ロックバンドの神はサイコロを振らないが3月2日、Major 1st Full Album「事象の地平線」をリリースした。1stアルバムは「ドラマ主題歌」「映画主題歌」「CM ソング」などのタイアップ楽曲10曲を収録し、n-buna from ヨルシカとアユニ・D(BiSH/PEDRO)、キタニタツヤとのコラボ楽曲、セルフプロデュース楽曲など2CD全20曲を収録。デビューからの神サイを凝縮したここまでの活動の集大成ともいえる作品となった。インタビューではアルバムに収録された新曲の制作背景をメインに、アルバム制作の舞台裏に迫った。【取材=村上順一】
5年分をこの1年半でやっているような感覚
――結成7年で初のフルアルバムですね。メジャーに来てからコンスタントにリリースは続けていましたが、振り返るとどんな変化がありましたか。
柳田周作 僕はあまりたくさん曲を作るタイプかといえば、そうではなかったんです。結成してからの5年分をこの1年半でやっているような感覚もあります。今までは一曲入魂といったスタイルがずっと続いていて、アイデアを絞り出すというよりも、メロディが降ってくる瞬間を待つ、というのが僕の中でのセオリーでした。環境が変わればその姿勢も変わっていって、たくさんのアニメやドラマ、CMなどの機会を与えていただいたので、曲が降ってくるのを待っていたら話にならなくて。そのおかげで音楽もディグったり、インプットするようになりました。それをアウトプットする術も曲を作るごとにわかってきました。
黒川亮介 すごく頑張っているなというのは、ハタから見ていても伝わってきてましたし、メンバーとして柳田が頑張っている分、自分も何かドラムで新しい発見をしなければというのもありました。そして、支えなければという思いもあって。
柳田周作 ATMのように…。
――え、黒川さんに奢ってもらったり?
柳田周作 昔、大阪にいった時に映画「ボヘミアン・ラプソディ」をメンバー4人で観にいったことがあったんです。
黒川亮介 その時にお金を貸しました。
柳田周作 ポップコーン代まで出してもらって(笑)。
――至れり尽くせりで。映画「ボヘミアン・ラプソディ」はバンドにとってすごく刺激になったのでは?
柳田周作 すごくいい映画でしたし、あの作品を4人で観たという事実は僕の中でも大きいです。
吉田喜一 4人で同じ映画を観ることなんてほぼないですから。
柳田周作 その後に大阪の街に遊びにも行ったよね。
桐木岳貢 行ったね。次の日に自分たちのライブがあったんですけど、その遊んだのがよくなかったのか、これがまた全然いいライブじゃなくて。
一同 (笑)。
――あの映画見たらめちゃくちゃいいライブできそうですけど…。
柳田周作 普通はそうなんですけどね(笑)。
――でも、「ボヘミアン・ラプソディ」のようなバンド活動の一部始終を表現した作品をいずれ神サイでも見たいですね。
柳田周作 マネージャーさんが今回のアルバムのレコーディングの模様だったりも撮ってくれているので、いずれ公開したいです。しっかり空気感の悪いところも押さえているので、楽しいところだけじゃない、そういった対比がバンドの面白いところでもあると思うんです。
――すごく興味深いところですよね。ところで、2枚組という案はどなたから? 1stアルバムから攻めてますよね。
柳田周作 これはチームで話し合って出てきた案でした。最初はコンセプトアルバムの方向で話していて、例えば神サイは陰と陽でいえば陰の方が魅力だと思うので、そちらに振り切ったアルバム、ミスチルさんでいえば『深海』のような作品にしようとか。今作はアルバムを作ろうと思って作っていた曲ではなく、そのためだけに精神を注ぎ込んできた曲ばかりなので、どの曲も我が子のように可愛いくて大切な曲たちです。僕たちもギリギリCD世代なのでフィジカルへの想いは強いので2枚組もいいんじゃないかと。昔はGEO(ビデオレンタルを主としたメディアショップ)でよくCDをレンタルしてましたし。
――神サイは僕の中でGEOのイメージが強いんですよね。
吉田喜一 西はGEOが多いんですよ。
黒川亮介 部活とかやっていなかったから毎日のように友達とGEOに行ってましたね。
桐木岳貢 僕は島根なんですけど、ブックセンタージャストがメインでした。
吉田喜一 ジャスト、うちの方にもあったよ!
柳田周作 それ知らないわ。
吉田喜一 ジャストをバカにするなよ! 僕の中ではジャストに青春が詰まってるんですよ。
『事象の地平線』制作エピソード
――さて、アルバム『事象の地平線』に収録された新曲たちの制作エピソードがお聞きしたいです。
吉田喜一 「少年よ永遠に」はオールドスクールで、昔ながらの手法といいますか、バンドで同時録音しました。エディットもせず録ったテイクをミックスしています。あとドラムもこだわっていたよね?
