独特の世界観で訪れたファンを魅了したシンガーソングライターの石崎ひゅーい

独特の世界観で訪れたファンを魅了したシンガーソングライターの石崎ひゅーい

 シンガーソングライターの石崎ひゅーいが7月28日、東京・キネマ倶楽部で東名阪ツアー『石崎ひゅーい Tour2016 「花瓶の花」』のファイナル公演をおこなった。このツアーは、5月18日にリリースした3年振りとなるフルアルバム『花瓶の花』を引っ提げ、名古屋、大阪、東京の3カ所でおこなうもの。最終日となったこの日は、新曲「ピノとアメリ」、「カカオ」を含む全17曲を、石崎ひゅーいの持つ世界観と、感情をさらけ出したかのような歌声で披露し、オーディエンスを魅了した。

僕の歌を全力で捕まえに来てください

 キャバレーをライブハウスに改築した独特の雰囲気の“箱”に、ワクワク感が募るように、集まったオーディエンスは心を躍らせ、開演を今か今かと待ちわびているようだった。BGMが終わり会場は暗転すると、オープニングSEが流れ響き渡った。しばらくするとサポートメンバーと石崎ひゅーいがステージに登場。大きな拍手が巻き起こった。

ギターをかき鳴らす石崎ひゅーい(撮影・上飯坂 一)

ギターをかき鳴らす石崎ひゅーい(撮影・上飯坂 一)

 石崎は少し足早にステージに置いてあったアコギを手にし、肩に掛け力強くかき鳴らす。ライブは「トラガリ」でスタートした。グルーヴィーなナンバーにオーディエンスも手拍子で盛り上げていく。オープニングから全力で感情豊かに歌い上げる石崎。「東京、こんばんは! 遊ぼうぜ!!」というメッセージをリズミカルに投げかけ、「メーデーメーデー」へ。サビでは<SOS>のメロディに合わせ、観客はステージに向けて手を伸ばす。石崎も手を掲げながらステージを左右に動き回る。感情を叩きつけるように歌い上げていく姿は圧巻。

 「オタマジャクシ」ではアコギを置き、スタンドについたマイクを両手でしっかりと握り、“タメ”を効かせて真っ直ぐに思いを届けていく。<言ってくれ 言ってほしい>と会場もステージとフロアとのコールアンドレスポンスで盛り上がった。

 ここで初めてのMCを挟む。「どうやらこのステージの上にはピカチュウがいるらしいです」と今話題の「ポケモンGO」の話で会場を和ませると、「しかし、今日はピカチュウを捕まえるのではなく、僕の歌を全力で捕まえに来てください」と告げ、「僕だけの楽園」に突入。畳み掛けるようなリリックの応酬が、聴くものの心に突き刺さっていくようだった。

 そして、幻想的なシンセサイザーのサウンドから「東京のみんなの歌です」と紹介し「夜間飛行」へ。曲によって様々な表情を見せる石崎の歌声。ダイナミクス豊かに歌い上げた。バイオリンの優雅な音が空を飛んでいるような感覚を醸し出しているようだった。ラストのサビではオーディエンスもシンガロングし、<飛んで会いに行く>と石崎もモニタースピーカーの上に乗りながら魂を込めたシャウト。

熱唱する石崎ひゅーい(撮影・上飯坂 一)

熱唱する石崎ひゅーい(撮影・上飯坂 一)

 そして、美しいピアノの音色から「7月は色々ある月なんですよね。家族の誕生日だったり、母親の命日だったり、そして、僕のデビューも7月25日なんですよ」と1年の中で7月が石崎にとって特別な月だということを話すと「デビュー曲を歌っていいですか!?」と問いかけ、大歓声の中「第三惑星交響曲」を披露。突き抜けるような石崎の持つ壮大な音の世界観が、キネマ倶楽部を包み込んだ。

僕と一緒に踊りたい人はいますか?

 「良いお知らせがあって、新曲が8月24日に発売することが決まりました。テレビアニメの『NARUTO-ナルト- 疾風伝』のエンディングテーマなんですけど、YouTubeですでに外国の方がピアノでカバーしてくれていたんです。それを見て泣いてしまいました」とその演奏に感動したことを語り、新曲の「ピノとアメリ」を披露した。目を閉じて情感を込めて歌い上げる石崎。オーディエンスもそのバラードナンバーに静かに耳を傾け、楽曲の持つ世界観に浸った。

 更に続けて新曲の「カカオ」を披露。どこか懐かしい匂いのする心地よい8ビートナンバー。撮影していたスタッフからビデオカメラを奪い取り、「満面の笑みを見せてください」と、会場に向けてレンズを向ける。時折、自分自身を撮影しながら歌い続ける。

