菊地成孔と湯山玲子、ジャズ映画論評「米国の現状が現れている」
ジャズミュージシャンの菊地成孔と著述家の湯山玲子が去る12月2日、都内でおこなわれた、映画『ブルーに生まれついて』(公開中)のトークイベントに出席。約30分にわたるトークのなかで菊地は、映画の構造分析として「ひとつのアメリカの現状が現れていると思います」と解説した。
映画は、死後もなお根強い人気を誇るトランペット奏者で、シンガーのチェット・ベイカーさん(1929年12月23日―1988年5月13日)の転落と苦悩、愛を描いた伝記的作品。作品はすでに公開中で、この日のイベントには、菊地成孔と湯山玲子が出席した。
率直な感想を問われた菊地は「これは自伝映画では無いです。でも完全なフィクションではない。捏造が無い代わりに、実話に基づいた色々なフィクションがパッチワーキングされている、変わった映画」と評した。
一方の湯山は「物語の根幹は恋愛。アーティストには現実の生活ができないからこそ、表現という才能が天から与えられている。そういう人がある種、女性を惹きつけるというのは昔からあります。そういう女心の典型的なラブストーリーだと思います」と分析した。
ジャズとクラシックの練習の違いについて、湯山が訪ねる場面で、菊地は「まあ、コピーから始まりますからね。特定のプレイヤーの演奏した特定のアドリブをコピーして。能力のあり方としては、ぎりぎり物真似芸人に近い。そこから始まって段々と自分の物に移していくというのが一般的」と解説していた。
イベントはその後、映画の内容から、昨今の日本についてやジェンダー、互いの“シン・ゴジラ”論まで様々に波及。息を呑むような展開に観客はくぎ付けとなった。
終盤で菊地は、当映画と20世紀に作られた別監督の“チェット・ベイカー映画”と比較して「チェット・ベイカーは尋常じゃない人だから、だれも適正に見つめられない。伝記を不健全に見せてドラマティックに持っていこうとしていた20世紀と比べて、この映画は何とか健全に持っていって、落ち着きたい21世紀。そこにひとつのアメリカの現状が現れていると思います」と鋭い発言。
これから映画を観る側の好奇心を煽っていた。(取材・小池直也)




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