EPOが明かす、シティ・ポップが国境を越える理由 名曲「う・ふ・ふ・ふ」誕生秘話も
『tiny desk concerts JAPAN EPO』
『tiny desk concerts JAPAN EPO』パフォーマンスの模様
『tiny desk concerts JAPAN EPO』が、5月31日NHKワールドJAPANで放送される。アメリカの公共放送NPRが生み出した、世界中のアーティストが憧れる音楽の聖地『tiny desk concerts』。その日本版である『tiny desk concerts JAPAN』に、80年代シティ・ポップ黄金期を築いたシンガーソングライター、EPOが登場。NHK放送センターの実際のオフィスを舞台に、モニターもリバーブもない「生音」のみで行われた異例のライブ。その収録現場と、直後に行われた囲み取材から、ベテランでありながら「初めての経験だった」と語る彼女の、音楽に対する真摯な想いを紐解く。
鳴り響くポップスのDNA
ライブの幕開けを飾ったのは「音楽のような風」だ。オフィスという日常の空間に、文字通り風が吹き抜けるような軽やかなサウンドが響き渡る。続く「土曜の夜はパラダイス」では、オーディエンスとのクラッピングによって、無機質なオフィスが一瞬にして高揚感あふれるライブ会場へと変貌した。
今回、これまでにも何度か一緒に演奏したこともある、現代の“ニュートロポップス”を牽引する4人組バンド、GOOD BYE APRILが参加。EPOは彼らを「ジャパニーズポップスのDNAを引き継いでくれている」と紹介し、ギタリスト・佐橋佳幸がプロデュースした彼らの楽曲「リ・メイク」を共に披露した。EPOの芳醇なコーラスが加わることで、楽曲に新たな彩りが添えられる。GOOD BYE APRILの倉品翔(Vo, Gt, Key)が、『tiny desk concerts JAPAN』でのパフォーマンスについて「特殊な空間でグルーヴがある」と話すと、EPOが「軽音部みたい」と楽しそうに応じる場面もあった。
ハイライトは、1985年のアルバムタイトル曲「ハーモニー」だった。東京都立松原高校の先輩であるアレンジャー・清水信之、そして後輩の佐橋佳幸という、長年の信頼関係で結ばれた3人のみの編成で届ける。それまでの祝祭的なムードから一変し、温かい静寂が場を包み込んだ。
クライマックスは、シュガー・ベイブのカバーであり、彼女のデビュー曲でもある「DOWN TOWN」。オフィスに響くシンガロングは最高潮に達し、ラストの「う・ふ・ふ・ふ」では会場が一体となる多幸感あふれるクラップの中で幕を閉じた。「音楽は気持ちを晴れ晴れとさせてくれるし、一緒に泣いてもくれる」――彼女が放ったその言葉を、身をもって体現するステージだった。
清水信之の設計図と、次世代への継承
囲み取材において、EPOは自身の音楽を支える根幹について言及した。特に清水信之氏の音楽性を「建築家」に例え、その異能ぶりを語る。
「彼の中には綿密な設計図があり、私の曲のピースがすべて頭に入っている」。その完璧な設計図があったからこそ、何十年経っても色褪せないポップスが成立したのだと振り返る。この「設計図」の読み解き方を、GOOD BYE APRILのような若い世代が「スポンジが水を吸い込むように」吸収していく様子を、EPOは「未来を感じる」と称賛した。かつての厳しいディレクターたちに鍛えられた時代の熱量が、今の世代にリスペクトを持って引き継がれていることに、彼女は深い誇りを感じている。
自分の「生の声」と向き合う挑戦
『tiny desk concerts』特有の、ヘッドホンもモニター用スピーカーもない環境は、百戦錬磨の彼女にとっても大きな挑戦だった。当初は自分の声が確認できず、「どこまでプッシュしていいのか探りながらだった」という。しかし、リハーサルで録音を確認した際、思い切って声を出すことで音が安定し、表現にバリエーションが生まれるという「発見」があった。特に「ハーモニー」の歌唱については、「こんなに繊細に、自分の出す声に責任を持ちながら丁寧に歌ったのは初めて」と述懐する。ごまかしの効かない「生の素の声」と向き合う経験。「完璧じゃなくてもいい。作品の意図を全うするために誠実に歌うこと」。それは表現者として新たな一歩を踏み出した感覚だったと彼女は語る。
国境を越える、音への「誠実さ」
昨今の世界的なシティ・ポップ・ブームについても、彼女の分析は鋭い。「当時は本当に丁寧に音楽を作っていた」。アレンジャーのオーダーをプレイヤーが誠実に再現し、土台をきっちり作る。その音に対する「誠実さ」こそが、国境を越えてリスナーを惹きつける要因ではないかと語る。「ポップスというのはどうやって出来上がっているのかということを、改めて再認識させられるブームだなと思う」と、自身にも発見があったという。
ただ、その中には厳しさもあった。ディレクターから何度もリテイクを出され、悩みすぎて高熱を出してしまったこともあった。意識が朦朧とする夢の中で生まれた曲が「う・ふ・ふ・ふ」だったと明かしてくれた。
実際にアメリカのクラブイベントのDJから「EPOの特集を組みたい」といったオファーや、アナログ盤のリリースの要望が届くなど、ブームを肌で感じつつも、彼女自身は「真面目にやってきてよかった」と静かに微笑む。
デビューから46年目。日々、日記を書くように音楽、言葉を紡ぐEPOは、これからも「今の年齢に似合った言葉」を同世代と分かち合っていきたいという。オフィスという日常の空間が、極上の音楽空間へと変わった魔法のような30分間。そこには、音楽の「原点」に立ち返り、晴れ晴れとした表情で歌う、一人の表現者の真実の姿があった。(取材=村上順一)
番組情報
【国際放送】 <NHKワールドJAPAN>
5月31日(日) 11時10分-11時39分、19時10分-19時39分
6月1日(月) 0時10分-0時39分、6時10分-6時39分
【国内放送】
11月以降にBSで放送予定(詳細は決まり次第お知らせ)
セットリスト
「音楽のような風」
「土曜の夜はパラダイス」
「リ・メイク」(GOOD BYE APRIL feat.EPO)
「ハーモニー」
「Down Town」
「う・ふ・ふ・ふ」
<出演>
Vo:EPO
Key:清水信之
Gt:佐橋佳幸
GOOD BYE APRIL
Vo / Gt / Key:倉品 翔
Gt:吉田卓史
Ba:延本文音
Dr:つのけん
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