若きサクソフォン奏者の上野耕平が8月24日に、自身2枚目となるアルバム『Listen to...』をリリースする。数々のコンクールでの受賞歴があり、クラシック・サクソフォン界において若手ナンバーワンとも謳われながら、『題名のない音楽会』や『報道ステーション』など数多くのメディアに出演するなど、シーンの内外で注目を集めている。その一方で、大の鉄道好きで、遠方の移動には敢えて寝台車を使うほど。そんな彼の夢は「タモリ倶楽部」に出ること。サクソフォンにおいては、既存の枠を超えてその魅力をもっと一般にも浸透させたい、それを実現するための一つの試みがアルバムだ。「クラシカル・サクソフォンとはこういうもの」を掲示した1枚目アルバム『アドルフに告ぐ』に対し、今作は、有名楽曲を「サクソフォンで吹くとまた別の魅力になる」という応用編だ。「普段音楽を聴かない人にぜひ聴いてもらいたい」と語る上野耕平にクラシック・サクソフォンの楽しみ方やルーツ、鉄道の話などを聞いた。
歳を重ねていないからこそできる音楽もある
――私のような素人からすると簡単に吹いているように見えますが、実際には難しいと思うのです。吹いている唇も相当、圧力がかかっていそうですし、痛いだろうなと。
口は痛くなります。歯で下唇を巻いてグッと力を入れるので。歯をちょっと噛むようにプレスし、上の歯はそのままマウスピースにくっつけます。
――サクソフォンの素材は真鍮で、なかには銀を使ったものもあるとか。素材によって音色は変わりますか?
全然違います! アドルフ・サックス(編注=1800年代に活躍したベルギーの楽器製作者)という方が作ったものですが、彼はベルギーのディナンという小さい街の生まれでして、そのディナンという街は真鍮細工で有名で。ですので、楽器職人がたくさんいます。アドルフ・サックスのお父さんも楽器職人でした。
――アドルフ・サックスは1840年代当時にサクソフォンという万能楽器を作ったことで同業者から煙たがれたという話を聞いた事があります。これまでの楽器が使われなくなってしまうと危惧したとか。
ライバルメーカーから自分の工房に火を点けられたりとか、裁判を仕掛けられたりとか、本当に大変だったみたいです。サクソフォンの音色がすごく魅力的だったので、政治的に利用されたら困るという事で“サクソフォン禁止”という国もあったとか。
――オーケストラの中にも入れてもらえず、という話も。
そうですね。あるとしても数曲くらいです。ボレロが一番有名です。
――軍にも使われたりと。
音も大きいから外でも使えますし、とても便利なんです。木管楽器のメカニズムなので細かい音符も大きい音で吹けるという、木管楽器と金管楽器の“良いとこ取り”です。木管楽器は細かい動きがたくさん出来ますが、金管楽器に比べると音量が少し足りない。金管楽器は音量があってすごく華やかですが、ピストン3つで操っている楽器なのでそこまで小回りがきかない。サクソフォンはその両方の良いとこ取りした楽器ですので、僕は世界一良い楽器だと思っています。
――息を吹き込んで音を奏でる点においては、吹く人の思いが伝わりやすく、その人のキャリアや人生がそのまま反映されると思います。
僕もそのように思います。
――上野さんの演奏はとても綺麗で、且つすごく情熱的で、感情を自由自在に乗せられているという印象です。しかも24歳と若い。年齢を重ねるという事と、重ねていないという事のそれぞれにアドバンテージがあると思いますが、どのようにお考えですか。
歳を重ねたからこそ出来る音楽と、歳を重ねてないからこそ出来る音楽、というのは絶対あると思います。僕は24歳ですが、やっぱり30歳、40歳の方達には人生経験では全く敵わない訳です。しかし、知らないからこそ出来る事と言いますか、そういうのがあると思うのです。自分でも、数年前の演奏を聴いて「今は出来ないし、こうしようとも思わないよな…」というふうに思います。だからCDなどは、言い方は良いかどうか分かりませんが、その時その時の記念撮影みたいなところもあるのではないかと思うのです。その時の様子が刻まれるといいますか。
――逆に振り返った時に恥ずかしい点などはありませんか? それも含めて誇れるものですか?
