佐竹桃華

 佐竹桃華が、ディズニー&ピクサー最新作『私ときどきレッサーパンダ』で日本版声優を務めている。母親の前での“真面目で頑張り屋ないい子”と、友達の前の“好きなことに夢中な等身大の女の子”という自分らしさに葛藤する主人公のメイが、ある日の出来事をきっかけに感情をコントロールできなくなってしまい、もふもふのレッサーパンダに変身してしまう物語。メイの日本版声優を務める佐竹は、一昨年開催の『ホリプロタレントスカウトキャラバン』で特別賞を受賞。昨年6月上演の初舞台『天神夢双』で初主演を務め、同年12月上演の舞台『ゆらり2021』でも主演を務めるなど、いま注目を集める若手女優だ。そんな彼女は本作にどのような思いで臨んだのか。【取材・撮影=木村武雄】

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ゲネプロ前日に吉報

――決まった時は相当嬉しかったんじゃないですか?

 本当に嬉しかったです! 18年間生きてきて一番うれしい出来事といっても過言ではないぐらい嬉しかったです!

――そのなかでプレッシャーは?

 プレッシャーはすごくありました。私自身がディズニー&ピクサーの作品を観て育ってきましたし、ディズニー映画はたくさんの方が注目されていますので反響も大きい分、もし私の声で作品自体が良くなかったと思われたらどうしようかと不安でいっぱいになりました。でもそういう作品に作り手の一人として加わるのは責任を感じましたし、嬉しくもありました。

――アフレコまではどのように過ごされていたんですか?

 合格を聞いた日の翌日が『ゆらり2021』のゲネプロでした。そこから本番があり終わった二日後からアフレコが始まるスケジュールでしたので、喜びたいけど今は舞台に集中しないといけないという感じでした。『ゆらり2021』で演じたのは泣きがキーになる役で、でも『私ときどきレッサーパンダ』に合格したことを思い出してどうしても口角が上がってしまうんです(笑)。だから、その都度「だめ、まだだめ」と感情を抑えていました(笑)。

――千秋楽が終わったあと気持ちも相当高ぶったんじゃないですか?

 もちろん舞台の千秋楽を迎えた時は達成感もありました。でも、『次はレッサーパンダだー!』とすぐに気持ちを切り替えて、ディズニー&ピクサーの作品を観て勉強をしました。

――役作りというか声作りはどのように臨みましたか?

 メイちゃんのキャラクターをちゃんと理解しないといけないと思いましたので、まずは台本をしっかり読みました。実際に声を出して練習するというよりも、どういうシーンでどういう状況なのかを把握するぐらいに留めて、あとは映像や吹替演出の方のアドバイスに柔軟に対応できるようにして現場で作り上げていきました。

――ガッツリ作り込まずに?

 台本で理解したことが、映像でより詳しく分かるというか、メイちゃんはこれに対して今こういう反応をしているんだということがより分かるんです。だから表情と私の感情の動きにブレがあったらいけないと思いましたので、映像に合わせて自分の感情を動かせるように意識しました。

佐竹桃華

アフレコ秘話

――配信記念イベントでお気に入りのシーンとして挙げたのが、感情の起伏が激しいところでしたが、実際は相当大変だったのではないかと思います。

 切り替えが一瞬でしたのですごく大変でした。ただ、少し声だけが置いていかれてるというのが目に見えて分かりましたので、どうやったらより面白く見えるかというのを探りながら声を入れていくのはすごくやりがいを感じました。

――吹替演出の方から言われたことで印象的だったことは?

 メイちゃんは私よりも年齢が低いので、普通に演じたらちょっと声が高くて高校生っぽい声になってしまうんです。それを13歳らしくお腹の下の方から声を出す感じでとアドバイスを頂きました。それとメイちゃんは生意気なことを言うけど垢抜けてないティーンエイジャーなのでちょっとしたダサさがすごくポイントでした。例えば、走るときの呼吸も鼻息を使った方がメイちゃんらしいですし、走り方もガニ股をイメージした方がらしさが出る。そういうちょっとした変化でよりメイちゃんらしさが生まれるということを吹替演出の方からアドバイスを頂きました。今まで声優をやったことがなかったので見よう見まねといいますか、想像で演じて、トライアンドエラーを繰り返してやりながら正解を探す感じでした。

――台本にもびっしり書いて?

