「言葉」を届けたい、Swimy 孤独と愛の短編集「おひとりさま」
INTERVIEW

「言葉」を届けたい、Swimy 孤独と愛の短編集「おひとりさま」


記者:木村武雄

撮影:

掲載:16年06月27日

読了時間:約29分

6つの物語を綴った“短編集”

みっけ(Vo&Dr)

みっけ(Vo&Dr)

――話は作品に戻りますが、これが「1つの本として」という話で、それぞれの曲に対してのテーマというのが記してありますが、改めてこの点を伺います。

Takumi 今回は6曲とも同じコンセプトと思っていて、言葉に関しては歌いたい事が決まっていたので、それに対してサウンド面でどういう工夫が出来るのか、どういう聴かせ方が出来るのかなというのは常にSwimyとしては考えていたんですけど、アルバムを一言で表すキーワードというのがなかなか出てこない状態で作品作りを進めていたんです。

 でも「一人」という事に焦点を当てたミニアルバムを作る事は決まっていたので、その中で「御一人様」を作ったのが終盤なんですが、その時にたまたまサビのメロディと言葉が一緒に出てきたんです。僕は言葉とメロディが一緒でないと嫌なタイプでして。そのメロディが出てきた事に対して言葉を変える事が出来ないタイプなんです。その時「『おひとりさま』です」という歌詞のくだりが出来たんです。わりとその言葉がしっくりきて、このキーワードが一人ということをテーマにしているのがわかりやすく伝わるので、6曲通してこの言葉でまとめられるなと思ったんです。

 でもこの『おひとりさま』というミニアルバムを作るために「御一人様」という曲を作った訳ではないし、「御一人様」という楽曲を知ってほしいためにミニアルバムを『おひとりさま』というタイトルにした訳ではないので、あえて表記を変える事によって「表題曲だからミニアルバムのタイトルを『おひとりさま』」という捉え方をしてほしくなくて、やっぱり6曲通して“おひとりさま”なんだよという。

 もともとこの曲はリード曲にする予定ではなかったんですが、そういうキーワードを示してくれて軸になったのでやっぱり覚えやすいように一曲目にしようと。今回は孤独と愛をテーマにしているんですが、やっぱり愛というのは僕の中で何かに中毒になるようなそういう感覚があるので、入り口としてはわかりやすい事を歌っているかなと思いますね。このミニアルバムの看板になってくれるような。

 2曲目の「毒と花」は人間の二面性を歌っている曲なのでタイトルをわかりやすくしたんです。人間の毒のある部分であったりとか、美しい花である部分だとか。人を傷付けたりしたりするのも人間だし、その分その傷を癒してくれるのも人間だし、そういう良い所も悪い所も含めて生きていきたいというメッセージを込めた楽曲なんです。この楽曲はサウンドはモロに格好良いという感じ、ライヴで刺さるようなサウンドにしようと心がけましたね。

 3曲目の「Killer Killer」はさっきも言ったんですけど、自分に偽ってという言葉のテーマは決まっていまして。人から嫌われたくないとか、好かれたいあまりに嘘をついてしまったりとか、そういう人が多いと思うんですよね。他人に嘘をつく前に自分自身に嘘をついてしまうのは良くない事だなと思っていたので。「Killer Killer」は歌詞は出来てなかったんですが、楽曲自体が出来た時、Swimyとしてどんな音楽をやればいいかわからなかった時期、関わってくれる人が増えた時期に書いた曲なんです。

――それはいつごろですか?

