INTERVIEW

山口まゆ

「改めて叩き直されるという感覚」初舞台に臨む姿勢


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年06月30日

読了時間:約9分

 女優の山口まゆが、6月30日より東京芸術劇場シアターウエストで上演される舞台『これだけはわかってる ~Things I know to be true~』に出演。ヨーロッパへ一人旅に出ていたプライス家の末娘ロージーを演じる。本作は、アンドリュー・ボヴェル氏による傑作戯曲。家族同士のコミュニケーションの難しさ、それぞれの思い、両親の理解の範囲と、それを超える子供たちの考え、そして父親や母親の考え。皆が交差しぶつかり合いながら互いに成長してゆく家族の姿を、1年を通して描く。家族の母親役には海外へも活動の場を拡げる南果歩、父親役には栗原英雄が務める。インタビューでは、自身が初舞台となる本作にどんな意識で臨むのか、本作のテーマとなっている家族とのコミュニケーションについて話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

今まで培ってきたものを崩すタイミング

村上順一

山口まゆ

――出演が決まった時の心境はいかがでした?

 「ついにこの日が来たか」と思いました。舞台は役者として改めて叩き直されるという感覚があったので、ずっとやりたいと思っていたんです。事務所に入って今年で10年目、そして、大学卒業と色んな節目が来たので、変わらなきゃいけない時なんだろうなって。この初舞台で 今まで培ってきたものを崩して、新たな扉をひらくタイミングなのかなと思いました。

――台本を読んでどのようなことを感じましたか。

 ロージーを演じるので、そこを中心に台本は読んでしまうんですけど、家族のリアルな瞬間、みんな生きていればありえるようなことが台本の中で描かれていました。心をえぐられるようなシーンもあり、すごく面白かったです。そして、この舞台はみんなが主役だと感じました。メインになる瞬間がキャスト全員にあって素敵だなと思いました。

――冒頭のロージーのセリフ、すごく長いですよね?

 もうナレーションかと思うほどのセリフ量だったので、正直面喰らいました。出だしなので、私で作品の空気感が決まると言ったら大袈裟かもしれないですけど、今どうしようという感じです(笑)。毎日のように稽古をしているんですけど、もう泣きながらやってます。

――セリフを覚えるコツなどありますか。

 流れを把握して、言葉の意味がわからないと入ってこないので、言葉を 1 つ 1 つ噛み砕いて覚えることが多いです。特に冒頭部分のセリフは長いので、日常生活の中で反復しながら覚えています。

――ロージーはどんな人物だと思いますか。

 私よりは若いんですけど、誰しもがぶつかる悩みを抱えている子だと思いました。自分が何をしたいのか、どこへ向かって行けばいいのかわからない。私もそういう時期はありましたが、乗り越えてきてしまったので、最初は俯瞰してロージーのことを見ていました。でも、稽古で追い詰められすぎて、結局何がなんだかわからなくなってきて(笑)。それで結果的に役の心情とリンクした感じがあります。

――過去のインタビュー読ませていただいて、役の気持ちを日記のようにつけてるというのを拝見したのですが、それは今もやられてるんですか?

 今はやってないです。ロージーは登場人物の中で一番フラットです。他の人物はちょっと凝り固まったものがあって、ロージーはまだ何にも染まっていないので、等身大で臨めばいいのかなと思っていて。変に役作りせず飛び込みました。演出家さんから「準備とかしないで、そのままでいいよ」とアドバイスをいただいていたので、特に何も準備をせず、気負わずフラットな気持ちで行こうと決めました。

――自然体で臨んでいるわけですね。

 不思議なことに役と向き合っていると、徐々に「これって私じゃない? 」という感覚になってきます。日常生活の中で、これって役とリンクしてない? とかそういう意識になってくるので、最初は遠いけど、やっていくうちにこれは自分なんだとなることがあります。

――その中で意識していることは?

