INTERVIEW

安達祐実

「愛情の研ぎ澄ませ方が素敵」異色コメディ作品から感じたこと:映画『春画先生』


記者:村上順一

写真:冨田味我

掲載:23年10月26日

読了時間:約8分

 女優の安達祐実が、映画『春画先生』(10月13日公開)に出演。安達は内野聖陽演じる芳賀一郎の亡き妻である伊都の姉、藤村一葉を演じる。同作は主演に内野聖陽、ヒロインに北香那、共演に柄本佑、白川和子、安達祐実を迎えた。本作は、映倫審査で区分【R15+】として指定を受け、商業映画として全国公開される作品としては、日本映画史上初、無修正での浮世絵春画描写が実現。好きなものにのめり込んでいくおかしな者たちを描く異色の偏愛コメディ作品となっている。インタビューでは、本作のテーマとなっている春画に対するイメージから、偏愛しているものは仕事だと語る安達祐実の今に迫った。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

内野さんに鞭を打ってから本番に突入

冨田味我

安達祐実

――今回の役は作品のキーになる人物だと思います。どのような気持ちで臨みましたか。

 細かく役について聞いてはいたんですけど、春画をテーマにした映画というのはなかなかないですし、役についても一葉と双子の妹の伊都の2役ということで振り幅も大きいですから、それはすごく楽しそうだなと思いました。

――双子というところで近しい人物像になると思うのですが、演じるにあたり心がけていたことはありましたか。

 双子ってすごく動きがシンクロしたりとか、離れていても繋がっているところがあるというのはよく聞くんですけど、一葉と伊都はそれとはちょっと違うのかなと思いました。伊都がどう感じていたか分からないけど、一葉の見た目は伊都と同じなのに、どうしてこうも違うんだという思いがずっとあったのでは? と思っていました。芳賀のことに関してもそうで、一葉と伊都の見た目は同じなのに「なぜ私じゃいけないんだ」とか。そういう切なさを、ずっと抱えて生きている人なのかなと考えていました。

――役にアプローチされるときは、その人物の背景みたいなのをすごく考えられる?

 私は考えていない方だと思います。直感型と言いますか、脚本を読んだ時に感じたまま演じることが好きなんです。ですので、すごく掘り下げている方からしたら、何も考えていないと思われることもあると思います(笑)。台本を読んだ時に私が感じたことというのが、素直な感情の流れだと思っていて、それを表現できれば見てくれた方も同じように感じることができると思っていて。役によって変わりますが、台本から読み取れない時は、背景を考えたりします。

――それこそドラマ『家なき子』の頃は直感ですよね。

 直感だったと思います。

――そのときの感触、成功体験が今も残っているのかもしれないですね。

 そうかもしれないです。当時はお芝居についてよくわかっていなかったですし、演出家の方とかスタッフさんが導いてくださったという感じでした。

――安達さん演じる一葉はどんな人物ですか。

(C)2023「春画先生」製作委員会

 知り合いに「今、どんな役やってるの?」と聞かれた時は「SMの女王役です」と答えていました(笑)。でも一葉はすごく愛情深い人だと思います。芳賀に対しての愛情で、それこそ北(香那)さん演じる春野弓子も芳賀のためだったら何だってやると言っていますが、それは一葉はも同じなんです。成就しない愛に対して愛情を惜しみなく注いでいる人だから一見怖そうですし、すごく冷たくていじわるに見えるけど、もしかしたら登場人物の中で一番愛が深い人なんじゃないかなと思いました。

――それがちょっとねじ曲がった方向にいってしまったと。ところで、春画について感じたことはありますか。

 春画に触れたことはないのですが、もちろん存在は知っていますし、どこかでいくつか目にしたこともあると思いますが、注目して見るということがなかったですし、この映画に参加するまではちょっとエロスの方向だと思っていたので、じっくり見てはいけないのかなみたいな気持ちもありました。今回映画を通して触れてみて春画に対するイメージはすごく変わりました。

――私も変わりました。芳賀が春画として描かれた女性ではなく、その背景に注目しているのもすごく印象的でした。

 本当にそうですよね。春画もそうですけど、違う視点、もっと違うところに目を向けてみるとか、そうすることによって違う世界が見えてくる。そこにある美しさとか、春画で言えば感情が細かいところに宿っているというのはすごく面白いなと思いました。

――撮影の中で一番大変だったことは?

