INTERVIEW

吉本実憂

「感情が一番大事」改めて痛感した芝居の心得


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年07月09日

読了時間:約13分

 現在公開中の光石研主演映画『逃げきれた夢』での演技が好評の吉本実憂が、7月14日より東京芸術劇場 シアターウエストで上演される演劇企画集団Jr.5第15回公演『明けない夜明け』に出演する。三姉妹の三女・茉菜を演じる。本作は、2022年8月に下北沢・駅前劇場で上演した第13回公演『白が染まる』に続く物語。本作『明けない夜明け』は、ある日を境に、幼くして被害者の子であり、加害者の子になってしまったヒトミとゴウの子供たち(三姉妹)がそれぞれ成長し、大人になってからの姿を描く。インタビューでは、映画『逃げきれた夢』で役者としてどんなことを感じたのか、そして、現在稽古真っ只中の『明けない夜明け』では、どのような姿勢で舞台に臨むのか、女優・吉本実憂の今に迫った。

映画『逃げきれた夢』の撮影は贅沢な時間

村上順一

吉本実憂

――2023年に入って上半期が終了し、下半期に突入しましたが、吉本さんにとってどんな半年間でしたか。

 仕事面はすごい充実していました。今までお仕事をご一緒した方だったり、友達がすごく支えてくれました。仕事面では『ドラ恋』の放送もそうですし、ソフトバンクホークスの球団創設85周年・ドーム開業30周年&TNC開局65周年 特別ドラマ『1回表のウラ』に出演させていただきました。私は小さい頃からホークスが大好きなので、ヒロインを務めさせていただけたのも自分にとって大きな転機だったと思います。そして、光石研さん主演、二ノ宮隆太郎監督が手がけた映画『逃げきれた夢』が公開され、業界の方から反響をすごく頂いたのも嬉しかったです。

――お友達も大切なメンターなんですね。

 すごく仲がいい友達がいるんですけど、その子は私の異変に気づいてくれたり、不思議なのですが、全て共鳴するんです。例えば、私が心が不安定だと、その友達も不安定だったり、私に良いことがあると良いことが彼女にもあったりするんです。

――分身みたいですね(笑)。さて、6月9日に公開された映画『逃げきれた夢』は世代によって感じ方が変わる作品だなと思いました。吉本さんはどんな印象をこの作品に持ちましたか。

 私の父はザ・九州男児みたいな感じの人なので、光石さん演じる末永周平とはまたちょっと違う雰囲気なのですが、きっとこういうお父さんっているんだろうなと思いながら見ていました。この作品を観て自分も後悔がないように生きようと強く思いました。周りの方に感想を聞くと、特に年齢が上の方は「すごい刺さった」、「共感できる」というお声をたくさんいただいたので、「あ、やっぱりそうなんだ」と思いました。

――吉本さんはどのような気持ちで平賀南にアプローチされていたのでしょうか。

  光石さん演じる周平がもがいてる中で、南ももがいている。南も何をしたらいい? でも何をしたいのかもわからない。みんな夢がある中で自分には夢がない、周りから置いていかれている、という感覚は20代前半特有の感情だと思ったので、それを心に秘めながらセリフを喋るというものでした。何を考えているかわからない人ってたまにいるじゃないですか? 私が演じる南は感情がよくわからない人にしたくて、はっきりとした表情とか敢えてせずに、心で感じるだけというのを意識していました。特にラストの光石さんとの会話シーンは、自分の役者業をやってきた中でもすごく贅沢な時間でした。地元の先輩、役者の先輩でもあり、尊敬する光石さんとあれだけ長い時間、お芝居を交わせたというのはすごく光栄なことでした。

――吉本さんは台本や脚本を読まれる時、どのような読み方をされますか。

 最初はフラットに、何も考えず客観的に読んでいきます。役が決まってからは、その役の気持ちを考えながら読んでいくのですが、自分が演じる人物と共感できるところはどこだろうか、と考えながら何回も読んで、より深めていくという感じです。

――後半は平賀南が未来を語るシーンもありますが、どこか裏がありそうな含みを感じました。

 私の思いとしては、そのシーンで話していた内容よりも、実はもっと重要なことを言いたい、そこまでの過程という感じで演じていました。

――二ノ宮監督ご自身も俳優をやられてますよね。その監督とのやり取りはいかがでした? 

