INTERVIEW

磯村勇斗

「発見があった」撮影を通して感じた家族のカタチ:ドラマ『演じ屋 Re:act』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:24年05月23日

読了時間:約9分

 俳優の磯村勇斗が、WOWOWで放送・配信される連続ドラマW-30『演じ屋 Re:act』(5月24日午後11時00分〜)に出演。痴漢の冤罪をかけられたところを演じ屋に助けられ、自身も加入することになった柴崎トモキを演じる。前作『演じ屋』のシーズン2に当たる本作。「演じ屋」とは客から依頼された役になりきるというまだ誰も知らない新たな職業。奈緒×磯村勇斗のW主演で贈るヒューマンストーリー。前作同様に監督・脚本を野口照夫氏、音楽を花岡拓也氏が担当する。インタビューでは、シーズン2にどのように取り組んでいたのか、撮影の裏側や本作を通して気付いたこと、役者として大切にしていることについて、話を聞いた。(取材・撮影=村上順一) 

過酷だった猛暑での撮影

村上順一

磯村勇斗

――続編が決まったと聞いた時に、どのような心境でしたか。

 『演じ屋』シーズン1を多くの方に観ていただけたんだなと感じました。すごくありがたく思っています。みんないろいろな経験を経てパワーアップして集合するんだろうなと思いましたし、新キャストも加わり、また違った形の『演じ屋』をお見せできることへのワクワク感もありました。

――トモキにはすんなり戻れましたか。

 演じ屋ファミリーと会った時、いい意味でみんな変わっていなかったので、その雰囲気も含めて自然と戻ることができました。

――特にそう感じた瞬間は?

 セイル(演・永瀬ゆずな)ちゃんが身長を含めてあまり変わっていなかったのですが、その姿を見て「戻ってきたんだな」って感じましたし、そこで安心したといいますか。でも中身は大人になってましたね。以前よりちょっと距離を保ちながら大人と接していた感じがあり、それを見て成長したんだなと思いました。

――トモキは前作では復讐というのがありましたが、今回は違いますよね。

 今回は復讐心というよりは、演じ屋ファミリーの1人として任務を遂行していく、家族というところにフォーカスを当てて演じていきたいと思いました。

――演じ屋ファミリーに溶け込んでいて。

 そこは間違いなくあると思います。ちょっと慣れてきているというか、きっとシーズン1とシーズン2の間にトモキもファミリーと一緒に仕事をしていたと思うので、少しファミリーに馴染んでいる、そういう雰囲気を出していきたいと思っていました。

――公園のシーンは暑そうでした。

『演じ屋 Re:act』場面写真

 夏だったのですごく暑くて大変でした。外のロケも多くてきつかったんですけど、ホームレスを演じるシーンは、愉快な人たちが集まっていたので、重いシーンではあるのですが、ワイワイやって非常に明るくていい現場でした。

――暑さ対策はどんなことを?

 まずは日陰に入ることです。何か身体を冷やせるものがないか探していたら、ネットでいいアイテムを見つけました。脇に挟む保冷剤みたいなものなのですが、「これだ!」と思い、それをずっと付けながら演じていました。

撮影を通して感じた家族のあり方

村上順一

磯村勇斗

――さて、シーズン2での奈緒さんの印象は?

 シーズン1と比べるとシーズン2は、奈緒さんと一緒になるシーンは少なかったのですが、アイカの破天荒な感じ、自由気ままなところはシーズン2もしっかりありました。僕はアイカとは逆の方向でいきたいと思っていたので、お互い空気を読みながら、いいバランスでできたんじゃないかなと思います。シーズン1を経験しているからこそ、話さずともお互いのキャラクターを出しながら、しっかり成立するようなコミュニケーションを、セリフを通して行っていたような感覚があります。

――シーズン1と比べるとストーリーが、シリアスになってきた感じを受けました。

 今回はホームレスの実態といった部分、社会から追い出されるところも描いています。殺人や偽装家族の部分にも触れているので、テーマとしてはシーズン1よりシリアスになっていると思います。でも、明るくポップな部分も残っていたりするので、絶妙なバランスだったと思います。重いテーマを扱っていることは意識しつつ、そこに引っ張られないようにしていました。

――今回、ストーリーを通して、新しい発見や気付いたことなどありましたか。

『演じ屋 Re:act』場面写真

 家族のカタチについて発見がありました。この業界に入る前までは、家族って絶対に血の繋がっているものという認識でした。そうじゃないカタチがあるというのを改めて知っていく中で、「家族って何だろう?」と深く考えるようになりました。養子などもありますし、血が繋がっていることがイコール家族ではないんだっていうのはこの作品を通して強く感じました。

――絆みたいなものが重要になってきますね。絆を感じる瞬間はありますか。

 絆をあまり意識したことはないのですが、自然と絆を感じる、絆って血に変わるものなんだろうなと思います。それは魂の中で繋がれる部分といいますか、それを言葉でどう表現していいのかわからないのですが、会いたくなるような人、戻りたくなるような場所があるときは、絆を感じているのかも知れないです。