 ロージーは家族の口論中にその現場にいることが多いので、自分から何かを発信するというより、誰かから受けたものを積み重ねていって、最後にバーンとセリフとして出せればいいなと思います。

――稽古場の雰囲気はいかがですか。

 剥き出しでやる、というのを現場からすごく感じています。でも、私はそれがまだ上手くできてないんです。それこそが演劇なんだと日々感じています。まだ本読みの段階なので、見えてきてないところもあるんですけど、皆さんの剥き出しの部分がこれから見えてくると思うと、すごい楽しみです。

――キャストの皆さんとはどんなやり取りを?

 私は泣くことが多い役なので、昨日も今日も泣きすぎて疲れ果てているんですけど、それを皆さんが優しく包み込んでくれます。でも私自身は長女なので、ロージーのような末っ子の感覚がちょっとわからなくて。正直甘えることがすごく苦手なんです。でもここは甘えるしかないなと思って、“剥き出しの甘え”でやっています(笑)。

――本作では南果歩さんなどすごい役者さんが出演されますけど、今どんなところにすごみを感じてますか。

 みなさん声が大きくてすごいなと思いました。私、声が小さいと言われていて、それも一つの課題なんです。映像作品とはまた違い、声をバっと出すというスイッチの切り替えが皆さんすごいなと思いました。

――声を大きく出すという課題は、もう乗り越えられそうですか。

 朝起きてボイストレーニングをやったり、稽古の前にカラオケに行ったり、色々やってるんですけど、皆さんと比べるとまだまだで。それで落ち込んで、また頑張っての繰り返しです。

精神年齢は妹より私の方が幼いんです(笑)

――家族とのコミニュケーションで意識されていることはありますか。

 いまは1人暮らしをしているんですけど、家族から離れたからこそわかるありがたみというのは、確かに感じます。頻繁に実家に帰るわけではないですけど、会えた時は、この作品のように喜んでくれるので嬉しいです。

――妹さんと遊んでたりしていたんですか?

 遊んでました。私から「遊ぼう」ってよくちょっかいを出してました。精神年齢は妹より私の方が幼いんです(笑)。たぶん妹は内心「しょうがないな」と思っていると思います(笑)。性格も真逆だし、全然キャラクターが違うので、きっと私のことを反面教師にしているんじゃないかな(笑)。

――妹さんにも自分の近況というのはオープンに話しますか。

 妹と私は4歳離れていて、最近大学生になったんですけど、ちょっと大人になったので、妹と2人きりでご飯に行ったりもできるようになって、すごく嬉しいんです。その時にいま私はこういう状況なんだよ、みたいなことは話せるような関係になってきました。

行動するきっかけになってくれたら嬉しい

――初舞台、ファンの皆さんにどんな姿を見てほしいですか。

 皆さんとなかなか生でお会いするタイミングがないので、お芝居を見てもらえるのは嬉しいです。「舞台、楽しみにしてます」とかSNSで言葉をもらったりするので、少しでも成長した姿を見せられたらいいなと思っています。みなさん優しいから「お芝居、上手だったよ 」とか言ってくれると思うんですけど、お芝居を見て少しでも「おっ!」と思ってもらえたら嬉しいです。

――山口さんは褒められて伸びるタイプ?

 はい(笑)。でも、昔クラシックバレーを習っていて、厳しく指導されることも多かったので、半々くらいかもしれません。厳しくされて強くなることもあるのかなとは思います。

――今回の舞台、どんな楽しみがありますか。

 この公演でお客さんにバーンとこの作品のメッセージをぶつけた時に、一体どういう反応が返ってくるのかすごく気になりますし、楽しみなんです。私の家族も誘っているのですが、この作品を観て感化されてケンカだけはしないでほしいです。家に帰って空気が悪くなっていたら嫌ですね(笑)。

――観劇した後、感想を話している中で何か起きる可能性もありますよね(笑)。

 もしかしたら家族の関係性が変わるかもしれない(笑)。でも、この作品を見たいと思ってくれた人は、きっとそういうタイミングなんだと思ってもらえればいいのかなって。あと、舞台を観て、例えばですけど、「海外に行くことにしました」とか、なにか行動のきっかけになってくれたら、すごい嬉しいです。

――この舞台は家族で観に来てほしいという希望もありますか?