 『ヤクザと家族 The Family』や『アンダードッグ』などに出演されています。ヤクザの役を演じられているのですが、ご本人はすごく謙虚で腰が低くて愛されキャラなんです。その人柄もあってみんなが“二ノ宮組”を支えよう、いい作品にしようという気持ちでした。内に秘めた尖りや憂いが、監督業や役者業に生かされてるんだろうなと思いました。

――北九州弁も印象的で、松重さんが「しゃあしい」と頻繁に言っているのを聞いて、面白いなと思いました。

村上順一

吉本実憂

 「しゃあしい」は若い人はあまり使っていないと思うんですけど、松重さんぐらいの年代の方がよく言っているイメージです。「しゃあしいっちゃ」みたいに「ちゃ」をよく入れる人もいます。私、松重さんと光石さんお2人のシーンがすごく好きなんです。安定感があり、面白さもあります。

――そのシーンは生で見れてない?

 見れてないです。撮影中は私、光石さんとしかお会いできていなくて。

――舞台だとキャスト全員に会えますが、映画だと全員とお会いしたり、自分以外の撮影を見るのはほとんどないですよね。

 そうなんです。今回共演した工藤遥さんとは過去に映画『大コメ騒動』でご一緒したのですが、同じシーンがなくてお会いできませんでした。今回も撮影ではお会いできなかったのですが、舞台挨拶でお会いできて、 お互い「やっと会えましたね」みたいな感じで(笑)。

――光石さんと喫茶店で話すシーンはすごく長いですけど、あれは1発撮りなんですか。

 テイク的にはワンテイクで、2回ぐらい撮ったと思います。実はこのシーンがオーディションでやったシーンでした。最初、平賀南は愛知県から引越してきた女の子という設定もあって、九州出身と愛知出身の2パターンをオーディションでやりました。私は北九州弁の方がもう全然喋りやすくて。

――吉本さん、北九州出身だからナチュラルですよね。

 役が決まってから台本を読んでみたら、北九州出身になっていたので、すごくありがたかったです。

――本作に出演しての手応えは?

 感情が一番大事なんだということが改めてわかり、自信に繋がりました。監督の特色として長回しの撮影が多かったのですが、それは役者やお芝居が好きじゃないとできない。私たちを信頼してくれているんだと私は捉えてました。ちょっと無理して感情を作って演じると、監督にそれがバレてしまい、もう1テイクとなります。でも、自然と生みでたものをそのままカメラの前で演じると一発オッケーだったりするので、感情が一番大事なんだと思いました。今までも感情を大事にしてお芝居をしてきたのですが、そこに自信が持てた、「軸は間違ってなかったんだ」というのを改めて感じた現場でした。

――確信を持てたんですね。

 はい。あと『逃げきれた夢』を観てコメントをくださった方が錚々たる方々で、私はコメントが出る度にびっくりしてました。吉田羊さんをはじめ、滝藤賢一さん、田口トモロヲさんなど、すごいメンバーばかりで。そして、今泉力哉監督、足立紳監督、藤井道人監督、瀬々敬久監督、山下敦弘監督、三宅唱監督がコメントされていて、その方々の目に自分の芝居が映ったという事実がすごく嬉しくて。やっと私の芝居を見ていただけた、という喜びもありました。

『明けない夜明け』は「人は変えられる」というところを見てもらいたい

村上順一

吉本実憂

――『明けない夜明け』の脚本を読んで、どんな印象を持ちましたか。

 『白が染まる』の続編となる『明けない夜明け』は3姉妹のお話で、引きこもりの長女の愛(演:尼神インター・誠子)と心を閉ざした次女の恵(演:小島藤子)、末っ子だけど考え方が一番大人で、外に出て怖がらずに行動をしている三女の茉菜という設定なんです。私は三女の茉菜を演じるのですが、自分にすごく合っているなと思いました。

――特にどんなところが合っていると思いました?