いや…どうでしょうか(笑)。やっぱりちょっと恥ずかしいでしょうね。あまり自分の演奏は聴きたくないので(笑)。
核は“音楽の躍動感”
――原点回帰という言葉があります。音楽に限らず、ずっと活動を続けていくと、原点とは何ぞやと立ち返りたくなる。そこで初めて自身とは何かと気付くこともあります。上野さんは今の時点で「自分の核はこれなんだ」というものはありますか?
やっぱり“音楽の躍動感”ですかね。僕はあまり英才教育とかは受けていないんです。管楽器で英才教育はあまりないんですけどね。一般的なのは、中学校の吹奏楽部で始めるというのでしょうか。僕の場合はラッキーな事に小学校に吹奏楽部があったので、そこで始められたんです。英才教育ではないから「厳しく完璧に!」という環境にもなかったんです。すごく強豪校で厳しい練習もやっていたのですが、顧問の先生がどちらかというと「音楽の美味しいところを共有する」という教育方針でしたので。「ここが良いよね。ここが綺麗だよね」のように。だから、それが原点なのかもしれません。躍動感や音に込める魂という点です。
――誰かの演奏を聴いて衝撃を受けて憧れを抱いて始めた、というのではなく、授業で学んでいくうちに管楽器の楽しさや魅力に取りつかれるようになったという事でしょうか。
そうです。もちろん、プロの演奏を聴いて「うわ、こんな音が出るんだ…!」と感激したことも一つにあります。そういう小学校、中学校の時に味わった感動が今のベースになっているなあと今、考えるとそう思います。
――動機となった情熱や感動は、ずっと音楽をやり続けていくと一時的に失われることもあるかもしれません。上野さんの場合はどうでしたか。
コンクールに出ると下がります(笑)。マイナス思考になりますので…。大学1年生の時に日本のコンクールで1位を獲りましたが、その後は少ししんどくなりました。それまでは、聴いて下さる方が「この人めっちゃ上手なんだ」と、事前認識がないなかで聴いてくださったので。でも1位を獲った後は「この人は上手に完璧に吹く人」という意識で聴かれてしまう。そう思うだけでもうどんどんマイナスのマインドが働きます。
――知らず知らずのうちにプレッシャーになっているんですね。今はどうですか?
「そんなのは関係ない」と思う事を大事にしています。自分が演奏会を聴きに行く時の事を考えたら、別に完璧な音楽、完璧な演奏を求めている訳じゃないんですよね。“その人の魂を聴きに行っている”といいますか。そこにお金を払って聴きに行っているので、だからきっと僕を聴いてくれるお客さんもそうだろうと信じてやってます。
言葉がインスピレーションを抑えることも
――ところで、サクソフォンの「上手い下手」に定義があるとしたら、それはどのようなものでしょうか?