 鞭を打つシーンです。なるべく痛くないように当てなければいけなかったので、それは難しかったです。撮影時間が長かったので、集中力を切らさないようにするのも大変でしたが、みんなが1つのゴールに向かって進んでいっていることが感じられて、すごくいい状態で撮れたなと思っています。

――このシーンでは内野さんや北さんとのやりとりもありますが、事前に話していたことはありましたか。

 内野さんに鞭を打つとき、当たりどころが悪かったら絶対に痛いので、どうしようかと思っていたのですが、内野さんが「もっとやって大丈夫。僕も気合が入るからもっとやっていいよ」みたいなことを言ってくださって。スタートがかかる前に2〜3発内野さんに鞭を打ってから本番に突入することもあったので、それによってお互いグッとその世界に入ることができたと思います。

――撮影を通して発見や気づきはありました?

 一葉に限らずですが、映画全体を見てみんなががむしゃらに、ひたむきに自分の求めるもの、愛するものに対して一途なところがすごく美しいなと思いました。芳賀と弓子のようにぴったり合うというのはなかなかないことですし、愛情の研ぎ澄ませ方がすごく素敵なんです。改めてちょっと変わった形ではあるのですが、それが故に純粋で美しいなと思いました。

過去の自分に感謝したい

冨田味我

安達祐実

――本作は偏愛や探求などキーワードがあると思います。安達さんは偏愛しているものはありますか。

 すごく詳しいものとかはないんです。ずっと続けていることも仕事以外にないですし、きっと役者以外のことはできないんだろうなと思います。

――長いキャリアの中でお芝居への気持ちが前に向かない時もあったと思います。そういう時はどう乗り越えてきたのでしょうか。

(C)2023「春画先生」製作委員会

 方法を変えてみるということです。たしかに仰る通りお芝居が楽しいと思えない、ちょっと離れたいなと思う時期もあるんですよね。もしこの仕事ではなくても生きる術があるならもうやめてもいいかも...と考えた瞬間もありました。その時に私は「お芝居は好き?」と自問自答したりします。それでもわからないときは、お芝居のやり方が今の自分に合っていないのかもと考えて、違う方法を試してみることで新たな面白さが発見できるんです。

――安達さんの原動力になっているものは?

 とにかく今がすごく楽しいです。役だから制限は当然あるのですが、その中で自由にやらせてもらえている感じがしています。おそらく私のキャリアを含めて自由にやらせていただけているところもあるので、それは役者を長く続けてきた自分のこと、過去の自分に感謝したいです。今回は割とセリフの節回しも決めてやっていますが、時にはそういうことも考えずにただ喋ってみるといった場面もあります。何をやっても許されると言ったらあれですけど、みなさんが、それをちゃんと受け入れてくださるというのが、すごくありがたくて嬉しいです。そういう環境が原動力に繋がっています。

――最後にこの作品を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

 登場人物がすごく魅力的ですし、きっとこの作品を観て春画へのイメージが変わると思います。すごく崇高なものを見ているような感覚にもなりますし、なぜか笑えるところもある異色のコメディ作品だなと思っています。この映画にしかない魅力を皆さんにも味わっていただけたら嬉しいです。

(おわり)

スタイリスト: 船橋翔大
ヘアメイク:NAYA

衣装:
ドレス86,900円 TOGA PULLA イヤリング17,600円 TOGA ARCHIVES(ともにTOGA 原宿店)
スニーカーブーツ28,050円 VEGE(VEGE)
ソックス3,300円 leur logette(BRAND NEWS)

問い合わせ
TOGA 原宿店  03-6419-8136
VEGE  03-5829-6249
BRAND NEWS  03-3797-3673

作品情報

映画『春画先生』(10月13日公開)

出演・内野聖陽 北香那 柄本佑 白川和子 安達祐実
原作・監督・脚本:塩田明彦
製作:中西一雄 小林敏之 小西啓介
プロデューサー:小室直子
共同プロデューサー:関口周平
ラインプロデューサー:松田広子
音楽:ゲイリー芦屋 撮影:芦澤明子(JSC)
照明:永田英則 録音:郡弘道 美術:安宅紀史
装飾:山本直輝
スクリプター:柳沼由加里
衣裳デザイン:小川久美子 衣裳:白井恵
ヘアメイク:齋藤美幸 編集:佐藤崇 サウンドエディター:伊東晃
VFXプロデューサー:浅野秀二 VFXディレクター:横石淳
助監督:久保朝洋
制作担当:宮森隆介
宣伝プロデューサー:大﨑かれん
製作:『春画先生』製作委員会(カルチュア・エンタテインメント、TC エンタテインメント、ハピネットファントム・スタジオ)
企画・製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
制作プロダクション:オフィス・シロウズ 配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
2023/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/114 分 
(C)2023「春画先生」製作委員会

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