黒川亮介 ドラムはキック、スネア、ハイハットの3点とシンバル2枚のみというセットで臨みました。レッドツェッペリンのジョン・ボーナムが使っていたような26インチサイズの大きいキック、胴が浅いピッコロという種類のスネアにタムのヘッドを貼っています。そうするとスパーク感が増すんです。
――同録したい、という案はどなたが?
柳田周作 これは僕の案なんですけど、そもそもサウンドプロデューサーさんやアレンジャーさんを入れるか、入れないかという話がありました。この「少年よ永遠に」だけ、アルバム収録曲で唯一セルフプロデュースなんです。原点回帰と言いますか、4人のみで成立させてみるのも面白いんじゃないかと思って。友達とスタジオで初めて音を出した時のような衝撃をこの4人でも味わいたくて、同録という手法を採用して。
――この曲は歌い方も今までと違いますね。
柳田周作 イメージとしては、ちょっと廃れたような表現もしてみたいと思って、まずは「少年よ永遠に」で、その片鱗を見せたいと思いました。
――ギターソロもユニークですね。
吉田喜一 前半を柳田が、後半を僕が弾く構成になっています。クロスするイメージで弾いていて。このソロは柳田が考えてくれて、自分もすごくいいなと思ってレコーディングに臨みました。でも、柳田のニュアンスが全然出せなくて。
柳田周作 手癖とかあるからね。
吉田喜一 歌に絡むフレーズとかは再現したいし、注文があればどんどん言って欲しいんですけど、ギターソロだけは自分のテリトリーという感じもあって、自分らしさを出したい、という想いがどんどん強くなっていって。それで柳田に「自分の感じで弾いてもいいかな」と相談して、このテイクになりました。今回収録されている新曲はメンバーとのディスカッションも多かった、と今改めて思いました。それに加えて阿吽の呼吸みたいなものもすごくあって。
――求めているものがわかるようになって。
吉田喜一 例えばミックスでこうして欲しい、というのも言わなくても、柳田が、僕が思ったことを全部言ってくれたりして、話していないけど話している、みたいなことが多々あって面白かったです。
――桐木さんはレコーディングの思い出として印象的だったのは?
桐木岳貢 「僕だけが失敗作みたいで」という曲の後半でみんなで歌っている部分があるんですけど、歌詞があるものを歌うというのは実は初めてでした。それはすごく新鮮でしたが、改めて歌うというのは難しいなと思いました。
吉田喜一 本当に歌ってすごく難しくて、響いていないと格好良くないんですよね。
柳田周作 吉田に歌ってもらう時に、「どうやったら腹から声が出る?」と聞かれたのですが、自分もどうやったら腹から出るんだろうなと。それで2人で考えた結果、人間は寝ることで勝手に腹式呼吸になるみたいなので、床に寝て歌ってもらうことになって。
――面白いですね。これでメンバー全員が歌えるようになれば「タイムファクター」のブレスがない問題も解決するわけで。
柳田周作 本当にそうです。今回「イリーガル・ゲーム 」もそういう感じがあります。忙しすぎて後半とか息を吸う暇もないくらい。今考えているのが後半に登場する<笑っているの?>のエフェクティブなパートはメンバーに託してもいいかなと思っています。
黒川亮介 そこは自分、ドラムのフィルがあるから無理ですね。
柳田周作 2人は大丈夫でしょ?
桐木岳貢 僕も色々忙しい。
吉田喜一 お客さんを煽っているから難しいね。あとギターをチューニングしたりしないといけないし。
柳田周作 そんな時にチューニングしなくてもいいだろ(笑)。
アルバムの核になった「僕だけが失敗作みたいで」
――(笑)。黒川さんは印象的だったレコーディングは?
黒川亮介 神サイの曲って集中しないと叩けない曲が多いんですけど、「LOVE」という曲は肩の力を抜いてドラムを叩ける曲なんです。そういう意味では自分の中では新しい曲になっています。
柳田周作 レコーディングで面白いなと思ったのが、ワンテイク目のプレーがすごく良かったんです。ドラムとベースがグルーヴィでいい意味でやばいと思って。そこからちょっと細かいリクエストを僕がしたんですけど、そのテイクが全然良くなくて(笑)。頭で考え始めちゃったんですよね。
桐木岳貢 本当にワンテイク目がすごく良くて、みんなも「何も言うことがない」といった感じだったんですけど。
――柳田さんのプロデュースが入ってダメになった(笑)。
黒川亮介 それにもしっかり応えられるようにならないとダメなんですけどね。今後の課題でもあります。
――柳田さんの印象的だった出来事は?