 あまり台本に頼らないようにしようと思っていましたのでそうでもなかったです。自分がちゃんとメイちゃんになれていれば同じように感情は動くと思い、自分の中で13歳の幼い頃に戻って物事に対して素直に反応できるように意識しました。喜びや怒りとかそういう感情は子供の方がすごく豊かなので、映像と同じように自分も心が動くように考えていました。

――言われたことをすぐに体に落とし込むのはすごいですね。

 そういう空気を作って下さいました。映像を見て原音を聴いて録音ブースに入ると自然とそうなれたと言いますか…。もしかしたら自分と共通する点があったということもあるかもしれないです。私もどちらかというと感情が激しいタイプなので、そういうところはいい意味で自分と似ているからこそ活かせた部分もあると思います。

――掛け合いのテンポがすごく早いですが、そのへんはどうですか。

 例えば5秒の間に絶対に収まらないだろう長ゼリフもありましたが、私も早口なので、それがうまく活かされて速さにはあまり苦労せずできました。それは関西人特有かもしれないです。その代わり表情とか人間よりも速い感情の動きに合わせて声も出さないといけないところに苦労しました。逆に早すぎるって言われたこともあったので(笑)。

――でも標準語じゃないですか。

 それも結構苦労しました。ところどころでイントネーションが違うって。修正されるんですけど、いざ録音するとまた分からなくなっちゃって。例えば、ライブとかもカタカナで書いてあるとつい癖でライブ(尻上がり)って言ってしまうんです。あえてそれを消して英語でLIVEと書き直して読むと自然と正しいイントネーションで言えて。そういうのを考えて添削しながらやっていました。

佐竹桃華

コンプレックスだった声

――レッサーパンダになったときは体全体で表現したとも話されていましたが、それを掴むまでは大変でしたか。

 吹替演出の方からもアドバイスをいただいて、レッサーパンダになって物を引くときは実際に自分も同じ動きをすることでよりそれっぽく声が出るよって言っていただいたので、同じ動きをしていました。

――こういう声を出すためにこういうことをやったとかってありますか? 水を飲むシーンでは実際に水を飲む方もいらっしゃるそうで。

 割り箸を咥えて?アフレコしましたし、カーテンの奥で喋るシーンでは若干こもるのでハンカチを1枚当てて言ってみたり、クッションに向かって叫ぶシーンはタオルを丸めて厚みを出した状態で叫びました。ただ食べるシーンは食べずにやりました。

――佐竹さんは大食いですもんね。食べなかったんですね。

 あはは(笑)実際にはお菓子を置いて下さっていたんですけど、生の声でいけました!

――好物のアイスはなかったんですね。

 残念ながらなかったんです(笑)。そもそもアイスを食べるシーンがなかったので(笑)

――アフレコ終わったらアイス食べたり?

 最後の日にアイスを食べました。ちょっと高いアイスを買ってご褒美に食べました(笑)

――前回インタビューの時に声がコンプレックスだったとお話しされていましたが、それが今回は武器になったわけで、そういう体験を通して何か得たものはありますか。

 コンプレックスだったのがコンプレックスではなくなったというか。もちろんこの声で不利になるところもあると思いますので、いろんな声を出せるように練習したいです。でも私のこの高い声は武器にもなるんだと思えましたし、これも個性。この映画で伝えている「これもあれも私であって個性」ということを身に染みて感じました。この声に生まれて良かったと思っています。

佐竹桃華

頑張るしかない

――今回こういう作品に出られて主演舞台もなさってキャリアとしては順風満帆だと思いますが、今どう捉えていますか。

 正直、1年前の自分から考えると訳が分からないことが連続して起きている感覚です。まだ信じられていないところもあって、でも本当にありがたく思います。でもその反面、不安が大きいというか、これだけの経験をさせてもらっていますが、それに応じた実力がついてきているんだろうかと。本当に周りの方の支えがすごく大きくて、環境や人にも恵まれているとも思っていますし、それをより身に染みて感じています。だからこそもっと実力をつけて私が皆さんに恩返しできるようにしたいです。

――ちなみに不安は自分の気持ちの中で何%くらいですか。

 80%くらいです。

――結構高いですね。

 たぶん思っている以上に不安がどんどん大きくなっている気はします。舞台にしても声優にしても自分の実力以上のことをたくさんさせて頂いているので毎回不安になってしまって。でも今はそれに感謝してとにかく頑張るしかないですね(笑)毎回、何かをさせて頂くたびに気が引き締まるといいますか「頑張らないと!」と喝が入る感じです。

――でも佐竹さんの声が入ったメイを見て、将来声優になりたいと思う子供も出てくるかもしれません。その時点ですでに影響を与えているわけですからもっと自信を持っていいと思います。

 そう言って下さるとすごく嬉しいです。期待に応えられるよう頑張りたいです!

佐竹桃華

(おわり)

Photos
木村武雄

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