堀田真由、島﨑信長、榎木淳弥が、アニメ映画『ブルーサーマル』(3月4日公開)で声優を務める。小沢かなさんの青春漫画『ブルーサーマル-青凪大学体育会航空部-』のアニメ化。大学航空部を舞台にグライダーを通して空に魅了された主人公の成長を描く。本作が初のアニメ声優挑戦となる堀田は主人公の都留たまき(つるたま)を、島﨑は“つるたま”に空の魅力を気づかせる航空部主将・倉持潤、そして、榎木は航空部の先輩で指導係の空知大介を演じる。アフレコの舞台裏、そしてそれぞれ夢中になっていることを鼎談で聞く。【取材・撮影=木村武雄】
堀田真由の声、質感がいい
――堀田さんはアニメ声優初挑戦ということで、どのような事を意識して臨みましたか?
堀田真由 監督からは「つるたまは天真爛漫で突き抜けた明るさがあるので高いトーンで話してほしい」とお話しいただきました。普段話している私の声のトーンはそれほど高くないのでその辺は意識しました。ただ、アニメーション作品の声優が初めてで、どういうタイミングで声を出したらいいのか全く分からなくて。スタッフさんが事前に、私が言うセリフのタイムを台本に書いて下さってそれに合わせることを家でも練習しました。
――長崎弁にも挑戦されました。
堀田真由 長崎弁は苦戦したといいますか、私が関西出身で、関西弁と似ている部分が多く、似ているからこそ少しの違いが沼にハマると言えなくなることもあって。ただ、お母さん役の方が長崎弁を話せる方でしたので、いつも横にいて下さってご指導を受けながらアフレコしました。
――島﨑さん、堀田さんの声を聞いた印象はいかがですか。
島﨑信長 オーディションが終わった後に「つるたま役の声はこの方になりました」と音声を聞かせてもらいました。と言うのも、主人公の芝居感で全体のバランスが決まってくるので、その参考にさせて頂くためでした。それでその声を聞いたら純粋にいいなって。聞いた後に「堀田さんです」と。
声優は半分職人芸みたいなところがあって、役者的な感覚の部分と、職人的な技術の部分が混ざりあったお仕事だと思うんです。でも大事なのは、見て下さる方に伝わるかどうか。そういう意味でも堀田さんの声からは、ストレートな感情や人物像がすごく伝わってきて、素敵だなって思いました。一緒に録った時も、真っ直ぐに伝わってくるし、伝えてくれるし、ひたすらいいなと思いながらやらせて頂きました。
――榎木さんは?
榎木淳弥 前半と後半でだいぶ質感が変わったような気がしました。声優にある職人的な表現方法があって、後半はそれを織り交ぜつつ堀田さんならではの表現になっていたと思います。前半はいつもの実写に近い表現で、その違いがまた面白くて。応用が早いなと。僕は10年声優をやっているんですけど、未だに良く分からないです(笑)。堀田さんは普段実写で活躍されているので「実写の時はどうやるんですか」とか、質問魔になっていました(笑)。
――堀田さんご自身は、後半から変わってきたという自覚は?
堀田真由 3日間くらい収録させて頂いて、最初は立ち方とか持ち方が分からない状態でした。自分が変わったというより、横にいて下さるお二人が常に支えて下さったので、お二人に預けていたら自然とそういうふうにうまく出来上がったという感じの方が近いかもしれないです。
――それはつるたまにも重なる気がしますね。
堀田真由 キャラクターと同様でお二人に支えられていたので、一緒なのかなと思います。
それぞれのキャラクター
――演じたキャラクターの魅力と、役作りで苦労した点、印象的だった点を教えてください。
榎木淳弥 僕が演じた空知は、元気で気のいいキャラクターです。倉持さんに憧れを抱いているんですけど、その倉持さんはつるたまばかりに目がいくので、つるたまにきつい事を言ってしまうという素直じゃない部分もあって。でも可愛いヤツだなって思います。
役作りは、自分というより、堀田さんが演じるつるたまの空気感に合えば良いかなと思っていました。でもそこが一番難しかったです。どうしても声優っぽい質感になってしまうので、なるべく整っていない感じというか、そこが魅力的に聞こえればいいと思い意識しました。
――掛け合いが自然に聞こえるのはそうした点からかもしれないですね。
榎木淳弥 なるべくアフレコ中も堀田さんの顔を見ようと思ってやっていました。
――堀田さんは?
堀田真由 つるたまは、笑ったり泣いたり怒ったりと表情が豊かでコロコロと変わるので、それを声で表現するのが難しかったです。とても真っすぐな部分は演じていても素敵だなと思うほどで、好きになれるキャラクターでした。
役作りで苦労した点は、初めてということもあって技術的な面がないからこそ、思うまま感情に乗せることだけを常に意識しました。彼女がすごく一生懸命な女の子なので、自分自身も一生懸命やれば繋がるんじゃないかなと思い、あまり深く考えずに感じるままやりました。皆さんにすごく助けて頂きました。
――島﨑さんは?
