INTERVIEW

沢口愛華

芸能活動を始めてから「まさか」の連続 初主演映画で改めて感じた「作る楽しさ」:映画『札束と温泉』


記者:木村武雄

写真:村上順一

掲載:23年06月30日

読了時間:約6分

 沢口愛華が、映画『札束と温泉』(6月30日公開、川上亮監督)で映画初主演を飾る。修学旅行先の温泉宿を舞台に巻き起こるクライム・コメディ。札束を持ち逃げしたヤクザの愛人、それを懐に入れ逃亡を図る女子高生、そのカネを取り戻すために派遣された殺し屋、かたや担任教師をゆする女子高生などそれぞれの思惑が交差するなかで、事態の収拾を図ろうとするのが沢口演じる女子高生の高梨リサ。まさに台風の目ともいえる重要な役どころに沢口はどう向き合ったのか。【取材=木村武雄/撮影=村上順一】

まさかの連続

――今回映画初主演となりますがどのようなお気持ちで臨まれましたか?

 「初主演が決まりました」と言われてびっくりしました。撮影は別府(大分)で行われたんですけど、主演が決まった話の後に「別府に行くかもしれない」って聞いて「やったー!」って喜びました(笑)。別府という言葉に舞い上がってしまったんですけど、冷静になってみたら、演技経験が少ない私が主演でいいのかなと思い始めて。責任を感じながら台本をずっと読んでいました。

――沢口さんはもともと女優を目指していたんですよね。座長という響きは嬉しいですよね。

 嬉しいです。期待していただいているのであれば、絶対に応えたいという強い思いがありました。

――過去にお話しされているのを読むと、沢口さんは『ミスマガジン2018』に受けた時も「まさか自分が」と話されていて、今回もそうですが、「女優になりたい」という大きな目標はありつつ、「何か狙って」というよりかは、舞い込んできたものが多いのかなと思いますが。

 芸能活動を始めてから「まさか」の連続でした。自分が意識して狙ったものはなかなか形にならないのに、ふとしたときになぜか舞い降りてきたということが多いんです。今回もありがたいことにそういう形でした。女優を目指していろいろ頑張っているけど結果に繋がることは難しくて。本格的に女優活動を始めてまだ1年も経っていないからそんなに早く実は結ばれないと周りは言いますが、でも私からしたら何で結果が出ないのかが分からなくて。この頑張りって何だったんだろうと思うことも正直ありました。そうしたなかで今回のお話を頂けてすごく嬉しかったです。でも「初主演」なので怖さも感じました。

――周りの評価はすごく高いですし、来るべくして来たのかなと思いますが、今回のお芝居を観ていてもすごくお上手です。相当レッスンを積まれたんだろうなというのが感じられます。

 2週間に1回ほどワークショップを受けていました。最近言われたのが、「沢口はずっとローカロリーな演技をしてきたのに、やっと言葉に力が出てきたね」って。自分も前に進む力が強くなったと感じていて、東京の波にちょっとだけ揉まれたお陰もあるのかなって(笑)。実は私、自分の演技を観るのが苦手なんです。だから今回の映画の完パケが上がってきた時、観るのをためらってしまって。でも観たら、懐かしさも湧いてきましたし、撮影の時に感じていたものとはまた違った捉え方もできて、映画を作るのは面白いなって感じました。

沢口愛華

沢口愛華

面白かった映画を作る体験

――今回、ワンカット長回しですよね。

 そうです。大変でしたが、割と順撮りだったので頭の整理はつきやすかったです。「ワンカット長回し」はロケ地に行く前に聞かされていて、東京で何回か練習する機会を頂きました。それがあったから別府でスムーズに撮影できて、東京ですり合わせた期間はすごく貴重で大事だったなって撮っていて思いました。

――東京でやっているときは、大きなスタジオかなにかで、ここが部屋という目印となるテープを貼って?

