吉澤嘉代子、“妄想系女子”が織りなす異彩な世界観でツアー幕
恵比寿ザ・ガーデンホールで、ツアー『吉澤嘉代子とうつくしい人たちツアー』の追加公演をおこなった吉澤嘉代子(撮影・田中一人)
“妄想系女子”の異名で注目を集めるシンガーソングライターの吉澤嘉代子(26)が11月18日、東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで、ツアー『吉澤嘉代子とうつくしい人たちツアー』の追加公演をおこなった。8月3日にリリースしたコラボレーションミニアルバム『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』を引っ提げ、10月14日から名古屋、神戸、東京の3カ所で開催。各会場では、岡崎体育や曽我部恵一、伊澤一葉、ザ・プーチンズなどをゲストに招いた。追加公演では、名古屋でもゲスト出演したザ・プーチンズが再び出演。ミニアルバムからの曲をメインにアンコール含め全17曲を披露。来年にニューアルバムをリリースすることも発表した。ダブルアンコールではそのニューアルバムに収録予定の楽曲「一角獣」をギターで弾き語った。
カラオケボックスが舞台、OLの一人カラオケ
ザ・ガーデンホールの天井に吊るされたミラーボールがゆっくりと回っている。BGMにはノスタルジックな気分にさせてくれるポップソングが昭和の香りを漂わせていた。そして、ステージにはカラオケボックスを再現したセットが客席から向かって右側に設置。このセットを使ってどのようなライブが展開されていくのか期待が高まっていく。
定刻を少々過ぎたところで暗転すると、モーニング娘。の「LOVEマシーン」のイントロが流れた。そこにOL姿の吉澤嘉代子がステージに登場し、カラオケセットのソファーに腰をかけ、しがないOLの嘉代子を演じる。「今日は思いっきり歌って発散してやる〜!」とストレスを発散させるように声をあげ、「LOVEマシーン」を歌いながらステージ中央へ。そして、能村亮平(Dr)がカウントを入れると「綺麗」へ。ライブはこの曲で幕を開けた。<ピカピカピカ>、<キラキラキラ>というコーラスに合わせ、会場全体で手のひらをヒラヒラと表裏へとアクション。オーディエンスの手が星の瞬きのようだった。
続いて、吉澤が白いアコースティックギターを手にし始めたのは「ユキカ」。イントロでは一体感のあるオーディエンスの手拍子。そして、力強いリズムの上に乗る吉澤のファルセットでコントラストを強調する。そして、爽やかさと甘酸っぱい雰囲気が同居した「恥ずかしい」を披露。2番では吉澤自らカウベルを叩きリズムにアクセントを加えていった。
再びちょっとしたOL嘉代子のお芝居を挟み、「吉澤嘉代子メドレー」へ。「すし屋は不良編」とのサブタイトルが付いたメドレーは、2ndアルバム『東京絶景』に収録されている「ガリ」でスタート。頭にハチマキ、寿司桶を肩から下げたスタイルで歌唱。途中、ガリを客席に投げたり、「ブルーベリーシガレット」では本物のブルーベリーシガレットを投げたりとタイトルとリンクした演出で楽しませる。80'sディスコティックサウンドの「ケケケ」、オールディーズ感漂う「チョベリグ」と幅広い音楽性で紡いでゆく。「チョベリグ」では客席に降り、観客一人をランダムに選出しマイクを向け、<クルクル〜>、<カヨコ>などコールアンドレスポンスで盛り上げる。
店員役のザ・プーチンズの街角マチオとのおかしなやり取りから、私立恵比寿中学と共演した「ねえ中学生 feat.私立恵比寿中学」や伊澤一葉をフィーチャリングした「アボカド feat.伊澤一葉」、岡崎体育とコラボした「ゆりかご feat.岡崎体育」とアルバム『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』からの楽曲を立て続けに披露していく。ゆりかごに揺られているように吉澤も、間奏でゆらゆらと揺れていたのが印象的だった。
ここで、今回のゲストのザ・プーチンズの街角マチコと街角マチオが登場。吉澤のリクエストで街角マチコがテルミンを使用し「LOVEマシーン」を演奏。見事な演奏にオーディエンスから歓声が上がった。そして、このメンバーで届けたのは「じゃじゃじゃ feat.ザ・プーチンズ」。<じゃじゃじゃ♪>と歌詞に合わせエアギターの振り付けもキュートに決めた。
続いて、街角マチオがランニングに短パンとスポーティーな衣装に着替え、ザ・プーチンズの楽曲「ナニコレ」へ突入。マチオの暑苦しいキャラとマチコのクールなキャラ、そして、吉澤の不思議な空気感の個性が加わり、新たな「ナニコレ」で会場を盛り上げた。盛況の中、ここで前半戦を終了。ステージを去る吉澤。
ニューアルバム収録予定の新曲を披露
吉澤は衣装を変え、後半戦は未音源化曲の「残ってる」でスタート。横山裕章(Key)の奏でる美しいピアノサウンドに乗って、吉澤は丁寧かつエモーショナルな歌声で歌い上げる。そして、叙情的なピアノの旋律から「ちょっとちょうだい」へ。昭和テイストのサウンドに欲望をぶつけたかのような、色気のある情熱的な歌とステージングで魅了していく。
