された希少価値

丁寧にHIP HOPのイロハを説いたSEAMO

丁寧にHIP HOPのイロハを説いたSEAMO

――さてAZUさんとアルバムでのコラボは今回が初めてという事でしたが、シングルでは2008年に一緒にやられていて、その間もライブなどで共演も?

AZU もちろん、あります。それ以降でも何曲か一緒にやらせて頂いた事がありますし、1つ前の自分のアルバム『Co.Lab』でも参加して頂いて。

SEAMO アルバムの曲に参加してもらったりとか、なんだかんだで“年イチ”くらいでやってもらってるよね。

――2008年の時に「妹分」という位置付けでデビューされましたが、やはりSEAMOさんを「兄貴分」として見ていますか

AZU そうですね。私にとって塾長(編注=SEAMOの愛称)は恩師でもありますので。「お兄ちゃん」みたいな感じもありますし、自分を育ててくれた人でもあるので。そういう感覚ですね。

――定期的にライブで会う時などや久しぶりに会う時などでも、その都度、AZUさんの変化や成長を感じるところはありますか

SEAMO ありますね。「成長したな」というよりかは「あ、今そういうブームなんだな」と感じる事あります。例えば今回のアルバムでも、「ちょっと英語がネイティブになってる。プライベートで何かあったのかな?」とか(笑)。今回のメイクとかファッションとかでもAZUの意見を聞くと、その内容や人選から「彼女の中で今そういう流れなんだ」というのを感じましたね。

AZU けっこう塾長って最初に「ああもうネタないよ!」みたいに1回自分を落とす感じのを入れてくるんですけど、いざやってみるとすぐ「パーン!」って出来上がって返ってきて、「ネタないよ!って言ってた割には完璧じゃん!」みたいなリリックとかメロディとかトラックとか、自分では絶対浮かばない仕上がりで戻ってくるので、「この人スゲエな!」というのはいつも思ってますね。

SEAMO 意外と簡単ではなく…常に探してます(笑)

AZU よくあるテスト前に「俺ぜんぜん勉強してないんだよね」と言っておきながら、結果100点とってるみたいな(笑)

SEAMO そういうタイプです(笑)。マラソンとかでも「本気で走らないで行こう」とか言って超速いみたいな。出し抜くタイプ(笑)

――とは言いつつもご自身が一歩下がることで相手が気負いなくやれる環境をあえて作っているとも言えそうですね

AZU そこはもう昔からずっとそんなタイプで、こっちがリラックス出来る状況をつくってくれるんですよ。なかには「ここはこうで俺のイメージはこうだからさ、お前もコレコレこうでやってくれよ!」と言ってくる人もいて、そう言われちゃうと、こっちとしては「うわ、これで合ってんのかな。もし違ったらイヤだな…」って。だけど塾長の場合は、「とりあえず、自分の『イイ』と思ったものを全部出せ」と。今回のアルバムも、作ったものは全部聴かせてと言ってくれて。「AZUが好きなようにしたらいいよ」という自由な中で「俺はもうネタ無いからさ」みたいな事言ってるんですけど、ちゃっかり仕上げてくるみたいな。

――カッコいい兄貴分ですよね

SEAMO 僕はボツにするのがあまり好きではなくて、ボツを合格のラインまで上げたいって思うんです。ボツになるものの理由とかって、けっこうそれが「マニアックなネタ」だったりとか、「わかりやすくない」とかで。でもそれって凄くレアな訳ですよ。みんながスポットを当てない視点なので。だから単純にそれを耳障りの良いメロディにしたりとか、ちょっと手を加えるだけでそのネタが凄くポップになるとか、そういう作業をすればいいかなと思って。だから今回は、「ボツにするのをやめよう」ではないですけど、「全部完成品にしてその中から選ぼう」みたいな、そういう感じでやったら「むしろどれもイイな」と思って。その中からチョイスした所はありますね。

――今回のアルバムに収められていない曲もいくつかあったんですね?

SEAMO そんなメチャメチャにボツにはしていないですけど、何曲かは使わなかった曲もあります。それらも「惜しい」感じです。サンプリングの事情があったりとかもありましたし。AZUがさっき言っていたけど、やっぱり気心知れてない人だと気も遣うし、どうしても「初めまして」でやる人とはわかりやすいものを求められる所もありますし。「じゃあラブソングでどうでこうで…」って、もちろんそういうものも作ってるんですけど、AZUとはそういうものを超越した関係値にあるので、「次何やろう?」という所からいくと、くだらない事でもネタを広げてやっていけば、今回みたいな風になったと言うか。だから逆に題材とか絶対に被らないし、そうなってくると僕たちのオリジナリティになるし、それでいて自分達の今までの経験があれば、充分ラジオのオンエアに耐えられるものを作れると言うか(笑)。楽しいものが出来ると言いますか。

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