その先が見えた第三章の完結、cinema staff 衝動に満ちた「熱源」
INTERVIEW

その先が見えた第三章の完結、cinema staff 衝動に満ちた「熱源」


記者:長澤智典

撮影:

掲載:17年05月17日

読了時間:約16分

30歳の自分はこうありたい

 

――早い時期から、アルバム制作の方向性をしっかり見据え作り始めたのが良かったんでしょうね。

三島想平 アルバム全体の雰囲気は、前シングル『Vektor E.P』を作った頃から同じ方向性というか、大きくブレてはいないですね。もちろん、細かいところでの違いはいっぱいあるんですけど。全体的な世界観という面では、意識をぶらすことなく制作を進めていきました。いや、むしろ「定め過ぎないことを定めていた」ところはありました。

――定め過ぎないことを定めていたとは?

三島想平 あまり「こうしなきゃいけない」という意識を持たずに制作していたところはありました。それが、『熱源』というアルバムを作るうえでの一個の基準みたいなもの。もちろん、同じような曲ばっかり作っていても飽きますから、アルバムらしい楽曲のバリエーションも考えていたことでした。

――『熱源』というアルバムは、最初に『熱源』が生まれたことから視点を定めた形だったのでしょうか?

三島想平 いや、「熱源」という楽曲が生まれたのは制作半ばの頃。すでにその前に「エゴ」や「返して」、「souvenir」などが生まれていた。ただし「熱源」を作った時点で、自分の中では「この曲がアルバムの核になる」という意識を覚えていたんです。それをメンバーにも伝え聞かせたら、みんなも「そうだね」と言ってくれた。そこから、さらに必要なピースを作る形でアルバム制作を進めていきました。

――「熱源」の歌詞に記した想いも、アルバムを通して伝えたい気持ちや意識の軸になったことでした?

三島想平 「熱源」の歌詞については自分を鼓舞するというか、個人的な意味合いのほうが強いところはあります。僕ら、みんな今年で30歳になるんですけど、その節目について歌詞で言及しています。

――30歳を前にすると、世代の節目を感じる気持ちはわかります。

三島想平 自分が生きてくうえで「30歳の自分はこうありたい」像があって。それを言いたい気持ちや作品へ落とし込もうという意識が強かったように、「熱源」という楽曲にはちょっと特別感があります。

歌詞を深く読み解いたり面白がってくれたら

 

――三島さんの書く歌詞は、いろんな作品や物事からインスパイアを受けていませんか?

三島想平 受けてはいます。ただし、具体的にインスパイアされて書いた歌と、意図的に「これどういう意味だろう?」と思わせるように書いた歌詞もあるように、表現の仕方はいろいろです。

――「souvenir」の歌詞に「7月14日」と出てくれば、「ヴィクトルの小説」という言葉も出てきたように、これはフランス革命を舞台にした歌ですか?

三島想平 決して政治に言及しているわけではないですけど、モチーフにしたのはフランスの革命記念日でした。ただし、主人公は一人の少女。フランス革命自体は大きな歴史ですけど、きっとその場に居合わせた少女自身には現実味のないことと言うか、「今日は街に人がいっぱいいるなぁ」くらいの感覚や捉え方だったりするわけじゃないですか。人によっては歴史的な大事件でも、人によっては現実味のない話だったりもするように、物事にはいろんな側面があるんだということを、ここには書き記しています。

――「souvenir」はメロディアスで心地好い歌なのに、とてもメッセージ性の強い内容を持った楽曲なんですね。

三島想平 ここに記したすべてがメッセージではないように、ここにもいろんな想いは詰め込んでいます。「souvenir」の歌詞が気になった人が7月14日のことを調べたら、「あっ、フランス革命があった日なんだ」という史実を知り、そこから歌詞を深く読み解いたり、面白がってくれたらなと思ってるんです。実際、自分もどう読み取ってくれるかを面白がりながらこの歌詞を書いたところはありましたから。

――『メーヴェの帰還』も、争いを舞台設定に記した歌詞ですよね。「メーヴェ」とは何かなと調べたら、『風の谷のナウシカ』でナウシカが乗っていた飛行機のことが出てきました。もしや、そことも関連しているのでしょうか?

三島想平 そこにひっかかってくれたらという気持ちも、一割くらいはあります。「メーヴェ」は、ドイツ語で「カモメ」のこと。この歌詞に出てくるメーヴェは人の名前のように、ただの名詞として使っているんですけど。カモメとしての意味を持つ言葉のよう旅に出ては舞い戻ってくるカモメのイメージとも重ねあわせたりなど、この歌も自由に想像を膨らませてくれたら嬉しいです。

――三島さんの書く歌詞には、イメージをいろいろ想起させる言葉が多ければ、そのひと言や一節が、楽曲全体のテーマを指し示すキーワードにもなっている。「波動」に出てくる<福音が注がれた>という一節へ触れたとき、「この歌は生命の誕生を記しているんだ」と気づきましたから。

三島想平 まさに、そこは狙い通りです。むしろ、そうやって聴いて欲しいなと思っています。

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