「音が綺麗、汚い」というのがあると思います。綺麗だなって思う音もあれば、固くてあまり耳触りが良くないという音もある。他には音程の良し悪し、歌で言うと音痴だったり、細かい音符が吹けていなかったりなど、上っ面の部分です。「上手い下手」というのはそこだと思います。とはいいましても、サクソフォンは人それぞれ音色が違うので、上手い下手も好みになります。ですので、その判定は難しいです。
――例えば、ロックのがなり声、いわゆるシャウトは、ロック好きからすれば興奮を煽ってくれるものとして好印象です。しかし、そうでない人からすれば耳障りに感じる。結局、好みによるものが大きいと思いますが、歌であったら言葉なので判断しやすい。しかし、演奏のみの場合は聴き込まないと違いが分からないこともあろうかと思います。
そうですね。僕らの演奏はもちろん歌詞はない訳ですが、歌詞があると、聴いた時のインスピレーションはある程度、限定されると思います。それは言葉がある事によって。でも言葉がないと、受け取る人によって色んなバリエーションがあり、すごく柔軟でフレキシブルだと思います。そこが魅力なのではないでしょうか。
――言葉の強弱と同じように、どのように吹くかによって曲の印象もだいぶ変わってくるものと思います。
変わってきますね! やっぱり同じ曲でも人によって印象がだいぶガラッと変わるので、そこも面白いです。
見えないものを作る職業
――さて、新作アルバム『Listen to...』には「家路 ~交響曲第9番《新世界より》」と「チャルダーシュ ~喜歌劇「騎士パズマン」」と「熊蜂の飛行」が収録されています。オーケストラに対して、これらをどう表現するのかが楽しみでもあります。まず「熊蜂の飛行」の冒頭で流れる“羽根の音”はどのようなイメージで吹かれましたか。
あまり気力がない蜂のイメージで吹きました。その後の流れが激しいので、まずは無気力な部分から始まって、どんどん気力が無くなって死んだかな?と思ったら爆発する、のような。ですので、頭はけっこうやる気ないようなイメージで吹いています。原曲はいろんな楽器にアレンジされていて結構速く演奏しますが、逆にちょっとやる気がない感じで吹いて「んん?」と思わせたところで…ドーンと。編曲の素晴らしさがあって、もう原形をとどめないくらいにアレンジされていますので、それに合わせてといいますか。譜面と一緒に音楽を作るというんですかね。
――静かに入っていた後にいきなり「ドン!」という音が響きます。あれもサクソフォンですか?
そうです。明確に何かを意図しているわけではないのですが、「音のイメージ」です。ちょっと驚かすような。
(「熊蜂の飛行」を一緒に聴きながら)
――もう全然原形がないですね?
それがこの編曲の良さですよね。「えぇ!?」となるような(笑)。
――軽やかも激しさもあり…。その中に美しさを感じます。
ありがとうございます。
――編曲されたものがあって、その編曲者の意図は事前に聞くのでしょうか?
何となくは聞きます。全部を事細かにというのは、個人的にはあまり聞きたくないのですが、譜面に全部表れています。
――最初の蜂が弱っているというのは?
それはそこまでは細かくは聞いてないです。というよりも、楽譜から読み取った方が。音楽はなかなか言葉にする事が難しいというところがあって、「見えないものを作る職業」みたいな感じでもあります。
――編曲者の意図があって、演奏者である上野さんの意図があって、聴く人の意図がある。それぞれが一本の線で繋がっているかもしれませんし、解釈がずれている可能性も?
ずれていても正解です。不正解は絶対に無いと思いますので。それがまた音楽の面白いところでもあると。でも、例えば歌詞がついてしまったりすると、ある程度イメージが限定されてしまいます。このドヴォルザークの交響曲第9番の2楽章というのも「家路」というタイトルが付いてしまう事によって、ある程度イメージが限定されてしまっているとも思っています。もともとはこの「家路」というのは付いていないですからね。
――この楽曲については、歌詞がついているものもあります。私のイメージでは、学校の授業で習った歌詞が。
<遠き山に~♪>ですね(笑)。イメージがつくのは別に悪い事ではありませんが、イメージが付いてないからこその面白さがあるのも事実です。
――上野さんはどういったイメージですか?
もう完全に「田舎の夕暮れ」です。友達と夕方まで遊んで帰る時のあの畑の匂い、みたいな感じです。
――ドヴォルザークがアメリカに渡った時に、黒人音楽が故郷のボヘミアの音楽とちょっと似ていたという所からこの「新世界」という曲を送ろうとしたと言われていますが、そういった歴史なども入れ込みながら演奏しているのでしょうか?
そうですね。ドヴォルザークはもともとチェコの方ですよね。当時、アメリカに渡って、ホームシックみたいになると思うのです。そういう中で色んな思いがあったのではないかと感じます。
――それで凄く優しい音色を。
僕の出身が茨城の東海村で、田舎な感じの何とも言えない土の匂いと草の香りと…、みたいな感じです。
サクソフォンを広げていきたい
――ちなみに東京に出てこられたのはいつ頃ですか?
大学に入ってからです。
――今でも茨城を思う事は?
