今年は、エイベックスとサイバーエージェントが「AWA」を、ラインが「LINE MUSIC」を、アップルが「Apple Music」をそれぞれスタートさせ、定額制(サブスクリプション型)音楽配信サービスの元年とも言われている。音楽の消費形態はレコードからCD、ダウンロードと移り変わり、そして今、ストリーミングサービスへと変えつつある。

 音楽家の小室哲哉は、AWA発表会見時に「買ってもらう事から聴いてもらう事へ変わる。売らなきゃ売らなきゃという所から、沢山の人に聴いてもらう事の原点に戻れる。聴いてもらう時に襟を正す感覚になれる、最初に作って聴いてもらおうという意識が変わってくる」と定額制音楽に期待を寄せた。

 また、ミュージシャンのGACKTは、ネスレ日本と包括契約を交わした会見で「今、時代は大きく変わってきている。レコード会社とだけではなく、企業とアーティストがパートナーシップを組んで新たなチャレンジをすることができる時代になった。自分がミュージシャンとしての在り方の一例として、これからの活動を通して皆さんが驚くようなことを届けられたら」と音楽業界の変化を述べた。

 こうした音楽の変化は海外から始まることが多い。それでは、海外のアーティストは音楽の消費形態の変化にどう対応しているのだろうか。ここで一例を紹介してみたい。

アーティストが仕掛ける例

 米国のラッパーで音楽プロデューサーのJay Z(ジェイ・ジー)が運営している高音質のサブスク型音楽配信サービス「Tidal」(タイダル)がある。今年9月末に有料会員100万人突破したことを、自身のツイッターで公表した。「Tidal」はBeyonce(ビヨンセ)、Madonna(マドンナ)、Kanye West(カニエ・ウェスト)、Daft Punk(ダフト・パンク)たちを共同出資者とし、新作の独占配信などで他のサービスと差別化を図り、成功している好例とも言われている。

 同じく、同国のバンドであるNine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)のフロントマン、Trent Reznor(トレント・レズナー)は、2007年にリリースした7枚目スタジオアルバム『Year Zero』収録全曲をフルレンジして音楽配信サイト「My Space」(マイ・スペース)で無料配信した。

 続く『Ghosts I-IV』と『The Slip』のアルバムは自身のレーベルから発表し、デジタル音源は無料配布と一部有料で配布した。

 しかし、彼は無料ダウンロードするのみのリスナーの多さに失望し、2013年発表の10枚目スタジオアルバム『Hesitation Marks』はコロンビアレコードに移籍してリリースした。先に述べた「Apple Music 」の開発にも彼は関わっている。

アーティストへの還元で揺れる

 現在、世界で2000万人以上の有料会員をもつ、業界トップのサブスク型音楽ストリーミングサービス「Spotify」(スポティファイ)を一貫して批判してきたのは、英バンドのRadiohead(レディオヘッド)フロントマン、Thom Yorke(トム・ヨーク)である。

 彼は2013年に「Spotify」から、自身のソロ音源や、プロデューサーのNigel Godrich(ナイジェル・ゴドリッチ)らとのバンド、Atoms For Peace(アトムス・フォー・ピース)の音源を引き上げた。

 彼はツイッターで「君らがspotyfiで発見した新人アーティストには金が支払われてないかもしれない。一方で、株主には金が転がり込む。簡単な話さ」と引き上げた理由を述べている。

新たな奇策は

 Thom Yorkeは2枚目となるソロ作『Tomorrow's Modern Boxes』を2014年に突如、ファイル共有サービスである「BitTorrent 」(ビットトレント)でリリースした。Nigel Godrichはこのリリースについて「インターネットでの商取引の取り分を実際に作品を作っている人間の掌中に戻していく効果的な方法である」と述べた。このアルバムは6ドル(約710円)で発売され、「BitTorrent 」の取り分は10%だという。

 Radioheadは現在、9枚目となるスタジオアルバムをレコーディング中とされている。2007年にセルフリリースとなった、7枚目の『In Rainbows』の録音風景をyoutubeで上げたり、デジタルファイルダウンロードの価格を“up to you(アップ・トゥ・ユー=ご自由に)”として、リスナーに直接委ねる、画期的な方法でリリースしたりと様々な試みを行っている。

 常に音楽業界のマーケティングシステムにおいて一石を投じてきた彼ら。最新作ではどのような“奇策”でリスナーに届けるのか。聴く側の環境も左右されるだけに、動向が気になるところだ。  【文・松尾模糊】

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