再びアコースティックギターを手にし、アッパーチューン「シーラカンス通り」ではリズミックかつダイナミックな演奏と歌で高揚感を煽り立て、「泣き虫ジュゴン」で一気に深い海に引きずり込まれたようだった。ゆらゆらと波に揺られるようなグルーヴの中、その上を泳ぐように歌う吉澤。天井のライトは海面から差し込む一筋の太陽光のように吉澤を照らす。楽曲の持つ独特な世界観にオーディエンスも酔いしれているよう。
MCでは8月にリリースしたアルバム『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』のコンセプトを説明。その中でも吉澤はサンボマスターが大好きで、コラボを依頼した経緯を話した。楽曲提供までしてもらえるとは思っていなかったと吉澤。作ってもらった楽曲の歌詞に共感が出来たと切々と話し、「自分の気持ちをサンボマスターさんから頂いたような気持ちになった。幸せで不思議な体験だった」と語り、「ものがたりは今日はじまるの」を本編のラストに届けた。<私を連れていってください♪>と出だしから力強く、伸びやかに歌う吉澤の姿は、生き生きと躍動しているようだった。
吉澤がステージを去り、アンコールを求める手拍子が鳴り響く中、ステージに吉澤が登場。アンコール1曲目は東京の空は星があまり見えないけど、夢を持った人が集まっているから、その人たちの星で東京の空は埋め尽くされているというテーマの「東京絶景」を横山のピアノを伴奏に届けた。スローバラードを思いを込め、オーディエンスに想いを伝え届ける。その姿と歌声に情景が見えてくるようだった。続いては、ドラムの能村を呼び込み、自分の心を満たせるのはあなたではなく、他の誰でもなく、自分自身だというメッセージが込められた「がらんどう」でアンコールを終了した。
まだ鳴り止まないアンコールを求める力強い手拍子に、引き戻されるかのようにステージに戻ってきた吉澤。そして、来年の春にニューアルバムをリリースすることを発表。その中から20歳頃に作った曲だという「川の底に『一角獣がいたらどうしよう』という妄想から出来た」曲だという「一角獣」をアコギの弾き語りで聴かせた。歌とギターだけというシンプルなスタイルだが、歌詞とメロディの持つ力によってファンタジックな世界観を投影。そして、楽曲の持つエネルギーをダイレクトに感じ取れた。その余韻が残るなか、ライブの幕は閉じた。
前半と後半で趣向を変えたライブは2本のショウを観たかのような充実感。そして、彼女の持つ新たな世界観を堪能できた一夜であった。来年リリース予定のアルバムは「バーンと濃いものになる」と宣言。次はどんな妄想で我々を吉澤ワールドへ誘ってくれるのだろうか。(取材・村上順一)
セットリスト
『吉澤嘉代子とうつくしい人たちツアー』追加公演
11月18日 恵比寿ザ・ガーデンホール
01.綺麗
02.ユキカ
03.恥ずかしい
04.吉澤嘉代子メドレー~すし屋は不良編~
05.ねえ中学生 feat.私立恵比寿中学
06.アボカド feat.伊澤一葉
07.ゆりかご feat,岡崎体育
08.じゃじゃじゃ feat.ザ・プーチンズ
09.ナニコレ(ザ・プーチンズ)
10.残ってる(未音源化楽曲)
11.ちょっとちょうだい
12.シーラカンス通り
13.泣き虫ジュゴン
14.ものがたりは今日はじまるの feat.サンボマスター
ENCORE
EN1.東京絶景
EN2.がらんどう
W.ENCORE
EN1.一角獣(新曲)
◆吉澤嘉代子とは 1990年6月4日、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街育ち。父の影響で井上陽水を聴いて育ち、16歳から作詞作曲を始める。ヤマハ主催”The 4th Music Revolution” JAPAN FINALにてグランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2016年、2nd アルバム『東京絶景』をリリース。自身初となるホールツアーを全国7カ所にて実施。国際フォーラムCでの公演を成功させた。2016年夏、「ROCK IN JAPAN .FES 2016」、「SWEET LOVE SHOWER」など大型フェスヘ出演決定。私立恵比寿中学、南波志帆らへの楽曲提供も行う。10月、ヤマモトショウ(元ふぇのたす)の新プロジェクトSORORのフィーチャリング第1弾ボーカリストとして参加など幅広い活動を行っている。
作品情報
初のコラボレーションミニアルバム「吉澤嘉代子とうつくしい人たち」
8月3日発売
初回限定盤(CD+DVD)
CRCP-40470/2315円+税
通常盤(CD)CRCP-40471/1,852円+税
CD
01.ものがたりは今日はじまるの feat.サンボマスター
02.ねえ中学生 feat.私立恵比寿中学
03.ゆりかご feat.岡崎体育
04.アボカド feat.伊澤一葉
05.じゃじゃじゃ feat.ザ・プーチンズ
06.綺麗 remixed by 小島英也(ORESAMA)
07.東京絶景 feat.曽我部恵一
DVD
「ものがたりは今日はじまるの」MUSIC VIDEO
「手品」ライブ映像、絶景ツアー “夢をみているのよ” 2016.4.30東京国際フォーラム収録
「movie」ライブ映像、絶景ツアー “夢をみているのよ” 2016.4.30東京国際フォーラム収録