「日本の美」を表す楽曲「桜坂」

デビュー25周年記念ベストアルバム「福の音」CDジャケット

デビュー25周年記念ベストアルバム「福の音」CDジャケット

 デビュー10周年である2000年にリリースされた「桜坂」。福山雅治の代表曲といえばこの曲だろうか。先述の「HELLO」「IT'S ONLY LOVE」もそうだが、そして後述にも挙げる楽曲らもそう、代表曲をこれほど多く持つ音楽家はとても珍しい。

 「日本の美」を音で表した楽曲。そして、そこに伴う音楽的大衆性。これらの点で「桜坂」は、日本を代表する楽曲と言っても過言ではないだろう。福山雅治の伝家宝刀のアコースティックサウンドは全開。“おもてなし”の音色で聴き手を迎え入れるメロウなベースライン。優しさと叙情に満ちた歌詞。奥ゆかしく、さりげなく囁くようなエレクトロビート&パーカッション。四季の様に移り変わる曲構成。

 福山雅治の楽曲の中で、最も多くの人々に届いた結果となったダブルミリオンセラー作品の「桜坂」。福山雅治といえばやはりこの名曲。福山雅治史上最大の代表曲「桜坂」について、これ以上語るなどという事は、ただの野暮でしかないかもしれない。

「福山×アコギ」の最強マリアージュ

 アコースティックギターの音色とアンサンブルの行間。この渋くも色気のある「福山雅治」の魅力は「桜坂」によって満開に開花した。それ以前にもアコースティックサウンドのアプローチは数々あった。しかし、2000年以降の福山サウンドは、特にアコースティックギターがフィーチャーされている楽曲は唯一無二の輝きを纏っている。

 楽曲「milk tea」は正にストライクなアコースティックサウンドだ。純粋な心の中を素直に出す歌詞、各楽器が会話をしている様なアレンジ、オーガニックなパーカッションのビート。デビュー当時にはまだ顔を出していなかった、福山雅治のセクシーで紳士的な「オトナな魅力」が存分に味わえる楽曲。

 「弾き語りというスタイルだけでも、楽曲の魅力を存分に表現出来る楽曲」。これが、福山雅治の楽曲には本当に多い。「シンプルに発してもその良さが充分伝わる」という事は、もう本質的にその音楽が良いかどうかという答えではないだろうか。回りくどい事を言わずとも、一言二言でその意図が伝わるというその根底には、「福山雅治のストレートな男らしさ」と言う人間性があるように思える。そして、それは福山雅治の音として、聴き手にダイレクトに伝わるのだろう。

 「ギタリスト福山雅治」としてのプレイ、中でも弾き語りスタイルでのギタープレイには定評がある。福山雅治の楽曲は「弾き語りの教材」としても超優秀という事は意外と知られていないかもしれない。そのコード進行をさらい、自身で弾き語りをして楽しむ。アコースティックギターの演奏と歌を多くの人と共有して楽しむ。そういった楽しみ方ができるのも福山雅治の「音」の魅力のひとつだ。

 ちなみに福山雅治が愛するギターの数々だが、アコースティックギターについてはマーティンの「OM-45」や「D-28」、「OOO-42」、「ギブソンJ-50」などのギターを愛用している。そしてその錚々たる“名器”が福山雅治にあまりにも似合うという事は重要な点だ。もしかしたら、世界的名ギタリスト「エリック・クラプトン」よりも「アコースティックギターが様になる男」かもしれない。

 この「マーティン(Martin)」「ギブソン(Gibson)」はギターブランドで、ボブ・ディラン、ジョン・レノン、エリック・クラプトン、ジミーペイジ、長渕剛、桑田佳祐、斉藤和義、奥田民生、山崎まさよし、などなど、著名なアーティスト、ギタリストらに愛用され、世界的にそのサウンドが親しまれている。

アンニュイな魅力を音で滲み出した楽曲

 福山雅治の内側に宿す魅力を感じられる少々珍しい存在のシングル楽曲がある。それは、2009年リリースの楽曲「はつ恋」。壮大なオーケストラとアコースティックギター、そして綿密にアレンジが施された重厚なサウンドが味わえるこの楽曲は「昭和歌謡曲」的な、少し陰鬱テイストのメロディ、そして人間味深い湿度を纏ったメランコリックなアンサンブル。自身の純粋な思いが、時に影となってしまうような人間的な純真さを、音で、言葉で、福山雅治流のアンニュイで感じさせる、非常に深みのある内容だ。

 この「はつ恋」は、「桜坂」とはまた真逆の種類のバラードであり、その両極端を同一シンガーが違和感無く表現出来るという事は非常に稀ではないだろうか。福山雅治がそれを自然に、嫌味なく、聴き手に音で伝える事が出来るのは、感情に対して素直に耳を傾ける事と向き合っている人間であるという事が楽曲を通して伝わってくる。

 そしてこの頃は、「KOH⁺(コウプラス)」として柴咲コウとの音楽ユニットで作品を発表、福山雅治の音楽活動の新境地が垣間見えた時期でもあった。

より深みを増していく福山雅治の「音」

 2010年以降、福山雅治の音楽的密度が更に洗練された楽曲が次々とリリースされた。イントロのアコースティックギタープレイが光る楽曲「蛍」では、息を飲むような美しいギターアンサンブルに浸れる。中間部のギターソロや、さりげないオブリガート(主旋律を引き立てるサラっとした助奏)、ふんわりと優しい膜を形成するオーケストレーション。歌がメインながら、楽曲アンサンブルの無駄の無さ、「音」に対するこだわりがより伝わってくる、非常に聴きごたえのあるバラードチューンだ。

 生々しい「演奏感」のある各ギタープレイに耳を集中させると、この楽曲の持ち味が更に増幅されて、「歌から少し視点を外した聴き方」という楽しみ方ができる。翌年2011年の「家族になろうよ」もそうであり、「洗練」された福山雅治クオリティのギタープレイに注目するとより一層、楽曲を、「音」を楽しめる。

 試しに、イヤホンやヘッドホンを両耳に装着し「左右どちらか片側」だけに集中して聴いいてみると面白いかもしれない。すると、福山雅治の奏でるギター伴奏の美しさが目前に表れるように聴こえる。福山雅治の音への「こだわり」「深み」が、より一層クリアに感じられ、更なる楽しみ方にも繋がり、とても楽しい。更なる高みに向かっていくボーカルと福山雅治の楽曲を、より深くじっくりと、何度も噛み締めるように楽しむには、この頃の時期の楽曲が最も適しているように思える。

 アンサンブル、サウンドへのこだわりは100%に近く具現化され、歌と楽曲の抑揚加減は、聴き手を「翻弄しすぎない」という心地よさを保っている。こういった完成形の楽曲は、ファンならずとも「何度も聴いて楽しめる」という、音楽としてとても貴重な価値を持つものだ。それは、ここまでの福山雅治のキャリア、「音」に対する真摯で真っすぐな姿勢がそうさせ、「音楽」として表れた結晶そのものだろう。

この記事の写真
福山雅治“音楽”はなぜ愛されるのか【1】

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)