存在感を増すご当地アイドル、ブームの中で求められる役割とは
BOSO娘による“アイドル列車”のもよう
アイドルブームのなかご当地アイドルの存在感が増している。ローカルアイドルとも呼ばれる、地域に根差したアイドルは、全国に1000組は存在しているとも言われている。その役割は、町おこしや企業PRなど様々だ。千葉では、県内のご当地アイドルが手を取り合い、町を盛り上げていこうとするプロジェクトが進行中だ。
『BIG WAVE CHIBARITY』というプロジェクトは、2020年に開かれる東京五輪までを一区切りに、定期的にチャリティライブを開き、収益金の一部を自治体を通じて寄付。寄付金は、障がい者スポーツ振興などに役立てられる。今年3月には第1回目のチャリティライブを千葉市内で実施。入場料13万2000円を一般社団法人千葉県障がい者スポーツ協会に寄付した。
このプロジェクトに参加するアイドルは実に多種多様だ。いすみ鉄道公認のアイドル・BOSO娘を発起人に、木更津が活動拠点のヤンキー系アイドル・C-STYLE、県内産果物をアピールするフルーツリング、銚子で生まれた銚子元気娘たち。
各地に多種多様なアイドル
ご当地アイドルは千葉県内に限らず、全国各地に存在する。元祖ご当地アイドルと言われている新潟県のNegiccoはもともと、地域特産物のねぎをPRするために結成。今年で結成13年を迎えた。また、群馬県には人口の2割を日系ブラジル人で占める大泉町出身者などで構成するブラジリアン女性アイドルグループのリンダ3世がいる。
更に、鹿児島県には、九州新幹線鹿児島―博多間全線開業を記念して県内初の観光PRアイドルユニットとして結成されたS☆UTHERN CROSS(サザンクロス)もいる。彼女達の多くは、地域や周辺住民が参加するコミュニティイベントに出演。老若男女から慕われる存在となっている。
東京・秋葉原に誕生し、今や国民的アイドルグループになったAKB48グループ(SKE48=愛知・名古屋、NMB48=大阪・難波、HKT48=福岡・博多、NGT48=新潟)や、福岡・博多に拠点を置くHRのようにグループ専用の劇場を設けて活動する例もある。
モーニング娘。が下地を作った空前のアイドルブーム(注釈=90年以降のアイドルブームを指す)は、多くのアイドルグループが誕生したことから“アイドル戦国時代”とも呼ばれ、それはAKB48の誕生とともに幕を開けた。あれから10年。正当派アイドルから、仮面女子のようにインディーズシーンで活動する地下アイドルなど多種多様なアイドルグループが生まれた。
そのなかでご当地アイドルも次々と生まれ、その存在は年々大きくなっている。前記のAKB48や九州を拠点に活動するHRやLinQ。1000年に一度の天使として人気が高まった橋本環奈率いる Rev.from DVL。そして、ここ数年人気が高まっているNegiccoはもともと、地域に根差してライブやイベントなどに出演、地道な活動で手堅く支持を集めてきた。根強い人気の背景には地域・ファンとの密接な関係を構築できたからにある。
ご当地アイドルの役割は
そもそもご当地アイドルは「町娘」や「看板娘」がルーツ。そうを唱えるのは、前記のプロジェクトの発起人・BOSO娘のプロデューサーであるシーピーシーレコーズ代表の田所幸三さんだ。
「ご当地アイドルはその名の通り、その町に根付いて人々に元気を与える役割を持っています。諸説ありますが、古くから存在していた店の看板娘は、笑顔や元気さで店だけでなく町を明るくしたと言われています。それは現代にも通じるところがあると思います。その一つがご当地アイドル。本来のあるべき姿に返って役割を全うしたいと考えています」(田所さん)
田所さんがプロデュースするBOSO娘は、千葉県内在住の女性から構成される。それぞれ出身地の観光大使を務め、地域の活性化に貢献。昨年は、いすみ鉄道の車両を貸し切って「アイドル列車」を走らせた企画も展開した。
BOSO娘が出席するイベントには熱心なファンもいるが、年寄りや子供、女性の姿も多くみかける。今年初めに加入した本多なつきさんはもともとBOSO娘のファンで、ライブには母親が作ったお手製のBOSO娘コスチュームを着て観覧していたという。
そのご当地アイドルが手を取り合い、定期的にライブを行う意図はなにか。
「最近はよく先が見えない、という話を聞きます。景気は上向いても数年後どのようになっているか分からない閉塞感がどこかあるなかで、子供たちに夢を与えたいというのが本心にあります。夢が語られなくなって久しいですが、夢がなければ進むこともできません。アイドルに限らずエンターテイナーが輝いているからこそそこに夢が生まれ、憧れを抱く。憧れが持てれば自然と一歩を踏み出そうとします。チャリティを行ってその収益金を障がい者スポーツに役立てて頂くこともそうですが、子供たちにも夢や希望を与えたいと思っています」
アイドルがアイドルを生む
ご当地アイドルのなかでも、AKB48グループやNegiccoなどに憧れを持つ人も多い。その多くは「小さい時に観た彼女達の姿が輝いて見えたから」と答える。HKT48の矢吹奈子は指原莉乃の大ファンで、素人時代は握手会に何度も訪れていたことは有名だ。アイドルに憧れアイドルになる、アイドルがアイドルを生んでいるのである。
ご当地アイドルが生まれた背景は様々だ。最近では宮城・仙台を拠点に活動する“ご当地”バンド、ニホンジン(現在は劇団ニホンジン)のように地域に密着するバンドまでも誕生している。その意味は主に、町おこしであり、町に元気を与えることだ。ご当地アイドルが県外で活動したり、また楽曲が全国に知れ渡れば、県のアピールにもなる。
そうした意味においてご当地アイドルは、ブームに関係なく長く愛されていく存在なのかもしれない。田所さんはこうも話している。
「このプロジェクトがアイドルグループや県内に限らず、各地で派生していくことを願っています。地域の人々が元気になれば自然と地域産業は活性化されるはずです。あの頃、希望に満ち溢れていた東京五輪が再び2020年に開催されます。ここを目指して夢と元気が広がれば…」 【取材・木村陽仁】