 現場が分かるような形で練習をしました。ここで何かを渡したいとか、ここでアクシデントを起こしたいとか台本を見ながらみんなで話し合って、「じゃあカメラをこうしたら面白いかも」とか演出部さんたちが考えを出し合いながら。そういう部分がみんなで映画を作り上げる感覚で面白かったです。何度も何度も台本をめくった記憶があります。

――クラスメイトの仲の良さは、その練習で出来上がったんですか。

 年齢も近かったですし、私と同じ名古屋出身の(糸瀬)七葉ちゃん(佐々木恵麻役)もいて。帰りも一緒に電車で帰ったりしたので、台本の話ももちろんしましたが、プライベートの話をする時間もすごく楽しかったですね。

――アクションが大変だったと。

 ほぼアクションが初めてで、最後のシーンの大乱闘はもちろん難しかったんですけど、美宇役の(大熊)杏優ちゃんの方がもっと難しかったと思います。それと美宇が私の頭を殴るシーンがあるんですけど、背後から殴られるのでそのタイミングが大変で20テイクくらいしたと思います(笑)。指導して下さる方々の的確なアドバイスのお陰でなんとか形になったんですけど、この粘り強くいくところはロケでしかなかなか体験出来ないなと思っていい経験になりました。本当に難しかったです。テイクを重ねる毎に場の空気も変わってくるじゃないですか。落ち込みそうにもなりますが、主演であることを改めて意識させて、元気よく「すみませんでした!」と声を上げて場が盛り下がらないようにしました。そういう人との密な関わり合いというのも久しぶりで、今思えばそういうところも楽しかったです。

沢口愛華

沢口愛華

辞めようと思ったことも

――フォトブック『Tokyo trip』『GRAVURE A to Z』の取材会で「20歳になって変わったことは何ですか」という質問に「人の目を見て話せるようになった」とおっしゃっていましたけど、性格的には明るくなったんですか?

 もともと明るかったんですけど、どんどん内弁慶になっていって、そもそも人と喋るのがそんなに好きじゃなかったんだなと思ってたんですけど、こうやって人と話すと、やっぱり楽しいですよね。昔の感覚を取り戻せている様な気がします。20歳になったのがきっかけなのか、割とおっくうに感じていたことをちょっとやってみようと思えていますし、人との対話もちょっとずつスムーズに出来るようになってきました。

――『ミスマガジン2018』グランプリ受賞の会見の時も申し訳なさそうに立っているから大人しい子なのかなと思っていたんですけど、最近はハキハキとされていて。

 ようやく自信がついてきたんだと思います。グランプリ受賞の時は「何で私なの?」みたいな感じもありましたし、辞めようと思っていた時期だったので…。高校に入ってちょっと自由が広がって友達との交友関係も広がった時に「みんなと同じがいい」と思った時期がありました。その時は「もう辞める」と言っていたんです。そんな時期に「グランプリです」と言われたので、「えっ何で?」と気持ちの整理がつかないままその場にいたんだろうなと今では思います。でもグラビアをやっていく中で、人と関わることだったり、何かを追求していって何かを卓越させていく事って面白いなって思っていって、何かを作るって面白いってことが役者をやりたいという事に繋がって。グラビアを起点に色んな事が活発になっていったことが嬉しいです。こうやって功を成して繋がっていることで、グラビアで育ててくれた人たちに恩返しできているのかなって思います。

――そのような中で改めてこの作品はご自身にとってどういう体験になりましたか。

 映画はちゃんと人の心で作っているんだなって思いました。ずっと観る側で、観る側がどう受け取るかで映画って決まると勝手に思っていたんですけど、ちゃんと作り手に命があるんだということを改めて感じました。そこには感情の揺れだったり、温度の熱さ低さがあったり、十人十色の熱さを持っている上でみんな同じ方向に向かって行ってるっていう体験が出来たのがすごく面白かったです。もっともっと私が知らない世界を見て、自分の中でいろいろ消化していけたらなって思います。

沢口愛華

沢口愛華

(おわり)

ヘアメイク:今関梨華(Linx)
スタイリスト:マルコ マキ
衣装:SHIROMA

映画『札束と温泉』2023年6月30日(金) シネマート新宿他 全国公開
©2023 cosaic Co., Ltd.

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村上順一
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