――『演じ屋』ファミリー、チームは絆で繋がってるんですね。

 演じ屋ファミリーの絆は大きいと思います。1番幼いセイルを守るという、共通している意識があるからこそ、家族として生きなければという強い思い、それが絆になると思うのですが、それが演じ屋ファミリーにはあります。

――「演じることで 人々の心は救えるのか」というキャッチコピーがありますが、磯村さんは演じることで人を救うことはできると思いますか。

 闘病中の方から僕が出た作品を観て、生きる勇気をもらった、治療がんばりますといったお手紙をもらいました。それを見ると少しは救う力になれているんじゃないかと思うときはあります。なので、演じることで誰かを救う力、エネルギーはあると思っています。

「圧倒的にカメラに耐える」海外俳優の凄み

村上順一

磯村勇斗

――MusicVoiceでは音楽についてお聞きしているのですが、磯村さんは普段どのような音楽を聴いていますか。

 最近はビートルズとカーペンターズを聴いています。中学生ぐらいの頃によく聴いていた曲で、懐かしくて今また聴いています。すごく落ち着けるんです。

――ビートルズとか好きになったのはご両親の影響ですか。

 親からの影響ではないです。僕は古着が好きで古着屋いくと80年代、70年代の曲が店内で流れていることが多くて。そこでよく耳にしていたので、興味を持ち始めたのがきっかけでした。

――この曲を聴くと元気になる、モチベーションに繋がるという曲はありますか。

 モチベーションに繋がる音楽はマルーン5の曲です。マルーン5は全体的に明るい曲が多くて、聴いているとモチベーションがあがります。

――さて、先ほど演じることで助かる人、救える人はいるのか、という話題がありましたが、磯村さん自身がこの芝居に助けられたといった経験はありますか。

 物心ついたときから、芝居として見てきたので、それで助けられたという経験は僕自身まだないかもしれないです。

――刺激を受けている感じですね。

 どういう芝居をするのか、その人から学ぶみたいな感じで、インスパイアされる部分はあると思います。

――ちなみにどんな方のお芝居がすごいなと感じられていますか。

 海外の役者さんはすごいなと思いました。たとえば映画『オッぺンハイマー』にも出演していたキリアン・マーフィーがすごく好きなのですが、役に向けてストイックに準備していく姿とかプロだなと思いました。圧倒的にカメラに耐えるんです。それってすごく難しいなと思っていて。

――カメラに耐える、具体的にはどのような感じなのでしょうか。

 すごく抽象的な答えになってしまうのですが、カメラの前でのパフォーマンス力というか、如何にそのカメラに対して耐えられるかみたいなことが重要な気がしていて、海外の皆さんはそれができているんです。僕はそれを追求しているところなんです。

――作品によっても変わるとは思うのですが、磯村さんは撮影の準備をされるとなったら、どんなことをされますか。

 おっしゃる通りそれは作品と役によって変わります。役によって習得するものがあれば、必要に応じてそれを習得したりします。

――『演じ屋』の準備としてはどんなことを?

 シーズン1で、1度経験していたので、その感覚を思い出すといった感じでした。また、演じ屋ファミリーの方々は自由な人が多いので、 柔軟に対応していくことを大事にして臨みました。

――演じていて自分を見失う瞬間といいますか、役に入りすぎてしまうこともありますか。

 気づかないところでは起きていて、そういう瞬間は人から言われて気づいたのですが、何回かあった気はします。記憶が新しいところでは、映画『月』の時なのですが、マネージャーさんにその時は声をかけられなかったって言われました。マネージャーさんは、日々いろいろな自分を見ているので、素の時の自分を知っているからこそ、いつもと違うと思ったんじゃないかなと思います。

――磯村さんが役者として一番大切にしていることは?

 いろいろあるので、ひとつに絞るのは難しいのですが現場です。いくら事前に準備をしていったとしても、 現場に行ったら相手もいますし、そこでどれだけ柔軟にできるかというのは大事にしていることで、大切だなと思っています。

――こういうものだと決めつけて入らない方がいいですよね。

 決めつけない方が圧倒的にやりやすいと思います。演じる側もだし、相手側もそうだと思います。基本そういうスタンスで行くけど、ポイントで準備したものをやるとか、しっかり準備した上でフラットな感じで入っていく方がいいかなと思っています。

――『第47回日本アカデミー賞』で、最優秀助演男優賞を受賞されましたが、これからどんな目標を持って活動していきたいと考えていますか。

 ありがたいことに賞をいただいて率直に嬉しい気持ちはありますが、浮かれては全くなくて。それは作品をみんなと一緒に作りあげたことへの評価だと思うので、自分だけではなく、監督やスタッフさん含め一緒に頑張ったという思いが強いからです。また、頑張っていかなければといったプレッシャーもあります。今年も自分が出演させていただく、いろいろな作品が公開される予定なので、しっかり見てもらえるように頑張りたいと思います。

(おわり)

ヘアメイク:佐藤 友勝
スタイリスト:笠井 時夢

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