森山直太朗×榎木淳弥、アフレコ体験を通して感じたシンガーと声優の共通点
INTERVIEW

森山直太朗×榎木淳弥

アフレコ体験を通して感じたシンガーと声優の共通点とは


記者:村上順一

撮影:冨田味我

掲載:21年11月05日

読了時間:約11分

 歌手の森山直太朗が10月27日に、新曲「カク云ウボクモ」を配信リリースした。同曲は柄本主演で森山が兄弟役として出演した、阪神・淡路大震災時に被災者の“心のケア”のパイオニアとして奮闘した精神科医の姿を描くヒューマンドラマ「心の傷を癒すということ」(NHK総合 2020年放送)の映画『心の傷を癒すということ<劇場版>』(2021年1月公開)の主題歌として注目を集めている。

 先日、「カク云ウボクモ」のMVとうえはらけいた氏が描いたオリジナル・ボイスコミックが公開された。そのボイスコミックの声優には『呪術廻戦』虎杖悠仁役、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』ピーター・パーカー/スパイダーマン役(吹替え)などを務める榎木淳弥と、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』四宮かぐや役、『アイカツ!』芦田有莉役の古賀葵を起用し話題に。

 今回そのボイスコミックのアフレコで榎木が演じた夫役に森山が挑戦。榎木はアドバイザーとしてアフレコに参加し森山を見守った。アフレコ体験後、MusicVoiceは森山と榎木に独占インタビューを実施。2人に今回のアフレコ体験を振り返ってもらいながら、どんなことを感じながら演じていたのか、歌手と声優、声を生業とする2人の考え方に迫った。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

森山さんらしさが出ているかどうか

森山直太朗×榎木淳弥

――アフレコを体験してみていかがでした?

森山直太朗 今回は少しだけだったので、あっという間に終わってしまったということと、すごく楽しかったので癖になりそうだなと思いました。まず、アフレコをするという以前に、ボイスコミック動画が完成して、榎木くんと古賀さん、お2人の声が入ることで、ある種平面的な画像に対して色味が付いて、奥行きが出てくることに感動しました。僕はこういった作品に自分の曲が流れてくると自分の歌が気になってしまうんですけど、今回は物語が自立して真横にドンとあって、さらに声優さんの声があったので、特に歌を気にすることはなかったのが、今までにない面白い経験でした。

――過去にアフレコを少しやったことがあるとお聞きしたのですが、どんな作品だったんですか。

森山直太朗 デビュー頃なんですけど、僕と一緒に曲を作っている御徒町凧がイラストレーターのSEICHIと組んで「シトラスタウン」(フジテレビの子供番組「ポンキッキーズ21」「ポンキッキーズ」内で放映されていたMADE IN POP制作の短編アニメ)というアニメ作品で僕も参加して。あとナレーションをやったこともあったので、既視感があるなと今回思いました。

――すごい久しぶりなんですね。榎木さんはこのアフレコを見ている中で、2テイク目の時に「あっ、ちょっとやってる」と、お芝居臭さが出ているといったニュアンスをぽつりと言っていたのが印象的でした。

榎木淳弥 1テイク目が終わって、少しアドバイスさせていただいてからの 2テイク目の出だしということもあったので、ちょっと“やってる感”が出てしまっていて(笑)。

森山直太朗 それは、プレイバックして聞いた時に自分も「あっ、やってるな」と思いましたから(笑)。

榎木淳弥 なので、出だしは1テイク目の方が良かったんです。その後はもう2テイク目の方が良かったです。

――どんなところを重視してチェックされていたのでしょうか。

榎木淳弥 一番は森山さんらしさが出ているかどうか、というところです。というのも、その人の心の有り様が出てきた方が聞いている人は感動するんじゃないかなと思っていて。

森山直太朗 僕も逆の立場だったら同じ感覚になると思います。テレビの歌唱とか見ていても「あーやってるな」とか思うこともありますから。

榎木淳弥 ちなみに歌の「やってる」というのは、どんな感じなんですか。

森山直太朗 これは声優さんにも繋がることだと思うんですけど、自分に酔っている、客観性がない中で自分の間合いで歌っている感じです。

――ところで、森山さんが思う声優というのはどんなイメージですか。

森山直太朗 僕は、『機動戦士ガンダム』、『キャプテン翼』とか80年代の作品でどこか止まってしまっているので、僕がやるとしたらその感じのアフレコになるんです。今の声優さんの印象はすごくスーッと入ってくるようなクールなイメージがあります。

榎木淳弥 お芝居にも流行があるんです。

森山直太朗 それって監督さんの意向もありますよね? それに対してなぜ自分が選ばれたのかなど。

榎木淳弥 もちろんそれも大事になってきます。

――えーと、ざっくり言うと森山さんのアフレコは80年代スタイルということで良いんですか?

森山直太朗 本当にざっくりですね(笑)。僕の場合、選択肢がそれしかないだけなんですけど、今回は「北の国から」スタイルです!