茨城にいた時によく聴いていた音楽を聴くと思い出します。
――幼少期はどんな音楽を聴いていましたか。J-POPなども聴いていたりしていましたか?
いや、ほとんど聴かなかったです。まず、サクソフォンを吹くまでは全然音楽に興味がなかったので。音楽を常日頃から聴くようになったのも小学校高学年くらいです。クラシックがメインで、あとはジャズも聴けばロックも聴いたし。J-POPはほとんど聴かなかったです。興味が湧かなかったのかな?
――茨城で見てきたものというは音楽にも影響を与えていますか?
「何を見たからどうなる」というものでもなくて…。その辺は凄く難しいんです。でも、そういうのは滲み出るものだと思います。
――サックスの魅力のひとつに音色の多さがあると思います。
そうですね、もう色んな音が出せます。人間の声みたいなものも。喜怒哀楽が全部表現できると思います。
――演奏する時、集中していてもその直前にあった出来事などが演奏に反映されてしまったりする事はありますか?
自分が気付かない所で反映されているのかもしれないです。
――そういった心の揺れ動きを音楽から感じ取るのも面白いのでしょうね。
そういうのが無意識に出るので面白いのかなと思います。
――上野さんはサクソフォンで何か新しいものに挑戦するというところはありますか?
まず、基本はクラシックでやっているので、今回の楽曲もクラシックの名曲を「サクソフォンの名曲にする」という事と、楽譜も同時に作った訳ですが、普段クラシックを聴かない方にも聴いてほしいと思います。例えばこの「カルメン・ファンタジー ~歌劇≪カルメンより≫」はオペラで全部観ようとすると全部で3時間くらいあります。でも今作のこれだと18分で全部観たような“お得感”があるといいますか(笑)。だからとっつきやすいと言えばそうですし、これをきっかけにクラシックへの入り口にもなるだろうなと。これを聴いて「原曲が聴きたい」と思って頂ければ嬉しいですし、原曲を聴いて「こっちの上野耕平の方が良かったな」と思ってもらえたらもっと嬉しいですね(笑)。
――歴史を辿って、サクソフォンの「万能が故に歯がゆい楽器人生を歩んできた」という運命を知った時に、その中で切なさもありながら逞しく今日まで来ているのが興味深いです。現在はサクソフォンにまつわる“しがらみ”のようなものなどはあるのでしょうか?
クラシックで言うならば「曲が少ない」というのがあります。楽器の歴史が浅いのでオーケストラにはほとんど入らない。そういう意味ではクラシックでは本当にマイナーな楽器なんですよね。でも、これだけ素晴らしい楽器なので、どんどん広げていきたいなという思いはすごくありますね。
1枚目のアルバム『アドルフに告ぐ』が、サクソフォンの為に今まで書かれてきた古典的なレパートリーをリリースしました。この目的は、「クラシカル・サクソフォンというのはこういうものだ」というのを知って聴いてもらって好きになって頂くという事でした。今回の2枚目『Listen to...』では、「皆さんがよく知っている曲をサクソフォンで吹くとこんなに魅力的になる」という思いで作りました。ですので「こんな風な表情を持っている楽器なんだ」と思い、どんどん好きになってもらえたら嬉しいです。
食わず嫌いはダメ
――奏法に関して言えば、音を割るようなグロートーンやファズトーンの音なんかもあります。あれも人それぞれの好みでしょうか。
はい。それが恰好良い部分もありますし、それを絶対に受け付けないという人もいます。食事と一緒ですよね。僕は牡蠣が絶対ダメですが、「あんなに美味しいものを!」と言われるのと一緒です。
どんなに美味しいものでも好みじゃないから絶対食べられないので。年末に、先生とかに飲みに連れて行ってもらった時に「この牡蠣は絶対美味しいから食べて!」と言われまして、「そんなに美味しいなら」と思って生のものを食べたんです。そうしたら本当にマズくて…! でも、戻す訳にはいかないので無理矢理食べたんです。そうしたら年末年始ずっと胃がおかしくて何にも食べられなかったんです。だから無理なものは無理なんですよ!(笑)
だから音楽も一緒で、好みに合わなかったら縁がないという事なんですね。でも「食わず嫌い」は良くないなと思うので、まず聴いてほしいですね。聴いて頂ければ絶対好きになってくれると信じていますし。音楽は聴いたら人生が豊かになるじゃないですか? だからそれをもっと広めていきたいなと。
――上野さんご自身が音楽に勇気付けられたことはありますか?