柳田周作 マスタリングで頭から最後まで聴いた時に、自分ですごく感動したのが「徒夢の中で」でした。その時に感じたのが神サイは繊細な音楽が似合うなと。「LOVE」のような曲は考えてしまうと魅力が薄れると思うのですが、逆に「徒夢の中で」はずっと緊迫していて、ライブでも精神を削りながら歌っています。繊細で儚くて危うい曲ではあるんですけど、こういう曲を演奏したら神サイはどこにも負けないんじゃないか、と思いました。
吉田喜一 音楽的にもすごく尖っていると思います。
――そしてDisc2の1曲目「あなただけ」にも神サイらしさがあってすごく良かったです。
柳田周作 この曲はレコーディングもすごくスムーズで2〜3テイクで録り終えました。考えれば考えるほど良くなくなるなと思って、生っぽさと言いますか、自然と出てきた表現を歌で出した方がいいと、ボーカルディレクションをしてくれた方と話したりしてました。
――桐木さんがベースで思い入れのある曲は?
桐木岳貢 「僕だけが失敗作みたいで」は歌詞を最初に見た時にすごく重く受け止めていたので、デモではローBが出る5弦ベースでプレーしたんですけど、それを送ったらちょっと違うと言われて。だんだん開けていくような感じにはしていたんですけど、「まだ重い」とのことだったので4弦ベースに変えて録り直して。
柳田周作 桐木はこの曲をバラードだと思っていたみたいで。
桐木岳貢 その時に歌詞の見方が変わりました。テーマとしての見え方は一緒なんですけど、細かいところの観点の違いというのが知れて面白かったです。
――タイトルも小説っぽい感じで面白いですね。
柳田周作 タイトルは歌詞の中の一節から選びました。テーマとしてはアルバムのラストでもっと僕らしさが滲み出ている詞を書きたい、というのがあって。アルバムを作る段階からこの曲は浮かんでいて、フィナーレは見えていました。アルバムの曲順も「僕だけが失敗作みたいで」を基準に組んでいます。結果その構想を飛び越えるくらいすごくいい曲に仕上がって今作の核になっている曲です。
――結末に向かってどう流れていくかですね。
柳田周作 吉田も珍しくミックスの段階から「この曲いいわ」と言ってくれていて。あまりミックス段階で褒めているのは聞いたことがなかったので、嬉しかった(笑)。
吉田喜一 褒めてるよ(笑)。ラフミックスの段階で録り音がすごく良くて、すでにバランスも取れていたんです。
――核になった曲ということはMVもあるんですね!
柳田周作 それがないんですよ。アルバムがめちゃくちゃ売れたら作れると思うので、皆さんよろしくお願いします!(笑)
――東阪野音 Live 2022「最下層からの観測」が3月20日と4月10日に開催されますが、最後に意気込みをお願いします。
柳田周作 初の野音ワンマンということで気合は十分で、超ハッピーでそれでいてダウナーで情緒不安定、躁鬱という神サイのいいところを全部ぶちまけていこうと思っています。そのあと5月からは全国ツアー『事象の地平線』も決まっていて、初めて僕と桐木の故郷である宮崎と島根にも行くのでテンションが今から上がってます。東京公演のLINE CUBE SHIBUYAは、最終日がメジャーデビュー2周年の日でもあるので、2日間SETLISTの違うライブで臨もうと思っているので、ぜひ両日観にきてください。
(おわり)
ライブ情報
東阪野音Live 2022「最下層からの観測」
▽東京公演開催日:2022年3月20日(日)会場:日比谷野外大音楽堂 URL: https://kamisai.jp/
▽大坂公演開催日:2022年4月10日(日)会場:大阪城音楽堂 URL: https://kamisai.jp/
Live Tour 2022「事象の地平線」(全国13都市・14公演)
-Tour Schedule-
福岡公演:5月21日(土) 福岡 UNITED LAB OPEN17:00 / START18:00
宮崎公演:5月22日(日) 宮崎 LAZARUS OPEN17:00 / START17:30
山口公演:5月28日(土) 周南 RISING HALL OPEN17:30 / START18:00
島根公演:5月29日(日) 松江 B1 OPEN17:00 / START17:30
宮城公演:6月4日(土) 仙台 Rensa OPEN17:30 / START18:00
北海道公演:6月11日(土) 札幌 PENNY LANE 24 OPEN17:30 /START18:00
広島公演:6月18日(土) BLUE LIVE 広島 OPEN17:30 / START18:00
香川公演:6月19日(日) 高松 festhalle OPEN17:00 / START17:30
新潟公演:6月25日(土) 新潟 LOTS OPEN17:30 / START18:00
石川公演:6月26日(日) 金沢 EIGHT HALL OPEN17:00 / START17:30
愛知公演:7月3日(日) 名古屋 DIAMOND HALL OPEN16:30 /START17:30
大阪公演:7月10日(日) Namba Hatch OPEN16:30 / START17:30
東京公演:7月16日(土) LINE CUBE SHIBUYA OPEN17:00 / START18:00
東京公演:7月17日(日) LINE CUBE SHIBUYA OPEN16:00 / START17:00