INTERVIEW

芋生悠

トラウマを抱えるヒロイン役で感じた稀有な体験「楽しかったけど苦しかった」:映画『こいびとのみつけかた』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年11月01日

読了時間:約6分

 女優の芋生悠が、映画『こいびとのみつけかた』(10月27日公開)に出演。ヒロインの上尾園子を演じる。本作は『まともじゃないのは君も一緒』の前田弘二と脚本家の高田亮が贈るおかしな二人の物語第二弾。世の中に馴染めない変わり者二人が繰り広げる恋の物語で、主演の倉悠貴に加え成田凌、宇野祥平らが脇を固める。インタビューでは、楽しい撮影だったが終わった後に身体が重くなったというその理由から、園子を演じるにあたり考えていたことについて話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

何かが蓄積されていってるような感覚

村上順一

芋生悠

――脚本を読んだときの印象は?

 物語がこの先どうなっていくのか気になるくらい脚本にのめり込んで読んでいました。私はオオシマトワと園子の 2人の関係がすごく好きです。2人が現実の世界を逃避行しているような感覚、現実に戻ったときに生きやすい世界になっているのかというところが、2人の行末だけの物語に収まらない部分だと思いました。実際に園子を演じてみると2人はちゃんと幸せになっていけるんじゃないか、という希望を感じられたことがすごく嬉しかったのを覚えています。

――共演された倉悠貴さんはいかがでした?

 2人のシーンが多かったので、ずっとわちゃわちゃしていて、撮影をしているというのも忘れてしまうぐらい、2人の時間は楽しかったです。

――撮影を通してどのようなことを感じましたか。

 園子は楽しいだけじゃなくて過去の出来事だったり、トワといる時間がこのまま長く続いてもいいのか、などいろいろな感情があるのですが、一緒にいる時間は楽しいんですよね。私自身は演じている中で心はいろいろなものを感じとっていて、楽しい時間はすごく楽しいけど、ふと我に返ったときにどっと身体が重くなるみたいなことが撮影をしていてありました。園子自身と私がリンクしている感じがあっておもしろい経験でした。

――そういうことは珍しい?

 はい。そんなに多くはないです。逆に苦しい撮影だけど楽しかったことはあります。今回はそれとは逆の感覚で、何かが蓄積されていってるような感じがありました。

――今回役にアプローチするにあたり事前に準備されたことは?

 園子は歌と創作物をずっと作っているような人物、何かを表現して自分の中で昇華する女の子だと思ったので、撮影に入る前に自分の感情みたいなものを書き起こしたりしてました。また、自分も絵を描くので、園子と同じような生活をしてみたり。

――園子の近づくためにいろいろやられて。

 はい。私は絵を描いているとどんどん塗り重ねていくことで、自分の気持ちとは違うものが出来上がるタイプなんです。園子は葛藤をそのまま立体の作品にしていきますが、いろんな創作物があるので、もしかしたら自分と近いものもあるかもしれないと思いました。

――トワは個性的な人物なのですが、芋生さん自身が惹かれる部分はありますか。

 あります。トワは新聞の記事をすごく大事にとっているのですが、自分にとって大事なもの、大切なものがある人はすごく魅力的だなと思います。トワは自分の中に言葉を溜めていて、それを自分の鎧みたいにしているところも魅力的ですし、おもしろいだけではなくすごく繊細さも感じましたし、守ってあげたいと思いました。

――母性が出てしまうような人物なんですね。トワは大人ですけど心は少年だなと思いました。大人になって園子を誘導するために葉っぱを道には並べないと思うんです。

 トワは行動力があるといいますか、あれができる人ってなかなかいないと思うので、私はかっこいいと思いました。物語はその行動から始まっていますし、トワが葉っぱを並べ切ったからこそ、園子は何か希望を感じてその葉っぱを辿っていったと思うんです。

――そのときの笑顔も印象的でした。

 行き着いた先にいたのがトワで、不思議だけど笑顔になってしまった瞬間です。何かを感じてトワの元へ行った園子もすごくかっこいいですし、この2人だからこそ、この物語が成立しているなと思いました。

――演じるにあたって監督からのリクエストはありましたか。

 トワといる時間を純粋に楽しいと感じられる、風や木のゆらめきなどを純粋に感じ取れる人であってほしいというのがありました。私はそれを聞いて園子の人間らしさみたいなものが浮かび上がってきました。心の中でいろいろなものが動いている人なんだ、というのが監督からの言葉で納得できる部分がありました。

表現することによって自分が生かされている感覚がある

村上順一

芋生悠

――確信に変わって。芋生さんが印象的だったシーン、注目してほしいと思うシーンは?

 台風のシーンです。男女が1つ屋根の下にいるんですけど、どこか子犬を拾ったみたいな感じといいますか、男女というよりは園子が震える子犬を包み込んであげているような感じがして印象に残っています。

――私は歌のシーンに注目したいのですが、弾き語りは大変だったみたいですね。

 弾き語りはやったことがなく、初めてだったので苦戦しました。3〜4 回くらい先生に教えていただいて、あとは自分で先生の手元を映した動画を見ながら練習しました。歌はまだなんとかなりそうでしたが、ピアノは触れたことがなかったので難しかったです。

――曲のタイトル「つまらない世界」も園子らしさがあって印象的でした。

 「つまらない世界」というタイトルすごく好きで、途中でラップみたいなものが入ってくるのですが、そのパートも気に入っています。「つまらない世界」を披露するシーンは、あらためて園子ってそういう人なんだよねと思わせてくれたシーンでした。

――「人はみんな自分の曲を1曲は持っているの」という園子の言葉はグッときました。

 生きてる人たちみんなが表現者だというのが、園子の中にあるのかなと思いました。

――人間は何かを表現するために生まれてきた、と話す人もいますから。

 もしかしたら、生きるために表現をするのかもしれないです。

――芋生さんはお芝居はもちろん、空手もやられていますし、絵も描くのもお好きで表現できる幅が広くて羨ましいです。

 何かを表現することによって、自分が生かされている感覚があって、表現することと生きることは切っても切れない関係だなと思います。その中でお芝居は、私にとってなくてはならないものになっています。

――次にやってみたい役はありますか。

 いまやってみたい役が一つあるのですが、それは絶対に叶うといいますか、自分で叶えさせようと思っているので、まだ秘密にさせてください。伏線をはっておきますので、次に取材していただいたときに報告します(笑)。

(おわり)

作品情報

『こいびとのみつけかた』

監督:前田弘二
脚本:高田亮
音楽:モリコネン
出演:倉悠貴 芋生悠 成田凌 宇野祥平 川瀬陽太 奥野瑛太 高田里穂 松井愛莉
2023年/日本/99分/5.1ch/スタンダード
©JOKER FILMS INC.
制作プロダクション:ジョーカーフィルムズ、ポトフ
企画・製作・配給:ジョーカーフィルムズ

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