それはよくあります。前向きになったり、テンションが上がったり。感性が育つという事もあると思いますし。やっぱり聴いてきたものが演奏する上で一番出ます。聴いてきたものがどんどん体に染み込んで、それが無意識のうちに滲み出るというのがあると思いますので、聴けば聴くほど育っていくといいますか。
――クラシックでもジャズでも、一つの楽曲をたくさんの方々が演奏されて独自のものにしていますよね。もう無限ですよね。
無限なんですよ。クラシックだとみんな同じ楽譜で、書いてある事も一緒な訳です。でも楽譜を見ているのではなく、演奏者は楽譜のその奥を見ている感じなんです。何故こう書かれているのかだとか、作曲者の意図やその“奥”を感じようとしています。それは見えないものを見ようとしている訳で。だからこそ演奏者によって色々変わってくるんです。人それぞれ、奥に見えているものは違いますので。
――それこそ感性がないと難しいですね。
そうですね。
タモリ倶楽部に出たい!年季の入った鉄道好き
――上野さんのTV出演を観たのですが、『TVタックル』で大竹まことさんに「物怖じしないのが凄い」と言われていましたが。
あはははは(笑)。
――緊張はしていなかったですか?
いや緊張していました。でも楽しんでいました。あの状況を。目の前にビートたけしさん、阿川佐和子さん、小藪千豊さんたち色んな方がいらっしゃって、絡みを楽しんでいました。
――その場を楽しむというのが凄いですね。
そうですかね。多分、ステージに出る事にある程度慣れているからですかね。
――『報道ステーション』でも演奏されていましたが、あれも緊張は?
あれも緊張していました。生放送でやり直しきかないですから。野外で風も吹いていた中でしたし。でもそれも楽しんでいました。
――そういえば鉄道がお好きだそうで?
大好きです!
――いつ頃ハマったんですか?
最初の夢は名鉄(編注=名古屋鉄道)の運転手になる事でした。親戚がいた岐阜でパノラマカーという電車がありました。真っ赤な車体で、前に展望席が付いていて2階に運転台があるという。それが大好きで! その運転手になりたくて小学校2年生の頃にゲームの「電車でGO!」で名鉄編というのがあったんですよ。それを毎日毎日練習していましたね。コントローラーも買って毎日こう…!
――名鉄のパノラマカーには乗れましたか?
はい、何回も乗りました。2009年に無くなっちゃったんですけど。
――ディーゼル列車なんかも風情があっていいですよね。
良いですね~!!
――ディーゼルだから石炭をたく匂いがまたいいんじゃないですか?
たまらないですね! アイドリングしている「生きている」音がするんですよね。“走っている音”じゃなくて“止まっている音”がするんですよ。アイドリングしている状態の時の音がまた躍動感があっていいんですよ!
――ふつうそこは聴かないとこですよね?
まあ確かに。僕にとっちゃ音楽なんですよ……!
――なるほど!
だからこっちで電車に乗る時も、モーターが付いている車両とそうでない車両があるんですけど、必ずモーターが付いている車両を選んで乗りますね。音を聴きたいので。
――音の振動とか?
そうですね。みんな“音色”が違うので。
――F1も趣味だとか。F1にも音の魅力はあると言いますね。
そうです、そうです。
――音の振動に憧れるところも?
それもありますね。
――となると飛行機なんかも好きなのかなと思いますが?
飛行機は、全然詳しくはないですけど見るのは好きです。エアーレースとか1回観に行きたいなあって。
――では電車の旅とかもしたり?