 私は新しいことを始めたりする時、本当は怖いのですが、やらずに後悔よりやって後悔する方が絶対いい、と本当は怖さを感じているけど何にでも飛び込む性格なんです。その性格や正論を言ってしまう所は私と茉菜はすごく似てるなと思いました。もし役が決まっていなくて、どの役を選んでもいいよと言われたとしても、きっと茉菜を選んでいたと思うくらいシンパシーを感じました。

――稽古はどんな感じで進んでるんですか。

 毎回稽古前にアップをするんですけど、稽古の初期は「人狼ゲーム」を2時間ぐらいやって、稽古に入ってました。今はピンポン玉を使ってアップをしているのですが、これまでに体操や声出しをするアップはあっても、ゲームでアップをするのは初めてのことでした。

――どんな効果がありそうですか。

 ゲームをしていくと、キャストの皆さんと自然とコミュニケーションが取れて、 それぞれの人柄みたいなものがわかってきます。それによって芝居もやりやすくなったと思います。特に「人狼ゲーム」は感情を隠したり出したりと駆け引きをするゲームなので、自然と感情のキャッチボールができるようになる訓練にもなっているのかなと思いました。

――すごく理に適っていて面白いですね。吉本さんは舞台の出演は今回で3回目とのことですが、舞台と映像作品との違いはどう感じていますか。

 映画と比べると、舞台は演出家の方によってすごく変わるなと思いました。今お話ししたアップもそうですし、どこに軸を置いて演出をするのかという部分が、映画やドラマとは違うと思いました。初舞台となった『三文オペラ』の演出を担当された谷賢一さんは、感情を 2 倍 3 倍にすることで、舞台場で大きな一歩が出るというような教え方で、2回目の舞台出演となった『告白』の演出をされた佐藤アツヒロさんはパッション、エネルギーで演出をされる方で、今回の小野健太郎さんは小説を読んでいるかのように伝えてくれるイメージと、それぞれカラーがあります。

――三者三様なんですね。

村上順一

吉本実憂

 小野さんは、こうあるべきだというのを言わない方で、「こうしてみたらどう?」と提案してくださいますが、あとは役者に任せますみたいなスタイルで、自由度も高い演出だと思いました。セリフの軸となる目的がしっかりあって、それを持ってさえいれば、あとは何をやっても大丈夫といったところが、私にとって新しい挑戦でもあり、すごく楽しいです。

――今どんなところにこだわって茉菜を演じようと思っていますか。

 行動をしない、まだ殻に閉じこもっている姉2人を改心させていく役なので、その姉たちをどれだけ変えられるかが重要な役です。小野さんは、私が登場するシーンはとにかく場を掻き回してほしい、姉2人を変えるほどのエネルギーを持って登場してほしい、茉菜が舞台場に出てくる意味を考えてほしいと仰っていて。私も茉菜を演じるにあたってそこが大事だと思いましたし、茉菜自身、姉たちを変えることが生きる意味になっているので、そこにこだわって演じていきたいです。

――本作の見どころは?