 もちろん家族で観に来てもらうのもいいですけど、誰かと一緒に住んでる人にぜひ観てほしいという気持ちはあります。もしくは一人暮らしをしていて、家族と離れて暮らしている人にこの舞台を観てもらえたらいいなって。そして、家族のことを思い出してほしいなと思います。

――いま役者として追求していることだったり、これから追求していきたいことはありますか。

 頭で考えすぎないことです。私は考え過ぎてしまうところが、このお仕事を始めた時からの癖なんです。その癖を一度取っ払って、そのままの自分で立つということを、この仕事の中で身についていけたらと思っています。

――そういうフェーズに入ってきてるんですね。

 これまでの20年間は、どこか虚勢を張って生きてきたので、それをちょっと崩せたらいいなとは思っています。

――普段、自分を演じてるとか、そういうことではないですよね?

 逆に役があれば生きやすいのかなと思います。役がなくなって、生身の山口まゆになると、どうしたらいいのかわからない時は正直あります。役を与えていただければ、自分は今その人物なんだと思えるので、楽なのかなとは思います。

――お芝居のどんなところにやりがいや楽しみを感じてますか。

 周りの人のお芝居を見るのがすごく楽しいです。こんなに近い距離で見れる事って稀有なことだと思います。ドラマや映画は通しで撮影はしないのでお会いできないキャストさんもいますが、舞台は全員と会えるし、一緒の時間を過ごしていくので、皆さんの感性を直接見られる。稽古で毎日同じことを繰り返していく中で、全く違う感情が見えた時にすごく面白さを感じています。

――さて、ロージーは物語の中で放浪と言いますか、海外に行ってましたが、山口さんは旅に興味ありますか?

 興味はあるんですけど、仕事柄なかなかできないんです。割と1人で未知なるものへ飛び込むのは好きなので、オフの日に知らない街に無計画で行って散歩をしたりしてます。

 そういう時は何かに迷走してるので、ロージーと同じなのかなと思います。家にいると落ち込んじゃうから、外に出ていろんなものに触れて、なにか見つけられたらいいなとか思いながら散歩しているんです。それが海外に広がっていけたらいいなと思います。

――ちなみに、どこに行ってみたいですか。

 ヨーロッパに行きたいです。でも、最初は日本からがいいかなと思っています。北海道と沖縄にまだ行ったことがないので行ってみたいです。映画の撮影で島に行ったことはあって、島の人はすごく優しかったので、機会があったら行きたいです。

――お話を聞いていて、人がすごく重要だなと思いました。

 人は好きです。1人でいるより誰かの話を聞いたり、心がオープンな時は友達と食事にいったりします。そこで友達の辛い話とかを聞いて、「私だけじゃないんだ」というのを感じて、みんな頑張ってるから自分も頑張ろうと思えたり、人と会うことでちょっと心が優しくなれるんです。

――最後にこの舞台を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

 舞台をまだ観たことない人にも分かりやすい作品だと思うので、ぜひ観に来てほしいです。

――山口さんも初舞台ですし、「この作品で初めて舞台を見に来ました!」という人がいたらいいですね!

 はい! 一緒に私と闘ってください(笑)。 誰に感情移入するのかはそれぞれですが、おそらくロージーが一番感情移入しやすいとは思います。ですので、私と一緒にプライス家の中にいてくれたら嬉しいです。

(おわり)

■山口まゆ

2000年11月20日生まれ、東京都出身。2014年、『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』でドラマ初出演。2015年、ドラマ『アイムホーム』で木村拓哉演じる主人公の義理の娘役に起用され、同年、ドラマ『コウノドリ』で中学2年生の妊婦役を演じて話題に。代表作に、ドラマ『明日の約束』、『海と空と蓮と』、『シジュウカラ』、映画『相棒 -劇場版IV- 首都クライシス 人質は50万人! 特命係 最後の決断』、『下忍 赤い影』、『樹海村』、『軍艦少年』、『真夜中乙女戦争』など。

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