大好きです。だからもう移動が幸せでしょうがないですね。
――ふつう移動は嫌がりますけどね(笑)。
移動が一番楽しい、とか言って(笑)。去年だったか、四国に演奏会で行って主催者の方は飛行機の切符を用意しますと言って下さったんですが、どうしても「サンライズ瀬戸」に乗りたかったんです。だから「差額は自分で払うので」と言って朝10時に並んで寝台車を取りました。
――いいですね。昔は寝台列車が普通でしたね。
だから羨ましいんですよね。全国各地に寝台列車が走っていた時代が。今あったら飛行機は使わないで全部それで移動するのに!
――時間がかかってしょうがないですよ(笑)。
それが楽しいんですよ…!
――いずれ車内で演奏する事も。
もうノーギャラでやりますよ(笑)!
――じゃあここを読まれた関係者からお誘いがあるかもしれませんね。
夢は『タモリ倶楽部』の鉄道の回に出る事なんです。
――アイドルで電車に詳しい方もいまして。
「あいあい」かな?
――そうです廣田あいかさん。彼女との対談なんかも?
是非! あの方はすごく鉄道が好きですから。あの知識量はハンパじゃないですね。
――『TVタックル』ではものまねなどもやっていましたが、電車系のもやられますか?
はい。ただマニアック過ぎてお披露目してないですけど、それは『タモリ倶楽部』用にとってありますね。
――楽しみですね(笑)。
「どこどこのメーカーのモーター音」とか。
――楽しそう(笑)。
(以後、記者と鉄道の話でたいへん盛り上がる。記者に、自宅のNゲージ=鉄道模型=の写真も見せながら)
今、周りに居ないんですよね、鉄道の話ができる人が。だからこやって“わかる人”と話すと爆発してしまう悪いクセがあるんですけど(笑)。
――いえ、嬉しいです。
車も相当好きなのでカートにも行きます。
――その“追求する事”は全て一緒ですよね。音楽にも通じるというか。「そこにこだわる?」みたいな感じの所。器用さが音楽にも出ていて、人が出来ない所まで形にできるというか。
良くも悪くもアンテナが敏感というか。すごく神経質なんでしょうね。人が全然気にしていない所まで気になっちゃったり。それが良い部分でもあり、悪い部分でもありますけどね。だからある程度割り切らなければいけないところもあるんですけど。
マイナーをメジャーに
――「ぱんだウインドオーケストラ」もやられていますが、そこではどういったものを追求しているのでしょうか?
吹奏楽にしか出来ない魅力を広めていく事です。それは僕自身の活動とちょっとリンクしています。「本当はこんなに良いのにまだ全然認められていない」という所、“マイナーをメジャーに”といいますか。
――「ぱんだウインドオーケストラ」ではBABYMETALの楽曲「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や『あまちゃん』のテーマ曲もやっていましたが、まずそこから知ってもらってという狙いも?
はい。あれも吹奏楽にしか出来ない“味”で出来ているので、普段オリジナルのBABYMETALさんを聴いている方が僕らのを聴いて「吹奏楽おもしろいな」と思ってもらったらいいです。
――ドラムも凄くジャジーなプレイで、その中で上野さんが気持ちよく吹かれているのを観て、気持ちがとてもワクワクしました。
ありがとうございます!
――吹奏楽やオーケストラに固定概念があったので、「ぱんだウインドオーケストラ」の演奏にそれを取っ払われたというか。
どんどん壊したいです。「椅子に座って静かに聴くというのが演奏会だ」と、あまり思ってほしくないといいますか。音楽の雰囲気として「静かに聴いて下さいね」ではなくて「静かに聴いちゃう」というのが理想です。ですので、乗りたくなったら全然乗ってほしい。
――それは演奏だけではなくて「魅せる演奏」というのも?
音楽の持つ空気感といいますか。音で空気を支配するという事が出来ますので、シーンとさせる事も出来れば、笑わせる事も出来ます。
――演奏中はけっこう冷静に周りを見渡せるものなのですか?