 「人は変えられる」というところを見ていただきたいです。作品全体としては、自らがなりたくてなった境遇ではない三姉妹がどうやって社会を生きていくのか、という部分は見どころになると思います。茉菜はなかなか2人を変えられないというもどかしさや、なんでわかってくれないんだろう、という感情がすごく露わになっていきます。すごくシリアスな作品ではあるんですけど、感情をキーワードにいろんなものを感じて共感できる作品だと思いますし、カラフルで個性豊かな人たちがたくさん出てくるので、『明けない夜明け』を観て何か伝わるものがあればいいなと思います。

親が子供を傷つけることは絶対してほしくない

村上順一

吉本実憂

――『逃げきれた夢』も『明けない夜明け』も切り口は違いますが、生きることをフォーカスした作品だなと思いました。吉本さんは、生きるということに、今どのような思いがありますか。

 役者の仕事はすごく好きですし、映画界、舞台界に貢献したいという思いは強いんですけど、ふと我に帰った時に、「私が生まれてきた意味ってなんだろう?」と思うことがあります。いろいろ背負いながら生きていくのか、という不安を感じることもあるのですが、生きている意味を探し求めても、結局これが答えだよと教えてくれる人もいないじゃないですか。もし答えがでたとしてもそれが正解とは限らないので、わかる時があるとしたら、それは死ぬ時なんだろうな、というところにいつも落ち着きます。

――今回のような生きることをテーマにした作品を観ることによって、その都度、生きることの意味、理解を深めていけるような気がしています。

 わかります。映画とか舞台とか作品というのはそういう力がないといけないなと思っています。私は大きく分けると作品には2種類あると思っていて、一つは面白くて楽しくて気持ちが明るくなれる作品。もう一つは学びを与えてくれる作品です。私はどちらかというと後者の学びをくれる作品を好んでいるので、今回の『明けない夜明け』のような作品は好きです。考えるポイントが沢山あるんですけど、その考えている時間もすごく楽しくて、自分を成長させてくれているんだろうなと思います。

――壁にぶつかった時に助けになるような作品だと思います。ちなみに吉本さんが助けになった作品はありますか。

 助けられた作品はいっぱいありますが、特に衝撃的だったのは、『存在のない子供たち』という映画です。12歳の男の子が裁判を起こし両親を訴えるというストーリーです。何の罪で訴えるかというと自分を産んだ罪で訴える。それがすごく衝撃的でした。親がしたことによって子供の道しるべが変わっていくところは、『明けない夜明け』と共通するなと思いました。自分がやったことではないけれど、それでも生きていかなければいけない。力強さもあり、逆に脆さも感じました。12歳の男の子が自分で何かを見いだしていくという部分に衝撃を受けて、映画館に3回観に行きましたし、DVDも定期的に観るくらい、今の私に影響与えてくれた作品です。

――『逃げきれた夢』、『明けない夜明け』を観た人が吉本さんの『存在のない子供たち』のような作品になってくれたら嬉しいですね。

 そうなったらすごく嬉しいです。これらの作品を通してまず親が変わった方がいいと私は思いました。親が子供を傷つけることは絶対してほしくないですし、子供たちはそれがトラウマになってしまうこともあるので、少しでもそういう親や大人が減るといいなと思っています。

――吉本さん、そのマインドがあるから、将来いいお母さんになりそうですよね。

 お母さんになったら、子供はちゃんと育てたいです(笑)。

――ちなみに結婚願望はありますか。

 あります。母性が最近強くなってきたなと感じています。ここ 1〜2年で母性ってこういうことなのかなって。それが作用しているのか、いままでよりも自炊をするようになりましたし、健康に気をつけて運動をすることがすごい増えました。

(おわり)

村上順一

吉本実憂

公演情報

■ 演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ) 第15回公演「明けない夜明け」
2023年7月14日(金)~20日(木)
東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト

作・演出:小野健太郎
出演:小島藤子、吉本実憂、誠子(尼神インター)、鈴木勝大、成田沙織、岩瀬亮、石森咲妃、鷲見友希、井筒しま、赤松真治、佐藤達、宮田早苗、小野健太郎、奥田努

※石森咲妃、鷲見友希、井筒しま、赤松真治はWキャストでの出演。小野健太郎は7月16日14:00開演回と19日14:00開演回のみ出演。

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