INTERVIEW

市原隼人

「こんな生き方をしたい」自身が演じる甘利田幸男への憧れ


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年10月09日

読了時間:約7分

 俳優の市原隼人が、ドラマ『おいしい給食 season3』(全10話・テレビ神奈川、TOKYO MX、BS12 トゥエルビ、TVer他で10月から順次放送)に出演。season1、season2に続いて給食マニアの教師・甘利田幸男を演じる。2019年に放送を開始した「おいしい給食」シリーズは、市原演じる“給食を愛する中学教師”甘利田と、ライバル生徒による給食バトルを軸にした「笑って泣ける学園食育エンターテインメント」。season2でライバルの神野ゴウ(演:佐藤大志)が中学を卒業。season3では甘利田は本州を飛び出し、北海道・函館の地で甘利田の新たなライバルとなる粒来ケン(演:田澤泰粋)と給食バトルを展開。インタビューではseason3に臨む姿勢から、ドラマや劇場版などを通じて感じてきた市原にとっての甘利田は、どのような存在なのか話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】


役に入り込み過ぎて「意識が飛んだ」と明かす市原隼人。
給食マニア・甘利田のぶっ飛び具合は更にパワーアップ!

出し惜しみを一切しない

――『おいしい給食 season3』がいよいよ始まります。今どのような気持ちで放送を待っていますか。

 精一杯、尽力いたしました。届けられる日が楽しみです。season3を作るというのはseason1の頃には夢にも思っていなかったことです。season2ができたことも本当に光栄なことだと思っていますし、さらに輪をかけてseason3を作らせていただけることは本当に奇跡だと思っています。本当にこれ以上ない感謝の意に堪えず、続編を熱望して下さったお客様に恩返しがしたいという思いでいっぱいでした。でも、その思いが募れば募るほどプレッシャーと言いますか、ちゃんと返せるだろうかと不安もありました。そして、なにより大きいのは体力の心配です。「おいしい給食」の撮影はとてもハードなので「体力が持つのか!?」と思いながら戦っていました。

――市原さんは“昨日の自分を超えていく”というスタンスをお持ちじゃないですか。もちろんそのスタンスで臨んでいるわけで。

 気持ちはそういきたいです。出し惜しみを一切しないと監督とも話して、今できるもの全て出して、それを超えていけばいいと。そうやって常にやっていたのですが、途中でキャパオーバーしてしまうこともありました。原作がないオリジナル作品というのは本当に稀になってきて、ここまで支持していただける作品はなかなか少ないです。その環境に感謝しながら現場でいろいろなものを生み出していけるので、そこに妥協は一切したくない。「使われなくてもいいので、いろいろ挑戦していきましょう」ということを監督と話をしながら撮っていきました。

――映像からもその姿勢が伝わってきました。

 season3もこれまでと同じく給食のシーンは8割ぐらいはカットです(笑)。どんなに動いて食べて喋っても使われるのはだいたい2割くらい。給食のシーンは1日給食を撮るだけの日になります。僕側を撮るのはだいたい午後4時ぐらいからなのですが、朝から現場に入り、先に子供たち側のリアクションの撮影から始めます。子どもたちには時間のリミットがあり、その時も僕は映らないカメラの横で全力で芝居をしているので、自分の撮影が始まる頃にはボロボロの状態なんです(笑)。

――やはり給食のシーンは過酷なんですね...。

 子どもたちと一緒に本気で作品を作っていきました。撮影に入る前、初めて子供たちと会った時に、「役者、舞台やドラマ、映画のようなエンターテインメントというのは、衣食住の中に入っていないので、もしなくなったとしても人は生きていけてしまう。だからこそ集団で創る作品や個の存在意義を追求し、必要とされるために奮闘するのが僕らの仕事なんです。僕らを必要としていただくためにこの先何をすべきか、一緒に見出していきましょう」と話させていただきました。クランクアップの時には子どもたちも涙を流して、「参加できてよかったです」と仰ってくれたので、本当にいい時間を共に過ごせました。充実感で溢れています。

――見どころは?

 『おいしい給食』ファンの皆さまに求めていただいている要素は全て入っています。そこに新たなヒロイン、新たなライバル、新たな環境が加わります。北海道の函館での新たな甘利田をぜひ楽しみにしていただきたいです。また、冒頭で実は甘利田は寒がりで極端に寒さに弱い、というナレーションから始まるのですが、それだけで僕はもう面白くて。

 そして、1980年代が舞台なのですが、この時代はとても人間味があると思うんです。人間の隙みたいなものが見えて、それが僕はすごく好きなんです。いま令和の時代はSNSとかインターネットがますます普及していきますが、昭和の時代はどんなことに対してもフェイストゥフェイス。顔を合わせながら物事を進めていくからこそ見えてくるチャーミングな人間くささがseason3でもたくさんあります。season1、season2ではありえなかった強烈なキャラクターも新たに増えているので、甘利田以外の登場人物にも楽しんでいただきたいです。