第三者的な感じの自分もいます。ただ熱中するだけだとやっぱり良くありませんので。
――そういうものなんですね。それでは今作『Listen to...』について改めて、一言お願いします。
このアルバムは、それぞれの楽曲の新たな表情が見える、サクソフォンの新たな表情が見える、そして、とても編曲がそれぞれ素晴らしいのですごく魅力的なアルバムになってくれたなと、とても嬉しく思っています。普段サックスを聴く方はもちろん、「クラシックのサックスは知らない」という方にはもう絶対聴いてほしいです。もっと言えば「音楽をふだん聴かない」という人には是非聴いてほしいと思います。知っているメロディもけっこうあると思うので、ちょっと一風変わっていたりするのを聴くのも楽しいと思います。
また、9月29日のリサイタルは今作の曲を中心に生演奏するんです。CDではとらえきれなかった音の振動、音で空気を支配するという事は、生で聴かないと絶対にわからないので是非それを聴いてほしいですね。“体感”してほしいと思います。
――“音で支配する”っていいですね。
凄い力持っていますからね、音楽は。
(取材/撮影・木村陽仁)
◆上野耕平とは 茨城県東海村出身。8歳から吹奏楽部でサックスを始め、東京藝術大学器楽科を卒業。これまでに須川展也、鶴飼奈民、原博巳の各氏に師事。第28回日本管打楽器コンクールサクソフォン部門において、史上最年少で第1位ならびに特別大賞を受賞。2014年11月、第6回アドルフ・サックス国際コンクールにおいて、第2位を受賞。現地メディアを通じて日本でもそのニュースが話題になる。また、スコットランドで開かれた第16回世界サクソフォンコングレスではソリストとして出場し、世界の大御所たちから大喝采を浴びる。2015年9月の日本フィルハーモニー交響楽団定期公演に指揮者の山田和樹氏に大抜擢。この公演は、クラシック・サクソフォンの可能性が最大限に引き出され、好評を博す。また、2016年4月のB→C公演では、全曲無伴奏で挑戦し高評価を得ている。CDデビューは2014年『アドルフに告ぐ』、2015年にはコンサートマスターを務める、ぱんだウインドオーケストラのCDをリリース。現在、演奏活動のみならず「題名のない音楽会」、「報道ステーション」等メディアにも多く出演している。また、2016年4月からは昭和音楽大学の非常勤講師として後進の指導にあたっている。
作品情報
「Listen to...」
2016.8.24発売/3,000円+tax/COCQ-85295
▽収録曲
1.カルメン・ファンタジー for サクソフォン (ビゼー)
2.熊蜂の飛行 (リムスキー=コルサコフ)
3.モスクワ川の夜明け ~歌劇《ホヴァンシチナ》 (ムソルグスキー)
4.家路 ~交響曲第9番《新世界より》 (ドヴォルザーク)
5.チャルダーシュ ~歌劇《騎士パズマン》 (J.シュトラウス2世)
6.バザンのロマンス ~歌劇《パトラン先生》 (バザン)
7.ラプソディー・イン・ブルー (ガーシュウイン)
<ボーナス・トラック>
8.ニュー・シネマ・パラダイス・メドレー (モリコーネ)
上野耕平(ソプラノ、アルト、テナー・サクソフォン、タンバリン)
山中惇史(ピアノ)
編曲:山中惇史(1・5・6) 網守将平(2)伊賀拓郎(3)林そよか(4)長生淳(7) 福廣秀一朗(8)
2016年5月10-12日 山形県南陽市文化会館にて
バザンのロマンス ~歌劇《パトラン先生》
ビゼー:カルメン・ファンタジー for サクソフォン
コンサート情報
9月6日 高知工科大学
9月19日 東名高速カルテット(東京)
9月21日 東名高速カルテット(名古屋)
10月1日 せんくら(仙台) リサイタル
10月2日 せんくらガラコンサート(仙台)
10月22日 上野Coffee(東京)
11月8日 Kitaraホール(札幌) 反田恭平DUO
12月3日 Bunkamuraオーチャードホール(東京)ぱんだウインドオーケストラ
12月7日 りゅーとぴあ(新潟) ワンコインコンサート
12月14日 浜離宮ランチタイムコンサート(東京)
■CD発売記念コンサート
9月29日(木) 王子ホール(東京)19:00開演(18:30開場)


















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