INTERVIEW

川添野愛

苦手だったホラー映画で「新しい扉を開けた」:「忌怪島/きかいじま」撮影の舞台裏


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:23年06月15日

読了時間:約8分

 川添野愛が、ホラー映画『忌怪島/きかいじま』に、主人公の片岡友彦(西畑大吾)らと共に赤い女・イマジョ(祷キララ)の怨念に巻き込まれていく三浦葵を演じている。本作は、大ヒットした「恐怖の村」シリーズの東映と清水崇監督による最新作。現実と仮想の2つの空間で「VR」研究チーム“シンセカイ”に次々と降りかかる不可解な死と謎を解明していく。深澤未央(生駒里奈)、山本春樹(平岡祐太)、北島弘治(水石亜飛夢)が所属する“シンセカイ”でチームのまとめ役・葵を演じる川添は、6歳から高校3年生まで杉並児童合唱団に在籍し、進学した多摩美大で映像や演劇を専攻。青山真治監督との出会いが今の道を切り開くきっかけにもなった。そんな彼女の生い立ちに触れながら本作の撮影秘話を語ってもらった。【取材・撮影=木村武雄】

幼少期に培われた感性

――野愛さん、いいお名前ですよね。「野」は何か特別な意味があるんですか?

 「野」には、人だけではなく、自然も含めた全てのものから愛され、そして愛せるように、という思いを込めて付けたようです。名前の由来は小さい頃から知っていたので、生き方としてどこか意識している部分があって、そうなれたらいいという思いはあります。でも不思議ですよね。自分では決められないものと一生付き合っていくというのは。

――運命という言葉にも置き換えられそうですが、6歳で歌を始めたという境遇にも重なりますか?

 基本的に怖がりなので何をするにもすごく慎重です。ただ、やると決めたら一直線に後先考えず行くのでそこが極端ですが、そういう意味では普段あまり出さないけど、すごく強いエネルギーみたいなものが自分の中にあって、それを発散できないと大変なことになってしまうと言いますか。わりと小さい頃から表現することが身近にあって、それは自覚があったかはなんとも言えないんですけど、保育園にクラシックバレエの先生が来て、やりたい人は誰でもレッスンを受けられるのでやってみたらそこから6年続けました。歌も自然と家で歌っていたり、「面白そう」と言ったらしく歌を始めたら13年が経って。そういう環境が自然とあったので表現することは特別なことではなかったです。

――エネルギーを溜めて発散することは表現者としては大事なことですよね。でもそのエネルギーは何かがないと生まれないわけですから、普段から色んな事を考えているんでしょうね。

 子供の時はどのぐらい考えていたかは定かでは分かりませんが、大学では社会人の方もいるような作家志望者が集まる学部にいたので、自分の言葉を持っていないと戦えない場所でした。自分としては色々とやってきていて自分の意見を言えたり自信もあったんですけど、いざ臨んだら感覚的な話しかできていないことに気が付いて。そこからはただ考えるだけではなくて物事を具体的に考え相手に伝わるような言葉を使わないといけないと思うようになって。そこで意識が変わったのかもしれないです。

――それが役づくりに活かされていると感じることはありますか?

 そこまで繋げて考えたことはありませんでしたが、作品を客観視する目みたいなものに繋がっているのかもしれないです。「目」はいくつか必要で、主観と、作家やディレクターが意図していることを考える目、そして全体を見る防犯カメラのような目とか。主観は主観でも役の気持ちと私の気持ちもあるのでそこにもいくつかの目が必要で。それに活かされているかもしれないですね。

川添野愛

川添野愛

A4紙にびっしりキャラクター像

――その上で今回はどうでしたか?

 私の役で言うと、演じた三浦葵は結構やり手で、花柄の服を着て髪はクルクルとしておっとりとしている感じですが、“シンセカイ”チームのなかで一番冷静で客観的な目を持っているキャラクターです。一緒によくいる未央(生駒里奈)とのバランスもあったので清水監督とお話しました。私がいろいろ聞くもんだから、撮影の前に清水監督が“シンセカイ”チームと園田環(山本美月)のキャラクター紹介みたいなものを頂きました。一キャラクターごとにA4びっしり文字が詰まっていて、こういう家庭に生まれて、こういうところで育って、友人関係はこういう感じで趣味はこう、今までこういう恋愛をしてきて、とか。「川添さんがすごい聞くからさぁ」とか言われて(笑)。

――でもしっかりとキャラクターの軸ができた上で現場に入れたのは良かったですね。

 でもキャストによってはお会いできたのがギリギリで、「現場でやってみるしかないね」という感じでもありました。読み合わせも一切なくて「はい奄美行くよ!」「撮るよー」みたいな感じでした(笑)。とりあえずお祓いして「はい島行くぞ!」みたいな。島に入ったのはバラバラでしたが、“シンセカイ”チームはインの日がみんな一緒だったので、そこで「よろしくお願いします」って挨拶して。

川添野愛

川添野愛

お風呂、海…撮影の舞台裏

――クランクインはどのシーンからでしたか?

 友彦君(西畑大吾)が島に来て、私達と会って間もないところの海辺のシーンです。友彦君が作った世界に入り込んだ私達が海辺にいるところです。

――そういえばお風呂のシーン、川添さん日焼けしていないですか?