Takumi 2015年の10月か11月くらいのメジャーデビューが決まったタイミングです。色々な人が関わってくれるので、その人達の期待に応えたいとか、その人達がいいと思うものを作りたいと思って。それは多分間違いではないんですが、本来自分達がどういう音を出したいかという事を忘れ音楽をやっていたタイミングで。その時に制作のスタッフが「本来やりたかった事を変わらずやるべきだよ。このタイミングでも」と言ってくれた時に「Killer Killer」を作ったので、バンドとしても自分を忘れかけていた時に作った楽曲だったので、今僕が歌おうとしている言葉も楽曲とリンクするなと思って。だから「Killer Killer」は自分を偽る事に対してのメッセージとして歌っているんです。

 それで、「Killer Killer」に繋がるのが「ナイトミュージック」という楽曲なんです。物語としては4曲目があってからの3曲目なので、時系列は逆なんですけど。人に好かれたいとか嫌われたくないと思うのは、人に嫌われる恐怖を知ってしまったからだと思うんですね。人に疎外された時って、人と会ったり学校行ったりする事が怖くなっちゃうじゃないですか、そんな時に「明けない夜はないよ」のような励ましの歌詞の曲を聞いてもは僕には全然響かなくて。「夜明けて朝になったら行きたくない学校にいかなきゃならないじゃん!」と。ならば、とことん深く、夜が明けないようにと。僕、夜が唯一逃げ場だったんです。だからそういう時間を過ごしている人がいれば、僕らの音で深い夜に現実逃避出来るようなというのが4曲目のテーマで。

――これはいつごろの曲ですか?

Takumi 学生の頃ですね。言葉自体は。そういう自分を経ての3曲目「Killer Killer」を歌う自分になってしまったというか。自分を偽ってしまうようになってしまったと。インディーズ時代に作った「dance」を6曲目にしているというのもけっこう意味があって、この曲はその頃から全く何も変えていないんです。4曲目と3曲目の自分をふまえて完結させたいと。このアルバムを通して逃げてばかりでは嫌なんですね。4曲目の自分に対して、「dance」という曲はインディーズ時代に書いていた曲なんですね。「ナイトミュージック」を作っていなかった頃なんですが、当時の自分の思い出はある訳じゃないですか。その当時の自分に、今の自分が言ってあげたい事を「dance」の頃に書いていたので。暗闇とか、夜に閉ざして深い夜、朝を迎えたくない、ってなっている自分に対して。

 でも、そこで折れずに、かすかに遠くの方で光るわずかな光りを見失わずに一歩ずつ生きて行ったら、何かステージの上で誰かと踊っていたり。僕らもそいう日々がありましたし、今も辛いことはもちろんあるんですが、やっぱりそういう華やかな瞬間というか、皆と音を鳴らして踊ったりする事が出来る時間を迎えられるので、その光だけは見失わないように、次に繋がるように生きて行こうというメッセージが「dance」という曲は一番強かったので、この曲は今回のために書き下ろした訳ではないんですが、今回のミニアルバムを完結させて次に繋げる、次に向かうという意味合いを一番多く含んでいる楽曲だと思ったので6曲目を「dance」にしたんです。

悩みがあるから歌い続ける

タイキロイド(Gt&Cho)

タイキロイド(Gt&Cho)

――先程、前作「あっちむいて」はSwimyを知ってもらうためにキャッチーなものを、今作は「こういう曲もいっぱいあるよ」という事をしってもらうために、と言っておられましたが、裏テーマとして、これまでの自分の悩みや葛藤に対して「もう悩んでませんよ、解決しましたよ」という意思が込められた、いわゆる宣言的な作品でもあるのでしょうか?

Takumi そこが難しいところで。多分まだ悩んでるんですよね。まだ解決していないから今もまだ歌っているのかなと。今回は一番に「言葉」を届けたいなと思ったんです。「あっちむいて」の時とかも、誰かに届くように、伝わるようにとは思っていたんですけど今作で思ったのが、そこまで立派な人間でもないし、届くような言葉を綴れるのかなという。

 落ち込んでいる人や悩んでいる人に対して、その人の立場を考えてその人に適するような言葉を選べるような人間力を持っていないんじゃないかと思った時に、とにかく自分に対して言ってあげられる言葉や、自分を癒してあげられる言葉や、自分に対するメッセージをとにかく正直に書いて、それが僕と同じ様な感覚や感情を共有出来る人に対して響いてくれると嬉しいなと思って書いた言葉が多いので、まだ悩んでいたり解決していない部分があるからこそ、今も尚こういう事を書いているのかなと。