島﨑信長 学生時代は、少し年上でもすごく大人に見えると思うんです。そういうところが倉持にもあるなと思っていて、彼もいろいろ事情を抱えて苦労をしているけど、表に見せないからミステリアスな魅力というか、謎な人って知りたくなるし魅力的に見えると思うんです。しかもあまり感情を見せないから、大人にも見えるし。とはいえ彼は大学生で、大人からみたらまだまだ青い部分はあって。そういうところを大事にして、周りから見た彼と、彼の中でうごめいている生身の彼というのを大事にできたらいいなと思いました。
苦労した点は、倉持がどうこうというのもあるんですが、作品のバランスや空気感、濃度によってお芝居が変わってきますので、その辺を意識しました。ざっくり言うと、デフォルメをどのくらいにするかとか、どのくらい整えるのかとか。そういう意味では、空知はつるたまと同じ目線でヤイヤイしていく感じで、一応先輩だけど気が付くと対等になっていて、そしてつるたまに寄り添うというか、同列に聞こえないといけない部分があったと思います。
でも倉持は先輩なので、整っていてもいい部分と、多少作っていてもいい部分があって。その塩梅は考えていますが、結局は現場の肌感覚で得たものをどう出してくかというのは考えていました。事前の読み合わせなど一緒にやらせて頂いた役者皆さんがすごく表現が伝わってくる方達でしたので苦労ではなかったです。楽しんでやらせて頂きました。
掛け合う人によって異なる
――島﨑さんは、主役の方が決まってから作っていくとおっしゃっていましたが、普段からそうなんですか?
島﨑信長 中心に限らずバランスはすごく大事で、先に役が決まっている方がいるとしたら、その方とのバランスを考えます。全体の流れとみんなのバランスが噛み合ってひとつの作品になるのでそうしたバランスはいつも考えています。
それと一緒にやっていく中で出来上がっていく気がします。同じ表現でも、すごく写実的な現実寄りのリアリティを追求した作品と、ザ・アニメという作品とで異なってきます。例えば、ものを見つけてびっくりする反応でも、キャラクターの設定が全く一緒でも、その世界のバランスが違うだけで「!!」という記号を声で表現するとかしないとか。役の事だけじゃなくて作品全体を考えて作っていくものだと思っています。
――となると、主演が違っていたら変わっていたのかもしれないですか。
島﨑信長 主演だけじゃなく、掛け合う相手が一人違うだけで変わります。実際掛け合って思ったよりも怒っているなと思ったら、こちらもニュアンスを変えたり。事前に全部用意していくわけではなく、現場で掛け合って作っていくものだと思っていますし、職人芸的な部分だけじゃなく、役者的な部分があるというのは、掛け合ってその場で作っていく生ものでもあるということだと思います。
――だから榎木さんも堀田さんの顔をずっと見ていた?
榎木淳弥 綺麗なお顔だったので(笑)。
島﨑信長 いやいや(笑)。それ言うと、休憩時間もずっと見ていたみたいになっちゃうから(笑)。マイクで掛け合っている時に台本をガン見しているのではなくて、掛け合う役者を見ていたということだよね。
榎木淳弥 めちゃくちゃフォローしてくれてる(笑)
島﨑信長 だってこの流れだと、ずっと見ていたヤバイヤツになるから(笑)
――優しいですね。榎木さんはそういうことを考えながらやったという事ですね。
榎木淳弥 顔を見ていると、顔の筋肉の感じとかで伝わってくるものがあるかなと。
島﨑信長 スタッフさんが、掛け合いで「自然なテンポで絵の尺に合わせすぎないでやっていいですよ」と言って下さったので有難かったです。
榎木淳弥 いっそずれてもいいぐらいの時もありました。
夢中になっていること
――そして今回、空に夢中になっているというところで、今夢中になっているもの、あるいは、これがあるから頑張れていること、リラックスできるものがありましたら教えてください。
榎木淳弥 最近、証券口座を開設しまして…。
島﨑信長 それ俺が勧めたやつ(笑)。
榎木淳弥 株式投資を頑張ってこうかなと(笑)。株を教えてくれるYouTubeを観て、株ってこうなっているんだって、世の中の事を知れていいですよ。それが最近興味があることです。
――堀田さんは?
堀田真由 韓国のドラマや映画、K-POPとか海外のものが好きなので、休みの日に観るのがリラックスできる瞬間です。このお仕事をしているので、日本の作品もちゃんと観ないといけないと思っていますが、海外の方が、感情移入が違った面で別として観られるというか。日本の作品だといろんなものが自分の中に入ってきてしまうので、海外の作品を観るというのが夢中というか、集中できる時間なのかなと思います。
――邦画ですと仕事モードになってしまうんですね。
堀田真由 芝居の勉強になる部分もありますが、エンターテインメントとして観るのが海外の作品で、仕事でやっているからこそ、別のものが観たいと思っています。
島﨑信長 それ分かる! 自分の関わっている作品は、視点が複雑になったりとかね。声優さんでよくあるのはオーディションをたくさん受けているので、自分が落ちた作品を観ようかどうしようかなとか。素直に楽しめるのかなとか。そういう意味では全然関係ない作品だと素直に受け取れるよね。
――そんな島﨑さんは。
島﨑信長 僕はコミュニケーションです。コロナ禍で人と話せなくなったり、芝居も一緒に掛け合えなくなったりして、前は当たり前のようにコミュニケーションを取っていたけど、失って改めて気づくというか。『ブルーサーマル』みたいにうまく調整して一緒に録れるようにしてもらったり、こうやって対談でお話しできるようになって、改めて楽しいなと思います。だから今もっと無限に話せますね(笑)。
――自然な掛け合いはこうしたところからも生まれているんですね。
島﨑信長 そうです! なのでその空気感も楽しんでもらいたいです!
(おわり)