――神奈川出身の市原さん。函館という場所に思い出はありますか。

 現場の近くにお寿司屋さんがあって、たまたまそのお店に入ったんです。そうしたら「17年ぶりですね」と声をかけてくださって、僕は「えっ?」ってなって……。確かに、若い時に仕事で函館に来た時に道中で寄ったお寿司屋さんで、人生で一番美味しいと思ったお店があったのですが、その時もたまたま入ったお店で、しっかり覚えてはいなかったのでびっくりしました(笑)。そのお店で頂いたお寿司がすごく美味しくて、やっぱり人生で一番なんじゃないかと思いました。改めて食の宝庫だと実感しました。

――他にはどんなものを食べられました?

 撮影中は、体調管理のためや余計なことを考えずに芝居に集中するために、食事もルーティンにしてほぼ決まったものしか食べないので食べられなかったのですが、函館ロケが終わり帰京する日に、いろいろ頂きました。まず朝早く起きて海鮮を食べ、もう1つ食べたいと思い、また別の海鮮のお店に行き、更にそこからラーメンを食べて、最後にラッキーピエロにも行きました。

市原にとっての甘利田とは?

――最終日は怒涛のスケジュールでしたね。さて、甘利田先生のポイントとして、コミカルな動きがあると思います。

 臨機応変に現場にあるものを全て使って甘利田の表現をしたいと思っています。笑われても、滑稽な姿だとしても、好きなものを好きと胸を張って人生を謳歌する甘利田の姿を皆さまに見ていただいて、人生の活力にしていただきたいんです。

――新たなライバル粒来ケン役の田澤泰粋くんはいかがでした?

 神野ゴウ(演・佐藤大志)とは全く違う魅力をまとったライバルです。泰粋自身も食べることが大好きで給食のシーンが終わっても、おかわりをして食べているんです。そして、彼はすごく頭が切れます。何かヒントを見つけるとすぐに台本にメモをとり、台本も付箋だらけで。一生懸命に作品と向き合っている姿に感動しました。僕ももっと頑張らなければいけないなと奮い立たせられましたし、純粋無垢な姿に心を洗われました。

――新たなヒロインとして参加している大原優乃さんはいかがでしたか。

 優乃ちゃん演じる比留川愛先生はseason1、season2 とはまた違った新たな魅力をまとった女性です。愛先生は帰国子女で考え方も甘利田とは違ったり、season3ならではの華を添えてくださっています。優乃ちゃんは自分の撮影が終わっても現場に残っているんです。「もう少し現場を見ていたい」と、こんなにも作品に愛情を持って真摯に向き合ってくださる事がすごく嬉しかったです。お芝居も繊細でしっかりと目の奥を見て向き合ってくださる方で、この先もこんな女優さんにお会いできることはなかなかないんじゃないか?と思うほど素敵な方でした。

――泰粋くんとの掛け合いのシーンは、話し合いなどを行ったりしましたか?

 給食を食べているシーンは事前にある程度構築していかないと難しい撮影なので、僕はリアクションやナレーションの抑揚など一連の動きを全て構築してから現場に入ります。踊りやリアクション、立ち位置と見せ方をプレゼンしていくのですが、そこで泰粋のリアクションを見て変えていくこともあります。面白いのが、泰粋くんは出会った瞬間から“甘利田イズム”が入っていました。そして、理解力が高く現吸収が速い。食べる動きも一口が大きい。そして何よりおいしそうに食べていて、いい意味で遠慮もしないし、変に委縮もしないんです。自由な泰粋の芝居に僕がついていったり、逆に僕の芝居についてきてもらったり、そういったことが阿吽の呼吸でできるような関係性になっていました。

――市原さんにとって甘利田とはどういう存在なんですか?

 僕の憧れです。 今はどんどん規律や規制が増えていく中で、人間味というものが失なわれかけている時代です。甘利田は昭和の時代にあった日本ならではの美しさ、古き良き心、侘び寂びを持ち続けている男でもあるんです。ある意味ロマンチストで給食に翻弄されながらも、自分の好きなものに向かって人生を注ぐ。孤独な男でもあるのですが、自分もこんな生き方をしたいと思わされます。

 社会で生きていくうちに、自分の気持ちを隠しながら生きている部分もあると思います。集団生活の中で自分の欲を出したり、自分の意見を言ったり思いの丈を述べることを遠慮したり躊躇することが増えていると感じています。甘利田のように好きなものを好きと胸を張って言うことは、誰に笑われようが滑稽だろうが、そこに理解なんていらない。自分だけが感じられる喜びにひたむきに向かっている姿はすごく素晴らしいと思います。

(おわり)

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村上順一
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