――良い意味で淡々と進んでいく感じもありました。

森山直太朗 このマンガを描いてくれたうえはらけいたさんが、なぜこの言葉を選んだのかを考えました。今回あまり本を読み込む日数がなかったんですけど、脚本家がどういった意図で書いたセリフなのか、この作品に登場する奥さんの言っていることの兼ね合いだったり。色んな要素が絡み合っているから面白いんです。今回はリハもなくていきなり本番だったというのも良かったのかもしれないです。

――ファーストテイクの良さもあるなと感じました。

森山直太朗 それは音楽でもありますね。もしくは仮歌の方が良かったりすることもありますから。誰にも聴かれていないですし、表に出るといったバイアスが掛かってないので。それが本番になるとなぜか一枚幕が掛かったような感じになるんですけど、逆にそれが吉と出る場合もあって。

――深いですね。

森山直太朗 テイク12くらいまでやって、結局テイク1が採用されることもありますから。でもそれはそこまでの11回が無駄になったわけではなくて、それも重要だったりして。それでもファーストテイクを超えられなかったというね。ファーストテイクと色がないものが通じる所があると言いますか、普段の僕が話す時とこういった取材で話す時も声のトーンが違ったりして、人に聞かれていると思うと少しずつ力んでしまうんですよね。なぜ稽古の時や楽屋にいる時のような感じでいられないのか、というのは僕のテーマとしてあります。

――榎木さんはいかがですか。

榎木淳弥 僕はお風呂場でセリフを言っている時が一番上手いです(笑)。もう幻に近い感じで、それはなかなか現場では出せないものなんです。アフレコでもテストで一度録音するんですけど、それが良かったりすることもあります。やっぱり積み重ねたものがあって結果的にわかったファーストテイクの良さなので、歌と似ているところもあるなと思いました。自分でも何となくテストの時の方が良いだろうなと思うこともあるんですけど、それを2回目でどう超えて行くか、というのが大事なんだと思います。

森山直太朗 なぜファーストテイクが良いのか考えることがあるんですけど、作品に初めて触れるということもあり、一番集中しているんですよね。五感が一番働いていると言いますか。2回目以降は1回目に出来なかったことを修正しにいこうとしてしまうので、また違うんです。

本の読み方が個性になる

森山直太朗

――意識は変わりますよね。アフレコ体験で森山さんはこんなにゆったりしたテンポのお話しなのに、頭の中がフル回転でグルグル回っているとお話しされていたのが印象的だったのですが、百戦錬磨の榎木さんもそういった感覚はあるのでしょうか。

榎木淳弥 僕の場合は準備段階がそういった感覚があって、現場に来た時は割と落ち着いていると思います。自分の感情のトリガーがあるんですけど、それをあらかじめ決めていくのでそんなにグルグルしなくて済むんです。風景を一枚思い浮かべるだけで全部スッといけるように準備しています。今回僕は森山さんの「カク云ウボクモ」の歌詞を読んで、意味を考えたり分析して臨みました。

――ボイスコミックだと、アフレコの手法は変わる部分もあるのでしょうか。

榎木淳弥 僕は割と特殊なタイプのやり方だと思うんですけど、あまり絵を見ないで進めていきます。僕の場合は絵だと感情移入が難しくて。そうすることで自分の日常に近くなる感じがあります。逆に歌の場合もそうなのかなと思っているのですが、森山さんはどなたかを思い浮かべて歌ったりされますか。

森山直太朗 僕の場合、自分で作っているものを何度も歌うわけなんですけど、できた時の原風景とか作った時の感覚に戻らされる感じがあって自分も物語の中にはあまり入ってはいないんです。ラブソングのように対象がすごくはっきりした歌でも実は全然違うことを考えていることもあって。その方が曲に心酔し過ぎないですむのかなと。

榎木淳弥 声優も歌手も共通点がありそうですね。

森山直太朗 そうそう、心酔と言えば、ドラマ『うきわ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京)で役を演じさせていただいたんですけど、どうしてもセリフに対してやり過ぎてしまうところがあって。その度に監督さんから「森山さんちょっと色気が出ちゃってます」って(笑)。それは脚本や画、照明など演出を信じろということなんです。例えば血管が浮き出ただけでもそれが何かを伝えてしまっていると話してくれて。今回も作品があって自分がいるという感覚は大事にしていました。

――森山さんはどんなことをイメージして今回アフレコに臨まれたのでしょうか。

森山直太朗 最終的には身体の響きです。まだまだ感情を込めたりとか無理だと思ったので。その響きが良ければ多少セリフがヨレていたりするのもその時のプレーだから、このヨレている感じも良かったなと思うようにして。

榎木淳弥 まさにその部分が僕も勉強になりました。声優というのはどうしても綺麗になってしまうといいますか、声で説明するのがある種の仕事なんです。でも僕はそれがあまり好きではなくて、その説明をせずに観ている人が自然と広げてくれればいいかなと思っていて。森山さんが仰っている“その時のプレー”というのは、声優を続けていくと失っていく感覚の一つだと思います。やっぱりちょっと噛んだりしただけでも、もっと綺麗に声を出そうとすごく気になってしまうんですけど、そういったものが良い意味で森山さんからは感じなかったので。