 「愛している人はいますか!?」と述べてから「ファンタジックレディオ」を披露。間奏で「僕と一緒に踊りたい人はいますか?」と問いかけ、手を挙げた男子学生をステージにあげ、楽曲のビートに乗って手をつなぎステージ上で踊った。そして、2人がマイクに向かって<あー君のことが好き!>と感情を露わに熱く歌い上げた。あまりの激しい歌唱にマイクスタンドを倒れ、2人が床にもつれ合いながらも歌うのをやめないその姿に、オーディエンスから大歓声があがった。

 間髪入れずに「シーベルト」へ。石崎の伸びやかで張り詰めた歌声がキネマ倶楽部に響き渡った。最後は声が掠れながらも、溢れ出した感情を放出していくように歌いあげた。アウトロの石崎の吹くブルースハープの音色が叙情的に響いた。「泣き虫ハッチ」ではピアノの伴奏に合わせウィスパーボイスでメロディを綴っていく。歌とバンドのサウンドが一体となり、キネマ倶楽部に溶け込んでいくようだった。
 

シンガーソングライターの石崎ひゅーい(撮影・上飯坂 一)

シンガーソングライターの石崎ひゅーい(撮影・上飯坂 一)

 ここでメンバー紹介を挟み、「ピーナッツバター」へ突入。ブルージーなセクションからアッパーな曲調へ予想外の曲展開を見せる楽曲で、会場のテンションはドンドン上がっていた。オーディエンスのコールアンドレスポンスに満面の笑みを見せる石崎。途中のジャジーなセクションでは、ピンクのライティングとキネマ倶楽部の雰囲気も手伝って色気のある空間に。

 「星をつかまえて」ではステージを降り、オーディエンスの側で差しのべられた手に、もみくちゃにされながらも歌い続ける。そして、ステージに戻ると「俺が応援してあげるからみんな歌ってくれますか?」と投げかけ、「もっと!もっと!!」と煽り、オーディエンスの声を求めた。

ファンの歌声が美しく響き渡った「花瓶の花」

 「疲れた」と石崎がモニタースピーカーに腰をかけると、客席からの「頑張れ〜」の声に会場が笑いに包まれた。ここで最近は石崎が涙もろいという話題に。牛丼屋でカレー牛を食べている時に「花瓶の花」が流れてきてカレー牛を食べながら泣いてしまったことや、駅の公衆トイレで隣同士になったサラリーマンのおじさんが石崎に、おもむろに付けてきたイヤホンから「花瓶の花」のサビが流れてきて、「最初はビビったけど小さな声で一緒に歌ってしまった」という衝撃的な話で会場は盛り上がった。その後にそのおじさんと繋がったということが、実はスゴイことだなと思い、感動して泣いてしまったと明かした。

 そして、再びアコギを手にし、2011年に日本最南端の有人島である沖縄・波照間島で出会った人の話に。悩みを抱えていたその人に向けて「花瓶の花」を歌い、その人が「この曲を聴いて勇気が出た」と話してくれたことが、この曲の持つ力に気付いたと明かし「その人のためにも一生懸命歌いたい」とこの曲へ想いを語った。ここで「やりたいことがある」と話すと、その「花瓶の花」を、石崎のアコギの伴奏でオーディエンスが歌うことに。

東京キネマ倶楽部の模様(撮影・上飯坂 一)

東京キネマ倶楽部の模様(撮影・上飯坂 一)

 会場全体に響き渡るファンの美しい歌声に石崎も満足そうな表情を浮かべ「100点!!」と呟いた。その時の石崎の笑顔が印象的に映った。今度はその歌声へのお返しとばかりにバンドの演奏に乗って石崎が丁寧に感情を込めながら「花瓶の花」を歌い上げていった。強い意志を持った楽曲に底知れぬ力を感じた瞬間であった。

 ラストは「花瓶の花」の余韻を受け継ぐように「天国電話」へ。直立不動でエモーショナルに歌っていく。その存在感のある心の叫びとも言えるような歌声に包まれ、客席からの大きな拍手と後方から照らし出す眩い光の中、「ありがとう」と感謝を伝えステージを去った。無人のステージにはどこかもの悲しげなピアノの音色が響き渡り、 『Tour2016 「花瓶の花」』の幕は閉じた。

 どの曲も石崎ひゅーいにしか歌えない、唯一無二の感情が込められたライブであった。リアルに響いてくる言葉とメロディに酔いしれ、光と影の両面を持つ石崎ひゅーいの世界観を堪能した。ファンと作り上げた一体感、そして、楽曲の持つ力強さや繊細さを味わえた一夜であった。(取材・村上順一)
 
■セットリスト

石崎ひゅーい Tour2016 「花瓶の花」

7月28日 東京・キネマ倶楽部

01.トラガリ
02.メーデーメーデー
03.オタマジャクシ
04.僕だけの楽園
05.シンデレラへの伝言
06.夜間飛行
07.第三惑星交響曲
08.ピノとアメリ
09.カカオ
10.ファンタジックレディオ
11.シーベルト
12.泣き虫ハッチ
13.ピーナッツバター
14.僕がいるぞ!
15.星をつかまえて
16.花瓶の花
17.天国電話

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