「 声が戻ってきた――これはギフト」ASKA、深化する歌声をオフィスの一角から世界へ
tiny desk concerts JAPAN~ASKA~

熱唱するASKA
NHKで放送されている音楽コンテンツ『tiny desk concerts JAPAN』。そのSeason2の初回ゲストとして、シンガーソングライターのASKAが登場する。舞台は、NHKのオフィスの一角。ぎっしり並んだ楽器たちに囲まれ、どこか“おもちゃ箱”をひっくり返したような温かみのある空間に、約200人のNHK社員とスタッフが集結。まさにライブハウスさながらの熱気に包まれた。
【写真】『tiny desk concerts JAPAN~ASKA~』収録の模様
『tiny desk concerts JAPAN~ASKA~』は、NHKワールドJAPANで4月27日(11時10分〜、19時10分〜 28日0時10分〜、6時10分〜)、NHK総合では4月28日(0時25分〜)に放送される。そこには、普段のステージとは一味違う、アーティスト・ASKAの“今”があった。
「tiny desk concerts」は、米NPR(National Public Radio)が2008年にネット上で始めた音楽コンテンツ。“小さな机で行うライブ”という新しい発想で、テイラー・スウィフトやBTSといった世界的アーティストも参加し、瞬く間にブームに。そんな“本家”のライセンスを受け、NHKでは2024年に『tiny desk concerts JAPAN』が始動した。
藤井風、稲葉浩志(B’z)、KIRINJIらの出演も話題を呼び、いよいよSeason2が開幕。幕開けを飾るのは、初登場のASKAだ。ツアーメンバーと共に「はじまりはいつも雨」、「SAY YES」、「僕はこの瞳で嘘をつく」、「太陽と埃の中で」、「PRIDE」の5曲を披露する。
ライブは、ソロ作品でミリオン・セールスを記録した「はじまりはいつも雨」で幕を開けた。しっとりとしたエレピのイントロに続き、ASKAのエモーショナルな歌声がオフィスの空間を震わせる。ASKAの目の前にガンマイクはあるが、スピーカーを通さず、空間に直接響かせるような“生声”のパフォーマンス。ASKAは、「大学生の頃、ほったて小屋で歌っていた時を思い出した」と振り返る。
続いて披露されたのは、CHAGE and ASKAの大ヒット曲「SAY YES」を伸びやかに歌い上げ、「僕はこの瞳で嘘をつく」はスウィング感のあるジャジーなアレンジで披露。ASKAは椅子に腰掛けたスタイルでの歌唱に合わせ、今回の特別なアレンジを採用したという。
続いて「太陽と埃の中で」では、観客が自然と手を振り上げるほどの盛り上がりを見せた。もともとは揺れのある楽曲とのことだが、「今の自分が歌うと、前に進む力が強くなっている」と、ASKAは“今の声”で楽曲と向き合っていることを囲み取材で語り、まさにそれが伝わってくるパフォーマンスだった。
ライブ中、「ちょっと時間が余ったから、何かやろうか」と提案したASKAは、なんとその場で即興のメロディを披露する場面も。ASKAらしさあふれるソウルフルなフレーズが響き渡る。サポートメンバーに「いいメロディだったよね?」と笑顔。その場の空気ごと作品にしてしまう、トップアーティストならではの“凄み”が垣間見えた瞬間だった。
ラストは、自身の音楽の“原型”だと語る「PRIDE」を披露した。今、ASKAがこの曲を歌唱する中で最も大事にしているのは、「楽曲は存在しているので、それをどう再現するのか、気持ちよく歌えるか。この曲を知ってくれている人たちが再確認してくれる。何かを伝えようということは何もない」と語る。その言葉通り、心地よさと楽曲の持つエネルギーを感じさせるパフォーマンスで、空間を優しく包み込んだ。
ライブを終えたASKAは、「昨日リハをしてみて“ん!? ちょっと違うぞ”、今日現場に来てみてさらに“もっと違うぞ”」と何かを肌で感じ、もともと考えていたセットリストを少し変更したという。「長年やってきた分、柔軟に対応できました」と安堵の表情を見せた。
また、90年代のヒット曲を多数披露したセットリストについて、「以前は少し抵抗があったけど、今は“喜んでもらえる”と分かっている。だからこそ、楽しめるようになった」と語る姿からは、音楽と真摯に向き合い続けてきたアーティストの成熟が感じられた。
本番組はNHKワールド JAPANを通して、世界のおよそ160の国と地域に向けて発信される。アジアでも高い人気を誇るASKAは、海外に向けて歌うことについて、こう語っている。
「“海外進出”というより、世界で活躍している日本人の方々に向けて歌いたい。そういう境地にいます。アジアツアーにも、そういった方々が来てくれたら嬉しいですね」と話す。
キャリアを重ねた今、ASKAの歌声にはさらなる深化の兆しもある。
「最近特に思うんです。この年齢で、声が復活してきている。不思議だけど、それをリスナーも感じてくれている。これは僕に与えられたギフト。だからこそ、シャウトするような楽曲も、しっかり歌っておきたい」と歌うことへの意欲をのぞかせた。
奇跡のような空間で、唯一無二のパフォーマンスが生まれた『tiny desk concerts JAPAN~ASKA~』は、NHKワールド JAPAN(11時10分〜、19時10分〜 28日0時10分〜、6時10分〜)、NHK総合(4月28日0時25分〜)で放送される。【文=村上順一】
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