活字では伝えきれなかった氷室の本心

 その日の夜、各紙は速報で氷室が語った内容を伝えた。「7年前から耳の調子が悪い」「聞き耳は左なのでそれでやってたけど左側の耳がどこかのトーンだけが聞こえなくて」「これ以上やっていくのは無理」――。

 本来、記事は物事を多角的に捉えて書かなければならない。しかしそこはスタジアム。無理な話である。氷室の表情は遠くからでは掴めない。それ故に抜け落ちているところもある。確かに氷室はあのステージを最後の場所に選んでいた節があった。12分にも及ぶ氷室のスピーチ。ファンからの声援を一切遮断して語り尽くした。その表情、雰囲気、言葉の端々からは確固たる決意が伝わってくる。「やりきった」と。

 耳の不調に加え、肋骨3本を折っていた(初日は2本がひび、1本が骨折)。当時、取材で痛み止めを飲んでライブに挑んでいたことが明らかになっている。しかし、映像を見る限りそのような感じは一切見受けられなかった。

 2日目の公演は、花火が打ちあがる一方で激しい雷雨が会場を襲った。空を切り裂く稲光に、激しく地面を打ち鳴らす雨。本編はなんとか乗り切ったが約1時間の中断。アンコールで用意した予定曲は全て歌えなかった。かろうじて披露したのは「ANGEL」だった。氷室は「今日は本当に申し訳ない。プロとして。怪我をして。このリベンジをどこかで必ず。こんな情けない人間を支えてくれる連中が集まってくれたら嬉しい」と再演を誓った。

氷室のソロ25年間が凝縮された2DAYS

[写真]氷室京介の真相が映像に

横浜スタジアム初日公演を収めた映像作品「KYOSUKE HIMURO 25TH ANNIVERSARY TOUR」

 後のWOWOWのインタビュー(聞き手=田家秀樹さん)で氷室は「天からタオルを投げられた」と語っていたが、ファンからすれば、泣きの一回が叶ったということになる。まさに天を巻き込んでの劇的なストーリー展開だった。

 予てからレコード会社は「来年開催のファイナルコンサートをもって休止」としていたが、映像からはこの2日間で全てを終えるという強い意志がうかがえる。

 ライブ活動の引退は以前から近しい人に言っていたことが後の報道で明らかになっている。それだけ体の調子は深刻なのであろう。ライブでも言っていたが、後のインタビューで「気持ちだけではどうにもならない事ってありますからね。気合を入れたら聞こえるようになるんだったら良いんですけど」「自律神経も少し悪くなっているからやる前から口の中が乾いちゃうんですよね」と語っている。耳だけではなく、年齢による体の衰えも今回のツアー(全50公演)で感じたようだ。

 そうした状況を知って改めて冷静にこのライブ映像をみると、2日目にはなかった氷室の最後としての想いが随所に込められている。氷室は「2日間で1セットになっている。25年分が詰め込まれている」とも述べているが、ここにすべての真相が収録されている。氷室という日本を代表するミュージシャンの半生が凝縮されている。

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[写真]氷室京介の真相が映像に
[写真]氷室京介の真相が映像に

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