KISSジーン・シモンズ憂う「音楽のない世界は魂がない人と同じ」
「KISS EXPO」開催を記念撮影をおこなったジーン・シモンズ(右奥、撮影・松尾模糊)
米ロックバンド・KISSのベーシストでボーカルのジーン・シモンズ(67)が13日、東京・ラフォーレミュージアム原宿で今月末まで開催される『KISS EXPO TOKYO 2016~地獄の博覧会~』の開会を記念し、トークセッションをおこなった。KISSの43年間の音楽史を振り返るとともに、ジーンは昨今の音楽シーンを嘆き、「音楽のない世界は、魂がない人間のようなもの。アーティストのライブを観に行ったりして、サポートして欲しい」と呼びかけた。
KISSは、白塗りの化粧と奇抜な衣装でストレートなロックンロール、ハードロックを演奏し、現在もシーンの第一線で活躍するモンスターバンド。X JAPANのYOSHIKI(Dr)を始め、日本でも影響を受けたアーティストは多い。同博覧会は、世界初のKISSメンバー所蔵のメモラビリアを公開するもので、1973年の結成以来、42年間に及ぶ活動の歴史を彩る約100点のアイテムが公開される。また、ジーンの自宅ミュージアムや、ポール・スタンレー(Gt、Vo)の自宅アトリエをこの会場限定のVR(ヴァーチャル・リアリティ)で視聴できる。
ジーンは会場内に設けられたKISSのミニ・ステージセットに上がり、トークセッションをおこなった。今回の開催に際し、「ここは夢の扉が開いた場所。みんなにも夢があると思う。自分はこうやって夢を叶えてきた、その全てがここにある。この場所を訪れてみんな自身の夢に向かって励んで欲しい」とコメント。
KISSの1974年にリリースされた、2ndアルバム『地獄のさけび(Hotter Than Hell)』のジャケットにメンバーの名前が日本語で縦書きで印刷されているように、昔から親日家であるというジーンは「日本でこの世界初の博覧会を開けたことを誇りに思う」と喜びの言葉を述べた。
ジーンは「長い43年の音楽の旅路は、昨日のことのように短くも感じられる。ここにある物も大事だが、その物を生み出す人々がこの夢のマジックを起こす」と43年間の音楽活動を振り返った。
昔の自分に対しジェラシーを感じるかという質問に対し、ジーンは「自分にとって曲は子どものようなもの。実際に子どもが育つように、当時のKISSの曲を聴いて生まれる子もいるだろうし、KISSは惑星のようなものだと思っている。どの曲もそれぞれ好きだし、今を不満に思うことはない」と長年、第一線で活躍してきたジーンの価値観を明かした。
また、ジーンは現在の音楽シーンについて「今の時代デビューするアーティストは大変だと思う。自分たちの時代には、自分たちを信じてくれるレコード会社があって、レコードやCDやポスターを置いてくれるショップがあって、それにお金を払ってくれる客がいた。インターネットはお金を払ってはくれない」と音楽業界の状況を嘆いた。
さらにジーンは「1988年にインターネットが普及して以来、本当にすごいアーティストが出て来ただろうか? エルヴィス・プレスリー、ビートルズ、ジミ・ヘンドリックス、マドンナ、ACDC、マイケル・ジャクソン、U2、みんなそれ以前のアーティストだ。人間はタダで手に入るものにあまり価値を見いだせないんだ」と持論を述べた。
最後にジーンは「音楽のない世界は、魂がない人間のようなもの。赤ん坊が泣いたら、お母さんが子守唄を歌って泣き止ませる。それすらなくなったら、魂は水を与えられない植物のように干からびてしまうよ。だから自分は若いアーティストをサポートしてきたし、みんなも日本の素晴らしいアーティストのライブを観に行ったりして、サポートしてよ」と呼びかけた。
なお、幼い頃に父親と離れて暮らしていたジーンは、少年で両親のいない境遇で戦う姿に共感を覚えた『鉄腕アトム(アストロボーイ)』の大ファンだといい、同じく手塚プロダクション取締役の手塚るみ子女史も、KISSの大ファンで同博覧会では『鉄腕アトム』とKISSのコラボレーションも実現した。
トークセッション後は、KISS化粧を施したアトムと、KISSに扮したキッズ4人、大人4人がステージに上がり、ジーンに花束を贈呈した。ジーンは笑顔で子どもたちに話しかけ、おどろおどろしいイメージとは異なる、優しい一面を垣間見せた。(取材・松尾模糊)