 多少クリアした部分はあるんですよ。そういう要素が一番強いのが6曲目なんですね。多少解決して次に向かえているという。だから6曲目にしたというのもあるんです。1~5曲目は今もまだそういう部分に苦しんでいたり悩んでいたりする部分があるので、まだ書いているんじゃないかと思います。やっぱり正直に言いたかったんで。

 僕らはインディーズ時代から分かりやすいラブソングを書いてこなかったんですが、今回5曲目にあえて本当にわかりやすいラブソングを入れたのも、僕の中で「恋愛を隠す人=嘘くさい人」という考えがちょっとあるんですよ。僕のパーソナルな部分や経験を正直に書いたのは、そこの経験だけ避けて作品を作るのが自分に対して正直に言葉を綴っていないなと思って。

 恋愛が人を構成する上ですごく大きな事だと思っていて、それは僕の恋愛経験も、今自分を構築する上で大事な要素の一つだと思うので、そこは避けては通れないというか。そこに対しての思いも正直に書かないと、聴いてくれる人に届かないんじゃないかと思って、5曲目の「唯」は意識してアルバムを聴いて一番言葉が届いてくれるかなという位置に入れたんです。

――人間の感情と言いますか、人間味を入れると曲自体が凄く重くなる。だけど、Swimyの歌詞は独特で面白い。だからこそ、そこまで深くどんよりとはしない。そして、平成のまおさんとみっけさんがまた良い役割を果たしている。物語を冷静に見つめさせると言いますか。

Takumi テーマがどうしても重かったので、どうしても言葉選びが重たくなりそうだなと自分でも感じていたんです。やはりそこで女性の声があるという強みがあるし、楽曲で暗く聴かせないという工夫をすごくしましたね。

――ギターサウンドはタイキロイドさんが作るのですか?

Takumi 僕がわりと発注しますね。そういうところも“ギターマシーン”っぽいなって。自ら生産するというより、こちらが打ち込んでそれに対して応えて生み出してくれる事が多いので。

Swimy『おひとりさま』

Swimy『おひとりさま』

――前半の楽曲は、2015年に出したインディーズアルバム『ラブルと宇宙』前の2013年頃に出された作品は、ギターサウンドがモロに前面に出ているような感じがあったんです。そこで今作を聴いて、やはりそこがSwimyの核ではないかと思いました。Swimyにとってギターは重要な役割を担っていますか?

Takumi やっぱりそうですね。僕らは格好良い音楽をやりたいってずっと思っていて、3人が歌っているハーモニーは僕らの武器だと思ってるんですが、「格好良い音楽をやりたい、格好良いと思われたい」というところに対して柔らかく伝わってしまうんですよね。ハーモニーがキレイだったり、男女で構成されている部分に対してはポップに受け取られたり。それは悪い事ではないんですが、やっぱり「格好良い」と思ってもらいたいです。でも、それらの武器も捨てられない。という時に、ギターの立ち位置はすごく重要なんです。だから今回どんなギターを鳴らすのか、かなり考えましたね。「格好良さ」の重要な部分でもあるので。

――歪んだギターサウンドだったり、カッティングを前面に出したりなどありますね。

タイキロイド コンカイハ ケッコウソウデスネ。テクニカルナコトモ イッパイ イレテアルノデ ソコヲ キイテ イタダキタイデスネ。

――ところで楽曲では問いかける出だしが多いですね?