 あっ!焼けているかもしれないです。初めて言われました。でも普通奄美に住んでいたら焼けますよね。日光はすごかったです。

――首元が焼けていて、日焼け止めをしても焼けてしまうかもしれないんですけど、ああいう所に葵の性格を出したり、未央とのバランスを取ったのかなと。

 金城リン(當真あみ)ちゃんとか島にもともと住んでいる人たちはファンデーションで黒くしてたんですけど…。確か焼けていたような気はします。

――あのシーンはどんな風に撮影したんですか。

 アナログな撮り方をしました。肩を並べてお風呂に浸かっている隣に手のご本人が一緒にいらっしゃって、手を出して撮っていたり。私の手に現れるのも特殊メイクでやっていて。CGも多いというのは知っていましたが、意外とアナログに頑張るんだと思いました(笑)

――撮影はスムーズにできましたか?

 監督のこだわりで、私というより(祷)キララちゃんが大変だったんですけど、手の出し方とか指先の力の入れ具合とか角度とかスピード感とか。監督の具体的なイメージがあるので細かく言われてました。私はずっとチャプチャプやっていただけなんですけど(笑)。

本編より©2023「忌怪島/きかいじま」製作委員会

――海に潜っている状態から研究室に瞬時に移動する撮影はどうやって撮ったんですか?

 確か目の前にマットが敷かれて、研究室から海に沈められる状態は、床ギリギリまで押さえ付けられるところを撮って。次に出てくるときはそこからバッと起き上がるところを撮るような感じでした。

――そのギリギリの加減が難しくないですか?

 信頼関係の賜物です。そこから繋げるところはCGでやりました。バシャンとなったら水なのでそこはプールで撮りました。

――出てきた時は水浸しでしたが、そこは?

 起き上がるときを撮るのは、見たこともない大きいバケツで頭から水を掛けられました。どこにそんなのあったのみたいな(笑)。バラエティー番組で芸人さんとかがやられているような物が出てきて。私と友彦君はそれをやられました(笑)。

――撮影現場は和気あいあいをしていたんですか。

 出演者全員がのほほん系で、気性が荒い人が一人もいなかったんです。監督も冗談を言って笑わせてくれたり。平和な感じでした。

――大変なシーンが多いからこそ張り詰めた緊張を解す意味でも大事ですね。

 何となくですが、みんなで楽しめるところは楽しもうという考えはあったかもしれないです。

川添野愛

川添野愛

新しい扉を開けた

――「ホラーが苦手」と聞きましたが、清水監督作品の印象と、本作への出演が決まった時の心境は?

 観客としてホラー映画を食わず嫌いをしていたというか、触れたことがなくてあまり知らなかったんです。自分には観れないものだと思っていたので、完成した時に観れないんじゃ責任が持てないなと。だから今までホラーは断りたいと言っていたんです。だけど色々ご縁が重なって今回は挑戦してみようと。でも新しい扉を開ける意味では楽しみで興奮もしていて、そこから「恐怖の村」シリーズ3作品を観ました。その段階で今回のたたき台を読んでいたので、大まかなストーリーは知っていました。その上で清水監督のやりたいこと、伝えたいことは一貫しているんだなと感じました。「恐怖の村」シリーズでは家族や血のつながりなどの因襲みたいなものから派生していたのが、今回は「島の古くからの」というものに変わって、前よりも個人の視点で描かれている部分も多いですが言いたいことは変わっていなくて、すごく捉えやすくなったという印象です。それと映像として美しいです。『樹海村』では主人公が樹木に喰われて同化していくシーンが美しくて好きです。そこで「ホラーは怖いだけじゃないんだ」ということに気が付きました。

――ご自身にとってどういう体験になりましたか。

 作品の規模やジャンルに関係なく、どの作品も私にとって大切でやることは変わらないです。なので自分自身の中での変化は何もないです。

――他のインタビューで「この先何か考えていますか?」という質問に「来たものをやるだけです」と。自然体というか等身大なんですね。

 食いつくされようと思ったら一瞬だと思うので、そこは自分で自分を守らないといけないと思っていて、いろいろと見られる仕事ですが、全部を見てもらえるわけではないと思いますし、いろんな角度からいろんな方に見られているので、それに左右されていたら続かないんじゃないかなって思っています。なので、これからも目の前のことを一生懸命にやっていきたいです。

(おわり)

 ◆川添野愛 1995年2月5日生まれ、東京都出身。幼少期から杉並児童合唱団に12年間在籍。多摩美術大学在学中の2015年に、WOWOW「贖罪の奏鳴曲」(青山真治監督)で女優デビュー。主な出演作に、「パパはわるものチャンピオン」(藤村亨平監督)、「パーフェクトワールド 君といる奇跡」(柴山健次監督)、「ミュジコフィリア」(監督:谷口正晃)、ドラマ「恋愛時代」(YTV)、「パフェちっく!」(FOD)、「限界団地」(THK)、「his ~恋するつもりなんてなかった~」(NBN)、舞台「セールスマンの死」(演出:長塚圭史)、「春のめざめ」(演出:白井晃)、「タイトル、拒絶」(演出:山田佳奈)などがある。現在は丸源ラーメン「感動肉そば!」篇のCMに出演中。6月23日(金)から池袋シネマ・ロサで1週間限定上映「アトのセカイ」(天野裕充監督)と今秋公開予定「緑のざわめき -Saga Saga-」(夏都愛未監督)に出演。

ヘアメイク:光倉カオル(dynamic)
スタイリスト:土田寛也

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