森山直太朗 それは最初に榎木くんのアフレコしたものを見たのが大きかった。僕は榎木くんがもう少しカロリーが高い感じの演技で来るのかなと予想していた部分もあって。でも実際はそれとは違う、良い意味で淡々とした感じがあったので、それを僕なりに変換できると思って、すごく今回のヒントになりました。

榎木淳弥 嬉しいです。僕はこの手法を取り入れたのは歌手の方のインタビューを読んで知ったんです。例えば森山さんが「さくら(独唱)」を泣きながら歌っていたら、聴いていた方は引くと思うんですよ。

森山直太朗 どうした?って(笑)。

榎木淳弥 それに近いのかなと(笑)。それってご本人の事情を知っていたら感動できると思うんですけど、知らない人が見たら「えっ!」となってしまうなと思いました。聴いている人が考えていただければいいことなのかなと思っていて。

森山直太朗 まさに僕が今回榎木くんの声を聞いてそう感じました。ちゃんとこっちに委ねてくれている、というアフレコだったんです。その榎木くんの姿勢が僕の参考になった部分でした。

――お二人とも声をご職業としているので通じるところ、得る部分はたくさんありますね。さて、榎木さんが森山さんへのアドバイスで、作品の中での時系列だったりその状態、「寝転がって喋っている感じ」というのをリクエストしていたのも、森山さんのポテンシャルの高さを感じさせました。

榎木淳弥 1テイク目を聞かせていただいて、それができると感じました。色々お話しさせていただいたんですけど、すごく反応が良かったので、きっと話せばできるんだろうなと思って。

森山直太朗 僕もそのアドバイスは新しい感覚でした。その中で意識したのはセリフというセリフ以外は訥々と読む感じにしていて。セリフのリアルな感じが回想に寄ってしまっては違うんだろうなと、アドバイスを聞いて思いました。奥行きや行間を自分で探していくのが声優さんやお芝居をする人たちの楽しみでもあるし、その本の読み方が個性になると思いました。

森山直太朗に合うのはアニメor映画の吹き替え?

榎木淳弥

――ところで、森山さんはアフレコがまた出来るとしたらどんなキャラを演じてみたいですか。

榎木淳弥 アニメなのか、吹き替えなのかというのもありますね。

森山直太朗 奥の深い世界なので迂闊にやってみたいとか言えないんですけど(笑)吹き替えやってみたい! 

榎木淳弥 僕は今日森山さんのアフレコを聞かせていただいて、アニメよりも生身の人間の吹き替えの方が合うんじゃないかなと思いました。『アベンジャーズ』のような戦う感じの作品が合うんじゃないかなと思います。例えば叫んだりする作品だと森山さんの違う音色が出るんじゃないかなと。

森山直太朗 確かに役に準じて自分の知らない声色が出てくるんじゃないかなと思います。機会があればなんでもやりますよ。

――叫ぶ森山さん、見てみたいです。最後にお互いに聞いてみたいことはありますか。

榎木淳弥 どうしたら歌が上手くなるか、森山さんにお聞きしたいです!

森山直太朗 僕自身、歌が上手いというのはどういうことなんだろうとずっと考えていて、ピッチやリズム感がいいとかあると思うんですけど、でもそれだけでは語れないものがあるじゃないですか。例えば僕が歌う歌と純真無垢な子どもが歌ったものだと太刀打ちできない凄さがあったりすることがあって、それはずるいよと思うんです(笑)。それと同じように同じ言葉なのに説得力がある人もいれば、薄っぺらくなる人もいるんですよね。

榎木淳弥 ピッチとか関係なくて。

森山直太朗 歌が上手いというのは表現力があることだと僕は思っていて。内側から出てくるものがあるんです。なので、表現力を高めるには旅をする、知らない場所で知らない自分を知ることが一番表現力が上がるんじゃないかなと。それが結果として歌が上手いということに繋がるんじゃないかなと思います。

――森山さんが榎木さんにお聞きしたいことは?

森山直太朗 コロナが終息したら真っ先にやってみたいことを聞きたいです。

榎木淳弥 今のお話とつながっているんですけど、今パッと思い浮かんだのは海外旅行です。僕は海外にまだあまり行ったことがないので、1週間ぐらい全てを忘れて旅行したいなって。

森山直太朗 どこに行きたいんですか?

榎木淳弥 僕はお腹が弱いので、水が綺麗な所に行きたいです。あと、ブロードウェイを見たいというのもあるんですけど、仕事につながってしまうところもあるので、ちょっと歯がゆいんですけど(笑)。

森山直太朗 じゃあ、俳優としての活動も?

榎木淳弥 もともとが俳優志望だったのでチャンスと需要があれば挑戦したいですし、森山さんと共演できたら嬉しいです!

(おわり)

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冨田味我
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