あえて魅力に迫る、ゲスの極み乙女。「両成敗」の音楽的魅力
オリコン初登場1位を獲得したゲスの極み乙女。「両成敗」
“色々”と物議を呼んでいる川谷絵音(27)率いるゲスの極み乙女。のニューアルバム『両成敗』が初週で7万2000枚を売り上げ、バンドとしてのセールス記録を大きく更新してオリコン1位を獲得した。騒動に揺れる今、あえてこのバンドの魅力に迫っていきたいと思う。アルバム全体を解説すると文字数が膨大になってしまうので、今回はアルバムとしても世の中的にもリードトラックとなった「両成敗でいいじゃない」をミュージックビデオ(MV)と共に取り上げたい。
その前にまず、ゲスの極み乙女。についての基礎知識を確認したい。彼らのプロフィルには「2012年5月にindigo la Endのボーカルでもある川谷絵音を中心に結成。高い演奏技術を駆使した何が起こるかわからない曲展開に全てを飲み込んでしまう声。独自のポップメロディを奏でる4人組バンド」と記載されているが、つい最近までは「ヒップホッププログレバンド」とも書かれていた。
メンバーは、時の人となった川谷絵音(ボーカル・ギター・シンセサイザー)、休日課長(ベース)、ちゃんMARI(キーボード)、ほな・いこか(ドラムス)の4人である。活動開始は2012年から。つまり活動開始から約3年で紅白出場を決めたということになるから凄まじい快進撃を繰り広げたことになる。そして今回の新譜「両成敗」は2014年にリリースした「魅力がすごいよ」に続くセカンドアルバムである。
ここからは実際の楽曲(MV)を鑑賞しながら解説していきたい。
両成敗でいいじゃない
冒頭は、シンセサイザーの浮遊感のある音で始まる。しかしこれは言わばイントロの前のイントロである。合唱団と思われる少年少女が走ってくる、白いリムジンの扉が開いてタイトルバックが現れた。演奏開始。
▽イントロ・0:10-
ここからがイントロだ。リズミックなリフ(フレーズ)をベースとギターがユニゾンする。しかし恐らくほとんどの人が一聴しただけではリズムが取れなかったのはないだろうか。面を喰らって筆者も一度目ではカウントできなかった。そしてドラムが入ると少しリズムが見えやすくなる、でもあれれ?という方が多いのではないかと推察する。それもそのはず。実はこの楽曲、イントロに一番の音楽的トリックが隠されているのだ。
ここからは少々テクニカルな話になるが、ごく簡単に話そう。このイントロはJポップによくある「1・2・3・4」という4拍子では少し取りずらいリズムになっている。ドラムのバスドラムが入ってくるところから数えるとわかりやすいのだが、このセクションは「1・2・3/1・2・3/1・2」(3拍・3拍・2拍)というリズムで構成されている。しかも3拍+3拍+2拍=8拍なので4×2ともカウントできるため、ドラムだけ聴いてると4拍子にも聴こえる、という仕様だ(ギターのリフだけを取るともう少し複雑なリズムなっているのだが、今回は深追いしない。またいつか)。いきなりのトリックでリスナーの目(耳)をいきなり眩ましてくるゲスの極み乙女。恐るべしである。そして楽曲は次のセクションへ。
▽Aメロ・0:25-
川谷のヴォーカルが入る。いきなりゴツいリフで攻めたてたイントロからギターが抜けて、ピアノが伴奏するきれいなサウンドへ。リズムも普通の4拍子になって安心。しかし音楽というものはもともと人生と同じでこの「緊張/安心」で展開していくものなのである。さて、ここの絵は川谷の後ろに2人の武者、その更に後ろには多数の合唱団というなんともミスマッチが面白いカットになっている。「Yeah!」というところなどで現れるバンドの女性陣が実に可愛い。コーラスもセクシー。
▽Bメロ・0:39-
ここからドラムのリズムがいわゆる「ド・チ・ド・チ」という4つ打ちに変化。少しずつ歌声もサビに向けて張っていく。それにつられる様にベースもギアが上がる。そして、ここ辺りからイントロ以降全く見えなかった川谷の手元が見えるカットが入る。ギターを弾かずに右手をぶらぶらとさせていることを確認することができる。ここで「弾かんかい!」というツッコミを入れてみたりしても楽しいだろう。ピアノ以外の音が消える、所謂ブレイクとともに色々な意味で超強烈な「僕も君も負けだ」というパンチラインが決まる。ここからサビへ突入。
▽サビ・0:54-
爆発。ブレイクによる静寂からだけに効果大である。ヴォーカルも「両成敗がとまらない」というリリックの「とまらない」の部分で裏声へスライド。この地声と裏声の臨界点が切なくていい感じだ。そして、ここまではただの秀逸なロックバンドのMVだったはずなのであった。
事件なのはサビに入っても以前川谷がギターを弾かず、代わりに左手で脇にある鍵盤を弾いていることではないかと思う。これはギターロックバンドではまずありえない革命的な光景だと言えないだろうか。
もはやツッコミを入れている場合ではない。というより、こちら側が「弾くんかい!」とツッコまれていると言っても差し支えないかもしれない気がしてくる。その後も結局ギターはイントロと同じフレーズが登場するエンディングでしか弾かれないのだ。
ついこの間までバンドサウンドで歌のサビと言えば歪んだギターをかき鳴らしたものだった。だが川谷のその姿はロックというひとつの時代が終わり、次の時代が到来したことを予感させる様でもある。
ロックンロールはギターという楽器を中心に発展してきたことは周知のとおりだ。だが、現代において「PCは第2のギターである」という言説もあるほどで、音楽はPCなどの新しいテクノロジーによる打ち込みやビートミュージックにシーンの中心が移行している事実がある。
そしてギターがいない若手バンドもどんどん日本で頭角を表してきている中、この「両成敗が止まらない」でゲスの極み乙女。はギターを捨てるのではなく「楽曲である箇所で使用されるある楽器の一つ」として相対化しているのだ。ここで概念の変化が起こっている。絶対的なロックの華が散って新しい時代の到来を告げるかのような絵であった。
まとめ
と、ここまでが1コーラス(1番)である。この後も楽曲は続いていくが、情報量が多すぎてあまりに長文になってしまうのでここまでにしたい。
彼らは楽曲が魅力的で且つ良い加減の先鋭さを持っているにも関わらず商業的にも成功し、お茶の間に浸透しているという稀有なバンドである。
そして彼らの足跡を追ってか、多くのバンドやアーティストが音楽フェスというよりもお茶の間を目指そうとしている気がする。それだけの影響力をこの短い期間で彼らは得たのだった。
このバンドが結成3年で紅白出場、オリコンチャート首位獲得というのは今、日本の音楽が今動いていると言わざるを得ない気がするのだ。
困難はあるだろうが、これからも彼らの次の一手に注目していきたいところだ。(文・小池直也)


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