Takumi ああ確かに。問いかけている事があるかもしれないですね。あまり意識していなかったですね。

――それって小説の世界なんかでは重要なんですよね。

Takumi 僕自身、音楽をやっている事や歌詞に対してもそうなんですが、「音楽でも映画のような感じで聞かせられないかな?」とか、「歌詞で小説のように読んでもらえないかな?」と常に考えてきた部分でもあるんです。曲を作るインスピレーションを得る時は、音楽よりも映画とか他の文芸作品からの方が多いんです。もしかしたら僕の歌や歌詞に対して「物語の始まりは問いかけで始まる」という認識があって、歌詞を書き始める時にはナチュラルに“問いかけ”をやってしまうのかな…。そういう風に染み付いているのかもしれないです。

――夏目漱石の作品の多くは冒頭で、その本の核を綴っています。「吾輩は猫」ではいきなり「吾輩は猫である」と入って、「草枕」では「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」とくる。Takumiさんが作られる歌詞の冒頭にある問いかけって、もう曲の全体像がパッと浮かび上がるんですよね。だからSwimyの場合はここがすごく大事なのかなと。

Takumi 始まりは意識しました。実は歌詞をけっこう変えたんです。「『おひとりさま』です」というところ以外は。今回の作品を通して言えるのは、手法で言うと「結論」。映画で言うと、プロローグにエンディングの一部がきて最終的に「冒頭のあれはここに繋がるのか」という手法が好きなので、そういう歌い方をしてるかもしれないですね。冒頭の部分に結論を一行で書いて、それについてどんどん説明していくという。

――例えば、映画『火垂るの墓』の冒頭にある「昭和20年9月21日夜、僕は死んだ」凄く刺さりますよね。

Takumi ああ…! そうですね。心に問いかけるといいますか、楽曲のメッセージ性を伝えることはこれからも意識したいですね。

――さて、現在ライヴはどのように展開されていますか?

Takumi ライヴは日々やっています。今作のリリース後に『おひとりさま』の世界観をモロに出していこうと考えているので、6月28日の“フラゲ日”からライブがあるんです。

――ツアーですか?

Takumi 6月28日から7月末までライヴイベント、インストアライヴがあります。ライヴありきで、ライヴで聞いてもらうために作っているんです。ライヴで観た時により面白く感じられるような仕掛けを曲に入れてレコーディングしているんです。僕らの楽曲が最終的に完結するの所がライブだと思っているんです。だから今回の『おひとりさま』を聞いてSwimyを好きになってくれた方に、やっぱりライブ観てほしいって思いますね。アルバムで曲を知って、ライブを観て、「一つを観切った」と思ってほしいですね。

Swimy

Swimy

――それではメンバー皆さんからメッセージをお願いします。

みっけ 今作は展開がすごく面白いというか耳が離せない曲ばかりで、たくさんの方にたくさん聴いて頂いてライブに来て頂いて、更にSwimyを知って頂いてドップリSwimyにハマってもらいたいという願望があります。絵本の“スイミー”のように、ひとつの魚として参加して頂き、皆さんと一緒に大きなもの、感動だったり興奮だったり、そういった一体感を作りたいです!

平成のまお 今作はテーマが「ひとり」や「孤独」と、歌詞自体にはネガティブな要素もあるんですが、ライヴは暗い事はなく、楽しくポップで嫌なことを全部忘れられるようなライブをやっているので、実際にライブにも来て頂いて自分も「Swimyの一員」という風に楽しんでもらえるような作品なので、どんどんSwimyの輪を広げたいなという始まりの一枚になっています。

Takumi 今回の作品は文章として、ひとつの物語としても楽しんでほしくて、そこを最大限楽しめるための音のギミックもたくさん用意されているんです。重たい事とか、若干ネガティブに捉えられるような内容も書いているんですが、全てを聞いて読み終えた後に必ず前向きになれると思うんです。暗い気持ちには全然ならないように作品作りが出来たので、6曲ともゆっくりと味わってもらいたいなと思います。

タイキロイド キョクモ カシモ ゼンブ カミシメナガラ キイテホシイ ト イウノモ アルノデスガ、ゼンキョク “タノシイキョク” ニ ナッテイマス。キキドコロモ マンサイナノデ ゼヒ ライヴデモ ミナサント イッショニ タノシメタラナ ト オモイマス。

(取材・木村陽仁)

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